人生の墓場
「キール」
錬と女騎士が去った事を確認してからキールに話しかけた。
「なんだ兄ちゃん?」
「お前は好きな相手はいるのか?」
「ナオフミ様。まだその話を続けるのですか!?」
「そうだなーイミアちゃんが好きだな」
「イミアね」
同性だろ。イミアも大変だな。メルティと同じ苦労を背負いこみそうだ。
フィーロの生々しい繁殖講座を直接聞いているから、意味は知っているはずだ。
そもそもキールの好きは友達の好きだろ。
「呼びました?」
イミアが食堂で談笑していた所、キールの声で近づいてくる。
……聞くべきか?
ここは確認をちゃんと取っておかないと色々と大変な事になりそうだ。
ああ、後悔しないようにと気を使った結果、仲が悪くなる危険性も孕んでいるのか。
うん。注意しよう。
「ナオフミ様、また何か考えてますね」
「領主の自覚に目覚めて考えていると思ってくれ」
「堂々と言えば良い問題なんですか?」
多分、間違っているだろうな。
とは思うがやめない。
村の連中の責任は取るつもりだ。
俺が帰った後の事を考えなきゃいけないし……城での事もある。
「キールがイミアの事を同性でも好きなんだってさ。まあキールは漢を目指しているから良い旦那になるかもな」
「え!?」
「ち、ちげーよ! そう言う意味で聞いたのかよ兄ちゃん!」
「なんだと思ったんだお前」
「兄ちゃんの事だから、村の中で誰と一番仲が良いと聞いてきたのかと思ったんだ! 後悔しないようにってのは喧嘩するなとかの意味だと思ってた」
ま、そうだよなー。
でも会話の前後で察しろよ。
「じゃあ男じゃ誰が好きなんだ? お前は自分の性別に関して自覚しているのか?」
いまいち、この辺りの話題は、今の俺でも少し嫌な気持ちになるが将来は考えるべきだ。
じゃなきゃ……。
ああ、俺はまだ引きずっているんだなと自覚する。
それでも前みたいに自虐的な事は考えるつもりは無い。
「と、突然どうしたんだよ」
「一応な? 世界が大変だから後悔しないように生きろと注意したくてな」
「兄ちゃん変わったな」
「そうだな……」
自分でもそう思う。
思えば恋愛禁止なんて言っていたし、アトラの求愛を拒んでも居た。
全てはヴィッチと俺が悪い。
「そうだなー……兄ちゃんはラフタリアちゃんと仲良いしー……」
チラッと目を向けるキールにラフタリアは、微妙な顔で応じる。
「兄ちゃんが一番だけど、次はフォウル兄ちゃんだな」
「フォウルがか?」
「うん! フォウル兄ちゃんカッコいいじゃん」
そう言えば、キールはフォウルの獣人姿をカッケーと連呼していた。
ふむ、キールの元気さはアトラを失ったフォウルの心の隙間を埋めてくれるかもしれない。
「ナオフミ様、この話はそろそろやめて下さりませんか? なんとなく嫌な予感がしますので」
「よしキール! 俺が許そう。フォウルと一緒に寝てこい! アイツは今寂しいはずだ。その寂しさを癒してやれ!」
「わかったぜ兄ちゃん!」
キールがふんどし犬モードでフォウルの方に駆けて行く。
あいつは無邪気で良いな。フィーロと同じ微笑ましさがある。
「ああ、もう……余計な誤解がまた一つ」
「フォウルには元気になってほしい」
これは俺の願いだ。
アトラを守れなかった俺はフォウルを幸せにする義務がある。
フォウルは村を守ることを使命にしているけれど、その使命を優先し過ぎで、自身の幸せを忘れて貰っては、アトラに顔向けできない。
そのフォウルは婚約とか考えて無いみたいだけど、相手がメルティだったからだろうしな。
「後で何かあっても責任は持ちませんからね」
「責任を持つのは俺だ」
フォウルはこの村でアトラのように守りたい特別な誰かを見つけて欲しい。
「次はイミアか」
この際、村の連中みんなに確認を取っておく必要はあるよな。
サディナじゃないけど、いずれ……な。
「な、なんでしょう?」
「イミアは好きな相手はいるのか?」
「えっと……その……」
頬を染めたイミアが両手でもじもじとさせて下を向いている。
え? イミアの好きな奴って俺か?
まあ、ラフタリアとほとんど同じ経緯で俺の所に来た訳だし、不自然ではないのか。
しかも定期的に一緒のベッドで寝ていた。
フィーロと同じくもふもふ枠だった訳だが、変に意識させてしまった感じか。
「その……えっと……その……」
「盾の勇者様、どうしました?」
どうも立て続けに人が寄ってくるな。
見たらイミアの叔父だ。
「ああ、イミアに誰が好きか聞いていてな、イミア、その態度は、好意的に受け取っていいのか? 俺は誰か一人の物になる事はできないし、最終的には元の世界に帰るけど、それでもいいのか?」
「えっと……はい」
顔を真っ赤にしてイミアは頷く。
すると事情を察したイミアの叔父がご機嫌で手を叩いている。
「そうかそうか! イミアも立派になった。俺は鼻が高いぞ」
「ちなみに、お前は村で人気あるよな。結婚は考えて無いのか?」
俺の問いに、イミアの叔父が固まる。そしてギギギと俺の方を見た。
何を言っているんだ? って目をしている。
「だから、お前のこの先の身の振り方だ」
俺は知っている。俺に隠れて、村では人気ランキングをしている事と、その人気ランキングにイミアの叔父が上位入賞している事を。
「自分はこれっぽっちも知りませんでしたし結婚なんて考えてませんよ!」
「とは言っても、お前、人気高いらしいぞ。鍛冶仕事に惚れている層でも居るんだろ」
「え!?」
「そうだったんですか?」
イミアが両手を合わせて祝う。
「俺もお前には色々と褒美を与えたいと思っているんだ。自由が欲しいとかなら喜んで与えよう」
それに見合う活躍はしている。
武器にしろ、何にしろ、村での作業に使うのはコイツが一番作っている。
「だから、結婚とか何処かに行方不明の妻が居るとかなら探すが?」
「叔父さん、そんな話とか全然無いよね? 顔は良いのに」
「じ、自分は仕事一筋で、み、みんなが良ければ――」
自覚無し系? 鈍感属性持ちだったのか。
面倒見が良すぎて自分の婚期が遅れるタイプ。
アレだ。良い人だよねで終わっちゃう感じ。
「イミアは誰か知らないか?」
「うーん……」
このモグラが何故人気があるのか。
多分、理由は俺と同じだよな。
俺は飯作りでー……コイツは武器作り。
人気ランキングに俺が居ないのは飯作りはどちらかと言うと家庭的だからだろうしな。
外見も関係あるのか? イミアの基準と言うか亜人基準だと顔が良いみたいだし。
村の連中の中じゃ高齢だ。
サディナと同じく、頼れる大人として親しまれている感じだ。
と言うか何才なんだコイツ?
武器屋の親父と同期らしいからな。
親父は見た感じ三十後半くらいだろ?
それと同じなんだから、それなりの年齢なんじゃないか。
「ま、波を乗り越えるのが先だから、あんまり現をぬかされると困るから程々に……だな。それでも俺は村での恋愛は寛大に許そうと決めたんだ。みんなに伝えておいてくれ」
「……わかりました」
事情を察してイミアの叔父は頷く。
「それともお前……男色?」
「ち、違いますよ!」
鍛冶は男の世界とか言うつもりなのか?
同じ種族の集落に居た時は金物屋みたいな事をしていたらしいし……確かに鍋とか作るのはとても上手だ。
子育てが大変だったとか言っていた覚えがある。
大家族の一員だったのだろうな。だから自身の恋愛よりも他の事を優先する性格になったとかか?
奴隷狩りで一族離散して、大家族みたいな俺の村にやって来て、する暇もなかったのだろう。
「ま、そんな訳で気楽にな」
「何から何まで、盾の勇者様には頭が上がりません」
「言うなよ。これからも色々と頼む物が増えると思うしな。あ、後、誰でも良いから勇者について行ってLv上げをしておけよ。お前のLvが上がる事でも作業がやりやすくなるだろ?」
最近ではLvの高い魔物から取れる素材で新しい武具を作らせるようになってきている。
やはりLvの高い魔物からはそれ相応の素材が取れるので、村の連中の武具を一新しなきゃいけなくなってきているからなぁ。
イミアの叔父は今、Lv40で止まっている。今まではそこまで必要無いと断っていたけれど、世界基準で言えば危険な領域だ。
しかも力仕事だからな。Lvが高い方が得だろう。なんで後回しにしていたんだ。
「頼りにしている。今後も頑張ってくれ」
「は、はい! 盾の勇者様の為、頑張ります」
「わ、私も!」
ルーモ種の連中は頑張り屋ばかりで助かるなぁ。
イミアも最近じゃ武器屋の親父に負けない防具を作る時があるんだ。
俺がアクセサリー作りを教えたのも関係があるのかな?
今は少しでも戦いに備えて行くべきだと実感した。
「さて」
武器屋の親父も俺が良く使っている事も然ることながらここ最近の発注で儲かっているし、国からの依頼とかもあるらしく。城の中で顔を合わせることがある。
相変わらず気の良い親父だけどな。
今の所は武器屋の親父には霊亀や鳳凰の素材で勇者の武器を作ってもらっている。
合計12人も居るから大変だ。
近々麒麟の素材も運び込まれるのだから、ますます大変になって行くだろう。
金銭もある程度折り合いを付けなきゃいけないなぁ。
ああ、そうそう。馬車の強化方法で手に入った魔物をドロップ時金銭獲得なんだけど、あくまで強化に使うポイントであるだけで取り出せなかった。
思いのほか稼げないし、あくまで補強程度だな。
他に新造した銀貨を盾に入れたのだけど銀製の素材を入れた盾にしかならず、銀を素材として盾に入れたとなった。
どうやら市場に流通した物でないと強化のポイントとして使えないらしい。
厄介な事だな。
「兄貴ー!」
なんて考えているとフォウルがキールを抱えて俺の家に入ってきた。
「ど、どうしたんですか?」
「聞いたぞ、俺が寂しがっているから添い寝して来いと言ったそうだな!」
「まあな」
「兄ちゃん、フォウル兄ちゃん元気になったぞ!」
どやぁ!
って顔のキールがフォウルに抱えられている。
なんとも楽しそうな光景だ。
「ああ、やっぱりこう言う事になりましたか」
「ラフ?」
フィーロは城でメルティと一緒なので、村にはいない。
今度ラフちゃんの部屋を作らないとな。
「フォウル兄ちゃん、やっぱカッコいいよな。また変身してくれよ!」
「そんなのは後だ!」
「ええ、カッケーのに」
「良いから静かにしてろ!」
キールは元気だなー……フォウルを善意でからかってるのがなんとも間抜けな光景だけど。
意外にこの二人は息が合っているんじゃないか?
「フォウル」
「なんだ!」
「お前は、幸せになる権利があるんだ。クズもそう思っているからこそ、メルティとの婚約を提示したんだし、誰か気に入った相手と交際しているように見せないとな」
思わせぶりに俺は止める。
「見せないと?」
「多大な干渉をしてくるぞ。おそらく、お前の叔父が。その為に俺は気を使っているのに……」
フォウルの顔色が青くなる。
クズは苦手なのか?
ああ、まあ似た者同士見たいだから気が合わないと思っていた所を相手が親しげに近づいてくるから怖いのか。
親戚のおばさんに見合い写真を紹介されるような恐ろしさがあるのかも。
と言うか、俺の所為なのか村の奴隷共で男はなんか結婚を墓場だと思ってしまっているような気がする。
……ああ、俺がヴィッチに騙された経緯を腹立ち混じりに話していたからなぁ。
女は気を付けろ、身近な奴でも信用はいけない。人生の墓場だ。
例え貴族でも、結婚をしたら女の奴隷になるのが世の常とか……教え込んでしまった。
異世界なんだから男優遇でもあるだろ。
とは思うが、女系王族のメルロマルクで何言ってんだ。
貴族でも男が多い気がするけどな。俺の村じゃ貴族になんてそう滅多に会う事は無いか。
行商で貴族相手に会話くらいはすると思うけどー……他人を見たら利用するべき存在だと教えてしまった。
……結構、やばくね?
うん。再教育をしなきゃいけない。
まあ、ラフタリアやキール達、サディナの良心に期待しよう。
「どうしたんだ兄ちゃん達?」
「わ!」
フォウルが抱えていたキールを落とす。
そんなに怯えるなよ。
「あ、アトラはそんなんじゃない。そんなんじゃない! そんなんじゃなかった! 俺の知っているアトラは利用するだけ利用してポイ捨てはしない!」
「……してたろ」
お兄様、近寄らないでください、とかなんとか。
薬を買ってもらっていたのに、俺にべた惚れで近づいていてフォウルを邪険に扱っていたぞ。
ああ、そう言う側面を無意識に理解していて、女性恐怖症でもあるのか。
「フォウル」
「なんだ!」
「幸せな家庭を築くことを俺は願っているよ」
「ナオフミ様、脅えさせたいのか応援しているのかどっちかにしてください!」
いつもの様にラフタリアが突っ込んだ。




