勧誘拒否
「ブー……?」
「そう、で、盾の勇者は問題として一人じゃ魔物と戦えない。だから君を購入して代わりに攻撃してもらおうと思ってる。身勝手な理由だし信用できないかもしれないけど、これから少しずつ、理解して欲しいんだ」
目を泳がせてキールが数歩下がりますぞ。
俺の目には子豚にしか見えませんが、亜人ですからな。
盾の勇者として高名であらせられるお義父さんの威光に平伏す事でしょう。
「まだ信じてくれなくてもいいよ。信頼なんて押し付けられるものじゃないしね。だけど、この先を生き残る為に武具は装備した方がいい」
お義父さんは残った金銭を親父さんに見せましたぞ。
もちろん、行商に使う基礎の金は俺に預けているので、残り少ない金銭ですがな。
「この子に装備を買い与えたいんだ」
「わかったぜアンちゃん。そういう理由なら俺も力になるぜ。ほら、こっちに来な。良さそうな装備を見繕ってやるぜ」
親父さんはキールに手を見せるように言って、キールが手を見せますぞ。
「コイツは短剣辺りがお勧めだな。まあ、入門用にも良いだろうが、しっくりくるのはこの辺りだと思うぜ」
「わかったよ。当面、使えそうな武器と……動きやすそうな鎧を見繕って欲しい」
「あいよ」
そして親父さんはキールに短剣と鎧を与えましたぞ。
ただ、Lvの関係か少々安物ですな。
「ま、こんなもんだろ。身に合わない物を持たせたって怪我の原因だ。威力が低いと感じて、必要になったらその都度、武器屋に行って買い替えてくれ」
「わかったよ」
「ブヒ……」
なるほど、武器の性能が高ければ良いという訳ではないのですな。
俺は武器がずっとこの槍なのでわかりませんでした。
……考えてみれば伝説の武器もLvに合わせて弱い物から順に使っていく訳ですから、親父さんの言葉は正しいのでしょうな。
さて、お義父さんとの話はこれで終わりですかな?
「次は私ですな」
「ん? 槍のアンちゃんも何か用があるのか?」
「少し店の奥の部屋を貸して欲しいのですぞ」
「またか? 今度は何をするんだ?」
「ついでに来てほしいですぞ」
「まあ……良いが」
俺はお義父さん達を置いて、親父さんと一緒に武器屋の奥へ行きましたぞ。
「一体どうしたってんだ?」
「良いから見ていて欲しいのですぞ」
俺は槍から昨夜倒した魔物のドロップで役に立ちそうな装備をボロボロと出したのですぞ。
「な、なんだ!?」
親父さんが槍から出てくる装備を見て声をあげました。
「武器の技能であるドロップですぞ。それで話なのですが、今度、お義父さんの装備を新調した時などに作ったと称して渡す装備に弱く見せて混ぜて欲しいのですぞ」
「まあ……一時預かりとしてアンちゃん達の為に保管してやる事は出来るが……なんでだ?」
「知ると命を狙われますぞ」
何分、お義父さん達が実は強いという事実が早期に露見すると刺客が現れますからな。
お義父さんが警戒している事もありますし、親父さんに加工してもらう事で弱く見せかける事が出来ないかと思ったのですぞ。
「ぶっそうな話だなぁ。おい」
「報酬はこの中にある装備品を譲りますぞ」
「待ってろ……」
親父さんが俺が落としたドロップの装備品を確認しますぞ。
「中々優秀な装備が混じってんな……売れば相当な物にはなる。しょうがねえな……分解しても良さそうだし、アンちゃん達の力になるなら悪い話じゃねえか」
「頼みましたぞ」
「あいよ」
これで下準備もある程度出来ましたな。
店の奥から戻り、お義父さんと目で挨拶をしますぞ。
「では私はそろそろ行きますかな」
後は再度合流までユキちゃんとサクラちゃんを育てるに留まりますかな。
「じゃあね。俺はキールくんと一緒にLv上げに行くよ。まあ……そこまで強い所はいけないだろうけど」
「ははは、がんばって欲しいですぞ」
「がんばれよ、アンちゃん達」
親父さんの見送りを受けた俺達はそれぞれ別々に行動を開始したのですぞ。
俺は勝手気ままに城下町からまた別の村の方へ歩いて行き、道行く魔物を適当に倒してユキちゃん達のご飯にしながらの旅ですな。
今回はサクラちゃん達をガッツリ育てるのが目的ですが……問題はお義父さんの方にシルトヴェルトの使者が勧誘に来る事ですな。
まあ、事前にお義父さんに事情を説明しているので、断ってくださるでしょう。
俺はそのまま、呑気に街道を歩いて行ったのですぞ。
翌々日。
「クエ!」
ユキちゃんがメキメキと成長して、もうすぐフィロリアルクイーン形態になるのですぞ。
「グア!」
サクラちゃんは一日遅れでフィロリアル様の姿まで成長いたしました。
今日はお義父さんとさり気なく再会する予定の日。
ユキちゃんに乗ってメルロマルクの城下町に戻ってきましたぞ。
「あ、元康くん。二日振りだね」
「そうですな。奇遇ですぞ」
「元康くんに貸してもらったコウのお陰で色々と助かったよ」
ワザとらしく、あくまで偶然再会したと装って俺達は合流しましたぞ。
コウもユキちゃんと同じく形態が変化してフィロリアルキングになっていますな。
「どう? 息抜きに話でもしない?」
「良いですな。それでお義父さん達はどれくらい上がりましたかな?」
お義父さんとキールとコウを見ます。
一昨日とあまり違いは無いように見えますが、キールが若干小奇麗になりましたな。
「ブヒ! ブブブ!」
何を言っているかわかりませんぞ。
早く犬に変身して人の言葉を話すのですぞ。
おや? 犬に変身して人の言葉を喋るとはおかしな話ですな?
「俺は今Lv7かな。キールくんはLv8だよ。コウは……10って所かな」
監視の目を警戒してお義父さんはコウのLvを偽りましたぞ。
「こちらも似たような物ですな」
「フィロリアルって勇者が育てると変わった成長をするんだね。驚いちゃった。それに背中に乗ると早い早い」
「それがフィロリアル様なのですぞ。コウ。よくぞお義父さんを守ってくださいましたね」
「クエ!」
「ブブー!」
「うん。キールくんも良くがんばったね」
お義父さんがキールの頭を撫でました。
僅か数日でキールも大分態度が軟化したように見えますな。
さすが有数の奴隷使いでもあるお義父さんですぞ。
懐かしき村の奴隷達を思い出しますな。
「ああ、そうそう。シルトヴェルトの使者って人が昨日来たよ」
「ほう……それでどうしたのですかな?」
「国に来てくれと言われたけど、信じられないって断ったよ」
さも国に嵌められ掛けた事がトラウマになっているかの様にお義父さんは大きめの声で言いました。
メルロマルクはシルトヴェルトを危険視していますし、きっとその瞬間は監視されていたでしょうな。
となると、お義父さんが一部の者しか信じていないとメルロマルクは思うでしょう。
きっとメルロマルクの者達は安堵の息を吐いたでしょう。
お義父さんにシルトヴェルトに行かれれば困るでしょうからな。
メルロマルク国内にいるならば、遅かれ早かれ殺す事は可能と油断させられますし、お義父さん達を弱いと思わせているので警戒も薄まるでしょう。
それからお義父さんは、俺の耳元にまで顔を近づけて囁きました。
「で、色々と協力はしてほしいから今日、また話をする予定だけど、元康くん。来てくれる?」
俺は無言で頷きますぞ。
「そういえば私にも来ましたな」
何処の国だったかは覚えていませんが俺に来て下さいませんかと、最初の世界でも来た覚えのある誘いがありましたぞ。
あの時は、赤豚がしゃしゃり出て来て、俺は返答しなかったのですがな。
「私も断りましたぞ。そうですな、行きますぞ」
まあ、どちらにしても最初の世界では居心地が良かったと思い込んでいたので断ったでしょうが。
俺の知るゲーム知識の影響もあり、そっちの国は効率が悪いとか思い込んでいましたし。
おそらく、錬や樹も似たような事を考えたのでしょうな。
今考えると、色々と勇者達を都合よく利用するために情報封鎖をされていました。