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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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番外編 盾の勇者のバレンタイン【1】

サブタイトルがバレンタインですが、この段階ではバレンタインネタはまだ入っていません。

 クリスマスから一ヵ月と少し、あっという間に時間は過ぎて、二月……で、いいのか?

 まあいい、二月になった。

 ちなみに正月は正月で騒がしい日々だった。

 やはりこの世界にも正月はあり、最寄りの教会に初詣へ行った。


 なんで教会? 神社じゃないのか?

 とは思ったが、勇者が信仰対象で、正月は勇者が広めた訳だから異世界では教会に初詣をするのが習わしらしい。

 尚、村の連中にお年玉を適当に渡した。

 ポチ袋に入れず、剥き身で渡したら雰囲気が無いとか愚痴られたけどな。


 和風って言うか、和服を常用している女、グラスの事を思い出す。

 正月が似合いそうな奴が顔を出しに来るかと思っていたが……来なかった。

 すっかり忘れていたが、世界が救われてからしばらくしてアイツは行方知れずだ。

 死んではいないらしいが今頃何をしているのだろうな……。


 ちなみに俺は現在、義賊のアジトへ変装して訪れた所だ。


「こっちでごじゃる」


 影を伝令役として義賊に指示を出してもう数ヶ月か?

 現在、俺が子飼いにしている元盗賊の義賊は着実に成果を出しながらアジトを拡張している最中だ。


 まず、俺の奴隷となり、補正を受けながらクラスアップをした元盗賊の義賊は、その腕っ節の強さで俺の領地とは異なる地で有名な盗賊となった。

 その強さによって散り散りになった仲間を集めて盗賊のアジトを設立、義賊としての行動目的と悪徳商人からしか盗まない方針で仲間と共に行動し、金を集め、民衆に支持を受けるように金をばらまく。

 その後、俺の管轄をしている馬車は極力狙わず、鼻の良い義賊として、各地で名声を得た。

 後は雪だるま式に仲間が集まってきている。と、影からは報告を受けた。


 俺の指示通りに行動したお陰で一躍有名人となった義賊。

 久々に会うが相変わらず微妙な顔をしているんだろうな。

 今日は義賊ギルドで闇の会合を行う。

 ちなみにラフタリアや他の奴隷達とは別行動だ。

 まあ……あんまり褒められた事をしている訳じゃないし、小言がうるさそうだからな。


 案内されたのはとある町の地下水路の一角に作られたアジトの前。

 かなり悪臭のする場所で、表に出る事も憚れる様な連中が住んでいるのは見た目通りだ。

 見張りをしている義賊ギルドの盗賊がこっちを見るなり睨みつけてくる。


「……合言葉は?」

「カツ丼モドキ」


 ……なんだその合言葉!?

 と、毎回思う。

 あの義賊、俺への嫌がらせか?

 まあ嫌味の一つ位言われてもしょうがない程度には搾取したが。


「チッ! 入れ」


 舌打ちしたかと思うと見張りがアジトの入り口を開けて入るように指示を出す。

 俺はローブを羽織って、素顔を見せないようにして中に入る。

 義賊ギルド内の雰囲気は……まあ、元が荒くれ者だからな、そんなによくない。

 入ると同時に酒場の様な雰囲気の場所で、義賊をしている盗賊どもが騒ぎ合っている。

 影の案内するまま、酒場のカウンターまで近づき、マスターに注文する。


「ミルクを氷割で」


 ピクっとマスターはこちらを見つめ……。


「甘さは?」

「極上でごじゃる」


 影の返答にマスターが溜息をしながらカウンターの奥へ行くように道を開ける。

 だからその合言葉どうにかならないか。

 ミルクの氷割ってなんだよ。極上に甘くして練乳にでもするつもりか。


 俺と影はそのまま酒場の奥へと入って行った。

 そこから先も長い廊下があり、アジトの中を歩いて行く。

 面倒だな……とは思うが警戒は厳重であるのが重要か。

 確か……入口の酒場しか入れない連中は信用度が低い連中で、奥へ行けばいくほど、組織としての信用があるらしい。


 で、やがて辿り着いたのは一番奥の豪華な部屋だ。

 ちょうどそこには義賊ギルドのボスである俺の知る盗賊と、奴隷商、アクセサリー商が座って待っていた。

 辺りを入念に確認しながら俺はローブを脱ぐ。


「これはこれは盾の勇者様です。ハイ」

「ふふふ、お加減はどうですか?」

「……久しぶりです。盾の勇者、様」


 それぞれが俺に向かって軽く挨拶をする。

 今日は義賊ギルドで定例集会を行う予定なのだ。


「久しぶり……って程じゃないか。調子はどうだ、お前等」

「中々良い調子ですよ。ハイ」

「商人にその話は無意味ですよ。ふふふ……」

「あ、ああ……貴族や商人から巻きあげた金銭は目標額に達成したぜ」


 各々の調子を聞くと言う、毎度おなじみの会話をしつつ、俺は席に座る。

 影は部屋の入り口で聞き耳を立てさせる。

 盗賊の連中に盗み聞きされたらたまったもんじゃないからな。


「では本日の会合を始めますです。ハイ」


 奴隷商が手を上げて、経過報告を行う。

 世界が救われたとしても人が存在する限り闇……というか、どうしようもない負の面が無くなる訳じゃない。

 メルティが率先して融合し、混乱した世界の表の面で各国の首脳会談を行って争いを止めようとしても裏の面では止めきれない。


 そもそもメルロマルクだって亜人を奴隷にしていたという側面があるのだ。

 現在でこそある程度緩和されつつあるが、人々の認識は相変わらず根強い。


 そう、世界が平和になったからと言って、奴隷が無くなる訳じゃないのだ。

 突然、奴隷制度が廃止になって人類皆平等、なんて甘い話だ。

 安易に扱う事の出来る労働力を欲するのは何処でも変わらないという事だろう。

 ましてや世界が融合し、相手の世界と戦争をしていたのでは勝った方が略奪に出るのは、容易く想像できる現象だ。


 クソ女神を倒して僅か数日……略奪に走った連中がいると報告が来たのは懐かしい事実だな。

 勝ったら何でもして良いとか甘いにも程がある。

 しかもこういう奴に限ってまともに戦ったかと言うと激しく怪しい連中なのだ。


「ゼルトブルの闇ギルドの調査によると、融合先の世界の国出身の奴隷は――」


 奴隷商が資料を片手に俺に説明を始める。

 俺は別に奴隷制度自体を廃止しようとは思っていない。

 家庭の事情とか、貧困の所為で奴隷に身を落とす奴だっているだろう。


 自由と言う名の放逐をして無残に殺すよりは……まだ生きるだけの可能性はあるかもしれない。

 人の数だけ理由があるし、頭から否定しては何も始まらない。

 下手に金で縛りつけて、重労働させるのと奴隷は大して違いが無いからな。


 考えてみれば現代の日本だって、奴隷みたいに割に合わない重労働をしている連中がいるんだ。

 改善したいとは思うが、どれだけ優秀な人物が居たとしても、どうしようもない事は世の中に沢山ある。

 それは世界が救われても変わらない。


「結論から申しますと、奴隷界隈は拡張傾向にありますが、少々暴走の可能性が高くなっております」

「ふむ……」


 奴隷商の話を掻い摘んで説明するとこうだ。

 グラスの方の世界はクソ女神によってかなり滅茶苦茶にされてしまっている。

 しかも戦争を仕掛けて負けた側の国……と言う認識を持っている連中が俺たちの世界にそれなりに居るらしい。

 奴等は野蛮な連中だ。何をしても良い。

 そんな未開の資源を求め、フロンティア精神を持って奴隷狩りを行う連中が多くなってきている。


 筆頭はシルドフリーデンと元フォーブレイ国。

 メルロマルクとそれに連なる連合国に戦争を仕掛けて敗北し、膨大な賠償金の支払いを命じられた国々だ。

 自らの責任を他国を侵略して賄おうとは、呆れ果てた連中だ。

 自由と平等を謳って、正義を主張した末路って悲しいもんだな。


 結局、自由の意味を履き違えているのだ。

 戦争をするのは……自由だが、負けた時の責任を放棄する自由とはならない。

 責任の取れない自由なんてただの自分勝手でしかないのだ。


 問題は表立って行動している訳じゃないからメルティの方では何もできない。

 文句を言った所で煙に巻かれるのは目に見えている。

 実際、支払わなければならない物は払っている訳だし、メルティの立場からは言及しきれない。

 無理矢理に、という手が無い訳でもないが、どっちにしても限界はある。


 世界が平和になって、少しはまともになったかと思えば、これだ。

 相変わらずこの世界は腐っているんだよ。そうそう直る物でもない。

 だから相手が裏で行動しているなら、こちらも裏で行動する訳だ。

 とにかく、俺達の世界の敗戦国が景気回復のために他国へ奴隷狩りや略奪を裏で行っているというのが問題なのだ。


「お前の方は?」


 俺はアクセサリー商に同様の報告を尋ねる。


「似たようなものですね。闇の品々にあちらの方から流れてきた珍品や骨董品、美術品が多くあります」

「嘆かわしいもんだな」


 勝てば官軍、負ければ賊軍。

 死体蹴りというか……負けた側から何を奪っても良いとか思っているなら甘いにも程がある。

 だが、珍品ともなると欲する連中が増えるのも頷ける話だ。


「ただ……似たような美術品がこちらの世界に元々ある故、鑑定が難しく、そこまで値上がりはしておりません」

「そうか」


 そう……こちらの世界の文明にもグラスの世界にある様なモノはかなり存在する。

 割と和洋折衷な所があるからなぁ。東方の国に和風な物もあるらしいし。


 グラスの世界って割と和風傾向にある。

 エルフやドワーフが和服を着ているって言うのはどうなんだろうな?

 ま、気にしたら負けか。他の種族も多いし。

 そういう意味で、珍しい種族の奴隷売買も盛んなんだろう。


 ……もちろんこっちの世界にもいるらしい。

 コレクター趣味の奴。

 ただ、亜人コレクター自体は魔物コレクターと同じく目的は収集であって殺しじゃない。

 死なれちゃ問題があるだけだし。

 ……剥製にして集めるとかだと性質が悪いがな。

 って話は戻して、異国の品々を収集か……値上がりしたら爆発しそうで怖いな。


「おい。わかっているんだろ?」


 俺は元、盗賊の義賊を睨む。

 すると義賊は空気に呑まれて黙っていたがコクリと頷いた。


「ああ、そういう品々をゼルトブルの闇のオークションに流そうとしているような連中は俺達が襲って押収する手はずだったよな?」

「それで良い。出来る限り、高値になりそうな奴は集めて……物品は処分しろ。出回ると言うか奪う事にリスクを感じさせるんだ。最悪、勇者を派遣させる」


 現在、グラスの世界へ窃盗や奴隷狩りを行おうとしている様な連中には樹とリーシア達を筆頭に守りに行かせている。

 ある意味、わかりやすい悪だからな。

 相手にも理由があるかもしれないなんて同情する以前に略奪は悪でしかない。


 そういう奴は捕まえてから理由を尋ねれば良いんだ。

 ま、出来る限り殺さずに捕まえると言うのが難しいがな。

 余りにも目立つ略奪行為をした場合、勇者が表立って立ち入り検査を行って裁く。


「今のところは止められてはいるが、この先どうなるかわからねえな」


 義賊の言葉に辺りの空気が重くなる。

 勇者がやめろと言ってもやめられない連中なんてそれこそ腐るほどいる。

 光が強く輝けばより一層に闇が深まるとか、オタク心を刺激する気もするが、あまり良い状況とは言えない。


「だから当面は警備を重視しつつ、ゼルトブルの闇ギルドとの連携を図って事態の収拾をする予定だ」

「何をするつもりなんだ?」

「まず奴隷狩りを恥ずべき行為という闇の中でルールを作らせる。まあ、難しいだろうがな」


 闇には闇でルールがある。

 この一線を越えたら闇の業界でも最低の奴だとレッテルを貼るのだ。

 そうなると途端に犯罪を行うハードルが跳ね上がる。


 ま、このルールを作るのが難しい。

 闇ギルドの方でも未知の人種の扱いに拱いている事態なのだ。

 勇者が目を光らせている状態で奴隷狩りなんてしようものなら、闇ギルド自身にも危険が及ぶ……そう思い込ませるように事を運ぶ。

 こうでもして闇の方からルールを提示させてヤバイ橋を渡っているように思わせる。


 儲かるかもしれない。だけどリスクがでかすぎる。

 だから闇ギルドでも罰する対象だ。

 闇の暗殺部隊が動くようにして勇者の負担を軽減させる。

 なんてさせないとな。


 この辺りは弓の勇者……樹とリーシア辺りと折り合いを付ける事になりそうだ。


「ええ、勇者様のお考えは事前にご理解して行動している最中です。ハイ」


 奴隷商の物分かりの良さは恐ろしい物があるな。


「勇者様方を敵に回して商売を行うのはどれほど恐ろしい事か承知の上です。ハイ」

「ま、そんなところだ。奴隷自体を廃止するんじゃない。奴隷狩りによって強引に奴隷を集めるのが問題なんだ」


 そんな真似をしていると人種の坩堝と化し、自らの首を縛りかねないのは俺の世界の国でも有名な話だ。

 俺が言うのもなんだが、奴隷だって人間……だよな?

 まあ、人間じゃなくて亜人とか人型の人種ってくくりになるのか?


「おや? 盾の勇者様の立場ならば廃止を目指すのも勇者らしいのでは?」

「それこそ俺の立場じゃ無理だろう。奴隷廃止運動は他の誰かがやりたくなったらやればいい。だが、それは今じゃない」


 ……そもそも今まで散々奴隷共をコキ使ってきた盾の勇者である俺が奴隷廃止なんて言える訳もない。

 最初からそんな事をするつもりもないしな。


「全ては勇者様の言葉の通りに……時代が動き始めているのですね。ハイ」


 ま、そう言う事だな。

 この世界の闇は、世界を救った勇者である俺が中心だ。

 俺が白を黒と言えば白は黒になる。

 なんて事にはならないから、世間の耳に入らない範囲で黒い事をする。


 それに異文化交流をする故の障害は出来る限り無い方が良い。

 後の世で争いが起こるかもしれないが、今は幸福な人々の方が多い時代にするのが俺達のするべき事だろ。


 まあ奴隷を廃止させない俺が言うとかなり矛盾している気もするが、ある程度妥協は必要だ。

 全てを幸福にする事はできない。

 だから、なるだけ幸福な連中が多い時代にする為に行動している。


 それがこの世界に残った俺達勇者の立場だ。


 立場という看板は想像以上に重い。

 使い勝手も良いし、中々に居心地もいいが、難点だってある。

 勇者という立場の者は勇者らしさが求められる。

 だから柄ではないが、勇者らしくしないといけない。

 その分恩恵を受けているんだから文句も言えない。

 色々と面倒だけどな。


「さて、話を続けるか」


 とまあ、具体的な策をその後、入念に話しあった。

 アクセサリー商が居るのは儲け話であると同時に踏み入れるには危険な領域を見極めさせる為だ。

 奴もその辺りは自覚していて、独自のパイプから知り合いの商人に手を出すと危険な品々のリストを作りだしている。

 まあ、奴隷狩りと略奪問題の話は大分固まってきていた。


クリスマスの時みたいな更新は諸々の事情で厳しいので、しばらく毎日更新で行こうと思います。

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