亜人の酒場
「あ、帰ってきた」
フィロリアル様を購入した後、お義父さん達と合流しましたぞ。
「どうだった? 良いの買えた?」
「フィロリアル様に良いも悪いもありませぬぞ」
俺はお義父さんにフィロリアル様の卵を見せます。
卵に差異はありません。
一体どんな子が生まれるんでしょう。
今から楽しみでなりませんぞ!
「へー……これからあの鳥みたいな魔物が孵るんだ?」
「そうですぞ」
「三個も購入したのか? まあ、素早く移動するのならあって損は無いが……時間は掛るだろうな」
「卵からだもんね……」
「すぐに育ちますぞ!」
エクレアは何やらフィロリアル様を勘違いしている様ですぞ!
確かにLv補正無く育てたら時間は掛りますが、この元康に掛れば数日で掛け替えの無い戦力にまで育て上げて見せましょう。
三日もすれば人語を解す事も可能でしょうな。
「どれくらいかかるの?」
「乗り物としてか? 熟練の戦士が育てるとして二週間は必要だと私は聞いた」
「孵化して二日あれば十分ですぞ!」
「いや……さすがに早すぎるだろう……勇者にはそのような能力があるのか?」
エクレアの問いに俺は頷きましたぞ。
そう、フィロリアル様……だけではなく、この世界の魔物は等しくLvが急速上昇すればかなりの速度で成長しますぞ。
これはお義父さんが経営していた領地で実証済みです。
フィーロたんを敵視していた憎きドラゴンの背に乗っていた豚が任されていた魔物舎の事です。
豚ながら中々に教育の行き届いた魔物達でした。
「それはいずれ判明するんじゃない? こうして元康くんが買ってきた訳だし」
「見てみて欲しいですぞ」
「う、うむ、では休憩がてらに町へ向かうとしよう」
こうして俺はお義父さん達と共に最寄りの町へ向かいましたぞ。
立ち寄った町の規模は程々、交易拠点としての側面が強い商人の町といった感じですな。
メルロマルクの隣国でー……余り来た事がありませんが、北の方へ行くと飢饉があったとか言われている土地だったかと思われますぞ。
シルトヴェルトの使者は町の裏路地にある酒場の前へと案内しました。
そこには亜人の看板が掲げられています。
「亜人の酒場か……確かに、盾の勇者であるイワタニ殿を匿うには絶好の場所だな」
「はい。どうか酒場の奥にある部屋でゆっくりして頂けるとありがたい所です」
「ここで降りればいいの?」
お義父さんが馬車から降りて伸びをします。
ずっと乗りっぱなしでしたからな。
疲れていてもおかしくないでしょう。
「あー……乗り物酔いとかはしないんだけど窮屈だったよ」
フィーロたんが引くような馬車では無く、単純に乗り物としての馬車ですからな。
狭かったでしょう。
「ではこちらです」
シルトヴェルトの使者が酒場に入って酒場の主人と話をしております。
「話は付けました。どうかゆっくりしてください」
主人が酒場の奥へと続く扉を開け、通るように道を譲りました。
俺はお義父さんよりも先に通って、廊下を確認、お義父さんに安全を確認してから合図を送るのですぞ。
「わかってるけど警戒しなきゃいけないんだね」
「そうですぞ。この世界はいつ、誰の食い物にされるか分かったものではありませんからな」
「まあ……何処の世界も同じようなモノなのかもしれないね」
シルトヴェルトの使者と同行し、酒場内の案内された部屋で休憩を取りますぞ。
酒場は一階で、三階建ての石造りの家……現在、俺達は三階の部屋におります。
しかも石の壁にスイッチがあって隠し部屋まであるのですぞ。
話によると各地にこういった施設があるそうです。
これは元々敵国だったメルロマルクの近くだからでしょうな。
それに伴ってお義父さんは警戒の関係で窓には立たない様に注意されています。
ベッドに座るお義父さんが物凄く暇そうにしておられます。
「馬車よりは窮屈じゃないけど、結局は隠れる事には変わらないんだよね」
「そうですな……何か欲しい物があるのならこの元康が買ってきますぞ」
「うーん……食べ物はもらっているし、強いて言うならお風呂とか入りたいかなー……」
「この町は一家庭に風呂はあったか?」
「無いですが、簡易的に樽にお湯を入れてくる事は可能です」
「ドラム缶風呂みたいな感じかな? それでも良いよ」
「入浴ですかな? お義父さんの警護はどうしますかな?」
「ん? 私が見張っているつもりだが」
「え、エクレールさんが俺の入浴を見てるの!?」
お義父さんが赤面しましたぞ。
その意図を察してエクレアも焦り始めました。
「ち、違うぞイワタニ殿! 私は、あくまで警護の為に見ているだけで、決して痴女の類では無い!」
「ははは、エクレアもお義父さんが入浴中に町の浴場に行くのはどうですかな? その間、この元康がお義父さんの警護を致しましょう」
「む……キタムラ殿の実力なら安心できるな。その言葉、受けさせてもらおう。だが、もしも私に何かあって帰ってくる事が無かったとしても探す様な真似はしないでくれよ」
「大丈夫です。私の仲間達がセーアエット嬢の警護を致します」
シルトヴェルトの使者と同行している豚が一歩踏み出してエクレアに声を掛けました。
「そうだったな。ではイワタニ殿が入浴している間、私達も体を洗って来よう」
「う、うん」
お義父さんが目のやり場に困るようにエクレアから視線を外しますぞ。
「イワタニ殿……何か勘違いをしているようだが、私は別に……」
何のお話をしているのですかな?
「そうなんだけどさ、ごめん。どうも意識しなくて良い事を考えちゃったんだ」
「うむ。私の事は気軽に仲間だと思ってくれれば良い」
「うん。大切な仲間だもんね。そう言うのは……安全になってから考えよう」
おや? エクレアと一緒にいる豚も何やら恥ずかしそうにしていますぞ?
それからエクレア達が部屋から出て行って、部屋の中は若干静かに成りました。
シルトヴェルトの使者もお湯を頼みに行って席を外しております。
「あ、ごめん。元康くん、別にそう言う関係じゃないよ? 念の為に断っているんだ。だってこう……」
お義父さんが説明を始めます。何があったのでしょうか?
「エクレールさんも、他の人達も……俺が盾の勇者ってだけで特別扱いしてるだけでしょ? だから恋愛とか、ハーレムとか……俺はまだしたくないんだ。俺をちゃんと理解して、それでも仲良くしたいって人と付き合いたいなって……」
うーむ? なんか俺の知るお義父さんの反応とは異なるご様子。
確かお義父さんは女を憎悪していたと思いますぞ。
あの村でも恋愛禁止令なるものが布かれておりましたな。
黙って見つめているとお義父さんが色々と話をし始めました。
どうやらシルトヴェルトの使者が連れた豚共がお義父さんに色々と話を吹き込んだご様子。
「シルトヴェルトに行くと、なんか色々と縁談があるとか美人な奥さんを娶れるとか教えてくれたんだけど……」
「危ないですな」
「うん。メルロマルクのお姫様も凄く綺麗だったけど、何か裏があると思わなきゃね」
「さすがお義父さんですぞ。あの赤豚は最重要で警戒、他の国でも色目を向ける豚には注意すべきですぞ」
「今まで俺って彼女が出来た事は無かったから、少し浮ついた気持ちになりそうだったけど、注意して行かないとね」
さすがお義父さん。
私、元康、お義父さんの学習能力の高さに感服いたしますぞ。
「元康くんの話だと、この世界はかなり物騒だし……シルトヴェルトだってその辺りは変わらないかもしれないね……」
「そうですな」
記憶の中ではシルトヴェルトに一度も行った事はありませんが、異世界では色々と警戒しなければなりません。
確か……お義父さんが前に、語っていたような覚えがありますぞ。
シルトヴェルトはなんだかんだで盾の勇者をあの手この手で勧誘しようとしてきたからそこまで信じていないとか。
えっと……確かお義父さんが奴隷しか配下にしないと悟るなり、シルトヴェルトの貴族の娘を奴隷としてお義父さんに斡旋した……のでしたっけ?
これは記憶にありますな。
そして俺も警戒していた事象に存在しますぞ。
思い返せば異世界に来る前の事、顔が良いと自惚れていた俺は、何だかんだで女性が俺の遺伝子を求めているのではないかと考えに過った事がありましたぞ。
古来、女性の価値基準には顔が付きまとうものです。
顔が良ければモテる。つまりは肉体関係に至り、顔の良い子供が生まれる事を期待する。
そのような意識が根付いていると頭の片隅に入れておりました。
顔が良い事は良い事です。
ですが、顔だけで近づいてくる女は豚ですぞ。
同様に経歴だけで近づく豚も多くありますな。
この元康、異世界に来てやっと学んだことでありましたな。
槍の勇者という経歴だけでモテモテだと思い込んでいたあの頃、今になって思えばあの時の自分を殴り殺してやりたくなります。
霊亀の一件の後……どれだけ世の中が冷たくなり、仲間に裏切られたか。
あの時の感情は忘れようもありません。
そして調子に乗っていた俺を激しく注意してくれたのがフィーロたん。
世の中が冷酷だと痛感して落ちこんだ俺を励ましてくれたのは天使のフィーロたん。
ああ……俺にはフィーロたんの愛があれば生きて行けると確信した瞬間でしたぞ。
そう、世の中は辛い事ばかりではないんですぞ。
「そうですぞ。お義父さん、掛け替えの無い愛おしい人だと思えない限り、体など預けてはなりませんぞ。ましてや幸せに出来る確信が無い状態で愛だなんて言葉を使ってはいけませぬ」
「預けるって……俺は男なんだけど……うん。意味は通じてるよ。気をつけないとね。勇者ってだけで利用してくるみたいだし……シルトヴェルトって国も味方なんだろうけど、利用されない様にしなきゃね」
さすがお義父さん、俺の言葉をちゃんと汲み取って考えてくれましたぞ。




