ソウルイーター
ヴィッチと女共は悠々と歩いている。
ああ、こりゃあ自分は絶対に処刑されないって思っているな。
思いっきり挑発的に俺の方を見ているし。
この場で殺すか?
まあ、どうなるか知っているから黙っているけどさ。
「マルティ!」
タクトの口を封じていた布が取られる。
「あら? 偽者、女達が殺されて哀れね」
「マ、マルティ!?」
「気易く私に声を掛けるんじゃない!」
ガスッとヴィッチがタクトの顔面を蹴り飛ばす。
「ふぐ――な、何を」
「貴方に騙された所為で、とんだ災難に巻き込まれたわ!」
他の女もタクトの顔面、手足、股間を蹴ってはあざ笑う。
最低最悪な光景だ。
これを考えた奴は頭がおかしい。
「そ、そうか! 俺を罵倒すれば、君達は――」
「黙れと言っているのよ。汚らしい!」
本気で蹴り飛ばすヴィッチにさすがのタクトも疑惑を隠せないようだな。
タクトの勘は間違っていない。
もちろん、半分だけな。
「マ、ルティ?」
「だから言っているじゃない。貴方の様な下賤な輩が私に話しかけないでと、私のパパは今や世界で一番強い軍の首脳陣なのよ。逆に偽者は何? 敗戦国のトップ。この違いがわかる?」
「そ、そんな」
ヴィッチがクズの方を見て呟く。
「よくも騙してくれたわね」
「偽者の癖に、偉そうに……」
「みんな、あんたを信じて死んでったのよ。この人殺し!」
「世界の事を考えている振りして自分の事しか考えてないのよ! この冷血漢!」
「変態! 外道!」
「お前の所為でどれだけの人間が死んだと思ってるのよ」
お前が言うな! ヴィッチ。
思わず怒鳴りたくなった。
女共は各々タクトに向かって口汚く罵っている。
この後どうなるか知っている俺ですら不快な気持ちになった。
「私達はお前に騙されていただけ。だから……何の罪も無いの。その証拠として、こうして痛めつけているのよ」
へらへらと笑いながらヴィッチとタクトの元取り巻きの数人がタクトを拷問して行く。
処刑人に命じて指を一本一本折らせてせせら笑う。
クソ共が。
「ぐ……い……この悪魔め……そんなに」
タクトの奴、ヴィッチが本気で甚振って笑っているのを理解したのか、目がさっきとは別の意味で死んでいく。
「こ、これは……」
あー……何言ってるかわかるぞ。
夢とか言うつもりだ。そして夢だと思いこみながら俺を睨む。
そして叫んだ。
「こんな筈は無い! 絶対、こんな事が起こるはずが無い。夢に決まっているんだ! 夢じゃないとしたら……おい! 来ているんだろ! やり直しを要求する! 絶対に生き返って奴等に報いを受けさせてやる」
処刑を傍観している勇者全員、この場合、俺とクズとグラスを指してタクトが高らかに宣言した。
……潮時だな。
「残念ですが、貴方は死んでも生まれ変われません」
グラスが立ちあがって、宣言する。
「何?」
「貴方が神と信じている方がどのような者かは我等もしりません。ですがその神の尖兵である、貴方とその仲間達が再利用されてはこちらも困るのです」
そう言えばグラスって大事な局面だと自分称が我に変わるんだよなぁ。
ってどっちでも良いか。
頃合いだな。
処刑台の下に指示しておいた。
とある魔物の鎖を持ったグラスの世界の処刑人が出てくる。
そのとある魔物とは――ソウルイーター。
字の如く、魂を喰らう魔物だそうだ。
グラスの世界で信じられている魂の転生概念を滅ぼす為に使われる、魂を喰らい、転生を阻害する魔物を飼い慣らしたのが、このソウルイーターだ。
俺達も戦って負けていれば魂を喰われていたのかもしれない。
そう思うとゾッとするな。
俺は直接戦った訳ではないが、錬達がこの話を聞いた時、青い顔をしていた。
なんでも波から現れたソウルイーターとは別種らしいけどさ。
「ガアアアアアアアアアア!」
ちなみにこのソウルイーター、この処刑場内に何匹も用意されている。
そして指示の内容はこの処刑場で殺された者の魂を喰らうというものだ。
「この魔物に死んで魂を喰われたら……貴方は転生、出来るのでしょうかね?」
タクトの表情が、みるみる青ざめて行く。
そりゃあそうか。
夢、もしくはやり直しが出来る、更には神に再会して俺達に復讐する力を授けてもらうとか、浅い考えをしていたのだろう。
それが、魂を喰らう魔物の餌にされると知ったらどうなるか?
次があると思うからそう言った甘い考えが浮かんでくるのだ。
「さて」
「や、やめろ!」
正真正銘。タクトの番となる。
えっと? 回復魔法を繰り返しながら、タクトにはこれまでに処刑された女共の処刑を追体験してもらうんだったか。
どんだけ苦しめる事を優先するんだ?
とは死刑にした俺が言う必要も無い。
もはや俺だけの復讐ではないのだ。
鳳凰で無意味に散っていった連合軍の者達。
既に殺されていたゼルトブルの勇者と、そのメンツ。
そして数多に消えた名も知らない勇者達とその輩出国。
フォウルの言葉じゃないが、お前の命なんてこの世界の誰よりも軽いんだろうしな。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア! うぐゥウウウアアアアアアアアアアアアアアアアああああ!」
とまあ、タクトの処刑が始まった。
やがてボロボロになったタクトの近くでソウルイーターがまるでサメのようにくるくると、上空を旋回している。
「じゃあね。あなたと会って少しはお礼も言いたい所もあったけど、人を所有物みたいにしている所と、恩着せがましい所と、周りの女達が気持ち悪かった所為で台無しね」
何故かヴィッチが纏めている。
台無しだ。
少し哀れな最後だと同情していた気分が一気に冷めた。
「あああ……」
もはや声さえ紡ぐことのできないタクトが白目をむいたまま、四聖教会の神官達の唱える儀式魔法によって処刑される。
「さようなら」
儀式魔法『裁き』と『焔』によって、跡形も残らずタクトは処刑された。
「さて、あの偽者の魂は何処だ?」
ソウルイーターシールドとかにしたら見えそうだけど、一応グラスに聞く。
「あそこです」
グラスが指差すとソウルイーターが一箇所に集まって何かを貪っていた。
へー……あれがねー。
しかし魂さえも魔物の餌とは、異世界とは恐ろしいな。
「さ、偽者を処分するのに協力したわよ。早く解放しなさい!」
一仕事終えたとばかりにヴィッチと数名の女共は告げる。
「ああ、そうだったな……やれ!」
俺の宣言と同時にヴィッチを除く女共に魔法と矢の嵐が巻き起こる。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「な、どういう事よ」
「お前さー……俺の目の前で、お前の存在が許される訳ないだろ?」
そう、どうしてヴィッチがタクトを裏切っていたかと言うと、話は少し戻る。
処刑数時間前、タクトの女共は一か所に集められて、こう尋ねられた。
「お前達は本当にタクトと言う勇者を騙る偽者と親しい間柄なんだな?」
忠誠心の高い女共は頷く。そうでない者はあやふやな返答をするのが常だ。
必ずしもタクトの仲間の全てがタクトに盲従していた訳では無いという事だ。
「私は違うわ!」
そこで真っ先に異を唱えるのがヴィッチと言うクソ女である。
「私はママを……あの偽者に殺されたの。そしてパパはあの偽者が作った新兵器を次々と撃破して行った英知の賢王なの!」
「この裏切り者!」
「恥知らず!」
「恩を仇で返すのか!」
ヴィッチは女共に袋にされた。
もちろん、その光景は後で俺も見させられた。
生き汚い奴だよな。ヴィッチって。
「ほう……では、あの偽者の仲間では無い事を処刑時に宣言するが良い。違うのなら、生かそう」
と処刑人は言われた通りの事を宣言した。
女共はヴィッチを最初罵ったが、一部の者は我が身可愛さにヴィッチと一緒になってタクトを罵倒する事で生き長らえようとした、と言うのが実情だった。
尚、先程まで処刑されていた連中は最後まで裏切らなかった奴等だ。
「パパ! 私は悪くないわ。利用されていただけなのよ! やっとあの豚王から解放されたと思ったら外道な偽勇者に捕えられていただけなのよ!」
演技の入った嘘泣きでヴィッチはクズに語りかけた。
クズはその様子を切ない気持ちで見ているのか、手が震えている。
ここで生かすなんて真似をしたら、遺恨が残る。
これまでの戦いに関わった全ての者が許すはずもない。
なにより俺が許さない。
今度は絶対に逃がさない。
豚王の時みたいに、確認を怠ったりもしない。
目の前でしっかりとヴィッチの最後を確認すると決めている。
そしてクズは意を決したように、立ちあがって。
「その恥知らずを今すぐ処刑せよ! その者は亡き第一王女の名を騙り、女王陛下を殺した者の関係者! 許されざる国賊である!」
「パパ!」
クズは決別したかのように宣言。
ヴィッチは処刑人に取り押さえられ、十字架に磔にされて足もとに薪と火をくべられた。
「いや、あつ、いやぁあああああああああああ!」
徐々に火が大きくなり、ヴィッチは火傷を負いながら叫んだ。
ふ……あんまり居心地の良くなかった処刑だったが、ヴィッチの叫びを聞くとスッとしてくるな。
これは俺も狂っている証拠だな。
ヴィッチは肉体はもちろん、魂もソウルイーターに喰われた。
こうしてヴィッチは俺の目の前で正真正銘、息絶えた。




