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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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フィロリアルの聖域

 アレから数日。

 海での波に関しては……まあ、順調に終わったとだけ報告しよう。

 錬がかなづちで哀れな所を見せてくれたとか、鯨みたいな大型の魔物相手にサディナが大活躍したとかあったけどな。


 杖の勇者であるクズは、場所を選ばない強さがあるなと改めて実感した。

 アイツ、杖の能力で大抵の魔法は使えるんだよな。

 ドライファまでしかまだ使えないけれど、オーラにしろダウンにしろ唱えられない物は無いんじゃないか?

 俺がリベレイションの唱え方を教えている最中だ。


「しっかし……」

「グア?」

「お前等は整頓と言う習慣は無いのか!」


 今、俺たちはフィトリアの馬車でフィロリアルの聖域にある神殿に来ている。

 過去の勇者が所持していた武具の数々をフィトリア達は持ってきてくれるのだけど、中にはがらくたの様な物ばかりな事もあるのだ。


 だから勇者達総出でフィトリアの聖域に行って必要な物を選別する事にしたのだ。

 クズは欠席している。なんだかんだでメルティの補助をするので大変らしい。

 ガエリオンと谷子も欠席している。


 でー……俺達が来たのは遺跡?

 周りは森で、廃墟の様な村の跡があって、その近くに神殿の様な遺跡がポッカリと空いている場所に出た。

 そういやメルティが言っていたな。

 フィロリアルの伝説だったかで迷いの森があって、その中では迷ってしまうとか。

 多分、ここはその迷いの森の中なんだろうな。


「ふおおおお! この聖域を楽園にしましょう!」

「グアアアアアアアアアア!」

「ふべ! なんのー!」


 元康がフィトリアに蹴られて吹っ飛ぶ。

 だけど大したダメージになっていないのか即座に立ちあがってフィトリア相手に追いかけっこを始めた。

 毎回毎回、何度その問答を繰り返すつもりだ。


 元康達を無視して俺達は遺跡内の調査をする事にした。

 それで、俺が整頓に関して文句を言ったのは、遺跡内に所狭しと、ゴミのような何かが転がっている事である。

 光り物が多いのは鳥だからだろうなぁ。

 フィーロが昔、宝物と称して集めていた物が思い出される。


「わーキラキラーいいなー」


 うん。こっちにも鳥が居るから、似たようなもんだな。

 ここはフィトリアの巣だ。

 転がっている光り物も珍しい宝石から安物の水晶まで様々だ。


「とにかく、整理するぞ」


 しっかし……どんだけ集めていたんだ?

 大きな遺跡と言うか神殿なんだが、まあ……言ってはなんだが、風情が無い。

 ダンジョンの財宝とかをイメージするかもしれないけれど、そんな感じじゃない。

 まるでゴミのように無造作に転がっているんだ。

 しかも鳥の羽が沢山落ちていて、小汚い。


「この際、羽根類を焼き払うか?」

「燃えたら困る物とかもあったらどうしますか?」


 ラフタリアの提案ももっともだな。

 この案は却下だ。

 とにかく、フィトリアの巣の中は長年の収拾によってゴミ屋敷になってしまっているのだ。

 ここにレアアイテムが眠っているかと思うと悲しくなるな。

 良い物があったら回収して分析する予定だから、選別して行くしかあるまい。


「じゃ、手分けして掃除を開始ー!」


 こりゃあ村の連中も連れて来るべきだな。

 そんなこんなでフィトリアの巣の清掃が始まった。


「これはー? なんかキラキラしてて綺麗だよ? すいしょうだっけー?」

「ゴミ! しかもクズ石じゃないか」

「えっと、これって珍しい鉱石だったはずだぞ? 尚文、どうする?」

「キープ、後で徴収する」

「なんで剣が転がっているんですか! 錬さん、これはどうですか?」

「ん? って……まだ持ってない剣だぞ、えっと……アスカロン? なんだこれ? 竜特攻だ」


 どっかで聞き覚えのあるような剣の名前が聞こえたような気がするが、作業続行だ。

 というかガエリオンとかが来なくて良かったな。


「なんで槍が布で縛られて吊るされているんですか? 元康さん取ってください。羽根を拾って嗅ぐのは後にして」

「わかりましたぞ! ふぬ! 取れませんな」

「ではコピーしたら良いのでは?」

「そうですな! ビーストスピア? おっと、オートで動きますぞ、便利な槍ですな」


 色々とやばい物が見つかっている気がする。省略しよう。

 そんな感じで色々とレアアイテムとゴミが混ざっていた。

 毛玉は……うん。家の鳥と同じだ。

 本人に処分させた。


「ドラゴンの骨とかも転がってんなー……とりあえず徴収して置くか」


 風化した骨まであるぞ……どんだけの歴史がここに転がってんだ。

 しかも壊れていないのならまだいいが、大半が長年の風雨にさらされたりして、風化した物ばかり。


「これ……」


 遺跡の一室で、教皇が使っていた武器が転がっている。

 これ……レプリカだよな。

 なんでこんな物まで転がってんだ。


 再利用を考えたが……難しいだろうなぁ。

 魔力の出力とか必要らしいし、一応は城に運び込んで、親父に解析させてみるか。

 ちなみにコピーしたのだけど、別の盾が出た。


 古代の盾って奴だった。

 効果は……あんまり高くない。

 魔法防御が上昇する解放効果があるくらいだ。


 それは錬達も同じで古代のシリーズだった。

 こっちは魔法妨害と言う状態異常が掛けられる武器らしい。

 便利と言えば便利だけど対人用だな。


「まったく……ゴミが多くて困る。奥はどうなっているんだ?」


 俺達は遺跡の奥深くへと進んで行った。

 やがて、祭壇の様な場所へ辿り着いた。

 ここまで来るとゴミは落ちていない。

 地面は石造りで時計を捩った装飾が施されているように見える。


「なんか重苦しい感じですね」

「そうだな」

「いやはや、フィロリアル様のお家は不思議がいっぱいですな」

「元康、勝手に前に出るな」


 元康の奴が時計の真ん中に立って槍を地面に突き立てる。

 するとカチッと音がした。

 ゴゴゴゴゴゴゴ。

 嫌な感じの地響きが……。


「元康!」

「な、何が起こるのでしょう!」

「知らん! 流星壁!」


 念には念をと流星壁を唱え、元康と取り巻きのフィロリアル以外を守る結界を展開する。


「フィトリア、何か知らないか?」

「グア?」


 首を傾げるなよ。

 ほんと頼りにならない奴だな!


「お? お? おおお……」


 元康が槍の柄を差し込んだ穴から光が溢れだす。

 そして……残滓を残して槍に吸い込まれていった。

 ……。


「ふ、ふぇえ……な、何があったのですか?」

「さあな」


 それ以上の変化は無いように見える。


「元康、何かあるか?」

「そうですな……龍刻の長針と言う槍が出現しましたぞ」


 元康が、槍の形状を変える。

 細い槍だ。

 シンプルと言えば聞こえはいいが……武器名もあって古臭い時計の針みたいだな。


「じゃあここに武器を差し込むと効果を満たせると言う奴か?」


 俺は試しに、元康が差し込んだ穴の周りを探しながら嵌めてみた。

 しかし何も起こる気配が無い。


「もしかしたら先着一名って奴?」


 錬も試しつつ尋ねる。


「元康!」

「し、知りませんぞ!」


 まあ、あんな所に武器を差し込むとか、普通はやらないからわかりようも無いか……。


「はぁ……もう良い。とりあえず、この先へ行くぞ」


 魔物とかはいないみたいだ。

 というかフィロリアルの縄張りなんだから、その親玉であるフィトリアが居るのなら出会っても問題は無いか。

 罠は、あるみたいだけどな。


 古典な転がる岩とかー……針天井とかあったけど、大抵流星壁でどうにかなるし、罠は勇者の前では無力だったな。

 流星壁に阻まれて、岩が止まった時は笑いかけたぞ。

 ま、後は謎解きとかあるかと疑ったが、そこまでの仕掛けは無かった。


 遺跡の最後には、なんかー……魔法で浮かんでいる石室があった。

 浮かぶ石……グラウェイク鉱石だったか?

 で、作られた階段を上り、その先にある部屋に辿り着いて中を確認する。


 ……何だろう。凄く重苦しい空気が石室の中にある。

 魔力がここから漂っている気がした。


「で? ここまで雰囲気が出ている所には何があるんだろうな?」


 フィトリアの家と言うか遺跡の奥には……小さな小瓶が浮かんでいた。その背後には……何だろう?

 猫の様な生き物に羽根が生えている姿? みたいな壁画が描かれている。

 聖武器の絵もあるようで……眷属器もあるなぁ。光っている演出がある。

 手に取るとフッと浮力を失って、落ちる。


 中には血のように赤い液体。

 匂いを嗅いでみても、血のような匂い……か?

 何だろう。


「聖杯か?」


 この手のファンタジーにはあるよな。

 過去の聖人の血がーってパターン。


「グア」

「違うそうですよ」


 みどりがフィトリアの声を代弁する。


「じゃあこれはなんだ?」

「グアグア」

「えっとー……良くわからないそうですが、毒物らしいです。前にフィトリア様は勇者に呑むように指示されて飲んだ所、苦しくなったそうです」


 毒ねー……目利きを作動させても何かわからない。


「その時の勇者曰く、一口は永久の苦しみ、二口は永劫の孤独、三口飲んだら……恐ろしい末路があるそうです」

「へー」


 とりあえず、そんな毒なら要らないか。

 というか、大層に毒をなんでこんな所に置いておくかね。

 一口フィトリアは飲んだ事あるんだろ?


「グアグア!」

「思いだした。一滴ずつ、素材として武器に垂らせと言われていたそうですよ」

「毒物を?」

「はい」


 まあ……過去の勇者が残した不思議な液体なのかもしれない。

 無視したい所だが、無視するのはさすがにまずいだろう。


「元康」

「なんですかな?」

「さっきの罰だ。試しに武器に吸わせてみろ」

「わかりましたぞ!」


 俺は小瓶を傾けて一滴、元康の槍に垂らした。

 どろりとしていて、良い感じに一滴だけ落ちたのは魔法が掛っているのかもしれない。


「お? 0の槍と出ましたぞ」


 0?

 数字の0か?

 元康は確かに数字の0を刺した。


「どんな効果がある?」

「専用効果は理の審判者、世界の守り手とありますぞ。解放にスキルもあります。0の槍とそのままですな」


 ???

 いや、まあ普通の槍が出た訳か?


「能力はどうだ?」

「オール0ですぞ!」

「はい?」

「ですから、何も能力上昇しませんよお義父さん」

「えっと……呪いとかは?」

「カースシリーズでも無いようですぞ」


 ふむ……元康で試したが大丈夫そうだな。

 俺も盾に一滴垂らす。


 0の盾の条件が解放されました!


 0の盾(覚醒) 0/0 -

 能力未解放……装備ボーナス、スキル『0の盾』

 専用効果 理の審判者 世界の守り手

 熟練度 0


 ふむ、元康が言う通りの効果の盾が出現した。

 そして言うとおり、全てが0でスモールシールド以下の盾だ。


 何だ、これ?

 試しに変えてみる。

 見た目はスモールシールドそのままだった。


「0の盾」


 スキルを使った瞬間。光が発生し、盾が輝く。

 おお……見た目はカッコいいな。後で試してみよう。

 特におかしな効果は無いみたいだし、問題はない。

 この盾自体は弱過ぎて使えないけれど効果は優秀かもしれない。

 ゲームなんかじゃそういう武器や防具が登場する事もあるからな。


「ま、フィトリアが全員にと言うのなら、みんなの武器に吸わせるのが一番だろ」


 こうして俺たちはそれぞれ小瓶の中身を一滴ずつ武器に吸わせた。

 みんな同じ0シリーズが出現し、同様の効果だった。


「フィーロは飲んでみるか?」

「えー……毒なんでしょー? いやー」

「ま、そうだよな」


 毒と知ってフィトリアに飲ませた過去の勇者って何なんだろうな?

 実は嫌われていたんじゃないか?

 フィーロに飲んでみるか勧めた俺が言うのもアレだが。


「グア!」

「えー……いやー」

「なんだって?」

「えっとねー。フィーロがフィトリアの後を継ぐ時に飲むんだって」


 毒を?

 恒例というか継承の儀式に組み込むなよ。

 とは思ったが、黙っておこう。

 そんで掃除を切り上げて帰ってきたんだけど、ガエリオンが小瓶を持つ俺に近寄らなかった。


「キュア!」

「どうしたんだ?」


 俺が近づくとそのまま下がる。


『ち、ちかよるな! 汝から嫌な、背筋が凍りつく何かを感じる!』


 俺は小瓶をラフタリアに渡してガエリオンに近寄ってみた。

 するとガエリオンはそれ以上下がらなかった。

 どうやら、竜避けの毒みたいだ。

 面白い道具だけど、勇者全員の解放をさせたらフィトリアが返してほしいと頼み込んできたので、返却した。


 それで報告なのだが、この0の盾と言うスキルと言うかシリーズか。

 見せかけのネタスキルだった。

 解放させた後、発動させて魔物の攻撃を受けたのだけど、何も起こらないし、耐えない。

 一瞬で壊れる。


 ラフタリアの『0の槌』ってスキルやフィーロの『0の爪』ってスキル。

 見た目が派手だけど、魔物にかすり傷一つ負わせられなかった。

 手加減とか関係なく、ダメージも0のスキルらしい。


 ラフタリアのは光に……と叫びたくなるような派手なエフェクトだったんだけどなー……。

 クールタイムも0で、消費SPも0。完全にネタスキルだな。

 こんな物を勇者の武器全部に回す必要。あったのか?


 ま、そんな訳でフィトリアの家の掃除と言うか、長い歴史の中に眠る古代の武具発掘は終わった。

 結果として、中々優秀な装備とかを見つけたから良いだろう。

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