安全確保
「おお……」
視線を前に向けるとローブを着た男達がこちらに向って唖然としていた。
「なんだ?」
「あれ?」
この台詞も何度目ですかな?
お義父さんを初め、錬と樹は今までと同じ会話をしております。
その間に状況を整理しましょう。
それが前回、お義父さんに頼まれた事です。
まず、四聖勇者として召喚された俺達……メルロマルクは、その中でお義父さんがいる事を気に入らず、仲間はずれにして勇者同士がまだ関係を構築出来ていない状態で冤罪を被せ、お義父さんを無一文で路頭に迷わせようとしています。
当初、俺は未来の知識を頼りに冤罪からお義父さんを助けました。
その後、シルトヴェルトからの勧誘が来たお義父さんを送り出して、国境の砦で待ち構えていたメルロマルクの軍団にお義父さんは儀式魔法を放たれて亡くなりました……。
これはループが始まってから最初の周回ですな。
次に、こうして召喚された後、玉座の間でお義父さんが罠にはめられると俺が騒いだ所為で、自らの計画が暴露されたクズは、早急にお義父さんと俺の抹殺を企てました。
ですが、その企ては俺とエクレアのお陰で未然に阻止する事が出来ましたが、お尋ね者として追手から逃げるようにシルトヴェルトへ向かいました。
その後、無事にシルトヴェルトへ逃げ切った俺達の所に、タクトが赤豚の刺客としてやってきて、返り討ちにした事でタクトの豚共が残党と化してしまい戦争が勃発。
最終的に樹が燻製に殺されてしまった事でループしました。
ここまでが俺の記憶している主な出来事ですな。
となると、まず俺がしなければならない事はなんですかな?
お義父さんはなんて言っていたでしょう?
未来の知識が役に立つように行動してほしいとの事でした。
お義父さんの言葉通りに、良く考えてみましょう。
玉座の間で騒ぐとお義父さんの身が危険になりますな。
あまり派手な行動をするとクズと三勇教がお義父さんに襲い掛かりますぞ。
次に他国へ行こうとするとどうなりますかな?
やはり一回目と二回目の例を見るに、同様に襲い掛かってきて危険ですな。
ともすれば……まずはお義父さんが十分に育つ事を待ち、安全を確保する必要があります。
「おい」
お義父さんが肘で俺を小突きましたぞ。
「なんですかな?」
「自己紹介」
黙って考え込んでいる間に玉座の間で自己紹介をしてしまっていた様ですぞ。
「俺の名前は北村元康ですぞ――」
ここで騒いでも良いのですが、余計な印象を与えると俺自身も警戒されかねません。
ですから、ここは静かにしていましょう。
「ふむ……レンにモトヤスにイツキか」
「王様、俺を忘れてる」
「おおすまんな。ナオフミ殿」
そうする事で、お義父さん達と同部屋で話が出来る時が来ます。
今はお義父さんがステータス魔法……錬の説明を聞いて驚いておりますな。
俺は黙々とお義父さんを助けるタイミング、信じてもらえる方法を模索しますぞ。
未来の事を詰め込むように言い放っても、お義父さんは信じてくださいません。
それは今までのループが証明しています。
信じてくれるのはいつですかな?
……旅立った初日は妨害が多く、俺はお義父さんがどこに居たのかを知りません。
それ所か、お義父さんがどの宿に泊まっているのかも知りません。
情報が少な過ぎますな。
前回のお義父さんの言葉を参考に今回もまた、何かの所為でループしてしまう可能性は高いでしょう。
ならば様々な情報を集める為、お義父さんの泊まっている宿はもちろん、出来ればせめて初日だけでも錬や樹の行動を把握しておいた方が今後の役に立つでしょうな。
特に最初の行動は後々与える影響が大きいはずです。
さて、思考を戻しますぞ。
お義父さんが信じてくれるのが具体的にいつか? という問題です。
答えは、お義父さんが冤罪に掛けられて何もかも信じられないと思った時ですぞ。
俺自身が吐き気を催しますが、お義父さんの信頼を得るためには……その時に助けるしか未来の知識を使えるタイミングがありません。
問題は……お義父さんが俺の話を信じてくれるのはまだ先という事ですな。
そこは置いておくとしてお義父さんが育ったとして、どうするのが得策ですかな?
余計な戦争を起こさない様にこの元康、努力しますぞ。
考えられる方法は複数あります。
まずは錬が逃げた先である傭兵の国ゼルトブルですな。
あそこは闇が深く、隠れるには打ってつけの国ですぞ。
コロシアムに出て金銭を稼ぐにもちょうど良いですな。
ですが、メルロマルクはもちろん、三勇教が黙って見ているか些か怪しい所ですな。
メルロマルクがゼルトブルに戦争を仕掛ける可能性を否定しきれません。
ゼルトブルも戦争を回避する為ならお義父さんを生贄に差し出すかもしれませんな。
それに黙っているとタクトが動きだしそうな気がしますぞ。
いや……今までのループの経験から、タクトがこちらに来る事は少ないでしょう。
ですが、早めに消した方が良いのも事実。
とは言いつつも、タクトを消すタイミングは重要ですぞ。
戦争の原因であると同時に残党処理に追われますからな。
この案の難点はお義父さんの言葉にあった未来の知識があまり役に立たない事でしょう。
お義父さんの言葉は絶対ですぞ。間違った事は言っていないのですからな。
となれば、ゼルトブル行きは現時点ではありませんな。
次に考えられるのはフォーブレイ……ですな。
タクトと遭遇する危険性はありますが、大国と言われているフォーブレイ相手に、さすがのメルロマルクも戦争を仕掛けるなどという蛮行は出来ないでしょう。
何せ、俺がまだ豚の尻を追っていた頃にお義父さんの無実を証明する事件で、活躍したのがメルロマルクの女王とフォーブレイからの四聖教だったはずですぞ。
問題はこちらも未来の知識があまり役に立ちませんな。
精々タクトを早めに仕留められるくらいですぞ。
……もっとよく考えるのですぞ。
戦争が起こらなかった……?
考えてみれば、メルロマルクの女王がこの国に帰還すれば赤豚とクズの暴走は抑えられます。
ともすれば芋蔓式にお義父さんの身の安全は保証されますな。
その前に三勇教が暴れる事こそあれど、順調に進んでいくはず。
最初の世界の情報を頼るに、鳳凰戦の後にタクトを消せば結果的に戦争は起こらないかもしれません。
なるほど、ですぞ。
他国へ逃げるのではなく、少し危険ではありますがメルロマルクで待ちの戦略を取るのは一つの手ですぞ。
お義父さんは最初、金銭を集めて波に備えていたではありませんか。
その後に起こった事件で追われる羽目になっただけで、それまでは比較的安全でした。
現時点ではこれが一番の手ですな。
不穏分子を先に俺が秘密裏に始末し、お義父さん自身の身の安全を確保しておけば良いかもしれません。
その間にお義父さんには行商をしていただき、金銭の捻出をしましょう。
各地を転々とする事で三勇教に居場所を掴みづらくさせるのですぞ。
ですが……大きな問題として、この元康の目標が残っていますな。
前回も結局、俺はフィーロたんを見つける事は出来ませんでした。
魔物商のテントのフィロリアル様を買い占めたにも関わらず、です。
これはどういう事ですかな?
考えられるのは、魔物商からお義父さんは買った訳ではないか、俺が購入するよりも先に誰かが買ってしまったという事ですぞ。
ですが、買占めるほどの大金を強引な手段をせずに集めるのは骨が折れますな。
「ワシが仲間を用意しておくとしよう。何分、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」
「ありがとうございます」
お義父さん達が一礼して、俺達は一カ所の部屋で休む事になりました。
やはりそうですな。玉座の間で騒ぎ過ぎると別室に案内されて罠に掛けられますぞ。
そういえばエクレアはどうしましょうか?
城の牢獄で捕えられているエクレアを助け出す必要がありますかな?
……助ける事で余計な注目を浴びる事になるでしょうな。
しかもエクレアの事だから安全の為と言ってお義父さんを他国へ連れて行こうと誘導するでしょう。
それでは戦争が起こってしまいます。
だとすれば、エクレアを助けるのはやめておきましょう。
最初の世界で、何だかんだでお姉さんの周りに居たのですからきっと問題ないはずです。




