歯痒さ
あれから一週間の時が流れた。
四聖武器書には少しずつ内容が加筆されている。
俺達には何かできる事は無いかと考えながら、四聖武器書は元よりストラップを弄ったり、何度も図書館に足を運んだりと繰り返したんだけど進展は無い。
どうすればいいんだと悶々とした日々を過ごしている。
「弟さんと武術の訓練をしてきますね」
ラフタリアは弟と庭で剣の稽古を始めた。
竹刀だけどな。
弟はラフタリアにコテンパンにされて悔しがっていた。
剣道とは色々と違うが、それでもラフタリアは達人の域だ。
むしろ教える側になっている。
俺も弟位なら軽くいなせると思う。
まあ今の俺達は武器が休眠状態なのか、持てる。
一週間の間に色々とラフタリアが俺の世界に来た事で起こる文化摩擦的な事件は沢山あった。
テレビや家電製品で驚くと言うお約束をしてくれはしたがー……想像よりは直ぐに適応した。
ま、何でも魔法で片付けられるからなぁ。あっちの世界って。
テレビも映像水晶と同じものだと思っていたらしく、普通に見てたし。
ただ、番組の内容には興味を見せていた。
映画とかもー……こんな時に不謹慎とは思ったけど見に行ったな。
映画を事実と勘違いとかしてほしかったけど、理解力があるラフタリアは映画を見て、創作物語か、もしくは俺と同じく異世界に召喚された者の記録とか思っていたらしい。
だからそこまで騒がなかった。
学部は違ったけど、大学も俺と同じで一応は顔を出した。
やはり皆、ラフタリアを当たり前の存在と認識していた。
実際の反応はこんなもんか……。
今じゃ俺の母親の家事を手伝っている始末。ラフタリアは洗濯と掃除を手伝っている。
何故か連日俺が飯作りをしているけど。
「あの、これは何ですか?」
ラフタリアが部屋から小さな信楽焼の置き物を持ってきて俺に尋ねる。
何でも、俺がラフタリアに上げた物だと弟は言っていた。
彼女に信楽焼をプレゼントとか、どんなセンスだよ。
「信楽焼」
「はぁ……なんかラフちゃんに似てませんか? 前にナオフミさ、んがラフちゃんにこう言った格好させてましたよね」
「あんまり似て無いだろ、まあさせたのは事実だが」
ラフちゃんの方が遥かに可愛げがあるし、ファンシーだ。
ぬいぐるみと置き物を一緒にされては失礼だろう。
「それで……なんで……」
ラフタリアが言葉に詰まっている。
何を指示しているのかはわかる。
「あー……うん」
信楽焼はなー……あそこが目立つよな。
ちなみに俺は見た事がないが、メスの奴があるらしいぞ。
「タヌキだからだろ、たぶん」
「タヌキ……」
「俺の世界の別の言葉じゃラクーンドッグと言う」
それを教えると同時にラフタリアは凄く渋い顔をした。
まあ、あんまり人気のある動物じゃないからな。
実際マンガやラノベでもタヌキを擬人化したヒロインって少ないし、有名なのはいない。
「つまりナオフミさ、んは私がこれだと?」
「いや、そこまでは言っていない。ラクーンという同じ名前の動物もいるって話だ。アライグマとも言うけどな」
俺はパソコンを操作してラフタリアに見せた。
調べてみると結構出てくるもんだ。
「ナオフミさ、んが時々私の事を見ながら何を考えていたのかわかったような気がします」
おや? 変な誤解が生じたような気がするぞ?
まあ、事実でもあるか。
「だから私に偽名を名乗らせようとした時にこれをイメージしたんですね」
「そうなるな」
「むー……」
あ、ラフタリアが膨れている。
そりゃあ信楽焼と比べられたら失礼だよなぁ。
「しょうがないだろ。亜人に似た動物がいるんだからさ」
「はぁ……わかってますよ。わかってますけど納得しかねると言いますか」
「それでこれはー……貯金箱みたいだな」
「そのようです。後ろにお金を入れる穴がありました」
チャリチャリとラフタリアは信楽焼の貯金箱を鳴らす。
何処で買ったんだろうか?
「……お父さんは、こんなに大きくなかったですよ?」
「は?」
「何でもありません!」
なんて事もあった。
他にも文字を少しずつ覚えたラフタリアが俺がトイレに行っている間にパソコンを弄っていて、ギャルゲーをしていた時は驚いた。
挙句、エロシーンのシーン回想を凝視していたのは戦慄した。
まあ、ラトの研究所にある石板の端末とキーボードが似ているからわからなくもなかったんだろう。
「ら、ラフタリア?」
俺の声が聞こえないのか、顔を真っ赤にしたままマウスをクリックしていたっけ。
全てを無かった事にしてしばらく時間を潰そうかと悩んだ。
しかしラフタリアも年頃だし……いや、年齢的にやっちゃダメじゃないのか?
こっちの戸籍では俺と同い年だけどさ。
「これが……」
「おーい」
「ひゃう!」
驚いたラフタリアが固まってそのままステンと椅子から転げ落ちた。
凄い慌てた様子であわあわしている。
気持ちはわかる。
俺もエロ本を見ている時に誰かが来たら相当動揺するだろうし。
「あ、ナオフミさ、ん」
「あんまり人のパソコンを弄らないでほしいんだけどー……」
「す、すいません」
既に手遅れな気がするけどラフタリアには部屋の漫画とか結構読まれてしまっているからな。
なんか熱心に読んでいる時があるんだ。
なんて書いてあるのか俺に聞こうとして、困っている感じだった。しかも弟に聞きに行くとか。
改めてみるとエロ同人だったりして、何処から持ってきたのやら。
と、思ったら弟から貸してもらっていたのが判明していたな。
人に同人誌を買って来てほしいとか言う癖に、純情なラフタリアに見せて何をするつもりなんだあの弟は。
当たり前のように人の部屋の同人誌やギャルゲーを借りて行くし。
とまあ……色々あった。
俺の黒歴史として記憶しておこう。
ラフタリアも良くやるとは思うけどさー……。
「ナオフミさ、ん……こっちで」
とか言ってギャルゲーのキャラクターの真似してベッドで寝ないでほしいんだが。
ゲームに影響されて同じ行動に出る所は異世界人なんだろうか。
なんだかんだで創作物から影響を受けるのはしょうがない。
それだけ純粋でもあるんだからな。
だからこそ、間違っていたら注意しないといけないんだけどさ。
「創作物なら良いけどリアルでされると萎える。サディナなら……まあギャグで済むけどラフタリアは、ラフタリアのままでいいから」
「そ、そうですか……」
なんか残念そうにしている。
割とラフタリアはアクティブだったんだなー……。
こういうのを俺が喜ぶと思って研究してくれたのだろう。
実際少し嬉しいような気もするが、方向性が間違っている。
なんかラフタリアが現代社会に汚染されているような気がしてきた。
大丈夫だろうか?
ってそこは……後で考えよう。
今は四聖武器書だ。
続きに関して説明しようと思う。
俺達を失った事で、樹や残してきた仲間達は悲しみに暮れたが、いつまでも泣いてはいられない。
女神は蘇らせた女王を指揮官にして転生者と共にメルロマルクに攻め入っているらしい。
クズの策略のパターンを知り尽くしている女王を操っている事と、相手が蘇った女王という事で、本気で策略を練る事が出来ない不調のクズとではメルロマルクが不利になって来ている。
眷属器の勇者達は確かに強力だけど、転生者はメディアに様々な能力を与えられ、より強力になっている影響で、戦線は不利となってしまっているそうだ。
物語としては弓の勇者とか杖の勇者とかで呼ばれているけどな。
樹は盾の勇者である俺の残した者と共に、最前線で戦っていると四聖武器書には書かれていた。
その中にはサディナやキール、ラフちゃんやガエリオンらしき記述もある。
ガエリオンは竜帝として扱われている。
文章では封印された応竜は世界が既に完全に融合してしまった為に役に立たないと説明が入っていた。
くそ……最終手段の切り時を間違えたと言う事か。
だが、世界人口の三分の二を犠牲になんて出来るものか。
日に日に疲弊して行っているのが文脈から読み取れる。
フィーロも頑張っているのが時々活躍する場面で載っている。
俺達が亡くなった事を一番悲しんでいた。
メルティがどうにか励ましているらしい。
今じゃメルティは指揮官として前線に赴いている。
どうにかして血路を見出そうとしているようだ。
それも結果は芳しくなく、今まさに前線が瓦解しかけている。
メルティに向けて転生者が向かっているシーンだった。
俺達には何もできない。
それがとても歯痒い。死んだ者は何もできないと言うかのようだ。
あの時から勇者の中で死者は出ていないみたいだけどどれだけ持つか。
あれだけ帰りたいと思っていた現実世界だけど、こんな物を見させられると、どうすればいいのかわからなくなる。
これまで日々で何かできる事がないか、模索する毎日を過ごしてしまっている。
ネットゲームはアレから繋いでいないし……あの世界に帰還出来たら皆の為に現代社会で手に入る武器をー、とか考えてしまう。
剣や槍、銃器って日本じゃ手に入らないだろ。
だから、代用案として本屋で様々な武器事典を購入した。
武器屋の親父に見せたら画期的な武具を作ってくれそうだからな。
他にもホームセンターなどで武器に吸わせられそうな物を無意味に購入したりしている。
ドリルとかあったけど、槍ってドリルか?
どちらかというと形状からして、樹の装備になりそうだけどさ。
錬達も俺達と似たような感じで、自分の世界で何かしているんだろうか?
アイツの世界はSFだからなぁ。
もしも再会出来たら凄い武器を持って来そうだ。
再会……出来るかな。
このまま、俺達は現実の世界で何もできずにいるんだろうか?
いろんな文献、その他諸々を調べたけれど、役に立つような情報は一切引っかからない。
異世界に転移した人間がいるかもと調べたが、まあ……見つかる訳もなく、創作物が限界だった。
似たようなゲームやストーリーの物は無いかとも思ったけど、結果は芳しくない。




