僭称する者
「そんな迷惑な奴がいるのか? いったいどんな奴なんだ?」
フォウルが心底嫌そうな顔付きで聞いてくる。
迷惑……か。
確かに異世界人というのは迷惑な存在なのかもしれない。
勝手に召喚したんだから文句は言わせないが、俺達も似た様なものだからな。
この世界に来る前は異世界冒険活劇にかなり憧れていたから、微妙な気分だ。
転生、生まれ変わる際に出会う存在――それは……。
「神だ」
「神……なるほど、尚文さんの世界ではそういう話があるんですか。ゲームではそういうNPCがいたのですが、結びつける事ができませんでした」
「まあ大体わかるだろうが一応話す。厳密に言うのなら神を僭称する何か? なんだろうがな」
例えば不幸な事故で死んでしまった者……錬や樹、元康もそれに該当するか。
そんな不幸な者に『不手際で君は死ぬことになってしまった。代わりに君の好きな世界に転生させてあげよう』と囁く。
死んでしまったのだから断りようもない。
断ったら『気に入った! チート能力を授けよう』とでも言って無理矢理にでも頷かせる。
もしくは勝手に転生させると言う事もあり得る。
俺はそう言う小説を何度か読んだ事がある。
もし、この神が選んだ者が……タクトの様な奴だったらどうだろうか?
おそらく何処かの世界で、この世界によく似たゲームをプレイしていた事のある人間だったのだろう。
あるいはそのゲーム自体がそいつの画策という可能性も考えられる。
錬や元康、樹もその尖兵にさせられかけていたのかもしれない。
ならば導ける結論が出てくる。
自分の駒として思い通りに動かせる転生者を使って、波に関して不利な状況を削れば良い。
女王やババアが言っていたじゃないか。
天才は繁栄と衰退の象徴であると。
変幻無双流……この流派が世界中に知れ渡っていたらどうなる?
波に対する脅威となるのは明白だ。
だから転生者を送って、伝承を断たせる。
こう言う事を繰り返している奴がいないと、誰が言い切れる?
実際、世界中に点在する波に対しての記述が意図的に抹消されているのがその証拠だ。
「神……そういえば、そう言う宗教の存在も過去にはあったと聞く。なるほど」
クズにも心当たりがあるようだな。
四聖や七星が長く語り継がれる世界だ。
そう言った新興宗教が、存在するのかもしれない。
勢力を拡大出来なかったのは四聖や七星に阻止されたと言う所だろう。
……先導者の短剣の元となった勇者の存在がある。
その勇者が掲げた神……が敵かもしれない。
クズは世界のシステムがそうなっているかもしれないと推測したが、俺は違うと思う。
そう言って聞かせた。
「どうやらワシの説はイワタニ殿の考えとは異なるようですな。しかし状況からイワタニ殿が正しく思える」
クズの奴、俺への返答でシステム説を否定した。
まあ、考えとしてはあり得なくは無いが……幾らなんでもそれでは説明出来ない所が多過ぎる。
転生者なんて存在を斡旋しなきゃ滅ぼせない世界ってなんだよ?
じゃあ聖武器の存在が引っかかるだろうが。
何か? 世界のプラス意志が聖武器でマイナス意志が神、この場合は邪神ってか?
いやいや……手が込んでるだろ。
そもそも、世界が滅んだ後はどうなるんだよ。
「グラス、滅んだ世界に関して……何か知っているか?」
「……我等が見た世界の滅びは二つある。一つはまるで世界中から命を奪い去られるかのように全てが荒野と化す景色、もう一つは世界そのものが虚無へと消える光景だ」
自らの世界を延命させる為に、世界を滅ぼした経験のあるグラスの言葉は重いな。
どちらの滅びも最悪の状況と言える。
俺達もグラスの世界を滅ぼすか、応竜……ガエリオンを使うかの二択だ。
「完全な世界融合は経験ないんだな?」
「そうですね。ですが、伝承には存在します」
ここまで深刻な事態になる前に……グラスは手を打っていたのだろう。
俺と最初に会った時は波の経験が浅かったと見て良い。
それでも驚異的な強さではあったがな。
乗り込むなんて俺達じゃ考えもつかない。
だが、内部争い……転生者の暴走でグラスの世界も滅茶苦茶になってしまった。
「世界を滅ぼしたとして、どれだけの日数を稼げる?」
「今の我等では精々一月です。聖武器所持者と眷属器が揃っているのなら、その限りでは無いのかもしれませんが」
「お前の世界は四聖、眷属器は何人がまともに動いているんだ?」
グラスは指を三本だけ立てる。
三人か……そりゃあ厳しいな。
「聖武器の勇者は?」
「転生者に捕えられ、反応から何処かに幽閉されています。波の際に救出できれば良いのですが、希望的観測ですね」
致命的だな。グラスがこうまで簡単に決断してくるのも頷ける。
しっかし、転生者ってのは世界の為に戦うと言う考えが無いのか?
自分の欲望最優先でグラス達の言葉を信じていないんだな。
……そう言う奴を選んで転生させているのか。
神という存在の能力にもよるが、どんな時代、場所、世界であっても、頭のおかしい奴の一人や二人必ずいる。
自分が良識ある人間だとは言わないが、頭のおかしい奴を見た経験は数え切れない。
そういった連中を集めてきて転生させれば世界は混迷を極める。
他にも、何かしらの洗脳を施しているという事も考えられるな。
波如きじゃ世界は滅ばない、みたいな認識なのかもしれない。
しかも些細な物だとか思っているのかも。
……いや、経験があるぞ。
いつの頃だか、錬達が負けても死なない、イベント戦闘だとかほざいた事があった。
なんでもかんでも敵の所為にするつもりはないが、あれみたいな思考だったかもしれない。
「もちろん、話せば通じる者もいない訳ではないのですが……何故か転生者は他者に喧嘩腰で話し、自身がリーダーで無いと納得できないみたいです」
はぁ……面倒な。
そう言う奴が世界を思い通りに……ではなく、目立ちたくないわーとか言いながら眷属器を所持したまま逃げられたら、たまったもんじゃないな。
しかし……波は、終わりが見えない戦いなのか?
「他者を血に染め、血に染められ、生まれてくる己の子にすら狂気を向ける……おそらく、今を乗り越えたとしても我等の世界は遠からず、己の手によって滅びを迎えるでしょう……」
諦め。
そんな意思がグラスから見て取れる。
見た所グラスは俺達で言う人間という種族では無いみたいだし、生まれはあちらの世界だろう。
自分の生まれた世界を諦めるというのは、どんな気持ちなんだろうか。
俺の世界だって良い世界だと大手を振って喜べはしないが……。
「頼みます。守護獣が存在し、辛うじて世界が繋がっても崩壊していないのなら、私達の世界の者達をこの世界で生きながらえさせてください。その為に、私達の世界を滅ぼすのなら喜んで力を貸しましょう」
そう言って地面に頭を垂れるグラス。
気持ちはわかるが、言っている事は狂気その物だ。
当然、相当苦渋に満ちた決断だったはずだ。
現に俺の目にはグラスが狂気に支配されて、己の保身の為に行動している様には見えない。
だが、あえて尋ねる。
「正気か?」
「決まっています。我等は既に狂っている。それでも成さなければならない事もあるのです」
自分が狂っているとわかっていて尚、しなければいけない事がある。
俺にも似た経験があるな。
いや、俺の怒りと他者を守ろうとするグラスを比べるのは愚か極まり無いか。
どちらにしても、多少は理解できる。
ましてや、延命の為と言って三分の二もの命に犠牲を強いる選択をしなければいけない人間が正気のはずがない。
そういう意味では勇者にまともな奴なんて、最初からいなかったって事か。
俺達も、グラス達もな。
「今、その結論に達するのは早計だとワシは思う。次の波まで、事後処理をした方が良い。グラス殿もワシ達に手を貸してくださらぬか?」
「英断感謝します。必ずや悪い結果にはさせないと誓いましょう」
クズの言葉にグラスはそう宣言し、この場に居る者も頷いた。
連合軍を筆頭にして、この事はフォーブレイがメルロマルクを筆頭にした連合軍に完敗したことと同時に伝えられる。
当然守護獣に関しては極秘となっている。
言えるか、こんな事。
ともあれ、四聖と眷属器が十分に機能しているお陰で、次の波までの時間は随分と延長されるようだ。
まあ、メルロマルクの砂時計基準だけどな。
各国の波に挑む為に出発しないといけないが、まずはするべき事が沢山ある。
その経緯で色々と厄介事が転がり込むのは城へ転送で戻って半日も経たない時だった。




