運命共同体
「ああ……メルティ……盾の悪魔にもう洗脳されてしまったのね……」
「姉上!?」
第二王女が驚愕の表情で姉であるビッチを見た。
コイツ……。
見苦しいにも程があるぞ。
何が洗脳の盾だ。そんな物があったら誰も苦労してないんだよ。
人が苦労して得た物を洗脳で片付けるとか便利な言葉だな。
というか洗脳とか宗教の常套句だよな。
ふざけやがって。
「洗脳の盾、という邪悪な力を持った盾の話か。眉唾だったんだが……」
「いつ覚醒したかは解りませんが、教会の推測では一月程前からだそうです」
行商が軌道に乗り始めた頃だ。
あの頃は病人に薬などを優先的に売っていたからな。
この頃から神鳥の聖人という噂が広まり始めた。
なるほど、時期的に符合はするな。色々と教会側に都合が良い様に捏造されているが。
「状況が証明しているじゃないですか。行く先々で情報が混濁していて、まるで彼に力を貸している様な行動をしているじゃないですか。一般人の彼等が犯罪者相手に、こんな一致団結したりするものですか?」
「国中の奴等がおかしい。盾の勇者がそんな事をするはずがないなんて言うし、元気なお婆さんまで盾の勇者を崇拝の如く絶賛してたもんな……」
あのババア……言葉だけで特定できるとか……。
それにしてもいったい何をほざいているんだ? コイツ等。
ここ最近多くの人に助けてもらっているのは事実だ。
しかしそれは全部お前等が撒いた事が巡り巡って返ってきているだけだろうよ。
自分の知らない事=敵の策略ってどうよ。
コイツ等の頭は本当何で出来ているんだ。
「おそらく、近くに居て話をするだけで自らの思うように相手を洗脳する力を持っています。現在、国の教会関係者が力を合わせて洗脳を解く準備を進めております」
「んな力あるかボケ!」
俺の突っ込みに誰も反応しない。
いや、ラフタリアをはじめフィーロも第二王女も呆気に取られている。
推理できる状況だと、国中にお触れが成されたけれど、情報が集まらず、しかも俺に対する高い評価に奴等も首を傾げた。
その理由として納得できる証言としてビッチ、もしくは三勇教が提唱した洗脳の力を俺が所持しているという話をした。という所か。
凄い捏造。無理がある。
「盾の勇者様はそんな力があるの?」
第二王女が心配そうに俺を見上げる。
「お前にはあるように見えるのか?」
「うーん……無いと思う」
「そこは即答して欲しかった」
そんな便利な盾があったらこんなに苦労してないだろ。
それこそ村人から兵士、騎士団、魔術師まで洗脳して国取りでもしてるぞ。
要するにこんな状況になる前に手を打っているはずだ。
つまり指名手配されて追われている時点で、洗脳の盾の信憑性自体が怪しいって事だ。
こんな簡単な事もクソ勇者共はわからないのか。
「ラフタリアちゃんやフィーロちゃんもアイツの力で洗脳されているって事だよな!」
「違います! 私達は洗脳なんてされていません!」
「俺達が君達を救い出してあげるからね」
「フィーロはごしゅじんさまと居たくているんだもん!」
元康の奴、まだラフタリアとフィーロを諦めていなかったのか!
どんだけ女が好きなんだよ。
「どうでも良いから話を聞け! 事と次第によっては第二王女はお前達に渡してもいい」
「え!?」
なんか、第二王女が意外そうな声を出しやがる。
「……話を聞こうか」
錬が率先して尋ねてきた。一触即発の状況だ。出来る限り選択を間違えないようにしたい。
「まず前提として洗脳の力なんて物はない。そこから――」
「信じられませんね!」
「うるせえ! お前には言ってないんだよ、将軍!」
俺が説明する前に樹が遮るから怒鳴って黙らせる。
一方から与えられる情報だけで善悪を決める偽善者に用は無いんだ。
「とにかく、これは陰謀だ。王かそこの女か教会の連中が、第二王女を俺にけしかけて暗殺未遂をした」
「……話は分かった。じゃあお前達の身柄を拘束する代わりに俺達に同行してもらおう。その代わりに他の奴に絶対被害を負わせないと約束する。調べる時間をくれ」
「信じるのか!?」
「そうですよ!」
「剣の勇者様! 悪魔の言葉に耳を傾けてはいけません!」
「戦わずに済むのなら、それが良いだろう。真偽は後で確かめる」
錬の奴、さすがはクールを実践しているだけあって、冷静に状況を分析している。
話が……通じると見て良いのか?
「……ダメ」
第二王女がギュッと俺の手を握って小さく懇願する。
握られた手は震えていて酷く青い顔だ。
「多分……殺される」
ふと、俺は周りの状況を確認する。
おそらく、第二王女は俺達とは別の扱いを受ける。
大方、洗脳解除の魔法を掛けるからと国の魔法使い辺りに第二王女を預ける。
するとどうだろう。解除しようとした所で凶悪な呪いが発動して第二王女は絶命してしまった。
そんなシナリオが浮かんでくる。
だとすると俺を信じかけている錬は間違いなく俺が犯人と確信するだろう。
俺に罪を擦り付けようとしている所から、ビッチは今回の事件の片棒を担いでいる可能性が非常に高い。
実の妹すら手にかけるとは……。
「助けて……」
それは掠れるように小さな懇願だった。
やっと無実を証明できそうだというのに。
はぁ……。
「約束しただろう?」
「え?」
あの日、強姦冤罪された日だ。俺を信じる者は誰もいなかった。
そして今、第二王女は生か死の境に立っている。
洗脳……便利な言葉で第二王女を殺す名目まで持っている集団に狙われている。
まったく……分かりきった願いをされたものだ。
俺だってそれくらい想像するさ。
第二王女の死は俺達の敗北を意味する。
以前考えた様に俺達は運命共同体だ。信用できない他人に誰が任せるか。
「悪いな。どうもお前等を信じられない。ここで第二王女を渡しても、きっとお前等は守りきれない。俺はコイツと約束しているんだ。絶対に守るってな」
第二王女をフィーロの背中に乗せ、ラフタリアにも乗るように指示する。
「フィーロ、イヤだろうが荷車を放棄して、コイツ等から逃げろ!」
「はーい!」
「じゃあな」
臨戦態勢を取っていたフィーロは俺が最後に乗ったのを確認すると跳躍して走りだす。
「あ、待て――」
「はいくいっくー!」
グンと一瞬で7メートルくらい距離が離れた。さすがは走ることに掛けては右に出るものが居ないフィーロの脚力。三人も乗っているのに早さに違いがない。
「逃がすものですか!」
魔法と樹の放つ矢が逃げる俺達に向けて打ち出される。
「エアストシールド! セカンドシールド!」
俺は後ろを振り向いてスキルを唱えた。目標は俺達に狙いを絞られた攻撃だ。
ガツンという音と共に盾が粉々になるが、攻撃は無力化された。
「逃がしません!」
樹の第二射が飛んでくる。
クールタイムの関係で盾を出せない。
「イーグルピアシングショット!」
樹の弓から放たれた矢はワシをかたどって俺に向けて飛んでくる。
おいおい。こっちにはお前等の保護の対象になっている第二王女がいるんだぞ。強力なスキルを放ってどうするんだ!
俺はフィーロに乗りながら辛うじて後方に体勢を変える。
「ごしゅじんさま大丈夫?」
落ちないようにフィーロが俺を支える。
「あの矢……フィーロを追って来るよ」
「ああ、結構な速度だな」
足の速いフィーロに今まさに追いつきそうな樹の放った矢。
エネルギーの塊なのは一目で分かる。誘導性も申し分もない。
俺は盾をキメラヴァイパーシールドに変えて、構える。
多分、耐え切れるとは思う。
じっとエネルギーで構築されたワシを見据える。すると一本の矢が見えた。
それが一直線で、しかもかなりの速度で飛んでくる。
……出来るか? 下手に盾で受けたら衝撃でフィーロが転倒するかもしれない。
もしくは……スキル名からして貫通を意味する攻撃の可能性が高い。俺もネットゲームを何個かやっているから弓系のスキルは馴染みがない訳じゃない。
ピアシングとはピアスの穴を空ける意味がある。
転じて、貫通性能の高い矢を放つスキルとして、この名前が付けられているのだとしたら、俺を目標として撃ち出しているのだろう。
ならば、あの矢を受けるわけには行かない。
となれば、この追尾性能のある貫通攻撃を無効化するには射程外まで逃げるか矢掴みか何かで抑えるしかない……出来るか? やらねば危険だ。
まったく、正義の為なら第二王女の命も蔑ろなのか?
……意識を集中する。
俺は今か今かと飛んでくる攻撃に神経を集中し、鳴くワシのエネルギーの頭を軽くなでつつ、首筋を掴んで息の根を止める!
「な! イーグルピアシングショットを手で掴んだ!?」
樹の奴、俺の対応が予想外だったかのような声を出す。
思いのほか、エネルギーで構成されたワシは強くなく、力を込めると四散して矢に戻る。
「待て!」
げ! 錬と元康の奴、追いついてきて武器を振りかぶる。
樹の矢を回避する為に余計な動きをして、俺が落ちないようにしているのが原因だな。全然速度が出ていない。
奴等の仲間はまだ追いつけて居ないのが救いだ。
「フィーロちゃんに攻撃なんてしたくないけど、これも全部君のた――ゲフ」
「じゃまー」
フィーロが元康の顔面を踏みつける。これは予想外だったのか?
今はそれ所じゃない。錬が俺に向けて剣を振りかぶっていたんだ。
ドクン……。
盾が脈動し、ほぼ無意識に錬の剣に俺は右手を伸ばしていた。
鮮血が散り、手に痛みが走る。
なんだ!? 思っていたのとは違う。まるで誰かに操られているかのように錬へ視線がずらせない。
カッと盾が赤く輝き、錬に向けて黒い炎が飛んでいった。
「な――」
これは予想外だったのだろう。錬の奴、必死に剣で防御する。
ダークカースバーニングか? 錬に殺された竜の核が盾を侵食して反撃したというのだろうか?
赤く明滅する盾にこれは勝手に変化しそうな前兆を感じる。
ドクン……ドクン……。
やばい。こんな所へ憤怒の盾になったらフィーロが暴走して逃げられなくなる。
「ラフタリア、手を……」
「はい? ナオフミ様!? お怪我をなさっていますよ!?」
探るように手を伸ばす俺に前方に意識を集中していたラフタリアは心配そうに声を出す。
脈動が収まって静かになった。
「大丈夫だ、フィーロ! 最高速で逃げろ!」
「はーい!」
体勢を立て直した俺に合わせてフィーロが全力で駆け出す。
あっという間に勇者達は見えなくなった。
それから、追っ手を警戒しフィーロが疲れるまで、全力で走らせた。
「ここまで来たらしばらくは大丈夫だろう」
「うん。フィーロちゃんはやーい!」
「フィーロちょっと疲れた」
「ですね……ですが、荷車も荷物も置いてきてしまいました」
「しょうがないさ」
金と携帯食、簡易の料理用ナイフ以外を置いて来てしまった。
しかもラフタリアの防具まで……。
些か不安だ。だけど表情に表す訳には行かない。
「国境を越えられないとしたらどうしたものか……」
当てもなく、国内を逃げ回ると言うのもなぁ。
とりあえず、迂回ルートでシルトヴェルトへ行くしかあるまい。
俺達は勇者を撒いて逃亡生活を続ける。
ちなみに怪我はファストヒールで治した。




