色
さて、あまり派手に動き過ぎるとお義父さんの命が狙われるでしょうな。
冒険者ギルドで危険な依頼を受けて金儲け等しようものなら、強力な仲間を持っているとお義父さんに刺客が送られてくるでしょう。
ですが、お義父さんの信用を得るためにはあの場で助けねばならないでしょう。
最初の世界ではお義父さんは誰も味方がいないと荒んでしまわれた。
あのような辛い経験は絶対にさせる事は出来ないのですぞ。
となれば、お義父さんが刺客に襲われても生き残れるほどの強さを如何に早く用意させるかが重要ですな。
……色々と思案して行くと案が何個か上がってきますぞ。
これは、実際に試してみるに越した事は無いですな。
俺は徐にポータルスピアをフィロリアル様とじゃれながら唱えて飛べる場所一覧を確認しましたぞ。
武器の強化にこのポータルで行く事の出来る数を増やしたり、登録の管理をしやすくなる技能が解放されているのですぞ。
なので、俺の視界で行ける範囲一覧がある程度出現しております。
そして、この行ける範囲はループをしても……無くならない。
前回の周回も決して無駄にはならないのですぞ。
シルトヴェルト……この国はお義父さんを信仰する国で、危険な発想を持っている、メルロマルクと性質は近い物がありますぞ。
だけど、お義父さんの話は大抵聞き入れてくれるのですから利用しない手はありません。
ですが、公にお義父さんを連れていく事は避けねばならないのも事実。
戦争を起こさない為には、メルロマルクに滞在しておかねばなりませんが、何も無意味に制約を掛ける必要も無いのですぞ。
必要な時、そう……利用させて貰うとしましょう。
なに、近々ですな。
ここから考えるとシルトヴェルトに秘密裏に内通するというのは名案だと思いますぞ。
うん。
未来を想像しやすくなりますな。
最初のお義父さんの辿った道を推理しつつ、簡略化してお義父さん達を強くさせるのですぞ。
後はフィーロたんの入手ですな。
どうしたらフィーロたんのごしゅじんさまに俺がなれるのでしょう?
お義父さんが何処で購入したのかは雲を掴む様な状況でわかりません。
史実通りにすれば……もしかしたら何処で手に入るかわかるのかもしれませんが、それは俺のプライドが許せませんな。
お義父さんに辛く当たる事など出来ようはずも無いのです。
しかも赤豚と一月も生活などしようものなら狂ってしまうかもしれませんぞ。
……しょうがないですな。
砂漠に落とした宝石を探すように、探してみるしかありません。
そもそも……フィーロたんは、例え誰かの物となっても、この元康なら確実に見つけられる確証がありますぞ。
まずフィーロたんの色合いは実はかなり珍しいのですぞ。
フィロリアル様は高確率で単色なのです。
クイーンやキングになるとその辺りは如実です。
ユキちゃんやコウ、サクラちゃんを思い出すのは元より、クーやマリン、みどりだって基本の色が体の大半を占めます。
他の色合いが介在する場所はあるのですが、その部分は白なのです。
つまり……近いのはサクラちゃんの色合いですな。
フィーロたんと真逆の桜色を基調にして白が混ざっております。
ですがフィーロたんは白を基調に桜色になるのです。
大きなフィロリアル様だって、この色合いなのですぞ。
他に大きな違いと言うと、目の色ですな。
体色と同じ色であるのが多いですが、フィーロたんの目の色は青なのですぞ。
つまり、フィーロたんがフィロリアルクイーンになれずに誰かの物になってしまったとしても、この二つの点を意識すれば見つける事は出来なくは無いのですぞ。
この元康、フィーロたんを見つけることを諦めない所存ですぞ。
例え何年の歳月を掛けたとして、世界を救ったとしてもフィーロたんを必ず見つけて見せましょう。
よし!
方針は決まりましたぞ。
「グア!」
フィロリアル様のお世話を終わり、俺はフィロリアル様の世話係をしている兵士に軽く挨拶をした後、城内にある建物の影に足早に向かいましたぞ。
「「ブブー!」」
着いて来ていますな。
ですが、お前等の追跡はここまでですぞ。
建物の影に入った直後、ポータルスピアを使って飛びますぞ。
一瞬で視界が切り替わり、俺は広大なあのフィロリアル牧場の前に来たのですぞー!
「ごめんくださいですぞー」
さっそくあのフィロリアル牧場の農夫に声を掛けましたぞ。
今回は管理小屋に居ましたぞ。
「誰だ?」
「客ですぞ」
「尋ねられて客と答えるって……まあいい。で? その客が何の用だ?」
「フィロリアル様が孵化する卵を譲って欲しいですぞ」
「お前……ここが何の牧場か知ってて言っているのか?」
この辺りの問答は前回と同じですな。
面倒そうに管理小屋で座っている農夫が片肘を着いて答えます。
「しかし……」
農夫が俺をじろじろと見つめておりますな。
ああ、そういえば召喚された当初の服のままでしたな。
「お前変わった格好をしてるな?」
「服装は問題ないですぞ」
「それを決めるのはお前じゃねえだろ!」
おや? 何やら指摘されてしまいましたぞ。
ですが、俺は知ってますぞ。
このフィロリアル生産者の農夫がちゃんとフィロリアル様への愛があると言う事を。
「とにかく、フィロリアル様の卵を売ってほしいのですぞ」
「だから言ってんだろうが、ここのフィロリアルを分けてやる事は出来ねえって、どうしても欲しいなら他の所で産まれた卵を売ってやる」
「拘りは無いのですぞ。売ってくれるなら早く売ってほしいですぞ?」
「なんでそこまでしてフィロリアルが欲しいんだ?」
どうやらこれはこの農夫なりの試験みたいな物の様ですな。
ですが俺の返答も変わりませんぞ。
特に理由などありません。
フィロリアル様が存在しているから、私は育てるのですぞ。
そこに脳神経が関わる隙間などありません。
それが世界のルールなのですぞ。
強いて言うのなら、フィロリアル様は愛で作られた高尚な神に等しき存在なのですぞ。
だから俺はフィロリアル様を育て、愛でるのです。
フィロリアル様達は等しく息子であり、娘なのです。
唯一の例外はフィーロたんと大きなフィロリアル様だけなのですぞ。
「フィロリアル様がいない世界など、存在する価値の無い物なのですぞ。そう……フィロリアル様こそ世界の至宝であり、俺に取って息をする為に存在する空気のような物なのですぞ」
「訳のわからん事を……そこまで欲する癖にこだわりが無いのか?」
「フィロリアル様は等しく愛する存在ですぞ。そう……我が子のように、早い子も遅い子も、強い子も弱い子も、賢い子もおバカな子も等しく……それが、俺の存在する意味……」
「……本当にフィロリアルが好きなのか?」
「当たり前ですぞ」
農夫が俺に向けて真剣な眼で見てきますぞ。
「じゃあ……問題を出そうじゃないか。それに答えられたら売ってやる」
と、農夫は立ち上がって管理小屋から出て、フィロリアル様の品種当てクイズをなさいました。
この元康からしたら赤子の手を捻るよりも容易い問題ばかりでしたぞ。
「すげえな……ここまでフィロリアルに造詣が深い奴は初めて見たぜ」
「ここのフィロリアル様は毎度思うのですが、故障しそうで危険な体調管理の部分がありますぞ、少々の体重増加程度なら気にしないのが良いですぞ」
「理想論を聞くつもりはねえよ。ならお前が、俺の渡した卵で証明してみせろ」
「わかりましたぞ!」
前回は色々と忙しくてユキちゃん達の成長を見せる事が出来なかったのですからな。
この元康、約束は出来る限り守る所存ですぞ。
「で? 予算はどれくらいで、何匹所望なんだ?」
今回は支度金を貰っておりますから、前回よりもお金がありますな。
ですが、お義父さんへの投資の為にそこまで割く訳にはいかないですな。
俺は三本指を立てますぞ。
「三匹か……いいぜ、一匹は良いので残り二匹は安物で良いな?」
「問題ないですぞ」
そう……フィロリアル様達に差別はしませんぞ。
ですが、再会出来るのならしたいと思うのが親心……。
フィロリアル様の卵が保管されている近隣のフィロリアルの卵を集めた倉庫に案内されましたぞ。
農夫は前回と同じくとっておきとばかりの一個を奥から、おまけの二個を手前の方から持って来ましたぞ。
「ダメですぞ」
「は?」
そう、俺の記憶が正しいのなら農夫が選んだ卵は前回とは違う卵だったのですぞ。
「奥のは右に一つ、手前のはこちらとこちらが良いですぞ」
ユキちゃんとコウとサクラちゃんだと思わしき卵を俺は指名しましたぞ。
「それで良いのか? こっちの方が組み合わせは良いぞ?」
奥の方の卵を持ちながら農夫は答えました。
「問題ないのですぞ」
「ふむ……まあ、価値はこっちの方が低いから良いが、お前はホント変わった奴だな」
農夫に渡された卵を触って、記憶を頼りに感触を再確認しますぞ。
……間違いなくユキちゃんとコウとサクラちゃんの卵ですぞ!
「ありがとうなのですぞ!」
「暇があったら見せに来い」
「了解ですぞ! 伝説のフィロリアル様に育ったこの子達を見せに来ますぞ!」
今度こそ絶対に見せに行くのですぞ。
いえ、ある程度環境が整ったらまた買いに行くのですぞ。
「ふん。伝説のフィロリアルとは大きく出やがって……楽しみにしてるぜ」
「ではさようならですぞ」
こうして俺はユキちゃん達の卵を再度手に入れてメルロマルクに帰還したのですぞ。