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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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魔法習得

 あれから俺達の行商に何故かアクセサリー商が同行していた。

 乗車賃はもらっているので文句は言わないが、こいつの行動理由がわからない。

 どうにも盗賊の一件で偉く俺を気に入ったのか、アクセサリー商の奴、自身の身分を明かして、降りるまでずっと俺にレクチャーするとか言い出した。


 何でも、この辺りを荒らしている行商の顔を覚え、釘を刺すために乗り込んだのが目的だったらしい。商人組合の刺客って奴だ。

 それが俺の資質を見出し、磨きたくなったとか……。

 しかも組合内でかなり権力を持っているアクセサリー商で、表面上は優しいけど、弟子とかに教えるような事をする人じゃないと有名だったと、後に知り合った商人仲間に愚痴られた。

 教えられた内容は、まずは宝石等の付与に使う物の調達、これはこのアクセサリー商の知り合いが居る採掘場を斡旋してくれた。

 次に貴金属をアクセサリーに加工する作業。色々と凝ったデザインが今は受けるらしい。絵は俺自身がオタクだから多少心得があるので、なんとなくそれっぽいのを作ったら気に入られた。


 そして加工するための道具を安く売ってくれた。

 この世界にしか無い魔法道具で燃料は石炭に似た魔法石という物だ。

 やはり盾が反応しているけれど、原価はかなり高いので吸わせるわけにはいかない。

 俺の世界で言う、研磨機という奴やバーナーみたいなのが数点ある。これを使ってアクセサリーを作る。

 鉄とかの硬い金属の加工は製鉄所に金型を作って持っていくのが当たり前なのだとか。まあ、ここまで来ると細工技能のお陰で補正が発動する。


 そして本題はこれからだ。

 魔力付与という作業。

 これはやはり魔法が使えなければいけない。

 俺が魔法を使えず魔法書片手に唸っているとアクセサリー商が話しかけてくる。


「勇者様は魔法が使えないので?」

「ああ、配下の奴からは魔力を同調させると言われたのだが、その魔力というのがよくわからなくてな」

「ああ、なるほど……そういうことでしたか」


 アクセサリー商は、何やら懐から透明で小さな破片を出し、俺に持たせた。


「なんだこれは?」

「とある珍しい鉱石の欠片です。高いんですよ」

「へー……」

「文字は読めるのですよね」

「一応……簡単な奴なら」


 一ヶ月近くこの世界の文字に触れ、真面目に取り組んでいれば覚えてくる。

 まだ難しい言い回しとかは読めないけれど、簡単な物なら読める様になった。


「なら後は魔法の習得だけです。魔力を感じ取れれば十分です」


 うーむ……中々難しい事を言う。

 そう思いながら、俺は渡された欠片を手で転がす。

 ぼんやりと欠片が輝きだした。

 それは……なんていうのだろう。今まで知らなかった俺自身にある、もう一つの手が動き出すかのような感覚とでも言うのだろうか。

 今までそんな器官があって、それを知らずに居たというのを今まさに突きつけられたかのような、そんな感覚。

 飛ぶことを知らなかった鳥が始めて羽ばたきを知ったような……。


「なんか、変な感じだ」

「本当はそんな物は無くても魔力を感じる事が出来るのですが、アナタはそれを知らずに育ったようで、ですから試しと思って見ましたが成功のようですね」

「……そうなのか」


 俺は魔法書に書かれている解読済みの概念を開きながら暗唱する。

 魔力というもう一つの腕を自身の腕にあわせて、意識した。

 文字が輝きだす。これは俺にしか読めない俺自身に刻まれる魔法。


『力の根源たる盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!』

「ファストガード!」


 ターゲットマークが視界に浮かぶ。試しに自分を選んでみた。

 淡い輝きが俺に宿った。

 ステータスをチェックするとその分が上昇している。


「おお……」

「どうやら習得できたようですね。では魔力付与を教えますよ」


 アクセサリー商の奴、俺の感動を横に流してレクチャーを始めた。

 せっかく覚えたのにあっさり流されるのというのはなんだかな……。

 で、アクセサリー商に教えられるまま、俺は魔力付与を覚えた。

 加工した宝石に魔力を与え、宝石に備わっている力の方向性を制御する物だ。

 最初は手間取ったが魔法が使える様になった今、盾からの補正もあって数回である程度の物ができる様になった。

 難しいものとなると、別の宝石の力を混合させたり、別の、例えば薬から魔力を吸い出して付与する事だって出来るらしい。


「まあ、基本はこんな所でしょう。では後は自力で覚え、商売の役に立ててください」


 そう言ってアクセサリー商は馬車を降りていった。

 こうして俺は薬の調合以外に細工技術も覚えることが出来たのだった。




 細工用の鉱石が必要になったので、斡旋された採掘場のある町にたどり着いた。


「へー……あの方の紹介ですか」


 炭鉱夫みたいな体つきの良い男が怪しむ様に俺を見ているが、アクセサリー商の紹介状を見せると驚きながら聞いてきた。


「確かに、あの方の証文がありますね。あのお金に厳しい方の紹介とは……」

「どういう意味だ?」


 話によるとアクセサリー商は非常にケチで知られる商人なのだそうだ。

 炭鉱夫はそんなケチからの紹介状を持ってやって来た俺を怪しんだらしいが、本物を見て驚いた、という話だ。


「あの方の紹介ですからいいですよ。幾らで買いますか? 紹介状もありますし、融通しますが」

「あのさ、俺にも掘らせてくれないか? それなら、もっと安く出来るだろ?」

「え? あ、まあ……それなら殆どタダでお譲りできますが……」


 採掘技能に興味があったんだよな。

 俺はラフタリアとフィーロに商売を任せて、採掘場のある洞窟にツルハシを持って入った。

 カンカンとツルハシで叩く音が洞窟内で木霊している。正直、騒がしいな。

 何か空気が篭って暑苦しい。

 ただ、やはり異世界なのだろう。壁に水晶が露出していて淡い光を放っている。


「この洞窟内なら余程の事が無い限り安全なので、何処を掘っても問題はありませんが、崩落の危険性はゼロではないので注意してください」


 そうだろうなぁ。

 炭鉱夫の言葉から何個かある洞窟の中で、頑丈な場所を案内してくれたのだろう。

 徐に俺はツルハシを振り上げる。

 すると壁が十字に輝くポイントが浮かび上がる。

 なんだ? ここに突き立てれば良いのか?


「てい!」


 勢いをつけて、俺はツルハシを振るった。

 ガツンという音と共に壁にヒビが入る。

 その亀裂がメキメキと広がって崩れた。


「おわ!」


 凄く脆いなぁこの壁。


「は?」


 炭鉱夫の奴、俺の方を見て惚けている。


「あの固い岩盤を一振り……?」


 ……固いのか?

 採掘技能のお陰か、一振りするごとに壁が崩れ、あっという間に宝石の原石がごろごろと出てくる。

 ただ、やはり技能のLvが低い所為か幾ら打っても掘れない壁がある。


「じゃあこれだけ貰っていくぞ」

「は、はい」


 宝石の原石を袋に詰めて足早に採掘場を後にした。

 ちなみに採掘場の近くならクワで畑を掘るかのように耕しても宝石の原石が採掘できた。

 案外、この辺りは出やすい傾向があるようだ。

 問題は地表近くの原石は魔力的には質が悪い傾向があるようだけど。

 俺の世界の知識によると、宝石掘りで有名な場所では、畑で掘るかのようにごろごろと宝石が取れたらしい。

 この辺りは異世界だからだろう。質の良い宝石は地中深くに埋まっているそうだ。


 ルビーブレスレットが出来ました!

 品質 良い→高品質


 試しに作ってみた所、元々の質が良いので、かなりの一品が作れるようだ。

 魔力付与もついでに行ってみる。


 ルビーブレスレット(火耐性+)

 品質 高品質→普通


 う……魔力付与で品質が随分下がった。

 こんな感じで装飾品にも手を出し、俺の行商の旅は進んでいく。

 ちなみに馬車の中でアクセサリー作りをするのはかなり難しく、夜の休息前くらいにしか作れない。

 しかも……原石にしろ完成品にしろ、盾に吸わせてもツリーとLvが足りなくて変化できやしない。

 売る専門だな。

 ちなみに先ほどのブレスレットは製作日数2日で銀貨80枚で売れた。土台の腕輪を作るのに時間が掛かる。

 この世界での宝石の価値って、俺の世界より低いみたいだ。

 どれだけ流行に乗った斬新なデザインかに値打ちがあるとか。些か矛盾した題材だ。

 なんでも今はそういうブームらしい。異世界でも流行って奴があるみたいだ。

 というか、高価な宝石はどうも俺の知らない宝石らしい。

 しかし……制作に掛かる日数を考えると微妙なラインだな。

 とはいえ、大分金も稼げている。そろそろ本格的に装備の新調をするのも悪くはない。


 鉄鉱石の盾の条件が解放されました。

 銅鉱石の盾の条件が解放されました。

 銀鉱石の盾の条件が解放されました。

 鉛鉱石の盾の条件が解放されました。


 鉄鉱石の盾

 能力未解放……装備ボーナス、製錬技能2


 銅鉱石の盾

 能力未解放……装備ボーナス、製錬技能1


 銀鉱石の盾

 能力未解放……装備ボーナス、悪魔系からの攻撃2%カット


 鉛鉱石の盾

 能力未解放……装備ボーナス、防御力1


 武器屋の親父に任せておけば良いだろって技能が出てくる。何でもやれば良いって物じゃない。

 鉛鉱石の盾は何かが置き換わっているようだ。

 この技能は使わないだろうな。




 そんな感じで行商の日々を続けていたある日。

 丁度、南方の街へ寄った時の事。

 とある信頼できる筋……アクセサリー商からの斡旋で、除草剤を大量に欲している地方があるという情報を耳に入れた。

 なんでも速度からして間に合うのは神鳥……フィーロ位なものらしい。

 死の商人ではないが大金が手に入るならと、俺達は南西にあるという村へ急行した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルビーじゃなくてガーネットですよ おっしゃっておられる麓のあたりに住んでたので つい口を挟んでしまいますけども
[一言] 日本でも昔、奈良の二上山の麓では畑をめくると(質の良くない研磨用の)ルビーがゴロゴロ出てきたそうだ、 其れを元に地場産業としてのサンドペーパー屋さんがたくさん成立した時期があったのです。皆さ…
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