聞き耳
「なあ、これってゲームみたいだな」
「確かにゲームっぽいですが、違いま――」
「この世界はコンシューマーゲームの世界ですよ」
「違うだろ。VRMMOだ」
「え? VRMMOってヴァーチャルリアリティMMO? そんなの未来の話じゃないのか?」
「はぁ!? 何言ってんだお前」
「待った待ったですぞ!」
俺はお義父さん達を遮って言い放ちますぞ。
「なんだよ元康、自己紹介以外だんまり決め込んでいた癖に、喋ったと思ったら仕切るのか?」
お義父さんが親しげに俺の名前を呼び捨てで呼んでくださっておられます。
前回のループと前々回のループも途中から若干距離のある元康くんでしたのに、今は元康と呼び捨てですぞ。
お義父さんの疑いの目付きにこの元康、懐かしさがこみ上げてきますな。
未来の経験を参照するに、ここでお義父さん達に真実を話しても誤差の範囲で済みますぞ。
つまり、現時点ではお義父さんからも信じてもらえていないという事でしょう。
「錬くんと樹くん、そしてお義父さん。良く聞いてほしいですぞ」
「な、なんだ?」
「今、当たり前のように俺の事をお義父さんと呼んだよな。なんだそれ? ネタか?」
お義父さんが少し楽しげに答えますぞ。
前回とも前々回とも違う反応ですな。
おそらくこのお義父さんが素の姿なのでしょう。
見た所ノリの良い事を好む感じでしょうか。
「お義父さんはお義父さんですぞ。冗談でも何でもなく、この元康のお義父さんになる方ですぞ」
「は?」
ポカンとするお義父さんを一度置いて、説明をしますぞ。
「ここにいる者達は、みんなバラバラの世界から来たのですぞ。同じ日本でも、全然違う。それを覚えてくれれば良いですぞ」
「そ、そうなのか?」
「まず錬くんはVRMMOがある日本から来ているのですぞ。樹くんは超能力のある日本から召喚されたんですぞ」
「は?」
お義父さんが半眼で俺を見つめていますぞ。
信じていないご様子。
それもしょうがないのかもしれません。
VRMMOも超能力も現実的に考えて、ある方がおかしいですからな。
ですが、今までの経験から錬と樹が勝手に証明してくれます。
「何を突然言うかと思えば……VRMMOなんてSFの日本から、ワザワザ異世界になんて来るはず無いだろ? 寝言は――」
「何当たり前の事を言ってるんだ? 普通あるだろ?」
「はい!?」
「はぁ!?」
錬の言葉にお義父さんと樹が声を裏返しましたぞ。
そして俺と錬を交互に見ます。
「ねえよ、そんなもん!」
「ええ、ありませんね」
「じゃ、じゃあ超能力ってのはなんだよ、樹?」
「異能力の事ですか? それくらい持っている人はいますよ」
「ねえよ!」
「ない!」
と、以前にも見た様な会話を繰り返しております。
自分達が異なる日本から来た事を話し合っておりました。
やがて少しだけ落ち着いたのか、お義父さん達は俺の方に意識を向けました。
「元康、なんでそんな事を知っているんだ?」
「実は、俺はこの世界をループしているのですぞ」
「ループ? それって同じ時間を繰り返す奴だよな? じゃあ元々はこの世界出身なのか?」
「違いますぞ。最初は異世界の日本で豚に刺されて死んでこの世界に召喚されたのですぞ」
「豚? 豚が当たり前のように居る日本から召喚されたのか……お前って凄いな」
お義父さんが何か誤解してますぞ。
「未来の世界でお義父さんは俺の事をギャルゲの世界から来たんじゃないかと聞いてましたぞ?」
「へー……そんな経歴してるんだ?」
「残念ながら自分の世界なので、よくわかりませんな」
お義父さんが何やら楽しそうな表情をしておられると、この元康も楽しくなってきました。
「で、錬くんも樹くんもそれぞれ自分の良く知ったゲームの世界に来たと勘違いしているのですぞ」
「そうなのですか? 確かに僕はやり込んだゲームに良く似た世界だとは思いましたが……というか錬さんがステータス魔法に関する解説をした時にも思ったんですけどね」
「ああ、この世界はブレイブスターオンラインの世界だ」
「それは大きな間違いですぞ。二人が知る強化方法ではいずれ限界に達するのですぞ」
「というと?」
「錬くんと樹くんに存在する、それぞれの強化方法が重複するのですぞ」
「ふん」
「ああ、そうですね」
この様子では、信じていないのは未来の情報から明白ですな。
どうしたらこの二人に信じてもらう事が出来るかが、当分の課題になりそうですな。
年齢やそれぞれの世界の特徴等を話し合っていたのですが、錬も樹も途中から、上の空になってきていました。
真面目に聞いてくださっているのはお義父さんだけですぞ。
「錬くんと樹くんがゲーム知識で盾職は負け組だと言いますが、お義父さんは信じない様にお願いしますぞ」
「盾職って負け組なのか?」
「そうではありませんぞ」
「うーん……強化にも色々とあるんだな? それで? なんで元康は俺の事をお義父さんとか呼んでる訳?」
「お義父さんは、お義父さんなんですぞ」
「は? 意味がわからないんだけど?」
眉を寄せたお義父さんが俺を、不快そうに見つめております。
何か失礼な事を言いましたかな?
錬と樹が肩を軽く上げて、お互いを見てから視線を逸らします。
これは危険な兆候ですな。
まあ……錬も樹もこの段階で、説得に成功した前例がないのでしょうがありませんな。
「お義父さんは、未来で俺の大好きな女の子のお父さんになるのですぞ。ですから俺はお義父さんと親しみを込めて呼んでいるのです」
「え……? 仮にそれが本当の事だとして、娘が出来るまでこの世界で戦い続ける事に? 十年単位でループしてんだ?」
おや? どうやらお義父さんが勘違いを始めましたぞ。
どうにも俺の伝え方が悪いみたいですな。
「違いますぞ。お義父さんの娘であるフィーロたんは……おそらく一月とちょっと辺りで産まれるのですぞ」
「どんだけー!」
お義父さんが何やら笑い始めました。
どうしたのでしょうか?
「いや……待てよ。ここは異世界だ。色々と常識が通じないのかも……」
さすがお義父さん、察する能力は人一倍ですぞ。
「じゃあさ。俺の未来の嫁ってどんな人?」
「お義父さんは色々と辛い経験をなさって女嫌いになり、男と寝るようになるのですぞ」
「え!? 男と寝て子供が出来るのか……?」
どんだけ発想が跳躍するのか、この元康、お義父さんの想像力に脱帽ですぞ。
「悪いけど……途端に信憑性が無くなった。北村くん、ごめん」
と、お義父さんに距離を取られてしまいましたぞ。
親しげだった元康と呼んでくださった態度から名字読みのくん付けまでランクダウンしてしまいました。
これでは話すかどうか迷っていた冤罪に関する事実を言えませんぞ。
「違いますぞ! お義父さんはフィロリアルの卵を――」
「勇者様、お食事の用意が出来ました」
タイミングの悪い……とは思いますが、来る事を忘れていた俺のミスですな。
しょうがありません。
次の機会に話すとしましょう。
「では食事が終わったらお義父さんに強化方法のレクチャーをビッシリとしてあげますぞ」
「いや、良いよ。サラッと聞いたから……」
やんわりとお義父さんに断られてしまいました。
おかしいですな。何かミスをしましたかな?
などと話をして、食堂に通されましたぞ。
異世界に来て初めての食事と心を躍らせていた出来事を思い出しますな。
今では慣れ親しんだ味ではありますが、現代日本とは少し味付けが異なるのも事実ですぞ。
なんて思いながら食事を終えた俺達は早めの就寝を取る事になりましたぞ。
ただ、俺は恒例の……城のフィロリアル様に会いに行こうか考えております。
お義父さん達が寝静まったのを確認して、俺はベッドから出て城内を歩きますぞ。
支度金をもらったらその足で魔物商からフィロリアル様を購入しますかな?
んー……魔物商から購入するよりもフィロリアル農家で購入した方が安く譲ってくれますな……。
お義父さんを育てる為にも支度金は有意義に使わねばなりませんぞ。
一か八かでフィーロたんを手に入れるか……悩ましい限りですな。
そう思いながら、城の庭に出ようとしている所で、何やら声が聞こえてきましたぞ。
「明日のいつ頃、勇者様に会えるのでしょうか?」
声の方に歩いて行くと城の客室が見えてきました。
見ると、まだ寝ていない……記憶を紐解くと、錬の仲間になる連中が廊下で兵士と少し話し合いをしている様でした。
クズが仲間の準備をしている最中という事でしょう。
そこまで気にする事では無いですな。
と、思いながら城の庭の方へ行こうとした時。
俺は発見したのですぞ。
「おい、ベッドが硬いではないか。もっと良いベッドは無いのか!」
それは最初、俺の仲間になって数日で抜けた後に樹の仲間になった……前回のループの原因となった、樹を殺した主犯。
燻製が偉そうに使用人達に命令して、何かを注文している所でしたぞ。