暗殺
「こんな質の悪いベッドで寝られるか!」
燻製がベッドに不満を上げて、使用人達に文句を言っております。
樹に会う前から態度が偉そうですな。
そういえば自己紹介の時に家柄を自慢していたような……気がしますぞ。
男の話などどうでも良いと聞き流していたので忘れてましたがな。
ですが、この燻製……未来で碌な事をしない筆頭でしたな。
確か、未来で国とお義父さん相手に愚かにも赤豚と三勇教と結託、革命をしたのでしたな。
俺はその現場に居た訳じゃないので良く知りませんが、お義父さんを相当罵倒したとか聞きましたな。
どうしますかな?
ここで仕留めて未来に大きな影響が出ますかな?
……後顧の憂いを断っても問題は無さそうな気がしますな。
タクト同様、むしろ得になる様な気がしますぞ。
ですが目撃者が出たら厄介ですなぁ。
と、思っていると兵士達にベッドの注文をして本人は何処かへ歩いて行きますぞ。
どこへ行こうというのですかな?
『力の根源足る愛の狩人が命ずる。真理を今一度読み解き、姿を陽炎で隠せ』
「ドライファ・ファイアミラージュ」
お義姉さん程ではありませんが、火の魔法の応用で姿を隠しますぞ。
他にクローキングランスという隠れるスキルがあるので併用して、完全に姿を隠しきれたかと思いますぞ。
もちろん武器強化でランクⅩまで上げます。
でないと強引に唱えたのでバレバレですからな。
そのまま燻製の後ろを追いかけます。
目撃者は……今の所はいないようですな。
「ちっ! 酒が足りん」
ぶつぶつと燻製は呟きながら、どうやら城のワイン貯蔵庫の方へ向かっているご様子。
家柄を盾にして、酒を盗み飲もうとでもしようとしているのですかな。
城の、倉庫へ向かう途中の中庭に差しかかった所で俺は大きく先回りするのですぞ。
天井があると射程の関係で厄介ですからな。
かといって水平にぶちかませば建物に傷を付けかねませんぞ。
ガチャガチャと音を立て、自信に満ちた足取りで歩いております。
辺りには誰もいません。
今ですぞ!
俺は……燻製の襟元を力強く掴みました。
「ぬ!? な、なにも――」
思い切り手繰り寄せて上に放りあげ、槍を燻製に向けて突き出しますぞ。
「ぐああああ!」
ズシュッと槍が突き刺さったのを確認するとスキルを放ちました。
ブリューナクでは光が空に伸びて気付かれかねませんな。
かといって流星槍も同様……うーむ、殺すスキルで悩む時が来ると思いませんでしたぞ。
ここはアレですな。
「バーストランスⅩ!」
刺した相手を爆発させるスキルで、燻製を爆殺してやりましたぞ。
「ああ――」
爆音が辺りに響きました。
「な、なんだ!?」
物音に兵士達が駆けつけてきますが俺は即座に姿を隠して移動しました。
それに、死体も残さず消し飛ばしたので音以外で何が起こったか察するのは難しいでしょうな。
現に兵士達も音はしたけれど何があったのかまで察しきれておりませんな。
見当違いの方向へと歩いて行きましたぞ。
「ハハハ、これで一つ……この世のゴミが消えましたな」
跡形も残らないだけ、ゴミよりマシかもしれませんな。
まさかこんなに早くコイツを消せるとは思いませんでしたぞ。
俺もなかなか運が良いですな。
後は赤豚ですな……ですが、赤豚にはまだやってもらう仕事があります。
このまま赤豚を殺しては未来に大きな違いが出てしまいますぞ。
奴も殺すタイミングを考えた方が良いですな。
ああ、フィロリアル様ー!
ゴミを消すのに躍起になって時間が掛ってしまいましたが、今すぐ行きますぞ。
「グアグア」
フィロリアル舎に顔を出すとフィロリアル様は相変わらずの様子で寝息を立てているご様子。
最初にループした時と同じく俺はフィロリアル様達に食料を捧げて仲良くなりましたぞ。
翌朝、フィロリアル舎で目を覚ました俺はその足でお義父さん達と合流しましたぞ。
「北村くん夜中に何処行ってたの? なんか臭くない?」
「フィロリアル様に会いに行っていましたぞ。お義父さんの娘であるフィーロたんもフィロリアルなのですぞ」
しかし一つ訂正してほしいです。
フィロリアル様は高貴な匂いなのですが。
「フィロリアル?」
「馬車を引く鳥型の魔物でございますよ」
案内の大臣が補足しますぞ。
「あー……あれねって鳥の魔物と俺は結婚するのか!?」
お義父さんが理解したのか頷く。
おお! 俺の話をちゃんと信じてくださっていたのですな。
「北村くんも冗談が過ぎる……男が嫁とか、挙句、馬車を引く鳥と結婚とか、一度病院に行った方が良い」
何やらお義父さんが前にも増して距離感のある台詞を言っておられますぞ。
う~ん、考えた上で発言しているのですが、何がダメなのでしょうか。
「この人、何か壊れてるみたいだから相手をしない方が良いですよ」
「そうだな」
「まあ……勇者仲間なんだから話くらいしてあげようよ。じゃないとかわいそうでしょ? 顔は良いんだし」
お義父さんが俺を擁護なさってくださいました。
この元康、涙が溢れて止まりませんぞ。
「滝の様に涙を流し始めたぞ。何があったんだ?」
「だから少しおかしいんですってこの人」
「黙ってたらイケメンなのに、残念な奴だね、北村くん」
「勇者様のご来場」
俺達は玉座の間に着くと、豚と男達が待っていたのですぞ。
全部で十一人。
はは、俺のやった行動に結果が実りましたな。
「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」
お義父さんが俺や錬達に向かって手で聞こえない様に小さく遮りながら呟きますぞ。
「十一人って……三人で分けるにしても一人少なくね?」
そこは錬も樹も同意なのか頷きましたな。
ですが、俺は知っていますぞ。
十二人居てもお義父さんに仲間が集まらない事を。
なので実際の数は無意味ですな。
そもそもここで仲間になる連中で……最後までいた奴がいましたかな?
生憎と記憶にありませんな。
そう言えば何故、こちらが選ぶ立ち場では無いのですかな?
勇者という世界を救うために召喚された者なのですぞ。
召喚した国は誠意を示す必要があるのではないですかな?
そう思っていたらクズへの殺意が湧いてきましたぞ。
「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」
白々しい出来試合を見せられているような気がしますな。
お義父さん達もやはり呆気に取られたような目をしておいでです。
十一人の仲間候補がぞろぞろと俺達の方へ集まって行きますぞ。
錬、五人。
樹、三人。
俺、三人。
お義父さん、〇人。
「ちょっと王様!」
最初の時のに数が近いですからな。
お義父さんが不服に思うのも道理!
俺もここで激怒しても良いのですが、未来のお義父さんの言葉があるのでぐっと堪えるのですぞ。
クズの奴、最初から決まっていたにも関わらず大げさな演技をして顔に浮いた汗を拭っておりますぞ。
そんなに熱いなら、一瞬で冷や汗を流させてやりますかな?
「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」
「人望がありませんな」
ポツリと呟いた大臣らしい奴の言葉に俺は殺意を覚えて槍を持って向けますぞ。
「茶番はやめた方が良いですぞ? ここまで露骨な差別……俺は不愉快ですな」
これくらいは言っても問題無いでしょうな。
「い、いえ……失礼しました」
大臣が謝ったその場でクズの隣にいる魔法使いみたいな奴が囁きましたぞ。
「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」
白々しい……この時、俺は何があったのかを敬語で聞いたのですが、今度は俺が不快感を出して黙っていると、樹が一歩前に出て尋ねましたぞ。
「何かあったのですか?」
お義父さんがコクコクと状況を受け入れずに頷いております。
「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者は一番弱いという噂が広まっているそうじゃ」
「はぁ!?」
「伝承では皆強いそうじゃが、弱い勇者と共に行きたいと思う者も少なかろう」
おや? 以前の周回では知識が無い事を理由に仲間外れにしたはず。
今回は違う理由になっていますな。
しかし、どちらにしてもこんな茶番を聞いていると、呆れも限界を迎えてきますな。
弱いお義父さんが教皇や霊亀を倒せるはずもありません。
本当は凄く強いのです。
考えれば考える程矛盾だらけですぞ。
「いや……そんな話……って昨日の夜のアレを聞かれた?」