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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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視野

 そんなこんなでタクトから接収した飛行船を利用して俺達は優雅な空の旅を行う事にしました。

 もちろん、目的地のポータルを取るのはそれぞれ一人で良いと言う事で別れての行動ですがな。

 移動自体は簡単なので夜になったら停泊させ、城に戻って休みます。


 ちなみに、飛行船内ではポータルの位置セーブは出来ないので、停泊させる必要があります。

 飛行船が移動している間に自由行動を取れたら楽なのですがな。


「こう、思うんだが……」


 錬がその日の晩飯を食べている最中に言いました。

 錬と樹がどうしてもと言うのでお義父さんが厨房に立って指示を出して作られた食事ですぞ。

 いろんな料理が並んでおりますな。


 もちろん、少し離れた所では城住まいの王族なども食事をしており、会場自体はやや大きめになっております。

 王族の方はこちらに意識を向けていますが、豚王の進言で話しかけづらいと言った様子です。

 フォーブレイで勇者に取り入るのはリスクがありますからな。

 勧誘に関してもお義父さん達はそれとなく拒否していますぞ。


 その中には日本でも食べた様な料理が多く存在します。

 現在、フォーブレイの城のコックはお義父さんから料理を必死に学んでいる最中だとか、エクレアが報告しておりましたな。

 勇者の口に合う料理を作るのが仕事なのですな。


「何?」

「メルロマルクで王とその側近に勇者同士は武器が反発して行動に問題が起こると言っていたが、実際は問題を感じない範囲だな」

「そうですね。別々に行動する必要性は、正直言って感じませんね」

「まあ、ね。Lv上げとかで不自由かなー? ってくらいだね」

「必要とあらば元康にしろ尚文にしろ、仲間を借りて行けばどうとでもなる」


 前回の周回の錬とは全く異なる見解が飛び出しておりますな。

 とはいえ、言っている事に反論はありません。

 フィロリアル様達も走るのは好きですし、狩りも好きですからな。


「仲間を借りる……か。そうだよね、何も専属の仲間である必要なんて無い。勇者同士だって協力出来るんだもの」

「元康さんの話から推測するに、こう思えること自体が進展なんじゃないですか?」

「そうなんだろうか?」

「元康くんの話だと錬は協調性に問題があって、連携が苦手みたいだったからね。前に俺達と一緒に狩りをした時の問題があったじゃないか」

「そう言えばあったな。樹に注意された話だ。結構最近なのにちょっと懐かしいな」

「ええ、錬さんに当てそうで怖いと言う話ですね」


 ありましたな。

 俺も覚えておりますぞ。

 お義父さんが錬は一歩下がって周りを観察して戦うと良いと言った話ですぞ。


「多分、今の錬は俺達の仲間と行動しても問題が無いように動けるようになったんだと思うよ。もちろん、みんなも錬の動きに合わせられる様になったんだろうけどね」


 お義父さんの分析に錬は首を傾げております。


「元康くんの話だとウィンディアちゃんと喧嘩するくらい、連携が滅茶苦茶だったそうだけど」

「そうなの?」

「なの?」


 助手がそこでライバルと一緒に錬に尋ねますな。


「今の俺達とは異なる時の話だけどね。その世界で錬はウィンディアちゃんのお父さんを知らずに殺して、その因縁を断ちきって世界の為に戦おうとしていたウィンディアちゃんの逆鱗に触れる様な行動をしちゃったんだってさ」

「ふーん……」


 ま、今の助手にとっては関係ない話だと思っているのでしょうな。

 現に、前の助手よりも真面目さと言うか何かが足りません。


「連携は滅茶苦茶で味方同士で攻撃がぶつかりそうになったり、敵の攻撃を受けそうになったそうだよ」

「尚文、その話は……」


 錬が、若干恥かしそうにしております。

 まあ、その後に続く言葉は酷い物ですからな。


「んー……だけど剣の勇者と一緒に戦っても特に違和感は無いわ」

「それが別のループと今のループとの違いなんだろうね。錬もみんなと一緒に戦って強くなったんだよ」

「そういう物か? もっと難しい事だと思っていたんだが……」

「メルロマルクでの戦闘時だってイミアちゃんに気を使っていたじゃないか。元康くんもその点には気付いていたみたいだけどね」


 お義父さんが指摘すると、錬は「ああ」と気付いた様に呟きます。

 そういえばそうですな。

 以前の世界の錬だったら、戦闘に集中して後衛には気が回らなかったと思いますぞ。


「前の錬だとイミアちゃんの事なんて思考の範囲外に置いちゃってたと思うよ。それでぶつかりそうになると「うろちょろするな!」とか言っちゃう感じかな?」


 と、言った所で錬が微妙な表情をしますぞ。

 樹が近くに居た俺に耳打ちしました。


「アレは心当たりがあるんですよ。ゲームをしていた頃にやった事ですよ。きっと」

「ですな」


 錬がギロっと俺達を睨みますぞ。

 図星、図星ですかな?


「まあまあ、それが今はどう? 近くにイミアちゃんがいても戦えるようになってない?」

「そういえば……そうだな」

「視野が広がったって感じかな」


 錬も満更でもないと言った様子ですぞ。


「しかし、なんだろうな……もっと、目に見えて強くなったと理解する瞬間があるんだと思っていた」


 錬は静かに答えますぞ。

 確かに強くなると言うのはいつの間にかと言うのは俺も経験がありますぞ。

 何せ、武器を持って訓練するのは豚の尻を追い掛けて居た頃には覚えがありますからな。

 剣道を趣味にしていた豚と仲良くしている時に少しはやりましたぞ。


「強くなるって実際はそんなもんだよ。そりゃあLvがあって強化方法が明確に存在する世界だからわかりづらいかもね」


 お義父さんが皿に料理を盛って錬に差し出しました。

 まさに日常の延長ですな。


「前は出来なかった事も気付いたら出来ているものさ。ネットゲームでもそう言う物があるでしょ?」

「確かにVRのゲームで似た様な経験があるな……」

「錬の経験は対人ゲームが多い傾向がある気がするね。あんまりやったこと無いんだろうけどFPSと言うジャンルなら本来習得出来た……かもね」

「錬の事だから無謀な突撃をして射殺されたのでしょうな! それでクソゲーと言ってやめたのでしょう」

「なんだと!」


 錬が怒鳴りながら立ち上がりますぞ。 

 この反応は覚えがありますな。


「まあまあ、元康くんもなんで煽ってるの……」

「FPSですか」

「樹はやったことある?」

「ゲーム内で該当する異能力者の個人アクセスは弾かれることが多いんですよ。出来ても、同様の能力者との対戦です」

「あー……」


 樹は命中の能力者ですからな。

 射撃ゲームなどしようものなら、一般人では圧勝出来るのでしょうな。

 ですが、同様の能力者としか戦えないのなら勝つのは難しいでしょう。

 そんなみじめな気持ちになる様なゲームをやりたいとは全く思わないですな。

 というか、異能力とやらはゲームでも適用するようですな。


「とりあえず、FPSとかのゲームの場合、いつの間にか強くなっているって感覚が強く出ると思うよ。錬だって剣術の腕前が上がった自覚とかする時あるでしょ?」


 お義父さんの話ではFPSというゲームは一発で即死する事が多いゲームだそうですぞ。

 そんな銃撃戦を経験して、戦績を積むというのはある意味、強くなった経験を得られるのだそうですな。

 死なない様に相手を倒す技術の習得……時にチーム戦で仲間と協力する目を養うにはとても良いことだそうですぞ。


「そういう物か?」

「そんなものだと思うよ」


 お義父さんは錬の成長を確かに感じ取っていたのですな。


「とはいえ……俺はどうやって技術を学んで行くか悩んでいる最中なんだけどね」

「確かに……盾を使った武術と言うのは難しいですよね」

「関節技もNGだし、精々掴んで押さえつけるが限度だからね」

「対戦ゲームの武器に無い訳じゃないが、どっちかと言うと盾の形状をした武器だからな」

「本来なら盾を鈍器の様に扱うなんて事も出来そうですが、ステータス的に難しいですからね」

「元康くんから聞く、過去の俺の話だとインパクトをずらすとか理屈はわかるけど、実際はスキルを出すだけになっちゃってるよ」


 お義父さんも日々前進しようとしているのですな。


「ふーお腹いっぱいー」


 サクラちゃん達フィロリアル様はそれぞれ満足したようにお腹をさすっておりますぞ。


「そろそろ食事を終えますか?」

「まだ、俺はあんまり食べてないんだけど……」


 お義父さんは料理をしていたので、みんなより遅れ気味ですぞ。


「かといってここで酒でも飲んで戯れているのもな」

「それ以前に錬も樹も未成年でしょ」

「異世界なんだから良いじゃないか」

「良くないよ。ああいうモノは深くハマるとフォーブレイ王みたいに――」


 お義父さんは真面目ですな。

 今までの周回で結構、錬も樹も飲んでいたはずですが。


「とはいえ尚文さんが食事を終えるまで暇ですね」

「急いで食べるから待っててよ」

「いえいえ、どうせ暇ですからね。久しぶりに僕もちょっとした芸を披露しましょうか」


 樹は食事の会場で演奏をしていた楽団の方に近寄って楽器を借りましたぞ。

 この世界にはいろんな楽器がありますな。

 ピアノのような楽器やバイオリンのような楽器、それ以外にもいろんな楽器が存在する様ですぞ。

 話によると骨喉笛という魔物の声帯を使った楽器もあるとか。

 樹はその中でバイオリンのような楽器を手に取って、演奏を始めました。


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