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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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番外編 盾の勇者のホワイトデー【6】

 変種は覚醒したとでも言いたげな速度で走っていく。


「な、なんだ? あのフィロリアル」

「確か混血種とか表に書いてあったぞ」

「何をしても無駄だろ。トップ集団から何羽身離れていると思ってんだ」


 との声があるが、後方の輝きを観客は無視する事が出来ない。

 そして、変種は前進を始めた。


 遠くから見ている観客は息を飲む……何せ、今まで早いと思っていたフィロリアルのキング&クイーン達の速度に目が慣れていたにも関わらず……変種のフィロリアルの速度が速すぎて、先頭集団が遅く見えてしまうからだ。

 一歩、また一歩踏み出す度に変種が先頭集団に恐ろしい速度で……残像を見せながら近づいて行く。

 というか、有名な格闘ゲームの青い残像そのままに変種が走って行く。


 やがて一羽、一羽と追いぬいて行き、先頭集団に完全に追いついた。

 サラブレッドが一度振り返り、笑ったように見える。

 来ることを理解していた……ライバルがやっと追いついてきたかのような繋がりを感じる。

 なんだこの展開。

 レースモノ?


「クえええええええええええええええええ」

「クエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


 サラブレッドも変種と同じように体を輝かせてラストスパートを駆ける。

 ゴールはもうすぐだ。

 サラブレッドが逃げ切るか、変種が追いぬくかと観客は手に汗を握る。


 最後のスタミナを全て消費するかの如くサラブレッドがフィーロの特技、スパイラルストライクを放ってゴールに向かって飛んで行く。

 ……変種の方は尾羽を何本もの尻尾に変化させ、高速で魔力を集めてハイクイックを唱えているようだった。

 そして……分身し、増えた自分を自分達が押し出して進んでいく。


「はぁあああああああああああああああああああ!?」

「えええええええええええええええええええええ!?」


 うん。この走り方には問題があるんじゃないかってフィロリアルレースの関係者には注意した。

 だけど関係者は問題ないって何度も言っていたんだ。

 俺は注意した。文句は受け付けない。


 やっぱ観客から驚愕の声が聞こえる。

 変種のフィロリアルは最後に出した分身の自分を足場にして加速したままスパイラルストライクとハイクイックを行い。

 変種は目にもとまらない早さでサラブレッドから半馬身程先にゴールをくぐりぬけた。


 余りの速度に衝撃波がレース場に巻き起こって竜巻が発生する。

 それをリタイヤして休憩していたフィロリアル共が魔法で沈静化させた。


「クエ……クエ……」

「クえ!」


 息を切らして座り込むサラブレッドと勝利のポーズを取る。


「な、なんだコレ!? 良いのか?」

「ちょっと待て! 確かにレースのルールとか出場したあのフィロリアルの血統は確かに書かれていたが……どうなんだ!?」


 観客内で議論が巻き起こる。

 やっぱりそうだろうよ。


 そう……色合いで薄々わかっている奴もいると思うが……奴はフィロリアルとラフ種の混血種だ。

 ヒヨちゃんが叱りつけていたフィロリアル共の一匹が産んだフィロリアルの卵から孵った。

 どうなるか興味を持ったラトと谷子、レース関係者の勧めで俺が育てたのがアイツだ。


 このフィロリアル、クイーンの特徴とラフ種の特徴を兼ね備えた能力を持っている。

 空気中にある魔力や気を吸う変幻無双流の概念……を教わる前にフィーロがやっていた訳だけど、この力で魔力を補充するのが物凄く早い。

 そして足も素早く、魔法を使うのも得意。


 系統はラフタリアとフィーロを足したみたいな幻覚と風……なんだけど、カテゴリーだと援護系に傾いている。

 攻撃系の風魔法は苦手で、分身とか相手の目を騙すとかが得意。

 今回行った魔法は奴独自の魔法で、質量のある分身を生み出して分身と体力を共有するとか……。

 息をするのが大変なら、分身が変わりに息をし、魔力が足りないなら分身が……と全て代用してくれる。


 走る事に意識を集中すれば凄い。

 効果時間は短いが、それでもこの過激なレースに勝利する事が出来た……と言うのが結果として存在する訳だ。

 フィロリアル形態以外に大型ラフ種形態になることが出来る。

 が、難点として人化と人語を発する事が出来ないというピーキーな性能をしているのだ。


「イヤ待て、事前に俺達は資料を提示されている。元々今までの常識をひっくり返すレースだったんだ。文句は言うまい」

「だからって、良いのか?」

「問題ないだろ。攻撃以外の魔法の使用は許可されてる。普通のフィロリアルレースだってフィロリアル達は自分に援護を掛けるじゃないか!」


 観客内で議論が白熱を始めた。

 その間にもレース関係者が出てフィロリアル達を表彰して行く。

 混迷を極めるレースになりそうだな。

 これが第一回になる訳だが……結果は物議をかもしだすモノになりそうだ。


「クええええええええ!」


 やったよ! と変種が俺に向かって翼を振ってる。

 尻尾がラフ種化してんぞ。

 腹の模様も実はラフ種なんだよな。

 仰向けに寝てると、あのとなりに住む妖怪みたいな感じだ。

 ……フィーロも何度かそれをかましたな。

 まあ、ラフ種は総じて大型化するとそれっぽいけど。


 スキップ気味に表彰カップを受け取って手を振ってる。


「クええええええええ……」


 あ、目を閉じた。

 興奮が冷めたらしい。

 やる気が落ちると閉じるんだよな。

 眠そうにしてる。


「ク、クエエエ……」


 サラブレッドが変種に近づいて拍手し、握手をしようと翼を差し出す。

 言葉はよくわからないが、称賛しているっぽい。

 で、変種の目の前に来た瞬間。


 パク!


 変種がサラブレッドの頭に丸ごと齧りついた。


「クエエエエエエエ!」


 急いで周りのフィロリアル共が変種と、サラブレッドを掴んで引き離そうとしてる。


「わぁあああああああああああ!?」

「な、なんだ!?」


 口でかいからなぁ……というかなんで食いついてんだよ。

 サラブレッドの方もじたばたと暴れているが、食い付きが強すぎて息が出来ないのか徐々にけいれんを始める。

 そのまま少しずつ変種はサラブレッドを持ち上げてカツカツと……入らないだろ……いや待て、奴等は魔物だ。俺の常識は当てはまらないのかも。


「クエ! クエ!」

「ゴシュジンサマ! 魔物紋の作動を!」


 みどり達三色フィロリアル共が俺の方に駆け寄ってきた。

 ああ、元康はこの場に居ないもんな。フィーロの方で未だにファンの会議してるらしいし。

 合同写真集か何かを作るとか言ってた気がする。

 俺は急いで変種の魔物紋を起動して罰則を発動させる。

 やっとのことで変種からサラブレッドを救出する事に成功した。


「なんでこんな真似を……」


 ジッとサラブレッドの方を見て隙を窺う変種を撫でて抑えているとみどり達が他のフィロリアル共から事情を聴く。


「ええっと……なんでもこの子がこの勝負で勝った方が命じた事を、負けた相手は聞かなきゃいけないという決まりをしたらしいんです」


 みどりが目を回しているサラブレッドを指差して答える。


「へー……それでどうして、コイツが奴を食おうとしたんだ?」

「なぜですか?」

「クええええ」

「あ、はい。もう一度、はい……はい」


 みどりが何度か訪ねてから頷く。

 混血故から言葉が聞き取り辛いらしいと言うのを後でフィーロから聞いた。


「勝ったからご飯! だそうです」

「共食いはなー……」

「ゴシュジンサマ、この子の認識だと多分、僕達を同類と見てるか怪しいですよ?」


 むう……フィロリアルに見えるけど、内面は違うのか。

 とんだクリーチャーだな。

 サラブレッドの方が変種をじーっと見つめてる。

 ライバルだと思ってた奴に食われかけるとかそりゃあ怖いだろうよ。


「とにかく、村や近隣の連中を食べちゃいけないぞ」


 イミアが寒気を覚えたというのはこの事だな。

 フィーロも一度踏んだ地雷だったが、コイツはフィーロよりも遥かに食いしん坊だ。


「クえ!」


 了解とばかりに敬礼してるが、怪しいもんだ。

 村や近隣の連中じゃ無ければきっと食いそう。

 そんな穴を突きそう。


 なんて話をしていると空高くから何回転もしながらスタッとフィーロが着地して現れる。

 意味がわからない。

 アイドル業をしている弊害か? 少しかっこいいとか思っちまったじゃねぇか。


「フィーロ参上! ごしゅじんさまこっちにいたんだ!」

「まあな……」


 未だに会場はざわめきに支配されている。

 一応、配当が行われ始めているけど……不満もある結果になったなぁ。

 この時のレースは専門家も予想が付け辛かった事もあり、万馬券となっていた。

 俺は全部のフィロリアルに一応賭けていた。

 まあ、育てた可愛さから変種に多めに賭けたおかげでかなり儲けたけどさ。


「このままじゃ連中も満足出来ないだろうからエキシビジョンでフィーロとお前等、ついでにこの食いしん坊が走るか」

「もっくんは?」

「しらねーよ。なんなら呼んで来い。フィーロが走るとか言えば飛んでくるだろ」

「「「ぶー!」」」


 とか言いながら三色フィロリアル共は元康を呼びに行き、エキシビジョンレースが開始される。


「ごしゅじんさま! フィーロ走って良いの?」


 目を輝かせたフィーロがはしゃぎながら聞いてくる。


「ああ、存分に走るが良い。だが、さっきまで歌って踊ってたんだ。疲れてないか?」

「大丈夫! フィーロがんばる!」

「ああ、応援してるぞ。それと……飛ぶなよ。三色共と同じ土壌で走れ」

「うん!」


 とまあ、フィーロ達のレースが割とすぐに始まった訳だ。

 結果? フィーロが勝ったに決まってるだろ?


 何の捻りも無く面白味も無い。

 変種の最高速すら無視してフィーロが高速で走り去って行ったよ。

 面白くも無い。

 本当、面白くもなんともなかったな。


 ツメの勇者様々だな。

 というか変種はこの中でビリだったよ。

 どんだけ差があるんだよ。

 結果、フィーロと三色共は出場不可枠になってしまいましたとさって、オチがここにある。

 まあその所為か、キング&クイーン杯は客に受け入れられたという二段オチだ。

 そうだな。次にフィーロ達を出す時はフィトリアでも誘ってみるか。

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