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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
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アブソーブ

 やがてシルトヴェルトへ向かう合間にある国への国境の砦まで辿り着きましたぞ。

 現在砦を遠くから見ることのできる森の中から観察をしています。


「どうですかな?」


 見た感じだと普通に商人が砦を通り抜けている様に見えますな。

 怪しい所は感じられませんが、エクレアが眉を歪めて呟きました。


「一見すると、おかしくないように見えるが……変だな、妙に見張り台に見張りがいる。砦内にも普段より人が多いのではないか? 窓から僅かに確認できる」


 エクレアの指摘する箇所を俺も確認しましたぞ。

 確かに……言われてみると妙に人が多いように見えますぞ。

 ループする前、お義父さんが指名手配された時ほどではありませぬが、かなりのものです。


「そ、そうなんだ?」

「気の所為……と、考えるのは希望的過ぎるな」


 エクレアがそう呟きます。

 シルトヴェルトの使者も同様に頷いておりますな。


「荷車に乗せ換え、盾の勇者様を隠して通るというのはどうでしょうか?」

「密出国か……悪い手では無いと思うが、今のイワタニ殿のLvを考えると、見つかった場合かなり危険だな」

「確かに、荷物とか厳重に調べられるだろうしね」

「そうですね……どうしましょうか」


 お義父さん達は困った様子で話合っております。

 こんな時こそ、この元康の出番!


「では私が先行して確認を取ってくるので皆さんは隠れているのですぞ」

「え? 元康くんが一人で行くの? 危険じゃないかな?」


 お義父さんの真心、私元康はしかと受け止めましたぞ。

 自然と涙が滝のようにあふれ出る感覚を覚えます。


「も、元康くん!? なんで泣いてるの?」

「問題ないですぞ。お義父さんの優しさに心打たれただけですぞ!」

「そんな変な事、俺言った!?」


 エクレアは何故か溜息を吐きましたぞ。


「イワタニ殿、キタムラ殿の奇行にそろそろ慣れた方が良いのではないかと私は思い始めている」

「あー……うん。そうなんだけど、一人で行かせて大丈夫かなと思って」

「そこは問題ないと私は思う。何せキタムラ殿は私から見ても底知れない強さを持っている……性格も底知れないが」


 エクレアの最後の一言がよく聞こえませんな。

 どうやらお義父さんには聞こえたようで、納得した様子で頷いています。

 そういえばお義父さんはお姉さんとヒソヒソ話す事が多かった気がしますな。

 最初にヒソヒソ話を始めた時は不快に思ったものですが、今考えると大事な事なのですぞ。

 多分。


「元康くん一人で行かせるより、全員で強行突破した方が確実なんじゃない?」

「確かにそれは一つの手だと私も思う。しかし話によるとキタムラ殿の転送能力は行った事のある場所へ飛べるのだろう? ならば砦を問題なく通り抜けられたなら、転送場所を指定して戻ってきてもらえば良い」

「なるほど! 俺をターゲットにしても元康くんが通れたなら意味が無いもんね」


 確かに、その手がありましたな。

 ポータルは次回のループでも蓄積するようですし、もしも次のループがあればこの方法を利用させてもらいましょう。


「私達がする事は見つからないようにキタムラ殿が事を解決するまでイワタニ殿を守れれば良いのだ」

「わかりました」


 シルトヴェルトの使者も頷いています。

 一時とはいえ、お義父さんと離れるのは心苦しいですが、今は戦いの時!

 この戦いをメルロマルク砦の戦いと名付けましょう。

 我が戦果をお義父さんに見せつけ、如何に俺が忠臣であるか証明するのですぞ。


「では私は行ってまいりますぞ。何かあったら目立つサインを発してくだされば飛んでいきますぞ」

「うん」

「任せろ」


 こうして俺は一人、国境の砦へ歩いて行きました。



 国境へと歩いて行くと、見張りが騒ぎ出すのを確認しました。

 ぞろぞろと砦の中から兵士が出てきますぞ。


「槍の勇者だな! 盾の悪魔は何処だ!」


 兵士を代表して……確か昔、最初の世界で何度か顔合わせした事のある騎士団長が大声で聞いてきましたぞ。

 いつからかいなくなりましたが、こんな所にいるとはどういう事なのでしょう?


「知りませんな。それよりもここを通りたいのですぞ」

「誰が通すものか! 素直に盾の悪魔の所在を話せ! さもなくば……」


 魔法の使える兵士たちが後方で集団儀式魔法の詠唱に入りましたぞ。

 辺りに高密度の魔力場が形成されて行くのを体が感じました。

 エネルギーブーストが出来るようになった辺りで覚えた事ですな。


「さあ! 素直に言うのが身の為だ」

「誰が話すものですかな?」


 どうやら、最初のループでお義父さんを殺したのはここの連中で間違いないようですな。

 シルトヴェルトの使者も普通に通ろうとしたけどここに居る連中に見つかって殺されたと見て良いでしょう。

 ループ前のお義父さんは他国へ亡命等していませんでした。

 だから生き延びれた……のかもしれませんな。

 連中にとってお義父さんがシルトヴェルトに行くのはそんなにも嫌な事なのでしょう。


「もう一度言いますぞ。俺を通せ、さもなくば殺す。通すのであれば殺さない」

「ふん。愚か者め! 槍の偽者! 覚悟! やれ!」

「「「集団儀式魔法『裁――』」」」


 俺は過去にお義父さんから学んだとある魔法を会話をしながら唱えておりました。

 相当高位の……お姉さんのお姉さんクラスの術者が指揮をしていない限り、儀式魔法とて対応可能でしょうな。


『我、愛の狩人が天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ、膿みを吐き出させよう。龍脈の力よ。我が魔力と勇者の力と共に力を成せ、力の根源足る愛の狩人が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、魔たる力を吸収し力と成せ!』

「アル・リベレイション・アブソーブⅩ!」


 魔法の完成と共に槍を天に掲げますぞ。

 儀式魔法で巨大な雨雲が発生し、雷鳴と共に巨大な雷はまっすぐに俺に向かって降り注ぐ。

 おそらく前回のループでお義父さんはこの攻撃によって亡くなられたのでしょう。


 気付けばギリッと奥歯を噛み締めていました。

 確かに今のお義父さんは無事ですが、前回のお義父さんはここで朽ちてしまったのです。

 ならば、俺は前回のお義父さんの弔いをしなければなりません。


「ははは! 愚かな槍の偽者め!」


 騎士団長が高笑いをしておりますな。

 だから俺も奴等に向けてニヤリと笑みを浮かべますぞ。

 雷が俺に当たる瞬間――槍に魔力がスーッと吸い込まれて行きました。


「ハハハハ……ハァ!?」


 魔力が体に巡って行くのを感じますぞ。

 元々魔法を殆ど使用しておりませんので、回復するだけ無意味なのですがな。


「ば、馬鹿な! 『裁き』が何もなかったかのように消え去る……だと!?」


 信じられないという表情で騎士団長は俺を睨んできました。

 実に愚か。

 お義父さんと敵対した時点で敗北は決まっているというのに。

 愚かな無能共には裁きが必要ですな。


「勇者の力を舐めすぎですぞ。この程度、対処するのは造作もありませんな」


 さて、せっかく回復した魔力を無意味に放出するのは楽しくありませぬ。

 どうせ、しばらくすると無くなってしまうのですからスキルでは無く魔法で相手をしてあげるとしましょう。


『我、愛の狩人が天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ、膿みを吐き出させよう。龍脈の力よ。我が魔力と勇者の力と共に力を成せ、力の根源足る愛の狩人が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、愚かなる集団を炎の嵐で薙ぎ払え!』

「な、何をしている! 早く槍の偽者を殺せ!」


 騎士団長が偉そうに宣言し、兵士達がワァーっと声を上げながらこちらに駆けてくる。

 ですがもう遅いですぞ。


「リベレイション・ファイアストームⅤ!」


 左手に槍を持ち直し、右手で魔法を形成して前へ向けて発動させました。

 右手から巨大な炎の竜巻が発生しましたぞ。

 しかもリベレイション。

 お義父さんから学んだ勇者にしか使う事のできない最強の魔法ですぞ。


「な、なんだあれは!?」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」

「わぁああああああああああああああ!」


 悲鳴と喚声が響き渡り、国の兵士共は炎の嵐の中に呑まれて行きましたぞ。

 それは騎士団長とて同じで兵士達を盾にして逃げようとしましたがもう手遅れ、素早く流れて行く竜巻に巻き込まれて行きました。

 やがてガラガラと音を立て、砦を薙ぎ払って炎の嵐は霧散しました。


「まあ、こんな所でしょうな」


 砦さえも跡形もありませんな。

 これでこやつ等も理解したでしょう。

 お義父さんに喧嘩を売る=死であるという事を。


「今のは警告だ、加減している。盾の勇者の慈悲深さに感謝する事ですな」

「う……く……」


 焼け焦げた兵士達が降り注いで辺りは死屍累々の状況になりました。

 騎士団長が何処にいるかはわかりませんな。

 加減はしたからそこまで死者は出ていないと思いますがな。

 俺は近くで瀕死で倒れている兵士の胸を踏んづけて告げる。


「盾の勇者を殺そうとした罰ですぞ。クズ王と教皇に告げておけ。死にたく無いならしゃしゃり出てくるな……ですぞーハハハハハハッ!」


 なんて高笑いをしていると何故かお義父さんを乗せた馬車とエクレア達がこちらに駆けてきました。

 その表情は困惑という文字に彩られておられるようです。


「巨大な炎の竜巻が見えたから急いで来てみれば……これは一体……」

「安全が確認できるまで隠れてもらう話でしたが?」

「イワタニ殿が心配していたんだ」

「なんと! この元康、感激して涙が――」

「それは良いから! これは元康くんがやったの?」

「そうですぞ」

「勇者って……こんなに強くなれるの!?」


 お義父さんが絶句していますぞ。

 何を言っているのでしょう?

 お義父さんならもっとすごい事を平然とやり遂げるはずです。

 実際、これ等の状況を何度も退け、仲間を守っておられました。


 教皇との戦いが懐かしいですな。

 お義父さんは敵であった俺すらも守ってくれたんですぞ。

 それなのに以降もお義父さんを悪く言って……過去に戻れるならその頃の自分を殺したいですぞ。

 おや?


「死人は……出てるよね。やりすぎじゃない?」

「遠くから確認した時、騎士団長がいた。となればイワタニ殿を殺そうとしていたのだろう」

「振りかかる火の粉は払わねば火傷しますぞ! さあ、次へ向かいましょうぞ」

「う、うん……実は元康くんが一番怖い人なんじゃないかな? マンガとかで味方でよかったってセリフがあるけど、こういう時に使うんだろうね」


 何を言うのですかな? お義父さん。

 前回のループでお義父さんに向かって儀式魔法を放ったであろうこの者達に同情など欠片も必要ないのです。


「ささ、出発ですぞー」


 こうして、俺達は無事に国境を突破する事が出来たのですぞ。

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