癖になる味
「わかりました。俺がする事は再度城に乗り込んで頭をもう一度潰せばいいのですな」
「まあ、そうなるね。とはいえ女王が帰還する為であって、別に殺せば良いって話じゃないよ」
「退くか怪しいけどな」
「まだ女王が頭なんだ。女王の方はメルロマルクにいる女王派と秘密裏に連絡を取っておいて、近日中にメルロマルクに戻れるように俺達がどうにかするから」
「勇者様方の恩威、感謝いたします」
女王は俺達に頭を下げておりますぞ。
とりあえずやる事は決まりましたな。
「元々俺達が起こした問題みたいなものですから、気にしないでください。せめてもの罪滅ぼしだと思って受け取って下さい」
と、答えたお義父さんが俺や錬、樹に視線を移しながらポツリと呟きますぞ。
「力でしか解決できないなんて……もっと良い手があれば良いんだけど……ね」
それは自嘲のような言い方でした。
中々難しい問題なのではないですかな?
さすがのお義父さんも今回の問題は難しい様ですぞ。
俺だったらメルロマルクと言う国を消し飛ばして無かった事にした方が楽だと結論付けますからな。
「そう言わないでくださいよ、尚文さん。正義を振りかざすのは、時に力を振るわないといけないのですから」
「好き勝手やって被害者を増やす連中を黙らせるのに力を使わないでなんて理想論だな。金でどうにか出来る問題でも権力でどうにか出来る訳でも無い。戦争だってそういう物だと聞くぞ」
樹と錬はお義父さんの嘆きにフォローを入れていますぞ。
「勇者殿達の協力に私は常々感謝しきれない。イワタニ殿の穏便に事を済ませたいという基本理念は私達に届いている。今は出来る事をして行くしかないと私も思う」
「……うん、ありがとう、みんな。それじゃあ、明日からメルロマルクのゴタゴタを解決に行こう」
こうして女王と話を付けてから俺達は部屋に戻って休む事になったのですぞ。
翌日の昼前……。
豚王はまだ就寝中だそうですな。
話によると朝までタクトの前で豚共と交わっていたらしいですぞ。
お義父さんはモグラを膝に乗せて何やらじゃれておりますな。
モグラは大人しくしておりますな。若干恥ずかしそうにしております。
サクラちゃんは婚約者の所に遊びに行っている様ですぞ。
良い友人と言う事でしょうな。
悔しいですが、俺はフィロリアル様達の親にはなれても友人にはなれませんからな。
「羨ましいなの……ガエリオンもなおふみの膝に乗りたいなの」
ライバルはそんなお義父さんと助手を見て何やら目を細めておりますな。
何をしようとしているのか観察していた方が良さそうですぞ。
「さっき乗せてたでしょ」
そういえばそうでしたな。
サクラちゃんがいないからと好き勝手していたのですぞ!
「ところで尚文、昼飯はまだか?」
「あのねー……」
お義父さんは錬に呆れ気味に答えますぞ。
朝も似たような事を樹が言ってましたな。
そんなに飯を食うのが好きなのですかな?
この調子では豚王の様にブクブク太っていきますぞ?
「フォーブレイに到着したんだから俺の作った飯じゃなくて、国が用意した豪勢な食事を食べれば良いでしょ」
「そうは言いますが、かなり脂っこくてもたれるんですよ。あの料理の山は……」
樹が会話に混ざってきました。
直前まで別の事をしていたのに、どういう事ですかな?
やはりそんなに飯が大事なのですかな?
「味は……何故か美味いと称賛はしたくない。これが実に不思議でしょうがないんだ。今まで食った飯の中では上から数えた方が良いはずなのに」
「ですね。食欲を満たす為に食べる量が増えそうなんですよ。それに引き換え、尚文さんの料理は少量でも満足出来る様な気がするんですよ」
樹の言葉に錬がうんうんと何度も頷いておりますな。
確かにお義父さんの料理は美味しいですな。
量に関しては、俺はわかりません。
「まるで中毒でもある様な言い方だね……」
「癖になる味という意味ではそうかもしれないな」
「それだけ美味しいという事ですよ」
「……何だかんだ言って俺に作らせようとしてない?」
「ばれたか」
「ばれましたね」
「フォーブレイ到着二日目の段階でそんな事言ってたら先が思いやられるよ」
お義父さんが嘆きながら膝に乗せたモグラを撫でておりますぞ。
もしかしたら毛並みを櫛で揃えているのですかな?
そういえば何処となくモグラの毛並みに光沢が出ているような気がしますぞ。
これは……さすがお義父さんですぞ。
考えてみればユキちゃん達にも似たような事をしておりましたな。
まあ、元々ユキちゃん達は綺麗好きですがな。
俺もやっておりますが、お義父さんはモグラやライバルにまでしているのですぞ。
ライバル等、視界の外でしたから良く見ておりませんでしたが、鱗の艶が出ていますぞ。
アレは助手も磨いているのではないですかな?
「まあおやつくらいなら気分転換に作っても良いけどねーって元康くん? イミアちゃんやガエリオンちゃんを凝視してるけどどうかした?」
「毛並みを整えているのですかな?」
「ん? まあね。一応は公の場に出るんだし、昨日もやってたんだよ?」
「尚文さんって何だかんだでマメですよね。それこそ城に来てるのですから城の者にさせればよいと思いますけど」
「だな。衣服の手配も自由自在だろ? 使わなくてどうするんだ」
「俺に食事を作らせようとした癖に何を言っているんだよ……」
お義父さんが呆れ気味に錬と樹に言いました。
こういう部分だけは頭が回りますな。
「タクトはイミアちゃんを悪趣味なんて言ったけど、イミアちゃんはそんなんじゃないって証明しなきゃ」
「だ、大丈夫……です。気にしてないから」
恥ずかしがって死にそうな声でモグラは答えておりますぞ。
お義父さんの優しさを直に感じているのでしょう。
このモグラは割と慎ましい生き物ですな。
村の連中の服を作っていた程の手先の器用さを持ちつつ、あんまり表に出て来ていませんでしたからな。
確か……お義父さんが作業に使っている手袋はモグラが作ったと聞いた事があります。
ループの影響で何か差が出るでしょうか?
ぶっちゃけどうでもいいとは思いますが、モグラの裁縫の腕は相当な物ですぞ。
キールの行商用の服もモグラが作っていたそうですし、フィロリアル様も関心はあったようですからな。
裁縫に関しては負けるつもりは無いですぞ。
「あの……」
「なーに?」
モグラがお義父さんの方を向きました。
「何か……私にも力になれる事は無いでしょうか? その、もっと……何かしたくて」
「イミアちゃんが好きに選んで良いと俺は思ってるよ。それとも戦えるようになりたいかい?」
お義父さんの言葉にモグラは頷いて、錬へと視線を向けます。
その視線から察するに剣術を覚えたいのですかな?
「はい……Lvだけじゃ無くて、もう少しお役に立つ為に……」
「おや? 裁縫とかでは無いのですかな?」
「そういえばイミアちゃんは最初の世界だと裁縫をしていたとか言ってたね」
以前からお義父さんにモグラがどんな仕事をしていたかは説明していました。
その実力も伝えていますぞ。
「最初の世界の尚文は資源も援助もあんまりなかったらしいからな。購入したイミアに覚えさせて安く済ましたんだろ」
「逆に今の僕達は援助も十分に行き渡っていますからね」
「そっかー……まあ、イミアちゃんが選んだのなら俺達は協力するよ。だけどイミアちゃん、君は親戚を見つけて幸せになるべきなんだ。それを忘れないでね」
するとモグラはコクリと頷きましたが、若干落ち込んでいるように見えますぞ。
親戚に再会出来たらお別れだとでも言いたげですな。
「尚文さんも大概鈍感じゃないですか?」
「頼りにされているのは理解してるけど、イミアちゃんを喜んで戦いに出す様な人間にはなりたくないよ。優しさに付け込む様な真似はね」
モグラもその辺りを理解しているのか恥ずかしそうにしていますな。