盾の現実
城門を抜けると見渡す限り草原が続いていた。
一応石畳の道があるが一歩街道から外れると何処までも草原が続いていると思うくらいに緑で覆いつくされている。
こんなのは北海道へ旅行に行った時以来だ。
とはいえ空の高さや地平線が見えるとなると初体験。
この程度ではしゃいでは勇者として示しが付かないので当然を装う。
「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップを測りましょうか」
「そうだね。俺も戦闘は初体験なんだ。どれくらい戦えるか頑張ってみるよ」
「頑張ってくださいね」
「え? マインは戦ってくれないの?」
「私が戦う前に勇者様の実力を測りませんと」
「そ、そうだね」
考えてみれば経験はマインの方が上だろうし、俺も自分がどれだけできるのかわからない。
マインが安全だと思う魔物を相手に戦ってみよう。
しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の風船みたいな何かが見えてくる。
「勇者様、居ました。あそこに居るのはオレンジバルーン……とても弱い魔物ですが好戦的です」
なんか酷い名前だな。オレンジ色の風船だからオレンジバルーンか?
「ガア!」
凶暴な声と二つの凶悪そうな目つきが敵意を持っているのを感じさせる。
畑にある鳥避けの風船みたいな奴がこちらに気づいて襲い掛かってくる。
「頑張ってください勇者様!」
「おう!」
カッコいい所を見せてやる。
俺は盾を右手に持って鈍器の要領でオレンジバルーンに向けて殴りかかる。
バシ!
ボヨン!
殴ったその場で跳ね返った。意外と弾力がある!
すぐに割れると思ったのに……
オレンジバルーンは牙をむいて俺に噛み付いてきた。
「い!」
カン!
何か硬い音が聞こえる。
痛くも痒くも無い。
オレンジバルーンは俺の腕に噛み付いているがまったく効果が無いようだ。
ふんわりと盾から淡い防壁が出て守ってくれているような気がする。
俺は無言のままマインの方を見る。
「勇者様がんばって!」
……ダメージは受けないけど与えられもしないが仕方ない。
「オラオラオラオラオラ!」
格闘家の伝承者みたいに俺はオレンジバルーンを殴りつけ続けた。
それから五分後……。
パァン!
軽快な音を立てて、オレンジバルーンは弾けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ピコーンと音がしてEXP1という数字が見える。
経験値が1入ったと言う訳か。
しっかし、これだけ戦って1とは……先が思いやられるな。
っていうか硬いよコイツ。素手じゃ限界があるって。
パチパチパチ。
「良く頑張りましたね勇者様」
マインが拍手してくれているけど、なんていうかむなしい。
スタスタスタ!
なにやら足音が聞こえてくる。
振り返ると錬とその仲間が小走りで走っていくのが見える。
話しかけようかと思ったけど、真面目な表情で走る連中に声を掛ける余裕が無い。
あ、 錬の前にオレンジバルーンが三匹現れた。
ズバァ!
錬が剣で一閃するとオレンジバルーンはパァンと音を立てて割れる。
一撃!? おいおい……どんだけ攻撃力に差があるんだよ。
「……」
放心している俺にマインが何度も手を前にかざす。
「大丈夫ですよ。勇者様には勇者様の戦い方があるのですから」
「……ありがとう」
戦闘を初体験した限りだと、五分間もオレンジバルーンに食いつかれていたのに無傷な俺は相当防御力が高いようだ。
戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾う。ピコーンと盾から音が聞こえる。
徐に盾に近づけると淡い光となって吸い込まれた。
GET、オレンジバルーン風船
そんな文字が浮かび上がり、ウェポンブックが点灯する。
中を確認するとオレンジスモールシールドというアイコンが出ていた。
まだ変化させるには足りないが、必要材料であるらしい。
「これが伝説武器の力ですか」
「うん。変化させるには一定の物を吸い込ませると良いみたいだね」
「なるほど」
「ちなみにさっきの戦利品ってどれくらいの値段で取引されているの?」
「銅貨1枚行ったら良いくらいですね」
「……何枚集まれば銀貨1枚?」
「銅貨の場合は100枚です」
まあ、錬の様子を見ると相当弱い魔物みたいだし、しょうがないか。
「じゃあ次はマインだね」
「まあ、そうなりますね」
と言いつつ、オレンジバルーンが二匹俺達の方へ近づいてきていた。
マインは腰から抜いた剣を構えて二振り。
パァンという音と共にオレンジバルーンは弾けた。
うわぁ……俺って弱すぎ……?
俺の名前は岩谷尚文。現在20の大学生。口元を両手で隠している
異世界に召喚されて晴れて勇者になり二日。
戦闘5分で、適正魔物や役割が分かる。
『勇者適応テスト』
受けた人は4人を突破。結果もすぐ分かると大人気だ。
CHECK!
>>アナタの適性狩場は?
おっと混乱してしまっていた。
とにかく、俺が、というか盾が弱いのは存分に分かった。
こうなったらマインに戦ってもらった方が効率が良いだろう。
「じゃあ、マインが攻撃、俺が守るから行ける所まで行こうか」
「はい」
マインは二つ返事で答えてくれた。
その後、日が傾く少し前まで草原を歩き、遭遇するオレンジバルーンとその色違いイエローバルーンを割る作業を続けるのだった。
「もう少し進むと少し強力な魔物が出てくるのですが、そろそろ城に戻らないと日が暮れますね」
「うーん。もう少し戦っておきたかったんだけどなぁ……」
ダメージ受けないし、バルーンの攻撃を守るのは簡単だから大丈夫かと思うんだけど。
「今日は早めに帰って、もう一度武器屋を覘きましょうよ。私の装備品を買ったほうが明日には今日行くより先にいけますよ」
「……そういえば、そうだね」
Lvアップも、もう少し先のようだし、今日はコレくらいにしておいた方が良いか。
ちなみに盾に吸わせる分は満たしたようで、風船は手元に残っている。
後は……レベルアップすると変化出来るみたいだな。
とにかく、色々とお預けの一日目の冒険を切り上げ、俺達は城下町の方へ戻るのだった。