強化方法【下】
「次!」
は、谷子か……。
チラっと谷子に視線を向けるとブスっと話したく無さそうな顔をしている。
勇者になるのを嫌がっていたからな。
しかもタクトが使っていた鞭の勇者だ。
「……」
「話せ」
「キュア?」
「えっと、ヘルプだと資質を向上させるんだって」
「奴隷使いシリーズや魔物使いシリーズみたいな?」
「うん。伸びるステータスを指定できるみたい。しかも自分だけじゃなくて相手の許可さえあれば仲間も出来るんだって」
「ほう……」
便利だな。
Lvアップの能力を更に引き上げられるのか。
「但し、使うとその分、Lvが下がるから計画的に使って行かないと危ないって」
一応は、便利ではある。
Lvを犠牲に資質を伸ばせると言うのは、下がった分追いついた時に更なる向上が望める。
まあ、世界中が波で活性化してしまっている現在、Lv上げは簡単かもしれないがな。
なんとも鞭と言うと魔物を使役するイメージの強い武器らしいな。
実行しようと思うと、簡単に出現した。
試しに体力の資質を上げてみよう。
Lvをどれだけ下げますか?
というアイコンが出現。
……とりあえず保留しておこう。
下げ過ぎて魔物と戦えなくなったらLv上げ所じゃない。
「でー……最後は」
「グア?」
鳴き声の安定しない、フィロリアルの現女王な訳で……。
「みどりー」
メルティが瞳を輝かせて再会を喜んでいる中、翻訳させる。
コイツ、本当は喋れるんだけどさ。
喋るまで説得する方が面倒そうだ。
これでどこぞの鳥と同じ様にバーンってねー! なんて言われたらたまったもんじゃない。
「グアグア」
「えっとですね。フィトリア様曰く――」
「ぬおおおお!」
「グアアアアア!?」
「フィーロ!」
「うん!」
「はう! フィーロたんの蹴り、嬉しい!」
まったく、この槍野郎、いい加減にしてほしいもんだ。
爪の勇者になったフィーロの攻撃にうっとりと悶えている元康を余所に話を続けさせる。
「続けろ」
「もとやすさん……その、武器に入れたアイテムの種類が一定の数字を超えるとステータスに補正や能力を授かるそうです」
「出現する武器のボーナス以外に、だよな?」
「はい。アイテムブックと言う物があるそうです」
言われて再度確認。
確かに出現している。
俺は割とマメに入れている方だから、多少は図鑑に登録されていた。
ボーナスも程々で、特定の魔物に耐性何%とか、回復魔法の威力向上とか、装備ボーナス以外の能力が出てる。
解体とかで入れたアイテムも登録されているみたいだから便利だな。
問題は、魔物の素材を売ったりすることが出来ないと言う所か?
登録ボーナスも自由に選べそうに無い。
地味っちゃ地味。
だけど馬鹿に出来ないな。これ。
ポータルスキルの上限アップとか、魔物ドロップ時、金銭獲得とか見た事無いボーナスまである。
ただ、むしろ馬車自身の能力がー……便利だからか?
フィトリアが馬車の扉を開けると、そこには別の場所に通じている……ようだった。
ポータルの範囲拡大版と言う感じみたいだ。制限もそこまでなさそうで、世界各地の龍刻の砂時計を登録しているらしい。
しかも馬車内は体力、魔力、SP、スタミナの回復が早く、回復魔法の効果も高いと説明していた。
昔のゲームにあるテントとかの拠点アイテムの効果があるのか。
睡眠も短期間で解消出来るとか、みどりを通じて説明していたが、敢えて言おう。
何処の通販だ!
こんな感じで、眷属器の強化は知れ渡った。
以下、七星と呼ばれていた眷属器の強化方法を簡単にまとめた一覧である。
斧 肉体改造
槌 武器合成
小手 スキル強化
杖 魔法強化
爪 魔法とスキル熟練度
鞭 資質向上
投擲具 金による強化
馬車 アイテム図鑑ボーナス
まずは斧の強化方法である肉体改造。
これは経験値以外で溜まるエネルギーを使ってステータスに付与できると言う物だ。
言いかえればドーピングだな。RPGとかで種とかの種類に該当する物が近いだろうか。
一見地味だが、割り振れる量は多い。
武器の解放で得られるボーナスに近い、更なるステータス上昇を選んで出来るのが利点だな。
次に槌、これは武器の専用効果を別の武器に合成できると言う便利な能力だ。
わかりやすいので説明すると錬が持つ剣でドラゴンに効果の高い剣があるとする。その剣の効果を別の剣に付与する事が出来るのだ。
錬が興味を抱いて調べた所、これをする事によって解放される武器も存在するらしい。
ドラゴン系ばかり集めて変化とか昔のローグライク系にあったな。
ちなみに、合成可能数は武器に依るようだ。
杖と小手は説明不要か。
魔法とスキルにポイントを割り振って威力を上げることが出来る。
爪はその発展形だ。
同じスキルを重点的に使う事によって、小手とは別の熟練度が溜まって、威力や使いやすさが向上するようだ。
わかり辛くて厄介なのは投擲具の強化方法、金による強化は、文字通り、お金で俺達の知る強化方法の限界を突破させることが出来るみたいだ。
能力が低い項目であれば小額で済むが、高い項目は高額になるらしい。他、武器の解放時に、まだ眠っている能力とかをこの強化方法で目覚めさせることが出来るらしい。
鞭は別の意味で厄介だ。
資質が上昇するとは一見便利に見えるが少し違う。
これによって資質、Lvアップ時のボーナスを武器の解放以外で伸ばすことが出来る半面、掛ける相手のLvが下がる。
要するに、もう一度Lvをあげ直さなければならない。
その代わりに同じLvになった時は、ステータスに雲泥の違いが見られるだろうけど。
投擲具は課金だ。
お金を消費する事で他の武器の上昇効果に影響を及ぼす。
槌や斧などが代表的だが、金額次第では爪の熟練度の上昇速度や鞭の資質上昇の値を上げる事もできる。
他の武器の強化方法を知らないと効果を発揮しないのは持ち主の性格か?
金が消費されるのは投擲具という武器が本来消耗品だから課金制なのかもしれない。
どちらにしても全ての武器の強化方法がわかった今、効果はかなり期待できる。
最後は馬車のアイテム図鑑ボーナスとは、武器にどれだけアイテムの種類を入れたかと言うのでステータスにボーナスが掛ると言う面倒極まりない物だ。
マメにアイテムを入れているだけで、ある程度は期待できるけどな。
これまでの話をまとめるとこんな所か。
何処のネットゲームやRPGだ?
って強化方法が目白押しだったな。
「むー……難しい」
フィーロが頭を抱えて強化方法を覚えようと努力している。
「ですから――」
反面、ラフタリアは飲みこみが早いな。
そういやラフタリアって物覚えが凄く早いんだった。イミアの本名を即座に暗唱できるってある意味才能だと思う。
「フィーロさん、ですから」
同じフィロリアルなのにみどりは理解力がある。
人型形態で斧を振りまわす、みどりって……。
「クエ?」
フィトリアは……うん。フィーロよりは頭が良いのか?
一応は強化方法を試していると信じたい。
「波までの間にLvを出来る限り上げましょう。僕達が出来る最善を尽くすのが重要です」
「はい。イツキ様。それでですね。Lvを上げるとして何処に行くのが良いでしょうか?」
「そうですね。錬さん。元康さん――」
リーシアは最近静かだけど、樹と一緒に強化方法の打ち合わせをしていた。
俺も四聖として少ない日数でLvを何処で上げるか、倒しやすい魔物に対する特化をどうするか等の話に参加していた。
一応、フィトリアの馬車が大規模ポータル機能があるので世界中の倒しやすい魔物から倒して高Lvになることを意識する。
そうそう、フィトリアが根城にしている森で管理していた、過去の勇者が作っておいた武具と言うのを持ってきてくれた。
まあ、過去の武具で今よりも有能な武具って結構限られているような気もする。
魔法武器とかは確かに優秀だけど、四霊で作られた武器と天秤に掛けるとそこまで差が出ないと言うのもなんだかな。
武器屋の親父とイミアの叔父の腕前に感謝しきれないな。
コピーできる物はコピーし、優秀な防具はそのまま使う。
もしくは親父達に一度分解して貰って、俺達の防具に組み込んで貰う予定だ。
後は村の中で優秀な奴に持たせるとかを考えないとな。
クズ、フォウル、谷子も俺達の話をちゃんと聞いて強化方法を実践している。
問題はクズか。
一応は戦えるが長年のブランクで勘が鈍っているかもしれないと嘆いていた。
他に判明したのは勇者同士が一緒に戦うと反発して経験値が入らないと言う物があるが、四聖と眷属器ではその限りでは無い。
ただ、眷属器同士だけと言うのは問題があるらしい。
この辺りは聖武器と眷属器と言う法則があるのか、四聖一人に対して眷属器二人までは普通に経験値が入る法則がある。
だから一応は四聖と眷属器でLv上げのメンバーの割り振りをした。
俺はラフタリアとフィーロ。
ここは鉄板と言うか慣れだな。割と前からこの編成だ。
ラフタリアが槌と言う大振りな武器になったからどうなるか不安な所だけど大丈夫だろう。時々、ラフタリアの槌の上でラフちゃんがポーズを取るのは何なんだろうな?
次は元康、眷属器はみどりとクズ。
元康は突進癖があるからなぁ。みどりも近接だし、最低限の援護としてクズに補助して貰うのが理想だろう。
その次は樹、眷属器はリーシアとフォウル。
樹もリーシアも遠距離だから、近接のフォウルとが良いだろうとの事だ。
実はクズがフォウルに気を掛けていて、同じ編成にするかと思ったんだけど、フォウルが拒んだ。
残った錬は谷子とー……一応フィトリアが担当する事になった。
まあ、あくまで割り振った結果と言う感じだけどな。
谷子とセットでガエリオンが居るから仲が悪い。
錬が谷子の事を気にかけている。
責任とかいまだに思っている所為かな?
谷子自身は物凄く渋い顔をするんだよな。
鞭の勇者に選ばれてしまったからしょうがないけど。
鞭の能力は使役する魔物の能力を向上させると言うのもあるらしいから、魔物が多めの編成になる。
今のガエリオンはなんだかんだで竜帝だ。時代によっては魔王だったかもな。
勇者的なイメージの強い剣と魔王的なイメージが強いドラゴンが一緒と言う夢の編成だ。
仲はあんまり良くないのが難点だがな。
親ガエリオンって錬の事、嫌いだし。子ガエリオンはその辺り拘らないけどさー。
「まあこんな所か。各自治安維持とLv上げに向かってくれ。波を乗り越える為に」




