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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 槍の勇者のやり直し
410/1278

槍の勇者のやり直し

去年のエイプリルフールに乗せた物を若干加筆したものを一話に持ってきています。

なので、知っている方は読み飛ばしても問題ありません。

「元康さんは私か――さんのどちらが好きなのですか!?」

「え……えっとー……あ、携帯が鳴ってるちょっと行ってくる!」


 俺の事が好きだと言った――ちゃんを俺は振り切ってその場を逃げた。


「あ、元康さん!」


 だって俺に取って君と彼女はどっちも同じくらい好きな子なのは確かだったから……まだ決めかねていたんだ。

 ――ちゃんとは今夜、家で話をする事になっている。

 俺は……友達の――の事を嫌いに成りきれない。

 ただ、――も悪気があって――ちゃんの事をいじめた訳じゃない。

 周りが勝手に察して陰湿ないじめになってしまっただけだし、女の子と話をしたり遊びに行くのだってみんな当然のようにする事のはずだろ?


 みんな仲良くしてほしい。いじめなんてみっともない。

 だから俺はいじめに対して正面から対峙して解決させたつもりだった。

 なのになんでこんな事態になってしまったんだろう?


 俺は……友達の――と箱入りお嬢様の――のどっちと付き合えば良い?


 友達の――

 お嬢様の―― ←


 でも友達の――とも一緒に居たい。

 大学三年の俺は生まれてから今まで、色々と女の子と付き合っていたけれど、その中でもっとも難しい恋愛をしている自覚がある。

 今、俺の近くにいる女の子ってなんでこんなに面倒なんだ?

 だけど、抜け出せない事を俺は悩み続けている。


 高校生の頃からやっているネトゲでも楽しくやってた。

 俺にネットゲームを教えてくれたのも女の子だったな……あの子よりも深くはまっちゃったし。


「楽しくみんなで居たいのはわがままなのか……?」


 友達の――の悪い所は、外交的な性格だけど強引な所がある。

 押し掛け女房的に俺の家に来ては家の掃除をしてくれる……けど物を勝手に捨てられてしまう。

 で、――の部屋に行った時、捨てたと言っていた物が見つかって、聞いたら勿体無いからと持って行ったとか言っていた。

 逆にお嬢様の――さんは偶然にしては高頻度で行く先々に現れるし……。

 こう……俺に理想を押し付けたりはしないのだけど、着けられている気配がする。

 俺は、その日の授業を終えた後、この前ナンパした女の子とデートをしてから家路に着いた。


 そして……一人暮らしのアパートに帰ると、俺の家から喧騒が聞こえてくる。


「どうして元康くんの家にアンタが居るのよ!」

「それはこっちの台詞です! ――さん!」


 ガチャンとモノが壊れる音が聞こえる。

 俺は急いで家の扉を開ける。

 するとそこには二人が、取っ組み合いのけんかをしている最中だった。


「――は金持ちなんだから元康じゃなくても男なんて一杯いるでしょ! 諦めてよ!」

「私が好きなのは元康さんだけです! 私の王子様は元康さんなんです! 貴方じゃ元康さんを幸せになんてできません!」

「勝手に決め付けるんじゃないわよ!」

「二人ともやめるんだ!」


 俺が間に入って二人を引き放す。


「元康さん!?」

「元康!」


 やっと俺が居る事に気付いた二人は冷静になったみたいだ。


「――さんに元康さんも言ってください! 元康さんと付き合っているのは私だって」

「違うわよ! 元康と付き合っているのは私よ!」


 ああもう! どうしてこの二人は喧嘩ばかりなんだ!

 女の子を集めた合同デートにだって連れていけない!

 女の子は等しく仲良くしなきゃいけないんだ!


「この際だから言って置くよ。俺はまだ誰か一人と付き合うなんて出来ない。そんな事を考えたくないんだ」

「そんな……」


 ――さんが言葉を失って数歩下がる。

 カッとなったのか目を見開いた――がその隙に台所から包丁を取り出した。


「何をするつもりだ? やめるんだ!」

「元康が悪いのよ! 私をこんなにしたのが悪いのよ! だから――」


 そしてダッと――が――さんの元へ包丁を持って走り出す。

 俺はさせないとばかりに注意して――から包丁を奪おうと構え――。

 脇腹に何かが突き刺さる感覚を覚える。


「え……」


 振り返ると――さんが俺の脇腹にナイフを突き立てていた。

 鋭い痛みと共に、信じられないくらい赤い液体が俺の身体から溢れてくる。


「あは……どうせさっきまで女の子とデートしてたんですよね。わかります。――さんや他の人に取られるくらいなら私が殺して私も死にます。天国で一緒になりますよアハハハハハハハ!」


 壊れた人形のようにズリュっとナイフを抜いた――さん。


「――、助け――」


 傷口が熱くて、徐々に力が抜けて行くのを感じる。

 俺は咄嗟に――に助けを求める。

 すると――は絶句した表情から立ち直り、俺の元へ駆けつけ。

 ドスッと俺の胸に包丁を突き立てた。


「――」


 俺は声にならない叫びを上げる。

 ガクガクと震え、血がドバドバと溢れだす。

 体の奥底から熱が逃げて行き、熱いのにどんどんと冷たくなって行くのがわかる。


「元康と天国で一緒になるのは私よ! アンタはそこで勝手に死んで地獄に行くと良いわ!」

「貴方こそ地獄に行くんです!」

「そお? 元康を殺したのは私よ?」

「まだ生きてます! 元康さん待っていてくださいね。今、楽にしてあげますからね」


 と――さんは俺の喉に向けてナイフを――。


「邪魔はさせないわ! 元康と結ばれるのは私なのよ!」

「私に勝てると思っているんですか!?」


 二人が刃物を手にして戦いを続行した。

 俺は震える胸に手を当て、かすむ目で虚空に手を伸ばす。


 俺は――死ぬのか?

 なんで……なんでこんな事になるんだよ。

 俺は……みんなで仲良く楽しくしたかっただけなのに!

 女の子は等しく、信じてあげなきゃ……そうだ。


 俺の知る――は……こんな事しないし――さんも、もっと優しい人のはず。

 二人が思う、俺への愛を信じてあげられなかったんだ。

 だからちゃんと言ってあげればよかったんだ。

 俺には一杯、女の子の友達がいる。

 みんな俺を信じてくれるし、信じてる。

 だから君達も信じて楽しく生きて行こうって。


 失敗した。失敗したんだ。

 失敗……。


 もしも、もしも次があるのだったら、信じよう。

 女の子は等しく天使なんだから、信頼を得なかったのが悪いんだ。


 これは……俺のエメラルドオンラインだと思った世界へ行く前の出来事……?




 それから、長い時が流れた。


 俺の名前は北村元康。

 フィーロたんとフィロリアルを守る事を誓った、世界を救う槍の勇者だ。

 だが――。


「ぐはああああ!?」


 俺のHPは0になり胸には風穴が開けられてしまった。

 相手の顔を見ようと思ったが、それも叶わず、目が霞み……意識が遠くなっていく。

 ああ……死ぬのってこれで二回目だけど、何度だって良い物じゃない。

 思い起こせば、なんであんな自分の事しか考えていない豚に熱を上げていたのか。


 この世界に来たのも思えば豚に刺されたからだった。

 あの時の俺は……そう、好きな女の子が二人いて、だけどどっちつかずな態度で悩み続けていた。

 そんな俺の態度が気に食わないのか、好きだった女の一人が陰湿ないじめをもう一人の女にして、それを救ったら助けられた女が俺を独占したがって……結局自分勝手な女二人が一緒に刃物持って無理心中をしようとしてきたんだ。


 どっちが先に俺を刺殺したんだっけ?

 忘れたな。

 あんな豚。もう顔も思い出せないし。


 そんな事よりフィーロたん。


 あの天使は素晴らしい。

 知っているゲームの世界に来て、今度こそ女との関係はあっさりした関係でハーレムを作ろうとしていた甘い俺に鉄拳制裁を加えて矯正しようとしてくれていたんだ。

 女を連れて歩いていると何時も爆走しながら俺を跳ね飛ばして行ったのもあれは俺を思う心だったんだよね!


 結局、ゲームの知識も、女の経験もあんまり役に立たなかったけど、フィーロたんに出会えた事で俺の人生はまさしく生まれ変わったんだ!

 糞ビッチがお義父さんを騙し、何にも知らなかった俺は踊らされたままお義父さんと敵対し、やがてお義父さんはフィーロたんを育て上げて……俺は運命の出会いを果たした。


 あの後も色々とあった。俺のミスで霊亀の封印を解いて世界を大変な事にしてしまった。

 騙されているとも知らず、逃げた豚どもを追いかけて、頑張ろうとしていた。

 そして……ピエロだった事を知り、落ち込む俺をフィーロたんは励ましてくれたんだ!


 元気を出せと!


 あの時の顔は今でも忘れない。

 俺はフィーロたんとフィロリアルの為に世界を救いたいと思って戦った。

 それで終わるのなら……例えどんな結果になったとしても本望だ。


 なんて言うのは……うん、少しだけ嘘だと思う。

 もっとフィーロたんの笑顔が見たい。フィロリアルと一緒に居たい。

 死にたくなんかない!



「おお……」


 視線を前に向けるとローブを着た男達が何やらこちらに向って唖然としていた。


「なんだ?」

「あれ?」


 誰の声だったか、多分、錬の声だ。

 夢か? 俺が初めてこの世界に召喚された時に見た光景と寸分違わない状況が見える。

 下には魔法陣が形成されていて、今、まさに召喚されたというような状況だ。


「ここは?」


 錬が城の魔法使いに向かって話しかけている。

 これはあの日の思い出……だな。

 懐かしい。全ての始まりの日だ。


「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

「「「はい?」」」


 お義父さんと錬と樹が一緒になって言った。

 そうそう、俺も一緒に、同じ事を言ったんだっけー……。

 妙にリアリティのある走馬灯だなぁ。


 試しにステータスを確認してみよう。


 ……一応、据え置き、あれ? 記憶よりも高いな。

 で、手に持ってる槍はなんだ?


 龍刻の長針 0/300 LR

 能力解放済み……装備ボーナス、能力『時間遡行』

 専用効果 分岐する世界


 なんだこの槍?

 試しにウェポンブックを開いて確認する。

 大体は覚えのある槍が揃っている。だけどそれ以上の槍もある……けど変えられないっぽい。


 なんだろう?

 Lvは記憶よりも高いし、どうなっているんだ?

 そもそもこの槍の装備ボーナス、時間遡行って何?

 ゲームの知識とかさすがに俺も役に立たないのはお義父さんから聞いて学んだし……あれ? 学んだっけ? よく思い出せない。


 えっと……確かフィーロたんに励まされた所までは思い出せるんだけど、その先がまるで靄でも掛ったかのように思い出せなくなっている。

 でも俺は覚えている事がある。


 フィーロたんとフィロリアルを愛しているというこの溢れんばかりの想い!


 夢なのか、それとも幸運で得た能力によって過去に遡ったのかはわからないけど、やれる事は唯一つ、世界の為に戦うんだ!


「ん?」


 錬と樹が俺を見てる。

 それから……。


「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ?」

「話に寄っては僕達が世界の敵に回るかもしれませんよ、覚悟して置いてください」


 確か俺が言った言葉を錬と樹が二人して言った。

 お義父さんはなんか負けたような顔をしている。


「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」



 城の魔法使いの代表が扉を開けさせて案内しようとしてる。


「……しょうがないな」

「ですね」

「さ、行きましょう」


 俺はお義父さんに手を差し出す。


「あ、ああ」


 なんかお義父さんの顔が俺の知る顔よりも明るいと言うか子供っぽく見える。

 無垢な、そんな感じ。

 今なら娘さんをくださいって言ったらくれるかな?

 ……待てよ。もし本当に過去に来れたのなら、お義父さんはまだフィーロたんを育てて無いじゃないか!?

 なんて考えていると玉座の間に通された。

 あ、クズがいる。


「ほう、こやつ等が古の勇者達か」


 なんかじろじろと俺達を見ている。

 とんでもない老害だ。

 コイツにお義父さんがどれだけ苦しめられたか……。


「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げい」


 ああ、そう言えばそんな名前だったね。すっかり忘れていた。

 この時の俺は何を考えていたっけ? 確か異世界トリップでヤッホーとか考えていて、システム知って更にテンション上げていた覚えがある。

 で、波の説明をするんだよな。

 実は波は……あれ? 思い出せない。

 おかしいな、何かとても大事な問題だった覚えがあるんだけどな。

 時間遡行の副作用なのか? 多分、間違い無い。フィーロたんとデートした思い出が所々消えている!?


「確かに、助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段があるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

「ぐぬ……」


 と、お義父さんの声で我に返る。

 考え事をしていて話を聞いていなかった。

 今はそれ所じゃないし、覚えている事だから大丈夫、なはず。

 それよりも墓まで持っていくはずだったフィーロたんの思い出が消えてしまっている事が重要だ。

 どうすれば思い出せる?

 ん? よくよく考えれば思い出すよりも新たな思い出を作ればいいんだ。

 俺って天才。


「おい……」


 こつんとお義父さんが肘で俺を小突く。


「え? 何?」

「いや、自己紹介」

「ああ俺の名前は北村元康、年齢は二〇……」


 何歳だったっけ?

 いや、今は肉体的にも二一歳なのか?


「二〇歳?」

「いや、二一歳だ」

「職業は?」

「愛の狩人です」

「は?」


 フィーロたんのハートを手に入れる為に戦う俺は既に槍の勇者なんてつまらない称号は捨てている。


「無職ですよきっと」


 樹が補足した。

 まあ、どうとでも言ってくれ。

 俺の愛による、フィーロたんとの日々は職業では縛れないものさ。


「ふむ……レンにモトヤスにイツキか」

「お義父さんの名前を忘れるなぁああああああああああああ!」

「ぬ!?」


 よりによってお義父さんの名前を忘れるとは! そう言えば確かこのクズは豚の親だったな!

 成敗してくれる。


「お義父さん!?」


 お義父さんが驚いたように声を上げる。

 しまった。この状況でこんな事を言ったら怪しまれてしまう。

 人間第一印象は大事。なるべく俺に良いイメージを持って貰わないとお義父さんがフィーロたんを嫁に出してくれない。


「ああ、悪い。俺の大事な人のお義父さんにそっくりでつい」

「へ、へぇ……俺ってそんな老けて見えるんだ?」

「いえいえ、見た目殆ど同じなんで若いですよ」

「お前の好きな子幾つなの!?」

「確か……」


 幾つだっけ?

 すっげーあやふや、フィーロたんの年齢……。


「まだ生まれてません」

「……お前、なんか凄いね」

「そうですか? お義父さん」

「その呼び方で呼ぶの? 出来ればやめてくれない?」

「勇者様達、私語は程々にお願いします」


 あんまり目立たない大臣が俺たちを注意する。

 そうそう、お義父さんの名前を忘れていやがるんだよな、このクズ。


「じゃあ本題に戻すか、お義父さんの――」

「えっと北村くん。お義父さんって呼ぶのやめて」

「わかりました。尚文くんの名前を意図的に呼び忘れたのを訂正して貰いたい」

「「意図的?」」

「ああ、このクズはこの国が盾の勇者を――」

「わあああああ! すまなかった。ワシが悪かったから、槍の勇者よ。どうか怒りを鎮めてくれ」


 ふむ……どうやらクズも反省しているようだな。

 まだ四聖勇者の権力は効果が高い。


「王様にクズって、お前、何様だよ」


 錬が警戒気味に俺に尋ねる。

 ん? 何かおかしい事を言ったか?

 コイツの名前はクズだったはずだが?

 ……ああ、そう言えば最初はまともな名前があるんだったか。


「俺は愛の狩人さ」

「……」


 なんか錬の目が冷たくなった気がする。何かおかしい事言ったかな?


「うむ……余計な脱線をしたが、皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」

「へ?」


 何をいまさら……俺は自分のステータスを確認したぞ。

 据え置きだ。強くてニューゲーム状態!

 こりゃあ余裕過ぎる。最初の波なんて雑魚過ぎてやる事無いぜ。


「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

「何だお前ら、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」


 錬が情報通っていうような顔でありきたりな説明を始めようとする。

 よし、ここはお義父さんに良い所を見せる時!


「な――」

「なんとなく視界の端にアイコンが無いか? それに意識を集中するようにしてみてくれ」

「え?」


 錬の奴、俺に先を越されて呆気に取られてる。すっげえ間抜け。


「Lv1ですか……これは不安ですね」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界では存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」

「そうなのか?」


 お義父さんもこんな時期があったんだなぁ。

 俺の知るお義父さんって目つき悪いし、口も悪いし怒りっぽかったけど、話が通じそうで良い。


「それで、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」


 黙っているとお義父さんが困ったように考え込んで喋る。


「伝説の武器って言っても俺は盾だ。剣でも使った方が良いんじゃないか?」


 ああ、お義父さんは知らないんだ。


「そうはいかないみたいなんだ。この伝説の武器、別の武器は装備できないと来たもんだ」

「げ!? そうなのか?」

「そう、だから……尚文くんは仲間に頼ると良い」

「となると俺達四人でパーティーを結成するのか?」

「それもダメだ」

「え?」

「勇者の武器は反発して経験値が入らなくなる。武器成長に使う素材の共有は出来るけどさ」

「お待ちくださ――」

「ん?」


俺に遮られて、大臣が黙った。


「妙に詳しいですね、元康さん」


 樹が怪訝な目で俺を見てくる。


「ああ、俺は未来から来たんだ」

「……そうですか」


 なんかあっさり信じてくれた。

 この頃は皆優しいな。


「で、話の続きはなんですか?」


 そして大臣に聞いている。俺の話聞いてなかったのか?

 信じてくれなかったみたいだ。


「一応、槍の勇者様の言葉はある程度正解です。勇者同士では成長を阻害してしまうそうです」


 お義父さんがシステムを閲覧しているみたいだ。ヘルプを見ているんだきっと。


「本当みたいだな……となると仲間を募集した方が良いのかな?」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」


 む……たくらみが見える。絶対に注意しないと行けない。


「ありがとうございます」

「サンキュ」

「盾の勇者に――」

「わかっておる! 集める! 絶対に仲間になる者を集めるから!」


 黙れとクズが俺に注意する。

 まあ、大丈夫かな?



 来客室の豪華なベッドで俺以外のみんなが武器をマジマジと見つめながら説明に目を向けていた。

 こんな期待に胸を躍らせている奴らがみんな……あんな地獄を見る羽目になるなんて数奇なモノだよなぁ。

 お義父さんなんて割とすぐだし。


「なあ、これってゲームみたいだな」

「確かにゲームっぽいけど、ちょっと違うから――」

「この世界はコンシューマーゲームの世界ですよ」

「違うだろ。VRMMOだ」

「え? VRMMOってヴァーチャルリアリティMMO? そんなの未来の話じゃないのか?」

「はぁ!? 何言ってんだお前」

「まったまった」


 俺は代表してみんなの議論を遮る。

 結論は出ていたはず。


「錬と樹、そして尚文くん。良く聞いてくれ」

「な、なんだ?」

「ここにいる者達は、みんなバラバラの世界から来たんだ。同じ日本でも、全然違う。それを覚えてくれれば良い」

「そ、そうなのか?」

「そう、確か樹の世界は……」


 あれ? なんか樹の世界って俺の知る世界でもお義父さんの世界とも違う何かがあったはず。

 樹自身が自覚していない、当たり前だけど俺達からしたら変な要素が……。


「僕の世界が……なんです?」

「忘れた」

「というか、さっきから妙に詳しいですけどなんなんですか?」

「だから言っただろ? 俺は未来から来たと」

「あーはいはい」


 錬に流された。


「とはいえ、この自称未来人の言葉も一理ある。情報を統合してみよう」


 お義父さん達は俺の話を無視して勝手に纏め出してしまった。

 むー……信じてくれないのか? これは虚しい。

 未来の知識って信じてくれないんだな。

 異世界転移をしたばかりなんだから、そういう超常現象を信じてくれても良いのに。

 でもお義父さんには教えておこう。


「何も知らない尚文くんには徹夜で教えるから」

「あ、ありがとう……親切だな北村くんは」

「どうもどうも、元康って呼び捨てで呼んでください。その代わりに尚文くんの事をお義父さんと呼ばせて貰いますから」

「頼むからやめて!」


 凄く嫌そうに拒まれてしまった。

 おや、この反応は失敗か。


「勇者の武器は信用する事でも力になる。俺や錬、樹の強化方法を知ることで強くなれるんだ。錬や樹は盾が弱い職業って言うかもしれないけど、大丈夫、凄く強い。同じくらいのスペックを持っているんだ」


 そうだ。あの時は、みんな心がバラバラだったからお義父さんに負担を掛けてしまったけど、今ならやり直せるはず。


「錬も樹も聞いてくれ、俺の知る知識と皆の知識は違うかもしれない。だけど、信じることでその強化方法が出るんだ」

「はぁ。わかりました」

「……ふん」


 反応が薄い。

 信じてくれて無いみたい……どうやったら信じてくれるのかな?


「一応、俺は聞いておくかな」


 さすがはお義父さんだ。なんだかんだで強さに貪欲だ。

 と、説明を始めようとした所で。


「勇者様、お食事の用意が出来ました」


 食事の案内が来た。


「では食後に説明しますね」

「ありがとう」


 こうして俺はお義父さんに徹夜でこの武器の強化方法を教えるのだった。



 お義父さんにゆっくりと強化方法を教えていたらこっくりと眠り始めてしまった。

 いきなりの講義は疲れさせてしまったようだ。

 俺は就寝した錬や樹を見てからお義父さんがベッドで寝るのを確認し、夜の散策に出かけた。

 城の内部は相変わらずだ……。

 ただ、外の景色が若干違う。


 霊亀の山が無い。

 走馬灯にしては長すぎるこの夢のような瞬間。

 もしかしたら本当に……時間遡行をしてしまったのかもしれない。


 ここでなら……もしかしたらフィーロたんが俺と結婚をしてくれるかも!

 そう思いながら庭を歩いているとフィロリアルの匂いがした!

 俺は匂いの方へ近づく、するとフィロリアルを飼っている舎を発見した。


「グア」

「グア」


 夜も更けているので、フィロリアル達は寝入っているようだ。

 ああ、あの匂い。辛抱堪らない。

 そう言えばこの世界に来て半日以上フィロリアルの匂いを嗅いでなかった。

 禁断症状が出そう。


「こんばんわー」

「グア!?」


 フィロリアル舎に入って挨拶するとフィロリアルが驚いて起きる。

 そしてなんか警戒気味にこっちを見てきた。


「け、警戒しないでフィロリアル様」

「グア?」


 クエって鳴いてない……フィーロたんが恋しいよう。

 でもフィロリアルだ! これは是非、フィロリアル分を補給せねば。


「ささ、お食事を献上いたしますぞ」


 俺は近くの倉庫から干し肉を失敬し、フィロリアル様達に献上する。

 献上品に興味津々のフィロリアル様達は我先にと献上した干し肉を貪り始める。


「その代わりと致しましては皆さま方をモフモフさせて頂いてよろしいでしょうか?」


 人の言葉がわかる程頭の良い育ち方をしていなさそうではあるけれど、フィロリアル様達は機嫌が良くなっているご様子。


「「「グア!」」」

「ありがたき幸せ」


 俺はフィロリアル様達に触れ、その羽毛を櫛を存分に通しながら匂いを吸い、気がついた時にはフィロリアル様達と一緒に眠っていた。



「なんか北村くんが臭くない?」


 翌朝、良い目覚めをした俺はみんなと合流した。


「臭いとは失礼な、フィロリアル様の高貴な香りですぞ」

「フィロリアル?」

「フィロリアル様はフィロリアル様である」

「説明になってねえよ」

「馬車を引く鳥型の魔物でございますよ」


 案内の大臣が補足する。


「あー……あれね」


 お義父さんが理解したのか頷く。

 それからしばらく待つと、呼び出される。


「勇者様のご来場」


 俺たちは玉座の間に着くと、豚と男たちが待っていた。

 全部で一二人。

 一応、俺たちは合わせてクズに頭を下げる。

 クズに下げるのは不服だ。だけど錬や樹、そしてお義父さんが下げているのだから合わせるしかあるまい。


「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」


 確か前の俺は、女の子が俺の所に来てくれないかなって考えていたんだった。

 今はどうでも良いな。むしろお義父さんが心配だ。

 一人ぼっちにさせてしまった。


「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」


 錬と樹、そしてお義父さんが驚いている。

 ああ、そう言えば選ばれるのはこっちだったっけ。

 仲間になりたい者が集まって行く。


 錬、四人。

 樹、三人。

 俺、三人。

 お義父さん。二人。


「俺の所が一人少ないんだけど……」


 お義父さんが不満を漏らす。

 前は0だった事から大分改善されていると思うんだけどな。


「錬、一人分けてやれよ」


 そう言うと、錬の仲間? はなんか錬を盾にして隠れる。

 俺なんて豚ばかり集まって迷惑してるぞ。というか豚ばかりで気持ち悪くて吐きそう。


「ブブー!」

「ブブブブブブー!」


 何言ってるか全然わからん。

 うえ……。

 お義父さんの所も豚が二匹。豚が多くて困る。


「尚文くん、俺ので良かったら三匹あげようか?」

「本当か!? でも北村くん、それだと一人になるんじゃ……」


 さすがは慎ましいフィーロたんのお義父さんだ。

 俺の事まで考えてくれるなんて……。


「勇者殿、勝手に仲間の交換はやめて頂きたい」

「むー……」


 豚と一緒に冒険なんて勘弁してほしいぜ。


「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」


 俺達の前に四つの金袋が配られる。

 ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。

 確か六〇〇枚の銀貨だったか。


 お義父さんと一緒に居る赤い豚が気になる。気の所為か、嫌な予感がする。


「勇者にはそれぞれ六〇〇枚の銀貨を与える。それで装備を整えて旅立つが良い!」

「「「「は!」」」」


 ブヒィって声が聞こえたぞ! コラァ!



 そうして銀貨を受け取り、旅立つ事になった俺がお義父さんに話しかけようとしたら豚に遮られた。


「ブブブブブブブブブヒ」

「ブブブブブブブブブブブブブヒ」


 何言っているか全然わからん。

 とりあえずお義父さんに色々と助け船を出さねば……。


「ブブブブブブブブヒ」

「邪魔だ! どけ!」


 豚をどかしてお義父さんに近づこうとするのだけど豚が邪魔をする。

 しつこい豚だ。

 躾がなっていないぞ。この国の豚は。


「ブブブブブブブ!」

「あのー……槍の勇者様? 仲間にその態度はどうかと」


 城の兵士に注意された。


「知らん。速攻で解雇だ」

「ブブブブブブブ!?」

「ブーブーうるせえ!」

「とりあえず、落ちついてください槍の勇者様!」

「放せ! 俺はお義父さんに伝えなきゃいけない事が――」


 とか問答をやっているうちに、お義父さんは行ってしまった。

 あの後、速攻で王様に呼び出され、仲間を大切にしろと説教された。


「ふん。鬼の居ぬ間の仮初の王が、何を威張るか」

「ぬ……貴様、どこまで知っている!?」

「どけ、邪魔だ!」


 豚を無視してお義父さんの探索を続行する。

 結局、兵士の妨害や自称仲間の豚が俺に引っ付いて来て、上手く行かない。

 あの日のお義父さんって、何処で何をしていたんだろう。

 もう、見つからないなら、今日は諦めよう。


 そうだ! フィロリアルを買おう。


 金は持ってるし、魔物商の所へ行こ。

 裏路地に走り抜けて、撒くと豚や兵士はいなくなった。

 さすがに勇者が裏路地を歩くとは思っていないみたいだ。大通りを探しているんだろう。


「いらっしゃいませです。ハイ」


 見慣れたー……あれ? 見慣れているんだっけ?

 紳士服の魔物商の所に顔を出す。

 裏の職業は奴隷商だっけ。お義父さんと仲が良いんだよな。この人。


「お客様は初めてですね。私どもの店に何をお望みで?」

「フィーロたん」

「は? え、え~と……フィロリアルでしょうか? は、ハイ」

「フィーロたん」


 以前この店で手に入れたとかお義父さんが言っていた気がする。

 よく考えてみれば俺がフィーロたんの飼い主にだってなれるはず。


「そのような者は無いかと……です。ハイ」

「えーっと」


 確か、フィーロたんって。


「フィロリアルのアリア種の卵を売ってくれ」

「はいはい」

「銀貨一〇〇枚で」


 確か銀貨一〇〇枚でー……買ったんだっけ?

 フィーロたんとお義父さんについては知らない部分が多い。

 いつ買ったのかはわからない。


「わかりました。ではお譲り致しましょう」


 で、出てきたのは……三〇個くらいの卵の山。

 ……フィーロたんになるのはどれだ!?


「孵化すると桜色になるのどれ?」


 フィーロたんは最初桜色だったはず。


「それは孵化しないとわからないかとです。ハイ……」


 魔物商が困った顔をしてる。

 俺は運命を引き寄せてみせる。

 渾身のドロー!


「これだ!」


 直感で卵を選ぶ。


「ありがとうございました。魔物紋の登録や孵化器はどう致しましょう?」

「登録は血を垂らすだけで良いんだよな。孵化器は別売りか?」

「はい」

「わかった」


 一三〇枚の銀貨を払って俺はフィーロたんだと思う卵を買った。

 はずれだったら……フィロリアル様を売る事なんて出来ない。当たりを引くまで買い続けよう。

 どうせLvや武器解放なんてほとんど必要無いし、しばらくは金を稼いでフィーロたんを作ろう。



 よく考えたらお義父さんは草原の方に行くはずだ。合流はそこで!

 そう思ったのだけど。


「ブブブブブブブ!」

「ブヒーブヒー!」


 豚が騒いで五月蠅い。

 酒場に引きずり込まれ、仲間を募集しろと酒場のマスターに説教される。


「仲間なんて男かフィロリアルで十分だ」

「お前……女をはべらせてそれかよ」

「はべらせる? 豚の事か?」

「ぶ、ぶた!?」


 何故か酒場の冒険者に絡まれる。


「おいてめえ! 女には気を使えよ!」

「何を言おうとも豚は豚だ。男が良い」

「こ、こいつ。美形なのに男色家だ!?」

「勘違いして貰っては困る! 俺が好きなのはフィロリアルだ!」

「「「こ、こいつ変態だー!」」」

「ブブー!」

「なんだって!? 槍の勇者!? こいつが?」

「その通りだ。世界の為に戦う」

「嘘だ! こんな変態が!?」

「信じてもらう必要はない。俺はお義父さんとフィーロたん、そしてフィロリアルの為に世界を救うんだ」

「こいつ、何さまのつもりだ!?」

「安心しろ、ついでにお前等も救ってやる」

「ふざけるなぁ!」


 と、俺に向かって喧嘩を売ってくる冒険者共。

 そいつら秒殺してやったらなんか騒ぎになった。

 あ、別に殺した訳じゃないぞ。


「ブブブブブー!」


 なんか眼鏡をかけた豚が俺を熱心スケッチしてる。

 どっかで見たことあるんだが……何処だったか。

 なんて騒ぎを起こしていたら夜になった。あ、別に酒場で乱闘していたからじゃないぞ、お義父さんを探していたら夜になっただけだ。


 日が落ちる前に門で見張っていたのだが、結局出会えなかった。

 あの赤い豚が、奴だったら……お義父さんが危ない。

 その後、宿屋を探して歩き回ったのだが、店主が教えてくれなかった。


 くそ……邪魔ものが多くて困る。

 最後の賭けで奴と出会った酒場で待つ。


「ブー!」


 赤い豚が来た! 間違いない。あの赤い豚は奴だ!

 ご丁寧にくさりかたびらを持って俺に近づいてくる。


「ブブブブブブブ?」


 確か……。


『あれ? そこにいるのはモトヤス様ではありませんか?』


 だったか。


「ブブブブブブ」

『できればご一緒にさせてください』


 と楽しげに話しかけてきたー……んだっけ?

 その後、調子の乗った俺がアイツと意気投合して……しばらくして、くさりかたびらを渡した後、宿に乗り込んできたんだったか。


「ああ、じゃあ少し話をしようか」

「ブブブブブブブ」


 何言ってるかわからん。適応に相槌を打とう。

 やがて赤い豚は俺にくさりかたびらを渡そうとしてくる。


「それ、盗品だろ? 持ち主に返せよ。豚」

「ブブブ!? ブブブブブブブ!?」

「証拠は見たからな、尚文くんに罪を被せられると思うなよ!」

「ブィ! ブブブブブブ!!!」


 めっちゃキレてる。何言ってるかわからんが、豚って怒るとこんな顔するんだよな。見たことがある気がする。

 フィーロたんの背景で。


「さて、そろそろ寝るか」


 盗品は拒んだし、注意もした。これでどうにかなるだろう。

 で、その日は宿でフィーロたん(予定)の卵の匂いを嗅ぎながら就寝した。



 朝早く……俺は起きて城に向かった。

 ……いやな予感がしたからだ。


「お待ちください槍の勇者様!」

「邪魔だ!」


 やはり俺を仲間ハズレにして錬と樹が集まっている。

 記憶が確かならお義父さんをありもしない罪で断罪しようとしているはずだ。

 俺の入場を妨害するように立っていた兵士を蹴散らして玉座の間に入る。

 さすがに無意味な妨害は他の勇者に怪しまれるのか、それ以上の進路妨害はやめたらしい。

 くさりかたびらを着用した樹が、腕を組んだ赤い豚と……お義父さんと一緒に居たもう一匹の豚がいた。


「こ、これは槍の勇者殿、朝早くからどうしたのですか?」


 白々しくクズが尋ねてくるが……それ所じゃない。


「お前……」


 この豚ァ……俺がダメなら樹か?


「聞きましたよ元康さん。マインさんを豚と罵ったそうですね。人としてどうなんです?」

「知るか。俺には豚にしか見えないし、ブーブーとしか聞こえない」

「勇者の風上にも置けない言動だ!」

「知るか、盗品を当然のように身につけている共犯者に糾弾される言われは無い」

「盗品? なんの事を言っているんですか?」

「しらばくれるのか? お前の着ているいるくさりかたびらだ」

「これはマインさんからいただいた物です」

「だからそれが盗品だと言っている」

「適当な事を言わないでください。証拠はあるんですか!」

「ある。この国の武器や防具には魔法で刻まれた――」


 などと話をしている最中にインナー姿で連行されてお義父さんがやってきた。

 なんという辱め! 今すぐ服を着させねば!


「マイン!」


 クズや樹、そして錬がお義父さんを睨む。


「な、なんだよ。その態度」


 この光景は苦い物がある。

 ……今度こそ、俺は間違えない。


「本当に身に覚えが無いのですか?」


 俺がやらないと樹がやるのか。

 お義父さん視点でギャルゲがあったら不可避イベントじゃないか。


「身に覚えってなんだよ……って、あー!」


 お義父さんが呆気に取られた表情で樹を指差す。


「お前が枕荒らしだったのか!」

「誰が枕荒らしですか! 尚文さん。まさかこんな外道だったとは思いもしませんでした!」

「外道? 何のことだ?」

「待て――」


 ここで俺が止めなくて誰が止める。

 俺は絶対にお義父さんの無実を証明してみせる。


「王様、俺は――」

「して、盾の勇者の罪状は?」


 ぐ……完全に無視を決め込むつもりか。

 お義父さんが見えないように兵士が何人も前に立って邪魔をする。


「罪状? 何のことだ?」

「ブブブ……ブブ……ブブブブブブブ」

「は?」

「ブブブブブブブブブブ!」


 あの時はすっかり騙されたが、これが奴の手口なんだ。

 この醜い雌豚め!


「ブブブブブブブブブブ!」

「え?」

「何言ってんだ? 昨日、飯を食い終わった後は部屋で寝てただけだぞ」

「嘘です! じゃあなんでマインさんはこんなに泣いているのですか!」

「何故お前がマインを庇ってるんだ? というかそのくさりかたびらは何処で手に入れた」

「お前から――」

「ああ、昨日、みんなで酒を飲んでいるとマインさんが酒場に顔を出したんです。しばらく飲み交わしていると、僕にプレゼントってこのくさりかたびらをくれました」


 俺に喋らせるつもりが最初から無いようだな。

 そっちがその気ならこっちだって手があるぞ。


「そうだ! 王様! 俺、枕荒らし、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」

「黙れ外道!」


 クズめ……最初から決まっていた計略をしやがって。

 ……殺すか?

 いや、それをするとお義父さんの立場が危ない。

 今のお義父さんはLvが低いんだ。間違っても死なせる訳にはいかない。


「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」

「だから誤解だって言ってるじゃないですか! 俺はやってない!」


 そして……お義父さんの表情が怒りに染まる。


「お前! まさか支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」

「はっ! 性犯罪者が何を言っているんですか」

「ふざけんじゃねえ! どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ、仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」

「異世界に来てまで仲間にそんな事をするなんてクズだな」


 錬がお義父さんに向けて冷酷に断罪する。

 俺には喋らせまいと兵士がまだ遮っている。だが、その程度で邪魔できると思うなよ。


「邪魔だどけ! ブリューナク!」


 エネルギー光が発生し、俺を妨げている兵士共に向ける。

 もちろん死なない程度に威力を加減してなぎ払う様に放った。


「「ぐはあああああああああああああ!」」


 吹き飛んだ兵士共を見て、その場にいた全員が絶句し辺りが静まり返る。

 その隙を逃さず、俺は槍を振りかざしてクズ、そして豚と樹に向ける。


「……え?」

「俺はお義父さんを信じています。お義父さんはやっていません。これは陰謀です」


 現状を掴み切れていないお義父さんに俺はありのままの事実を伝え、キッとクズを睨みつける。


「鬼の居ぬ間に随分な事をしでかすつもりなんだろうが、盾の勇者に被害を与えようものなら、槍の勇者である俺が許さない。それは愛に反する事だからだ!」


 俺はお義父さんを拘束している兵士に槍を向けて脅す。


「盾の勇者を放せ。邪魔をするなら誰であろうと容赦はしない!」


 次に樹と錬に睨みつけ。


「それはお前等とて変わらない。今のお前等では俺には勝てない」


 そして自由になったお義父さんに手を差し出して告げる。


「未来からあなたに恩を返しに来ました。お義父さん」 

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― 新着の感想 ―
3週目 この序盤が好きすぎてここ見るために本編見てきた
まさか、ここから壮大な物語が始まるなんて。
かっけぇ
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