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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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道化

「わかったよ。メルロマルク……今はあの時とは違う。皆を守ってみせる」

「はい! ではお義父さん、そうと決まれば早く行きましょう」

「そうだね。早い方がいいよね」


 などと話していると伝令兵が更に続けました。


「他、未確認の情報が一件」

「何?」

「メルロマルク軍の近くで飛行機が目撃されています」


 あちらにも回されていたのですかな?

 ならば尚の事、俺達が行く必要がありますぞ。

 それにメルロマルクに飛行機があるという事はシルドフリーデンと関わっている動かぬ証拠。

 必ずタクトの残党を皆殺しにしてやりましょう。

 ……とにかく、行くしかありませんな。


「よし! じゃあ次の行動に移ろう! 行くよ、みんな!」

「「「おー!」」」


 お義父さんの号令に従い、この場にいた者達は喊声をあげて次の作戦に動き始めましたぞ。



「とうとう現れましたね。槍の勇者を騙る偽者に盾の魔王」


 俺とお義父さん、そしてユキちゃん達と、シルトヴェルト軍の部隊が戦場でメルロマルク軍を待ち構えるよう待っていましたぞ。

 場所はシルトヴェルト国内、メルロマルク方面の見晴らしの良い荒野ですぞ。

 ここでの不意打ちは不可能と、お義父さんが睨みを聞かせて戦いに挑むように指示したのですぞ。


「お前等は……シルドフリーデンと協力してシルトヴェルトに攻めてきたのか?」


 お義父さんがポツリと相対する教皇に向けて問いますぞ。


「協力? 亜人などという汚れた存在と手を組むなど我等が三勇教がするはずないではありませんか……これは聖戦なのですよ」

「ブブー」


 そこに赤豚が教皇の隣に立って、何やら鳴いておりますぞ。

 けがわらしい。

 お義父さんの制止を振り切って殺して差し上げましょうか?


「なんて言っているのですかな?」

「『所詮、七星の勇者では盾の悪魔相手に敵うはずもなかった様ね。槍と盾を殺せばパパに婚約を認めてもらえるわと話を通していたのだけど、あの無能、期待はずれも甚だしいわ』って身勝手な事を……お前の所為で俺が……皆がどんな目にあったかわかってるのか!」


 お義父さんが不快そうに赤豚に宣言しますぞ。


「ブブーブブブブブ!」

「ふざけるな! 人が苦しむ姿を見るのが、そんなに楽しいのか!」


 お義父さんが赤豚と話を続けていますぞ。


「これぞ聖戦、私達が正しい事を世に知らしめられる時。シルトヴェルトはこの聖戦で敗北してこの世から消える日が来たのですよ。いずれは亜人全てを滅ぼし、世界は理想的な形として昇華されるのです!」

「勝手過ぎる……皆がんばって生きていて、波から世界を守ろうと必死なのに……」


 やがて、お義父さんはとても冷めた目線で、赤豚と教皇を見つめます。

 そして後方からクズが大きな声で宣言しましたぞ。


「何をぐずぐずしておるのじゃ! 盾と槍を早く殺せ! シルトヴェルトの亜人共を皆殺しにするのじゃ!」


 クズめ……何処まで俺達の邪魔をすれば気が済むのでしょうな。

 だが、ここでなら殺しても問題はありますまい。

 既に賽は投げられたのですぞ。

 後の事を警戒する必要は全くありませんな。


「元康くん。話し合いをすれば少しは相手も理解してくれるかと思ったけど……無理だ。話し合えるような相手じゃない」


 お義父さんが盾を前に出し、戦闘の構えをとりますぞ。

 その通り、最初からこんな連中と話し合いなど無理なのです。


「ああ、そうそう……盾の魔王を倒す勇者様をここで紹介しようではありませんか」

「……勇者?」


 教皇がそう告げて、お義父さんが首を傾げましたぞ。

 するとメルロマルク軍の人垣が割れて……そこから樹とその一行が現れました。


「樹……」

「樹ですな」

「気安く僕の名前を呼ばないでもらいたいですね」


 不快そうに樹は俺達を見つめますぞ。

 なんですかその態度は。

 お義父さんの奴隷の様に働いていた樹の分際で。

 ああ、この世界ではまだでしたな。

 影が薄すぎて忘れておりました。


 それにしてもタクト、タクトの残党、教皇、クズ、樹と現れた訳ですが、強い順ですな。

 何故かその中で一番弱いはずの樹が謎のリーダー面。

 この戦い、俺達の勝利は揺ぎ無い物となりましたな。

 まあ樹は安易に殺せないので対処に困りますが。


「どうして樹がここにいるんだ!」

「どうして? 決まっているではありませんか。勇者の力で悪事をする貴方達を制裁するために、ワザワザ来たのですよ」

「え? だって……樹はメルロマルクの方で波に備えているって……」


 お義父さんが俺の方を見た後、シルトヴェルト軍の方に顔を向けましたぞ。


「ええ、ですがシルドフリーデンの長の方々が飛行機で直々に僕に助けを求めてきたのですよ。『卑劣な罠に掛けられて殺されたタクト様の仇を討ってほしい』と……僕は話を聞いて、お前達の悪事をちゃんと聞いたのですよ」

「樹! 話を聞いてくれ、俺達はタクトに罠に掛けられて、それを返り討ちにしただけなんだ! 本当に悪いのは……シルドフリーデンとタクトの残党……そしてそこにいるメルロマルクの連中だ!」


 しかし、樹は俺達の話など聞く耳は無いとばかりに首を横に振ります。


「確かに三勇教という宗教の理念は理解に苦しむ所はありますが、今は味方です。そして……僕の目、耳……勘の全てがお前達が悪いと告げています。この方々が悪? そんな卑劣な話を聞き入れると……思っていたのですか? 僕はお前達が放った刺客で仲間を失っているんですよ?」

「本当の事なんだ! 聞き入れてくれ! そもそも俺達は刺客なんて放っていない!」

「信じられませんね。僕は、僕の信じる正義の為に、尚文、元康! お前達を倒す! そしてシルドフリーデンで僕達が勝利する事を待っている人に勝利を報告致しましょう!」

「……樹! お前は亜人全てを滅ぼす事に賛同していると言うのか!?」

「そんな事を本心で言うはずないじゃないですか、表面上の演技ですよ。皆立場という物があるんです」

「何が立場だ。ふざけるな!」

「悪事を重ねるあなた達に僕達が非難される謂れはありません!」


 どうやら赤豚や三勇教の狂信者共が善意で動いていると本気で信じている様ですな。

 まさしく道化。

 過去の俺を見ているかの様ですぞ。

 ハハ、自分が駒として扱われている事をまるで理解していない。

 まあ俺はお義父さんの駒として動く事が至高の喜びですがな。


「悪は等しく倒して見せます! マルド、ロジール、皆さん。懲らしめてやってください!」

「「ハッ!」」


 樹とその仲間達がそれぞれ武器を持って戦闘準備に入ります。

 面倒ですな……。

 下手に大技を放てば樹を殺してしまいかねません。

 そんな事をしてしまえばループをしてしまいますぞ。


「樹、お前はそんなに戦いがしたいのか!」

「あなた達の偽りの言葉など僕は信じない! 僕の仲間の仇をここで取る!」

「そうか……だけど俺は何度でもやっていないって言うよ。だって真実なんだから」

「ふん、卑怯者の癖に被害者面ですか?」

「被害者? 違うよ。被害者だった、だ。過去系だよ。樹が、世界が俺の仲間を皆殺しにするって言うなら俺は皆を守る為に戦う。もう……当事者なんだよ」


 お義父さんは決意した表情で告げます。

 その言葉、この元康の胸に響いていますぞ。

 お義父さんが皆を守ると言うのならば、俺は攻撃してくる敵を全て滅ぼしましょう。


「樹、君は俺達を殺したいみたいだけど、俺達は君を絶対に殺さない。世界を守る為に、この世界を無駄にしない為にも君に死なれたら困るんだ」 

「何を訳のわからない事をほざいているんですか!」

「わかってもらいたくて言っている訳じゃない。そうしなきゃいけないから言っているんだ!」


 そう、俺達は樹を殺せません。

 殺してしまえば今日までの全てを無駄にしてしまうという事。

 例えループする可能性を考えていたとしても、それはループしてしまった時の手段でしかないのですぞ。

 などと考えていると樹が自分の仲間達に告げました。


「さあ! 正義の名の元に、悪を成敗致しましょう!」

「「「おおー!」」」


 そして遥か後方から……メルロマルク軍の旗を掲げた団体がこちらに向かって駆けてくるのですぞ。


「くっ……まだあんなに居るのか!?」

「おお! メルロマルクの者達が一挙に集って、ワシ達に力を貸しに馳せ参じたようじゃ! 皆の者! 何をしている早く戦いを始めるのじゃ!」


 クズの宣言でメルロマルク兵が掛け声をあげて、こちらに駆けだしてきましたぞ。

 シルトヴェルト兵がその戦いに応じます。

 戦場で今、俺達勇者と教皇が向き合っています。


 戦いの火蓋が……切られたのですぞ。

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