番外編 盾の勇者のホワイトデー【終】
そうこうしているうちに村に戻ってきた。
特に問題も無くホワイトデーが終わるかと思いながら俺は一緒に来たラフタリアに顔を向ける。
「どうしました?」
「ガエリオンとチョコレートモンスターはどうなっているか確認して来てくれないか?」
そう言いながら俺はキョロキョロと周囲を警戒する。
うん、今のところ奴等の気配はない。
「ナオフミ様、怯え過ぎです」
「だが――」
「わかりましたから落ちついて」
今日だけは別の所で寝るか考えたけれど、がんばった連中に祝いをしてやらないといけない。
他の勇者が連れて来てくれる予定になっているから、今のうちに準備しなきゃな。
「しかし……褒美が俺の作った飯というのはどうなんだ?」
「それだけナオフミ様の料理がみんなに親しまれているんですよ」
耳心地は良いけど、世界を救っても家事担当と言うのもなんだか悲しい。
事前に準備していたお菓子の山盛りもかなり減っているし、補充すべきか。
料理の下準備をした後、返却されたホワイトチョコやホワイトデー関連のお菓子を持って来させて補充する。
残ったのはアクセサリー商のコネに売り払って終わりだ。
後はがんばった連中用にお菓子を作るだけか。
本格的に飯になる前に展示用の菓子でも作る。
ホワイトデーだから飴を熱で溶かして加工する。
リボンっぽくしてミュージカル会場を再現しておくか。
ま、雑に人形の再現はフィーロとキールだけだけどな。
で、周りにはプリンとかマシュマロを散りばめて、リボン型の飴でアーチを作成っと。
「ほんと、ナオフミ様の料理って魔法みたいですよね」
「別に不思議もクソも無いだろ。慣れりゃあ誰だってこれくらい出来る」
「そうですか? とてもそうは思えないのですが……」
後は……あの食いしん坊フィロリアル二匹用(フィーロと変種)に適当なお菓子でも作っておくか、フィーロは頑張ったしな。
それ以外は他の料理担当の奴隷に作ってもらおう。
なんてしているうちに村の連中と勇者共、ついでにフィロリアルが帰ってきた。
「兄ちゃん兄ちゃん! ミュージカルって楽しいな!」
キールが元気よく感想を言っている。
お前は会場にいる時からずっとそれを言っているぞ。
それ位楽しかったんだろうけどさ。
「次はいつやるんだ?」
「お前次第だな、まあ同じ演目をやらなきゃ見てない人には伝わらなくなるし……」
とはいえ本格的にキールを俳優路線にさせるのはもう少し、設備が整ってからにしたい。
そもそもオペラ会場みたいな施設をゼルトブルが設置してくれるかも関わってくるし。
時期限定だから売れたのもあるだろう。
当面はキールのグッズを行商に混ぜて様子を見よう。
「ほらお前等、今日はがんばったんだから飯をいっぱい食えよ」
「「「はーい!」」」
「わー……すごーいお菓子のリボンー」
「ナオフミったらこんなに手の込んだモノを作って……」
メルティにもラフタリアと同じことを言われた。
ふむ……どうやら菓子細工って普通は出来ないようだ。
勇者共も似たような事を言っていたし……俺がおかしいのか?
バレンタインにしろホワイトデーにしろ、お菓子は自作してナンボだったんだが。
すっかり忘れてたが武器屋の親父には日頃の感謝の意味を込めてバレンタインとホワイトデーに両方とも派手なチョコレートケーキを配達したんだった。
後日、何か親父に怒られた。
反応に困るモノを送ってくるなよって……。
そんなこんなで村の連中は飯を食い終わり、時間がゆっくりと流れ始める。
ああ、そうそう……元康は村に帰ってくるとフィロリアル共にお菓子を配っていた。
やっとお返しか。
フィーロのイベントが最優先で、フィロリアル共は後回しか。
考えてみればフィロリアル共は等しく子供らしいからな。
いつやるのも自由だし、子供相手に素早く渡す必要はないとか思っているのだろう。
フィロリアル共もおやつの延長戦でしかない奴ばかりで本気で嬉しそうにしていたのは極一部だ。
元康ってこういう所が足りないよな。
「キュア!」
ビク!
「ガエリオンの声がしたぞ! また俺を狙ってチョコレートモンスターと結託するんじゃないのか?」
「ナオフミ様、落ちついてください。厳重に管理してるじゃないですか」
念の為と谷子にガエリオンとチョコレートモンスターは引き離して監視するように命じている。
さすがにチョコレートモンスターも反省しているのか暴走はしないと言っているがどうなる事やら。
「キュアアアアアア!」
「断末魔じゃないのか!?」
「よく見てください」
ラフタリアが指差す方向を見ると変種のフィロリアルがガエリオンの尻尾の先をしゃぶってじゃれてる。
ガエリオンの方は嫌そうに抵抗していたが、相手に悪意が無くて牙を向けられないのか困った様子だ。
ま、なんだかんだで相当Lvを上げているからガエリオンが本気で相手をしない限り追い払えないとは思うがな。
というか普段眠そうにしてる癖に、妙にじゃれてるな。
体がでかいから子竜モードのガエリオンが良い様に遊ばれてる感じだ。
「あれ、何やってんだ?」
「んー?」
フィーロが俺の作ったお菓子を頬張りながら様子を見てる。
「えっとねーちっちゃいお姉ちゃんとフィーロの配下の子供がねー、ガエリオンに好きって言いながら舐め舐めしてるよ」
「……好き?」
「フィーロ、ラフ種を小さい私と呼ぶのをやめてください」
「うん。あの子ガエリオンの事が好きなんだよ?」
「なんで?」
フィロリアルってドラゴンの事、嫌いなんだろう?
いや、カテゴリーで言えば完全なフィロリアルではないんだよな。
あ、ガエリオンがギャウギャウと威嚇を始めた。
それに対してクえクえ言ってる。
「さっき告白したみたいだよ? えっとねーチョコレートが凄く美味しかったからだってー」
ガエリオンは俺への愛の為に並々ならぬ練習をした結果、チョコレート作りは村一番になってしまっている。
まあ、チョコレートから別のお菓子を作るとなると別の作業になる訳だから、俺の方が上らしいけど。
「だから好きなんだって、一生自分の為に作って欲しいって言ってるよ」
「フィロリアルの混血の癖に変わった性格をしてるよな」
実際、共食いを平然としようとしてたし、どちらかと言うと別種なのかもしれない。
食いしん坊なのはフィロリアル寄りで別の所はラフ種寄りとかか?
ラフタリアって時々凶暴だし……理由が無いと怒らないけどさ。
それは俺も同じか。
個体差だな、親は関係ない。
だけどフィロリアルの本能は薄めと見ていいだろ。
「なんで私を見るんですか?」
「さすがにラフ種の血が濃くてあの性格とは結び付けられないなって思ってさ」
「はぁ……」
「ナオフミの所為じゃないの?」
メルティがその様子を見ながら呟く。
フィーロ達の方のレースは大興奮で見ていたな。
谷子相手にフィロリアルの生態に関しちゃ言い争いをするのがメルティだ。
「何を言う。俺は食いしん坊じゃないぞ」
「ナオフミの料理漬けで育ったら美食家にもなるわよ。フィーロちゃんを見なさい」
ラフタリアがフィーロと俺、そして変種を見て何やら納得したように頷く。
「なるほど」
「なんでそこで納得?」
「本能よりも食い気に走る所は納得できるわね。どっちにしてもドラゴンに告白とか変わってるわねー……ま、ガエリオンはナオフミ一筋だけどね」
「やめろよ。トラウマが疼くだろ」
「はいはい。ナオフミも温かく、むしろ勧めたら良いんじゃない?」
そういえばそうだな。
ガエリオンをあの変種が足止めしてくれるのなら万々歳だ。
むしろ、既成事実でも何でも良いからガエリオンに迷いを持たせ、一途では無い奴とは絶対に相手をしないと後の祭り的に断る口実を作ればいい!
「がんばれ! あのホモドラゴンを落とせ!」
「ナオフミ様、心で思っていてください」
「キュ、キュアアアアアアア!」
あ、ガエリオンが困って俺に手を向けて助けを求めている。
フ……誰が助けるか愚か者!
『まあ、肉体の方には良い治療になるだろう……だが、フィロリアルと新種の魔物の混血とは、数奇なモノだな』
親ガエリオンも半ば諦め気味だ。
「クえー!」
尻尾の付け根までガエリオンの尻尾を変種は銜えてしゃぶってる。
何かのプレイ? ガエリオンが必死に我慢してるように見えるぞ。
さすがの谷子もガエリオンの変態趣味を知っているからか、注意してない。
荒療治で俺を狙うのをやめてくれれば良いって顔してる。
ん?
その様子を嫉妬の炎を立ち上らせて見ている珍しい奴を発見。
サラブレッドが建物の影からガエリオンと変種を見つめてる。ただ目つきがすげー怖い。
こっちは完全にフィロリアルだからガエリオンは遺伝子的に嫌悪してるはずだ。
だからー……え? アイツ、変種の事が好きなのか?
忘れてたけどサラブレッドがオスで変種はメスなんだ。
何かあるとライバル目線で見てたのは関心があってちょっかい出してたって奴?
面倒臭いのは育ての親と同じだな。
足早いからモテモテだろうに……なんで面倒そうなそいつに恋心を抱くんだよ。
しかも食われかけた癖に、まだ好きなのか。
そういえばフィロリアルって相手より優秀である所を見せるのが求愛行動なんだよな。
つまり足が速い事を誇りにしているコイツは変種よりも速さで勝る必要があったわけだ。
うん。子は親に似る。
と、分析するのは良いが、その理屈だと俺と奴は似ている事になってしまう。
俺は違うんだと言っておこう。
俺の場合は育て方の所為だと思う事にする。
「キュアアアアアアアア!」
ガエリオンの叫びが村に木霊した。
そんな……ホワイトデーが終わりに近づいた頃。
「ねえ」
谷子が俺を手招きして呼ぶ。
「兄ちゃん!」
ついでにキールもだ。
「どうした?」
「あのな。ウィンディアちゃんが面倒見てたチョコレートモンスターが」
「何か問題を起こしたら処分しろって言っただろ」
「違う……話があるんだって」
話? 俺には無いぞ。
そもそも話す事など何もない。
しかし放置しておくと何を仕出かすかわかったもんじゃない。
谷子がクレープの木の前で佇んでいるチョコレートモンスターを指差して答える。
勇者全員にいつでも戦闘に入ることが出来るように準備をさせて待機させる。
「なんだ?」
包囲網が形成されてから尋ねる。
するとチョコレートモンスターから淡い光が立ち上り始める。
「そろそろ……時間なんだって」
「なんの?」
「チョコレートモンスターは期間限定でしょ? その期限が近付いてるって言ってる」
「で?」
俺は盾を前に出し、何かあったら逃げる準備を万端にして警戒する。
谷子は、オーバーだなと思っているのが一目で分かる態度で続ける。
「もうすぐ、消えるからさようならって」
白いチョコレートモンスターが俺と村の連中、そしてガエリオンに手を振っている。
そうか、早く消えろ。
これでチョコレートに怯える日々とはおさらばだ。
「今年はとても有意義で幸せなバレンタインとホワイトデーを過ごすことが出来た。さすがに暴れすぎたけど……チョコレートモンスターに生まれてこれほど、活発な時間を過ごした事は無いって感謝してるよ」
良い話に持っていこうとしているが俺は忘れないからな。
ガエリオンのチョコレートを食った所為で暴走し、ガエリオンの願望を叶えようとした事を!
お前の所為で俺はトラウマを植えつけられたんだぞ!
一歩間違えてたら孕まされていた!
チョコレートモンスターはふわりと浮かんで淡い光を放ちながら半透明になって消えていく。
そのままクレープの木の方へ俺達を見つめながら手を振り、飛んで消えて行った。
「また来年も来るって」
「二度と来るな」
「ナオフミ様……気持ちはわかりますが、光景は綺麗なんで……」
チョコレートモンスターが放った光が雪のように辺りに降り注いで消えていく。
幻想的な光景に、俺以外の勇者共が見入っているようだが、俺は素直に喜べない。
淡い光が、幸せそうに手を繋いでいた樹とリーシアの手でリボンとなって結びついて、まるで赤い糸のような演出をして消える。
錬の場合は谷子と女騎士。
元康の場合は……フィロリアル共……なんか楽しげにリボンが上に浮かんでいた。
フィーロに伸びようとして避けられてたな。
そして……俺の上空に村の連中に振った光が集まって何やら形作られて目の前に落ちてくる。
受け取れと言わんばかりに光が留まっているので……。
叩き落とした。
「ナオフミ様、お願いですから空気を読んで受け取ってください」
「い・や・だ! 誰がKYだ」
「はぁ……わかってましたから」
ラフタリアが拾って、俺と手を繋ぐ。
すると村の連中の心の声なのか、みんな喋ってもいないのに「ありがとう」と言う声と大好きだと言う思いが伝わってくる。
改めて感謝されるとむず痒い気持ちになるな。
だが、こういう現象で受け取りたくなかった。
「しかし……なんでクレープの木に向かって消えて行ったんだ?」
「さあ……」
非常に嫌な予感がする。
後日……クレープの木がパワーアップしていたのは真にどうでも良い出来事としてキールが報告に来たのをここに記述する。
具体的にはチョコソースの味が向上し、品質も全体的によくなった。
そして幹が太くなり、少しずつ成長して行っているそうだ。
いずれ世界樹の様に大きくなったら嫌だが、キールの野望は遠くからでも見える大きな木にしたい事だとか言っていたのを覚えている。
更にどうでも良い記述は……翌年も俺の領地にどう見ても同じチョコレートモンスターが出現し、村で過ごしたという事か。
消し飛ばしても不死身な魔物を処分するには精霊の力で理を捻じ曲げないといけないのだが、精霊達はその程度のことで力を貸しては……くれなかった。
ある意味、奴も精霊らしい。
チョコレートの精霊とはこれ如何に……。
まあ、こんな感じでバレンタインとホワイトデーは過ぎて行ったのだった。




