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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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決戦前夜

すいません。

日付設定をミスってしまい、明日投稿予定になっていました。

 仮眠を取るクズを見届けた俺達は静かに部屋を後にした。

 城の階段を下りて行くとグラスと錬と女騎士、そして樹とリーシアが次の戦いの打ち合わせをしているようだった。

 クズの作戦次第ではあるが、どれだけの事が出来るか……実際の戦闘において敵がどのような攻撃をしてくるかの話し合いをしている。


「あ、尚文さん」


 樹が俺達を見て声を掛ける。


「いきなりで申し訳ないのですが、敵に関して少し話をしようかと思っているのですが」

「レンさんが私達の世界の者を良く知らないようなので」

「ああ、それは助かるな」


 状況はある程度察知する事が出来るけど、あまり神としての力を使う訳にはいかない。

 まだ使う時ではないからな。

 その為、知っている相手に聞いた方が堅実だろう。


「レンさんにも今、話をしていたんですよ。しかし、レンさんは本当に大きくなりましたね。私、とても驚いたんですよ」


 リーシアが俺を見た後、錬を見て呟く。


「なんか立派になりましたね」

「そ、そうか?」

「ふん、まだまだだと私は思うがな」


 女騎士が腕を組んで、偉そうに言い放つ。

 とはいえ、なんか距離感と言うか、違和感が女騎士と錬の間にある。

 グラスもその空気を感じ取っていて、若干困っているようだ。

 そういやグラスはこっちの陣営で戦ってくれているんだよな。


「幾ら大きくなったからと言って、心まで成長したかはわからないからな! この後は剣の腕前を見せてもらう予定だ」

「ああそう。錬も大変だな」

「頑張ってくださいね。錬さん」


 樹は爽やかに錬を励ますが……何やらポツリと呟いた。


「今まで錬さんが一番年下だったのに、いつの間にか僕が年下になってしまいました」


 そういえば……錬って一六歳だったのが二年で一八歳になってしまった訳だし。

 樹は確か一七歳だったか。

 俺が二十で元康が二一なんだから、樹は一番年下になる。

 まあ、あの長い次元の狭間の旅で俺の実年齢は良くわからない事になってしまっているけどな。

 これは言わないでおこう。


「そうだ。これをお前等に渡しておこうと思ったんだった」


 アークに渡された薬を俺は取り出して錬達に見せる。


「これって確かフィロリアルの聖域にあった薬じゃないのか?」

「それの強化された奴だ。素材として武器に吸わせろ。絶対に飲むなよ。毒だから」


 飲めば神になれる薬……とは言うが、あまり使わせて良い物では無いのはわかる。

 そもそも、この薬は世界からしても異質な物なのだ。

 だから例外中の例外。

 今の俺だって、世界からしたら例外に該当するだろう。

 ……この戦いが終わった時、俺はどうするべきなんだろうか。


「はぁ……わかりました」


 俺が薬の中身を傾けると樹は弓を前に差し出して一滴、吸わせる。


「これは……×0の弓? 0の弓とはどう違うのでしょうか? 効果も同じですし」

「クソ女神に対しては0のシリーズよりも遥かに効果的だと思うぞ、その時になったら使え」

「わかりました。じゃあ勇者の皆さんにもその薬を素材にするのですよね?」

「ああ、明日、戦いが始まる前にはな」


 俺は錬とリーシアに吸わせた後、グラスを見る。


「グラス。お前の所の武器も使えるのか?」

「さあ……わかりません」

「試してみるか」


 俺が薬を垂らすとグラスは扇に吸わせた。


「X零の扇……」


 ああ、グラスの世界の武器って和名になるのか。

 とはいえ、出て良かったな。


「後は――」


 必要な内容を説明し、話はまとまった。

 そして用も済んだので薬を仕舞った。悪用されたら大変だしな。


 神の力が宿るとか言っていたが、そんな力を手に入れたらどんな末路があるかわかったもんじゃない。

 ……俺だって、この後どうなるかわからないんだ。


 アークと名乗った神狩りは言った。

 何があっても後悔しないか、と。


 おそらく、この事を指しているのだろう。

 この戦いが終わった後、俺とラフタリアはどうなるんだろうか?


「それで? お前達は敵……この場合は転生者の事を指しているのか?」

「はい。僕達が戦った転生者の中で一際強力な相手の事を錬さんと尚文さんに話しておこうと思いまして」

「わかった。教えてくれ」


 転生者はクソ女神の眷属みたいなものだ。

 まさにクソ女神の駒だな。

 遊びが終わったら世界ごと消し去られると言うのを理解しているのだろうか?

 理解していたらこんな真似しないか。


「まずはグラスさんの世界の眷属器の勇者をしている転生者ですね。五人程居ます」


 グラスは扇の勇者だったな。

 確か、見た感じだと鎌と刀がいた。

 壁の奴はあくまで異能力で眷属器じゃなかったはず。


「まずは鎌と刀の勇者、そして銛と楽器、そして船の所持者ですね」

「銛と楽器と船か」


 どれも変わった武器だな。

 楽器ってなんだよ。どんな攻撃するのか想像できないぞ。

 しかしその楽器よりも変なのがいる。


「最後の船ってなんだよ」

「フィトリアさんの馬車に似た能力を所持しています。空を飛んで、僕達を攻撃してきました」

「俺が到着した戦場ではみなかったな」

「別働隊で動いていたグラスさんとウィンディアさんと戦っていました」


 ガエリオンから聞いたな。フィトリアもそっちに回っていたんだったか。

 どれだけ総力戦なんだよ。

 しかも現状だとメルロマルク近隣まで攻め込まれていて、他の国の警備もガタガタ。

 落とされた国も多いらしい。

 安全な国は今の所無い……か。

 一応、世界単位での連合軍として戦争をしているけれど、それも何処まで行けるか先行きが見えない。


「そいつらには注意しろと?」

「ええ、今の所相手のエースはこの五名です。他に転生者を合わせたらもっと増えます」

「他にはイツキ様が相手に能力ダウンの魔法を掛けると直ぐに無効化されてしまう所が厄介でしょうか。王様がナオフミさんの唱える援護魔法を使ってこちらの能力を上げても同様に……」


 援護の鉄板ではあるが、常時相手にされると苛立ちも倍増されるからな。

 クソ女神の奴、どうやら自分達の陣営に連携が無いのを援護魔法とかで誤魔化しているようだな。


 相手はチートを使ってるのに、こっちはちゃんとした手順で……なんてしていたらそりゃあ負け越しもするか。

 しかも絡め手の死んだ者を蘇生させて操るまでされたら溜まったもんじゃない。

 もう……そんな真似はさせないがな。


 しかし……ラフタリアは何をしているんだ?

 元康を迎えに行くだけなのに時間を掛け過ぎだろう。

 とは思うが、元康がいる場所は入るのがとても大変な並行時空だったからしょうがないのかもしれない。


「尚文様」

「ん?」


 アトラがふわりと浮かんで俺の耳元である手段を囁く。

 ふむ……その方法は面白いな。


「女騎士」

「……はあ、なんだ?」


 俺が女騎士を呼ぶと、心底呆れたように女騎士は溜息を吐いた後に答える。


「お前は眷属器の勇者になりたいか?」

「いきなり何を言っているんだ! まさか四聖の勇者が眷属器の勇者から眷属器を剥奪すると言うのをするのか?」

「尚文……誰から取るか知らないがやめてくれよ。みんな戦ってくれているんだから」

「勘違いするなって、聞いてみただけだ」


 まあ、そう言う考えは最初に浮かんでくるよな。

 だが、俺がやろうとしているのはそれでは無い。


「頭角を現している奴に……ちょっとな」


 あくまで、これは知られないようにするべきかもしれない。

 好機を逃すつもりはないがな。


「出来るかどうかわからないから期待はしないでくれ」

「何をするつもりか知らないが教えてくれないか?」

「それは――」


 アトラが錬達にボソッと呟いた。

 俺も出来るかどうかわからない、手段なので、あくまでおまじない程度の作戦だけどな。

 アトラは確信を持っているようだけど。


「そんな事が出来るのですか?」


 グラスが身を乗り出して聞いてくる。


「かもしれない程度だけど、出来たら戦況がある程度傾くだろう?」

「期待して……良いのですか?」

「そこまで期待しないでくれ。出来たらいいな、程度だとさっきから言っているだろ」

「わかりました」


 作戦は多いに越した事はない。

 まあ、大規模な作戦はクズに任せるんだけどさ。

 そう言えば……気になった事があったんだよな。


「グラス、お前は体力の回復を魂癒水で出来たよな。やっているのか?」

「ええ、イツキから提供してもらっています」

「グラスさんのお陰で窮地を何度か乗り越える事が出来たんですよ」

「それはこちらの台詞ですね」

「尚文さんはグラスさんの方の戦力も聞いた方が良いのでは? 何かの役に立つかもしれませんよ」

「グラスの所の勢力って、グラスの世界と離れていた頃に活動していた味方と言う奴か?」

「ええ、世界融合前の……私の世界で活動していた仲間達です」

「一人、僕達が本人かと間違えるような魂人が居るんですよ。ほら、国の暗部をしている方とよく似てまして、語尾が――」


 と、俺達はある程度打ち合わせをした。



 それから俺は城下町へ出て、暗い街並みを歩いた。

 武器屋に明かりが灯っている。

 もう時間は深夜を回り始めていた。

 店の奥から槌を叩く音が響いている。


「おーい」

「お邪魔しますわ」


 俺とアトラは店の戸を叩いて来客を伝える。


「なんでぇ。今は店じまいだぜって……アンちゃんじゃねえか!」


 武器屋の親父は相変わらずの様子で、接客してくれる。


「盾の勇者様! それとアトラさん!?」


 と、思ったらイミアとイミアの叔父も一緒だった。

 戦い続きで武器や防具を連日作っていると聞いている。


「戦場での事は聞いていたか?」

「おうよ。偽者かもしれないから城で見極めると聞いてたがその様子じゃ問題なかったみてえだな」

「色々と疑われてうんざりしたがな」

「はは、アンちゃんらしいな」


 まあ……俺が疑われるのはこの世界に来た頃を思い出すけど……。

 しかし俺らしいかと言われると首を横に振りたい。

 冤罪にしたってヴィッチが原因であって、あれが無ければ普通だろ。

 まあいい。


「それで? 親父の方はどうなんだ? イミア達もいるようだし」

「村の方はまだ大丈夫なのですが、戦争に出る方々の為に武具を作っている所です」


 武器屋の親父とイミアの叔父は名工だからな。依頼も来るか。

 で、イミア達がこっちに来ているのは技術とかその辺りの関係か。

 今や村の範囲だけで作る時ではない。世界の為にと。


 なんでも、城下町で一番大きな制作工房で昼夜問わず武具を作っているらしい。

 作った武具は最優先で勇者とその近くの人間に配られてから、下の兵士へと配給される形になっている。

 そう言えば、樹や女騎士とかサディナも高そうな装備だったな。

 今は空いた時間を個人で新しい武具の開発をしていたそうだ。


「そんな親父達にと、俺の世界の書物を持ってきた」


 俺の世界から持ってきた武具の書物を親父達に見せる。

 本当は長い旅の果てに風化してしまっていたが、この世界に来る前に力を使って再生させた物だ。


「へー! これがアンちゃんの世界の武器が書かれた書物なのか、いろんな物が書かれているな」


 文字が読めないだろうから絵が描かれている物を重点的に集めた。

 銃の構造とかの本が大半だけどな。

 もちろん、どんな構造をした武器なのか文字がびっしり書かれている物もある。

 時間があれば詳しく説明できるんだけど、明日には戦いに行かねばならない。


「俺の世界じゃ炭を練り上げて硬い物に変えると言う物もある。だから少しは役に立てるかと思ってな」

「ありがとうよアンちゃん。大事に使わせてもらうぜ」

「炭で硬い物ですか……服とか作れるかな?」


 イミアが何やら目を輝かせた。

 書物を食い入るように見ている。


「多分、俺が教えないと難しいと思う。明日からの戦いで、決着が付かなかったら……暇を見ては教えに来るさ」

「私達が世界を平和にしてみせますわ。それからゆっくりと、その書物を解析して、この店は繁盛すれば良いのですわ」


 アトラの言葉に俺も頷く。

 まったくだな。親父の店は戦いがあればある程儲かるかもしれない。

 だけど、本当は親父こそが戦いの無い世界を望んでいる人だと俺は思う。

 俺が荒れていた時から力になってくれていたからこそわかる。


「期待しているぜ。アンちゃんと虎の嬢ちゃん。ところで嬢ちゃんは何処だ?」

「ラフタリアは別行動中でな。元康を連れてくる最中だ」

「ああ、槍の勇者様か。随分前に見たが、大変だな」


 大変とは、元康について、だ。

 それは概ね同意する。

 親父もあの元康を見た事があるのか。

 ぶっちゃけ、誰が見ても変な状態だからな。

 ……元康の事はどうでもいい。


「あんまり根を詰め過ぎて倒れないようにしてくれよ」


 まあ、苦しい戦いも明日には終わると思う。

 もちろん敵の状況やラフタリアの到着次第で多少前後するだろうけど。

 だが、今日まで生き延びたんだ。過労で死ぬとか嫌だろう。


「わかってらぁ。な、お前達」

「は、はい!」

「はい」

「なんでぇお前等、アンちゃんのくれた本に夢中じゃねえか。俺も読ませろ!」


 とは言いつつ、この三人は俺の持ってきた書物を貪るように読みながら議論を始めてしまった。

 これで倒れられたら俺の所為になるのだろうか?

 ちょっと心配になったので、疲労回復の魔法を掛けておいた。

 そうして、程々にと注意してから俺達は城へと戻ったのだった。



 城に帰ると、城の入り口にある広間でメルティとフィーロが俺を待っていたのか、眠っていた。

 メルティはフィーロの上で座ったまま、寝ている。

 フィーロもフィーロでメルティを乗せたまま寝ている。

 きっと疲れていたんだろう。

 微笑ましいから兵士に毛布を注文して、フィーロ達に掛けてから近くで仮眠を取った。


 なんだかんだで忙しい。

 だがこの戦いも、もうすぐ終わる。

 安心して今はゆっくりと休んでくれ。


 この時、アトラが『初めて尚文様と合意の元で寝られますね』などとほざいたが、まあいいだろう。


 こうして、決戦の前夜は過ぎて行った。

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