番外編 盾の勇者のクリスマス【終】
空飛ぶソリはそのままメルロマルクの城に飛んで行った。
「いやー……驚きましたぞ」
クズと女王が城のテラスでロマンチックなムードを出して見つめあっていた。
そこに偶々通りかかってしまった。
悪いと思って帰ろうとしたら呼び止められたのだった。
「悪いな、こんな夜晩くに」
「村の者達へプレゼントですかな?」
「話が早いな。大体配り終えたが聖なる夜を性なる夜へにしたい奴が居てな」
「なるほど」
クズは理解力だけは人並み以上あるからな。
俺達の様子を見て即座に察した。
「少ししたらポータルで帰るから」
「いえいえ、ゆっくりして行ってください。メルティは既に寝ておるじゃろうけれど、寝顔くらいは見て行ってほしい所ですな」
「ああはいはい」
クズは、昔とは打って変わって俺とメルティをくっつけようとしてくる。
「そうですよイワタニ様、ごゆっくり」
女王も機嫌良く出迎えてくれている。
「何ならメルティにクリスマスプレゼントを与えて下さらぬか?」
何を言っているんだ、コイツ等。
どんなクリスマスプレゼントを望むつもりだ。
「と言うか、サンタはクズ、お前の方が似合いそうだがな」
髭もあるし、年寄りっぽい。
サンタ衣装が似合いそうだ。
「勿体無きお言葉」
「皮肉ってんだ。敬礼するな!」
まったく、クズも大概だ。
「それに娘にプレゼントを贈る楽しみを奪う程、俺も不粋じゃないさ」
「ではイワタニ様が渡す用のプレゼントを用意させますので、夫と共にメルティの枕元に置きに行っては?」
名案だとばかりにクズが手を叩く。
名案じゃねえよ!
そもそも俺が渡す用ってなんだよ。
「フィーロもメルちゃんにプレゼントしたいー」
「……」
丁度良いな。この鳥をメルティにプレゼントして俺は退散しよう。
俺はフィーロに人型になるよう指示する。
「なーに? ごしゅじんさまー?」
で、フィーロをリボンで装丁し自由を奪う。
そのままフィーロをお姫様抱っこし、女王が用意したプレゼントをフィーロに持たせる。
「よしクズ。そのままメルティの枕元にプレゼントをおけ、俺はコイツと一緒にプレゼントを渡す」
「えー?」
フィーロは首を傾げている。
知らんな。
「すー……」
静かな寝息だ。下手に起きているとピーチクうるさいのは村の連中と同じだ。
だが、年齢の割に働き者なのは知っている。
だから額を軽く撫でてから、ベッドにプレゼントと共にフィーロをしのばせる。
「じゃあなフィーロ。メルティと楽しく寝ていろよ」
「うん!」
「ほら行くぞクズ」
「イワタニ殿も一緒に寝てはどうですかな?」
「冗談」
なんでメルティと寝てなきゃいけないんだ。
起きた時、メルティがどんな顔をすると思っているんだと問い詰めたい。
「とは言いましても、イワタニ殿とメルティが一緒に寝ていないとクリスマスを完遂できませんぞ?」
……クズの奴、入口から退く気配が無い。
く……ここにも聖なる夜を性なる夜にしたい奴がいたか。
だが、お前等は大きなミスを仕出かしている。
俺が特別な力を所持する勇者であることとラフちゃんがいる事だ。
「ラフ?」
「な、イワタニ殿は何処へ?」
俺が突然ラフちゃんに姿を変えてクズが絶句する。
「これ以上騒ぐとメルティ女王が起きてしまうぞ?」
「ぐ……」
声だけでクズに囁き、静かにさせる。
「じゃあな」
と、俺は黙りこむ。
するとクズは諦めたのか部屋から出て行った。
……じゃないな。
「そこまでイヤでしたら今夜は諦めましょう。ですが次こそは、完遂してもらいますぞ」
……さすがに英知の賢王をこんな姑息な手じゃ騙せないか。
ラフちゃんの隠蔽の魔法で俺は姿を消し、ラフちゃんが化けて俺がラフちゃんになったように見せかけたのだ。
「じゃあなフィーロ」
「うん! おやすみなさーい」
その足で俺とラフちゃんは外に出てポータルで村に戻ったのだった。
「あー疲れた」
家に戻ってきた俺とラフちゃんは椅子に座って一息ついた。
サディナ? 村の入り口で酔いつぶれていたぞ。
この寒空の中、大丈夫かと不安になったが、大丈夫っぽかったので放置した。
アイツ、寒いのホント強いし。
一応はバイオプラントで囲って、暖房を掛けておいた。
「お疲れ様です」
ガチャリと俺の部屋の扉が開いてラフタリアが顔を出した。
「ダメじゃないか起きていては、サンタが来ないぞ?」
最後のプレゼントが袋に入っている。
ラフタリアの枕元に置く予定なんだ。
「サンタがいない事くらい知ってますよ。ナオフミ様がサンタをやって下さったんですよね」
「なんだと?」
「わからないはず無いじゃないですか」
「まあ、そうだが……出来れば知らないで欲しかった」
こう、ラフタリアには夢を見る子供でいて欲しかった。
女騎士みたいに! 女騎士みたいに!
大事な事なので二回言った。
「実年齢は幼いんだからな? 歳相応の反応をしてくれ」
「どういう理屈ですかまったく……」
「ラフー」
「そうだったな。ラフちゃんにもプレゼントだ」
袋からラフちゃんへのプレゼントを出す。
フィーロは飯とプレゼント配りがプレゼントだな。
ラフちゃんは特に何かを欲していなかったから俺が見繕った。
「ラフー!」
さっそくプレゼントを開けたラフちゃんが、俺の作ったぬいぐるみを嬉しそうに抱擁する。
そうそう、ペットはこう言う可愛げが必要なんだ。
「しょうがないな。ラフタリアにはこれだ」
と、残ったプレゼントを渡す。
中身は服だ。ラフタリアって和服が似合うと思って用意した物だ。
ずいぶん前に頼んだんだけど、色々とごたごたしていて忘れてしまっていた。
だから今になってプレゼントしたと言う事だ。
「あ、ありがとうございます」
「さて、じゃあそろそろ寝るか」
「はい。あの、ナオフミ様は?」
「俺が俺にプレゼントしてどうする?」
「そうですよね……じゃあ……」
と、ラフタリアが俺にプレゼントの入った箱を二つ手渡す。
一つはかなり大きい。
「これは?」
「みんなからのプレゼントと私からのプレゼントが入ってます」
大きい方の中を開けると感謝の手紙と調合に使う機材が入っていた。
村の連中もある程度は察していたか。最近機材にガタが来始めていて、修理させるか悩んでいたんだ。
手紙は俺への感謝が書かれているようだ。
で、ラフタリアの方は……俺とラフタリアのぬいぐるみと、一分の一ラフちゃんのぬいぐるみだった。
「ありがとう」
素直にうれしいと思った。
感謝の気持ちが素直に出るなんて思わず苦笑してしまうな。
「さて、そろそろ寝るか。まだ俺には明日用意しなきゃいけないクリスマスプレゼントがあるしな」
魔物共とかが望む俺と遊びたいとかの願いだ。
「はい」
「ラフー」
「今日は寒いから一緒に寝るか」
「は、はい!」
「但し、聖なる夜を性なる夜にしないように寝るんだぞ。じゃないと淫乱女共に俺が襲われてしまうからな」
「はーい」
「ラーフ!」
こうして聖夜は更けて行ったのだった。
「ん……」
起きると枕元に何か当たる感覚がある。
何だと思って体を起こした。
すると寝る時には見覚えの無いプレゼントがそこに置いてあった。
一体誰からのだ?
中身を確認して俺は誰からの物か察した。
「粋な事をするが、そんな余裕があるのか?」
そう、中には一枚の写真が入っていた。
元の世界に戻った俺を中心に、ラフタリアとアトラが両脇にいて、俺の家族や知人友人と騒いでいる写真だった。
なんとも楽しそうな光景だ。
こんなモノを届けられる奴は……まあ、そんなにいない。
ましてや俺にこんな事をするなんて……自分プレゼントと笑うしかないだろう。
きっと、あっちの俺達にはこっちの俺達の写真が送られているって所か。
あっちはあっちで楽しそうだな。
別に元の世界に帰らなかった事に後悔は無い。
というか、全部を選択したんだから後悔もクソもないか。
「兄ちゃん兄ちゃん!」
外からプレゼントをもらってはしゃいでいるガキ共の声が響いてきた。
そうだな……あっちの俺達が羨ましがる位、楽しい一生を過ごせば良い。
俺はそんな風に考えながら、起床したのだった。




