幻覚
フィロリアル様達は打ち合わせの通りに町から離れた所で待機してもらい、俺は町の店に顔を出したのですぞ。
食事処でしたな。
そう思っていたのですが、町の様子が何やらおかしいです。
所々で黒い煙が上がっておりますぞ?
火事ですかな?
なんとも物騒な町ですな。
そう思いながら打ち合わせ通りの食事処へ辿り着きましたぞ。
「失礼しますぞー」
中に入ると一人は豚で何を言っているかわかりませんでしたが、お義父さん達が事前に話してくださっていたのでしょう。
男の店員が案内してくれましたぞ。
「いらっしゃいませ。その槍……槍の勇者様ですね。こちらです」
人種は亜人では無く人間ですな。
表向きは人間が管理している店なのですかな?
そう思いながら店の奥へ行きます。
するとそこにはややくたびれた様子のお義父さんとエクレア、そしてシルトヴェルトの使者がおりましたぞ。
「ああ、キタムラ殿か、経過はどうだ?」
「準備は万端ですぞ」
「そうか」
「ところで先ほどから町が騒がしいですな」
「ああ、町の各所で放火や喧騒が起こっているそうだ……」
「何度目かの質問だけど、これも三勇教の所為なのかな?」
お義父さんが申し訳なさそうにしておりますぞ。
「だと思う。町の領主も本腰を上げて火消しに走っているが、冒険者を主張する連中の騒ぎで、町の機能がマヒする寸前らしい」
「とんだ邪教ですな」
「……まったくだ。過激派の暴走にしては限度があるだろう。キタムラ殿と別れる前に滞在していた酒場なんて何度放火されたかわかったものじゃないらしいぞ。今じゃ閉店してしまった」
それは災難でしたな。
「この店も、私達が出た後は閉めた方が良いだろうな」
「はい。その為の補填の申請は既に行っております」
シルトヴェルトの使者が頷く。
おそらく、俺を尾行していたかもしれない連中が何処かで嗅ぎつけた可能性はありますな。
等と思っていると、店に恒例の「臭い」を連呼する冒険者が現れましたぞ。
ふむ……しょうがありませんな。
俺は店の奥から店内の方へ行きますぞ。
「キタムラ殿、何をするつもりだ」
「どうせすぐに移動しますぞ。そのついでに自分達の愚かさを身をもって教え込むだけですぞ」
「だ、誰か元康くんを止めて!」
「それはイワタニ殿しかできん!」
お義父さんとエクレアが何か言い争いを始めましたぞ。
「元康くん! 良いから、これ以上騒ぎを大きくしないで!」
「ハハハ! お義父さんはお優しいですな。この元康、お義父さんの優しさに涙があふれますぞ。ですが、これとそれは別ですぞ」
「止まらないよ! エクレールさん!」
「キタムラ殿! お願いだから次へ――」
お優しいお義父さんを置いて、俺はカウンターの方へ行きますぞ。
するとそこにはヘラヘラと……おや? パラライズランスで麻痺させた奴がいましたぞ。
俺の顔を見るなり、表情が青ざめてますぞ。
これは傑作。トラウマになっているのでしょう。
「どうやら懲りないようですな」
「う、うるせぇえ! 盾の悪魔はここに居るんだな! 殺せば賞金ガッポガッポなんだ! そこを――」
「お義父さんの慈悲に感謝するのですぞ。イリュージョンランス!」
サクッとまたも額に槍を突き刺してやりましたぞ。
「グア――」
ドタンと、先頭に居た馬鹿を一人仕留めると、後ろに居た馬鹿が息をのみましたぞ。
こいつ等は……まあ、こちらで良いですな。
「パラライズランス! ですぞー!」
「ぎゃあああ――グガ――」
逃げようとしたので穴を拡張してやりましたぞ。
ハハハハハハ!
ビクンビクンと事後みたいな感じで痙攣していますな。
「ハ、ハハ……こ、これで俺は……大金持ちだ! ハハハハハハ!」
イリュージョンランスの効果が効いてきましたな。
締りの無い、瞳孔が完全に開いて涎を垂らしながらふらふらと歩き始めましたぞ。
なので、俺はそいつを店先に蹴りだし、ついでに麻痺させた連中を放り出しましたぞ。
店の前に三勇教の連中らしき奴等が数名いましたが、出てきた冒険者共を見て絶句しておりますな。
パンパンと手を叩いてから俺は店の奥へと戻りましたぞ。
「ああ……既に手遅れに……」
「どうしたのですぞ?」
「キタムラ殿は手加減というのをしているのか?」
「十分しておりますぞ。していなかったら今頃連中はあの世ですな」
「あれで手加減か……」
「殺して上げた方がまだ救いがあったんじゃ……」
何やらお義父さんとエクレアが内緒話をしておりますな。
「言葉には気を付けた方が良いぞイワタニ殿。キタムラ殿はイワタニ殿の言葉を曲解解釈して暴走する傾向がある」
「うん。出来る限り気を付けるよ」
等と話をしていると騒がしくなってきましたな。
見れば店の外で、自警団と冒険者を主張する三勇教徒が争いを始めた様子。
「そろそろ移動を開始した方が良いんじゃないかな?」
「了解ですぞ」
お義父さんを筆頭に、パーティー勧誘を飛ばしてからポータルスピアを発動させましたぞ。
一瞬にして視界が、フィロリアル様達に待機してもらった山道に飛びましたぞ。
「わ! びっくりした。話には聞いていたけど、やっぱり凄いね」
お義父さんがキョロキョロと辺りを見渡していましたぞ。
それはシルトヴェルトの使者も同じですな。
エクレアは何度か経験しているからか、そこまで反応はありませんな。
「グア!」
ユキちゃん達が翼を上げて出迎えますぞ。
「僅か二日でここまで大きくなるのか?」
「凄いね。俺の事覚えてる?」
お義父さんがサクラちゃんに向かって尋ねます。
するとサクラちゃんはコクリと頭を下げて頷きますぞ。
そしてすりすりとお義父さんの胸元に頭を擦りつけ始めましたぞ。
「あははは……大きくなっても可愛いね」
お義父さんは微笑みながらサクラちゃんの頭を撫でていますな。
なんと絵になる光景。俺の知るお義父さんは滅多に見せない姿ですぞ。
瞳に焼き付けましょう。
この元康の脳細胞が、サクラちゃんを優しく撫でるお義父さんの姿を刻みつけましたぞ。
「Lvは幾つになったのだ?」
「40ですぞ」
「40!? 僅か二日で40だと!?」
「凄く早いね。これが普通なの?」
「驚異的な速度だ。幾らなんでも規格外にも程がある!」
エクレアとシルトヴェルトの使者が驚いていますぞ。
ですが、ウソではありませんぞ。
「それとお義父さん達に御土産ですぞ」
俺はユキちゃん達に引かせていた荷車の上に乗せていた様々な素材、ドロップした武具を見せますぞ。
「なんだこれは!?」
「二日の成果ですぞ。本当はもっと沢山あったのですが、さすがに積みきれませんでしたぞ」
「うわ……いろんな素材が沢山あるね」
「お義父さんの盾に納めください」
「殆どLvやツリーが足りないって出ると思うけどー……わかったよ。解放条件に必要な個数分だけ入れて行くね」
お義父さんが色々と盾に素材を入れて行きますぞ。
「エクレアにはこの剣がお勧めですな」
「キタムラ殿はいい加減私の名前を覚えて欲しいのだが……って何処から剣が出てくる?」
「アレじゃない? 確か勇者の武器の力にあるドロップ……魔物を武器に吸わせると別の道具が手に入るって奴」
「そうですぞ」
エクレアに良さそうな武器として山奥の魔物を倒した時に出た剣を渡しましたぞ。
確か名前はグリフィンエッジでしたかな?
突剣では無くエッジが掛った羽を模した剣ですが、問題ありますまい。
剣を受け取ったエクレアが刀身をマジマジと見ながら唸っていますぞ。
「中々の名剣のようだ。些か私の身に余る気がするのだが……使いきれるか不安だ」
「後はお義父さん用に鎧を確保していますぞ」
大きなグリフィンを倒した時に出た鎧をお義父さんに見せます。
「あ、ありがとう……凄く、重たそうだけど……」
「ほら、お義父さん。手を上げるのですぞ。この元康が着せて差し上げます」
「わ、わかったよ」
お義父さんに鎧を着せて差し上げました。
するとお義父さんはドスンと前のめりに倒れてしまいましたぞ?
「お、重い……」
おや? 装備するのに必要な能力が足らなかったようですな。
しょうがありませんな。
鎧を脱がせて荷車に置き直しますぞ。
「ある程度Lvを上げるのが先決ですな」
「そ、そうだね。せっかく元康くんが用意してくれた装備が無駄になっちゃうもんね」
「いきなり、資材が増えたな……追手も転送能力で完全に撒けたとは思う……だが、念の為に早めに出発するとするか」
「了解ですぞ! ささ、皆さま! 荷車に乗って出発しますぞ」
「せめて荷車を馬車に改良したいが……それはある程度移動してからにするか」
お義父さんとエクレアが何か諦めたかのように荷車に乗り、シルトヴェルトの使者も乗るのを確認しましたぞ。
「グア!」
俺はフィロリアル様代表をしているユキちゃんの背に乗り、槍を掲げますぞ。
「では出発ですぞ!」
「「「グアー!」」」
ドタドタとフィロリアル様達は走り出しました!
土煙を上げて、俺達の旅は続きますぞー!




