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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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ウェルカム

「これはこれは勇者様、ウェルカムです」

「俺の想像通りに答えるな」


 元康との一件の後、俺達は奴隷商の所へ顔を出した。


「今日は何の御用で?」

「それよりも……」


 俺は奴隷商の格好が非常に気になった。

 見れば奴隷商の部下でさえも同様に……羽振りが良さそうな印象を受けるほど、装飾品が豪華になっている。


「妙に羽振りが良さそうだな」

「勇者様のお陰です。ハイ」

「は?」

「勇者様が行商へ出ているお陰でこちらも儲けさせて貰っているのですよ」

「どういう意味だ?」


 理由が複数思い浮かぶが、決定打になる材料が足りない。


「まずはフィロリアル・クイーンの評判です。あの魔物はどうやったら手に入るのかと貴族の収集家が来るのですよ。ハイ」


 ああ、フィーロが馬車を引くことによって、評判が上がる訳か。確かに珍しい魔物だろうし、何処で手に入るのかを調べたら奴隷商の所へ行き着くのか。俺に譲ってくれという貴族も何人かいたしな。

 安易に売るわけに行かないし、主にフィーロが売ったら暴れそうだ。


「後は口八丁で様々な魔物を購入していただくだけです。ハイ」

「お前も大概だな」


 フィロリアル・クイーンになる条件は今のところ不明だ。そうなれば容易く売ること等できる筈もない。

 勇者が育てれば、クイーンになるのか?

 フィーロ一匹でも面倒なのに、二匹とか考えたくも無い。


「次に勇者様の奴隷を見て、私の所の奴隷は質が良いと噂になったので、儲けさせてもらっているのですよ。ハイ」


 今度はラフタリアか……。

 確かにラフタリアは俺から見ても美少女だとは思えるほど整った顔つき、体形をしているからなぁ。

 その奴隷の出所を知ったら奴隷を使う者からしたら信用に値する訳か。

 俺は奴隷商の評判を上げるのに一枚噛んでしまっているという事になるか。


「で、今回はどの様なご用件で? 奴隷ですか? それともフィロリアルの実験に協力を?」


 揉み手をしながら奴隷商が俺の機嫌を伺う。


「いや、今回は魔物商のお前に用があってきた」

「ではフィロリアルの実験ですね」

「違う」


 コイツの頭の中には二択しか無いのか。


「では、何の御用で?」

「ああ、フィーロの装備をここで買えないかと思ってな」

「装備ですか……ご用意できますよ」


 奴隷商の奴、フィーロの方へ目を向ける。

 機嫌よく鼻歌を歌っていた人型のフィーロが奴隷商に見られるや怯えるように俺の後ろに隠れる。

 やっぱり苦手なのか。


「武器となりそうな物だと突撃角か蹄鉄ですかね。防具だとフィロリアル用の鎧もありますが……」


 フィーロの体形を考えると鎧は無理だろ、オーダーメイドで作れなくは無いが、変身するから直ぐに着直す羽目になる。


「突撃角ってなんだ?」

「頭に付けさせる兜ですよ。突進時に使います」

「へー……」


 蹄鉄は馬の蹄に付ける奴だったはずだ。


「後はツメですかね」

「フィーロは何が欲しい?」

「え?」


 フィーロの奴、奴隷商に怯えて話を聞いていなかったのか?


「頭に付ける兜か足につける靴みたいな奴、後は鎧だ」

「うーん……フィーロ、変身するから、姿が変わったときに肉に食い込むのは、やー」


 あ、洋裁屋の言った脅しが今も効いているのか。

 となると突撃角は魔物の姿だと問題は無いが人間の姿だと重そうだな。蹄鉄も足に食い込むだろうし、鎧はサイズが合わないだろう。

 魔法屋に行って、あの糸みたいのを金属板で出せないかとか聞く手もあるが、凄く金が掛かりそうだ。

 防御力とか雀の涙になりそうだし。


「着脱を考えるとツメがよろしいかと、ハイ」

「じゃあ、ソレだけで良いか、フィーロ」

「うん」

「サイズを測りますので魔物の姿になっていただきたいのですが。ハイ」

「だ、そうだ」

「わかったー」


 ボフンとフィーロは魔物の姿に戻り、足を前に出す。

 奴隷商の部下がフィーロの足のサイズを測った。


「ふむ……フィロリアルの平均からかなり大きいですな」

「すぐには用意できそうに無いか?」

「いえ、辛うじてサイズがあるかと思います。素材は鉄でよろしいですかな?」


 こういう時って、どういう基準で攻撃力を期待できるんだろうか?

 固ければいいのか? 鋭ければとか……。


「多少、金には余裕があるから、良い奴がいい」

「分かりました。では魔法鉄が現在、用意できる限界ですね」

「ちなみに幾らだ?」

「勇者様には贔屓にさせて頂いているので、特別に相場の半額で、金貨5枚で提供したいと思っております」

「更に値切って良いか?」

「勇者様の貪欲さに私、ゾクゾクします。良いでしょう4枚で妥協しましょう」

「買った。ついでに良い手綱も付けろ」

「お売りしましょう!」


 奴隷商の奴、テンションが高いよな。扱いやすくもあるけど、利用されているような気もする。

 そういう意味では商売上手で怖いよな。こいつ。

 テントの奥から大きなツメが運び込まれる。

 大きさは丁度、フィーロの足に嵌りそうな金属製のツメだ。よくあったな。


「よくこんなでかいのあったな」

「飛竜用のツメです。もっと大きなサイズもありますよ」


 フィロリアル用では既に無いのか。


「これを履くの?」

「ああ、それがお前の武器だ」


 フィーロは地面に置かれたツメに自分の足を乗せる。


「ピッタリのようですね」

「みたいだな」


 後は紐でツメと足を結ぶだけだ。

 フィーロは片足を上げて、ツメを付けた実感を確かめている。


「なんか変な感じー」

「慣れろ、慣れれば前よりも攻撃力の上昇が見込める」


 フィーロの脚力での攻撃は今でも高いのだ。更に高くなったという事は……。

 俺の脳裏にフィーロが元康を蹴った時の出来事が思い出される。

 今度こそフィーロの脚力で蹴ったら引き裂いてしまいそうだ。


「フィーロ、今度槍を持った奴を蹴る時はツメを使って蹴ってはダメだぞ」

「なんでー?」

「さすがに玉が潰れるでは済まなくなるからだ」


 まがりなりにも勇者だ。殺したら何が起こるか分からん。今更遅い気もするが。

 元康も、俺の部下に玉を蹴られてくやしいとか言えなかったのだろう。

 あいつの行動理由は女にモテたいに集約するからな。

 クズ王に言いつけるなんてかっこわるい事はできなかった、と言った方が良いのか。


「ふーん」


 フィーロは買ってもらったツメに意識を集中していて、話半分という感じだ。

 ちゃんと聞いているのか?

 まあ……元康がどうなろうと知ったことではないか。

 俺は奴隷商に金貨4枚を渡す。


「やっぱり鎧はいらないー」


 ツメが合わないからか、フィーロは鎧が不必要だと思っているようだ。

 まあ、買う予定は無いから、良いだろう。


「さて、次はと……」


 えっと、確か他にも用があったんだよな。

 元康の一件で吹き飛んでしまって思い出せない。

 確かラフタリアとフィーロが……ああ、思い出した。


「なあ、奴隷商。お前の所でクラスアップの斡旋とか出来ないか?」

「クラスアップですか?」

「ああ、ここのクズ王が俺の配下のクラスアップ許可を出さないんで困っているんだ。お前の所に40越えの奴隷が居ただろ、紹介状とかあるのかと思ってな」


 俺の頼みに奴隷商の奴、何やら考え込むように顎に手を当てる。


「勇者様のご希望にお答えできず非常に残念です。私共は紹介状を持っておりません」

「そうか……」


 あの奴隷は奴隷商の権力でクラスアップした訳ではなかったのか。


「クラスアップなら隣国などで信用を得ればその国にある龍刻の砂時計で可能ですよ」

「なに?」


 ちょっと待て、龍刻の砂時計ってこの国にしかないとかじゃないのか。


「他の国にもあるのか?」

「ええ、ですが信用を得るとなると非常に時間が掛かりますからねぇ……」


 早急に上げたい俺にはその時間が非常に惜しい。

 隣国にも盾の勇者の悪名が響いているだろうか?

 響いていた場合、難しいだろうな。


「出来そうな所というと傭兵の国ゼルトブル、亜人の国シルトヴェルト、シルドフリーデン辺りですかね。ハイ」

「そんなにあるのか」

「ええ、勇者様にオススメはシルトヴェルトかシルドフリーデンですかね。あそこならフリーパスかと」

「ふむ……そこまで行くのにどれくらいかかるんだ?」

「それぞれ、馬車でなら一ヶ月、船なら二週間は掛かります」


 奴隷商は地図を持ってきて、俺に道を教えた。

 確かに、メルロマルク国での一日の平均移動範囲を逆算すると相当遠い。

 フィーロなら二週間と少しで到着するかどうかという範囲だ。

 大きく見積もって三週間は掛かると踏んだ方がいいな。

 船で二週間というのは魅力的だが、その間何もできないのが厳しい。


「飛竜ならもっと早く到着するでしょうが、勇者様の移動手段ですとこの辺りが妥当ですね」

「遠いな……」


 しかし、戦力アップを考えるのなら行かなきゃダメだろう。

 道中この国にはいない魔物の素材や盾を計算に入れれば悪くはないのか?

 その分、他の奴等に遅れを取るが、ラフタリアとフィーロが成長しないんじゃ、ここに留まる意味が無くなる。

 必然的に俺達が亜人の国とやらに行くのは決定事項か。


「波が終わったら行くとしよう」


 まったく、あのクズ王は俺を困らせることに情熱を傾けすぎだ。


「世話になったな」

「そう思うのでしたら是非――」

「断る。そうだ。人間ってここで売れるか?」


 盗賊を倒したとき、奴隷として売れないかと思ったんだけど面倒だったんでやめたんだよな。


「この国で人間は無理ですね。もっと深い所に行けば買う方もいるでしょうが、その分、質とリスクを求められます」


 なるほど、この国では安全なラインは亜人か。人間至上主義の国だったか。


「そうか、じゃあな」


 こうして俺達は奴隷商のテントを後にした。フィーロは人の姿になり、脱げたツメを紐で縛って持っていく。

 しかし、ラフタリアは奴隷商との会話に殆ど入ってこずに静かにしているなぁ。

 まあ、商談には口を出されたら困るが、よく考えている子だと感心する。


「次はラフタリアの番だな」

「はい?」

「聖水だよ。確か教会で売ってるんだよな」

「あ、はい」

「何だかんだ言ってラフタリアも女の子だもんな、そんな黒い痣があったら困るだろ」

「えっと……ナオフミ様が気になるのなら」


 なんか恥ずかしそうにラフタリアが呟く。


「いや、普通気になるだろ。俺が原因なんだから」

「そういう意味では……いえ、なんでもありません」


 どうもラフタリアは時々分からない事を言うな。

 まあ、どちらにしろ行くのは決定だ。


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