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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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番外編 盾の勇者のクリスマス【2】

「そんなわけで、サディナ。クリスマスの詳細を教えてくれないか?」

「あらー? ナオフミちゃん。クリスマスを知らないの?」

「俺の世界とは違うかもしれないからな。後、お前等もな」


 サディナやイミアの叔父等、村の中でも成人している連中を集めて聞くことにした。

 この辺りは一人の意見だけじゃ間違える危険性もあるし、種族毎に催しが異なる可能性もある。


 さて、我先に口を開いたのはサディナだ。


「クリスマスは大人に取って肉欲の宴よ。聖夜の夜では無く性夜の夜なの。もしくはお酒を一杯飲む日よ。私も楽しみでしょうがないわー」


 ……。


「なあ、詳しく知らないか?」


 サディナを無視してイミアの叔父や他の連中に尋ねる。


「クリスマスですか? 自分達の所だと、子供達が寝静まった後、プレゼントをする催しでしたよ。夜には豪華な食事をします」


 ふむ……日本風で良さそうだ。

 他の連中も大体同じ事を言っている。


「ねえナオフミちゃん」

「うるさい黙れ喋るな!」


 まったく、アトラと同じような事を言いやがってこのシャチ女。

 ふざけているのは目を見るだけでわかる。

 さすがに節度位は持っているが、世界が平和になってからセクハラ三昧なのはどうなんだ。


「でだ。問題はこの村でもクリスマスは……するべきか?」

「そこはー……盾の勇者様の一存かと思うのですが」


 と、成人している連中が視線を逸らしながら呟く。

 なんだかんだでやってほしいと言う意見の表れだ。

 はぁ……。


「で? 誰がプレゼントを用意して配るんだ?」

「えっと……」


 視線が俺に集まる。

 はぁ……しょうがねえな。

 仮にも領主だし、俺がやるしかないか。


「わかった。村の連中もみんな頑張っているからな、プレゼント位は確保するか」

「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げられたら文句は言えない。

 しかし色々と問題は山積みだ。

 まずガキ共がどんなプレゼントを望んでいるか調査しないといけない。


「問題は奴等が何を欲しているかだよな。ワザワザ聞いて回るのは面倒極まりない。しかも勘付かれる可能性がある」

「は?」


 その場に居た連中が全員、首を傾げる。

 何かおかしな事を言ったか?


「どうした?」

「クリスマスツリーに短冊を吊るすのですぐにわかるかと」

「はい?」


 短冊?

 短冊ってあれだよな? 笹に願いを書いた長方形の紙を吊るす奴。


「文字の書けない子は親に書いて貰うんですよ。何が欲しいのかと名前を……それをクリスマスツリーに吊るしてサンタクロースに意思表示をするんです。だから大人達はその短冊を見て、プレゼントを決めるんですよ」


 ……なんで七夕が混ざっているんだと敢えてツッコミを入れない。

 面倒だし。

 どうせコレも過去の勇者達が広めたイベントが混ざったとか、そんな所だろう。

 考えてみれば相性は良いしな。この二つのイベント。


「そうか。じゃあ村の連中に短冊を渡しておけ。で、クリスマスツリーと決めた木に吊るす様に伝えろ」

「了解しました!」


 こうして俺の村でクリスマスが行われることになった。



「……なんでクレープの木に吊るしてんだよ」


 翌日から村の連中が自分の欲しい物を短冊に書いて、指示通りクリスマスツリーに吊るす事になったんだけど……。

 何故かクレープの木がその役目をしている。


 村の連中がそれぞれ楽しげにクレープの木に短冊を吊るし始めていた。

 あの気色の悪い木は冬でも枯れずに実を宿している。

 夏はバナナチョコみたいなクレープが多かったが、最近ではイチゴクリームみたいなクレープを実らせている。

 他にも色々と宿すらしいが、俺は余り食っていない。

 キール曰く、与える肥料や愛情で変わるらしい。

 知らん。凄くどうでもいい。

 そのクレープの木がクリスマスデコレーションされつつ、短冊が吊るされるその姿は滑稽の一言でしかない。


「クリスマスをやるのか」


 錬が呆れている俺の方へやってきて、尋ねてきた。

 まあ異世界とはいえ、日本出身の錬は知っているよな。

 もしかしたら某聖人の名前が違う可能性はありえるが。

 同じ理由で元康や樹も知っているだろう。


「まあな」

「そうか……楽しいイベントになると良いな。ところであの短冊はなんだ?」

「こっちだとクリスマスと七夕が混ざってるらしい」

「そうなのか」


 錬は現在、魔物退治の冒険者をしつつ、女騎士や谷子の面倒を……見ているつもりになっている。

 一応は、困っている人々の為に活動中だ。


 その女騎士は、俺から領主の知識を吸収するために村に滞在していて、谷子は魔物使いとして本格的な勉強をする為に、ラトと共に各地へ調査に出ている。

 まあ、ガエリオンとミー君がいるのだからその辺りは問題ないか。

 それぞれ勇者の武器を所持している為に日が落ちるとポータルで村に戻ってくる。


「お前はどうなんだ?」


 手伝えと暗に伝えながら睨むと、錬も困った表情を浮かべて頭を掻いた。


「それがな……なんかこの時期限定で暴れる魔物の処理に追われそうなんだ」

「そんな魔物がいるのか?」

「ゲームの知識なんだが……クリスマスイベント限定モンスターが居たんだけど、どうもそれみたいだ」


 クリスマスモンスターって奴か。

 確かにそう言うのがネットゲームには居た。

 どう見ても異世界風の舞台で、当然の様に首都や主要都市がクリスマスイルミネーションされる、なんてネットゲームでは珍しくない。

 今考えるとアレはアレでおかしな光景だ。


 それにしても限定モンスターか。

 イベントモンスターというのは、この世界にもいるのか。

 世界中がクリスマスに彩られるのもどうかと思うんだがな。


「……はぁ」

「俺だってわかってるって、面倒な仕事だって思っている。暇があったら手伝うよ」

「ああ、はいはい。期待しないで待っておくよ。ところでお前はクリスマスに何をする予定なんだ?」

「そうだなー……エクレールやウィンディアとささやかに祝えたら良いな」


 あれ以来、何かと責任感だけはある錬は谷子の事を未だに面倒を見ようとしている。

 世界を救っても錬の中で贖罪は続けていくつもり、とかなんとか話していた。

 尚、その谷子は既に自立しつつあるのを理解してほしい。

 ぶっちゃけ、錬は谷子に嫌われていると思うんだが。


「帰ってきていたのか、イワタニ殿」


 なんて話をしていると、女騎士がやってきた。

 錬の想い人その2だ。

 女騎士はクリスマスツリーに飾られた短冊を見て、思い出に浸るみたいな顔をしている。


「ふむ……クリスマスか、もうそんな時期なんだな」

「まあな。ところで女騎士、お前はクリスマスに何をするつもりだ?」


 大方、錬と共に魔物退治に出るとかだろうな。

 コイツ、領地経営を俺から学ぶとか言っていたが、あまり見ている気がしない。

 俺のモノマネをして盗賊狩りをしたり、行商について行って高く売りつける営業スマイルの練習をしているくらいだ。

 ちなみに売上はキールよりも下だ。


 ま、キールは男っぽいメイド犬と言う事で独自のファンを形成しているから敵うはずもない。

 メルロマルク内でもキールのファンは多い。ファンクラブが出来ているらしいのを前に聞いた。

 ちなみに服装のプロデュースはイミアだ。センスがあるのは認めている。

 このキール、未だに罰ゲームで女装……じゃないな、本人の嫌がる女モノを着ている。

 まあ、世界的人気を得ているフィーロに勝てと言うのは無理な話だったか。


「ん? 私か? 私は寝ずにサンタクロースが来るのを待とうと思っている」

「……はい?」


 サンタクロースってお前、幾つだよ。

 まさか……。

 俺は錬に視線を送る。


「何を不思議そうにしているのだ?」

「いや、サンタクロースを待つとは?」

「ふむ、私も去年まではサンタクロースにプレゼントをもらっていたのだけどな。毎年毎年、子供達の笑顔の為に行動している、かの老人に感謝を伝えたいと思ってな。だから来るのを待とうと思っているのだ」


 これは……サンタクロースの存在を信じている!

 中々ピュアな所があるじゃないか。

 ふふふ。


「な、尚文! まさか――」

「女騎士、いや、エクレール、サンタクロースと言うのはな――」

「わぁあああああ! エクレール! 頑張れよ!」


 必死に俺の口を押さえた錬が女騎士に向かって大声で言い放った。

 くそ、夢見るガキ臭い女に現実を叩きつけてやろうと思ったのに。


「それでだな……その前に、パーティーでもしないか?」


 お? 錬の奴、ついでに女騎士を誘っている。

 聖なる夜を性なる夜にしようとしているのはどこも同じか。


「すまんが私も暇では無い。修業もあるのでな」

「だが……晩飯くらいはさ……」


 バッサリと切られて錬は落ち込んだかと思うと、すぐにしつこく食い下がる。

 良くやるな。

 そういや、世界を救った後、酒に酔って告白したのは盛大にスルーされ続けているんだよな。

 錬もその時の記憶がかなり曖昧になっているらしい。

 いや、振られたのを無かった事にしようとしているのかもしれない。


「ウィンディアも誘ってさ」

「ふむ……」


 ま、俺の関わる事じゃないか。頑張れよ。

 とか思っていると谷子が短冊を吊るしに来た。

 ガエリオンに乗っている。

 そういや谷子は子供のカテゴリーだったな。

 マセテルからクリスマスなんてくだらない、なんて言うと思っていた。


「おー谷子。お前もクリスマスか?」


 そもそもドラゴンに育てられた癖にクリスマスを知っているのか。


「ん?」


 それは……まだ谷子が俺の村に来た頃のような純粋そうな顔を俺達に向けていた。

 のは一瞬で、即座につまらなそうな顔になった。


「うん。サンタさんには毎年プレゼントをもらってたの。お父さんが受け取ったって」


 俺はガエリオンに視線を向ける。

 サッとガエリオンは視線を逸らした。


 お前……野生だった癖に、子供にクリスマスとか。

 くだらん、とか言いそうなのにな。

 子煩悩も大概にしろよ。


「ちょうど良い。あのなウィンディア」

「ギャウウウウウウウ!」


 錬が谷子に近づくとガエリオンが唸る。

 怖いパパが守ってるもんな。夢を。


「……何?」

「クリスマスの夜に一緒に食事をしないか?」

「なんで私が」

「決めたんだよ。俺が責任を持つって」

「勝手に責任を持つな!」

「どうせ寝るまで予定も無いんだろ?」

「まあ、その日はちょうど空いているけどー……」


 錬は必死に谷子と女騎士にクリスマスに祝いをしようと誘っていた。

 反応が薄かったけどな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エクレアがまだサンタを信じているのが面白いですな!この調子で行けばドラゴンが子供を連れてくるとか思ってそうですな!錬がんばれですぞ!
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