一般人
「くそ! みんなの攻撃を俺に当てさせたな!」
「この悪魔!」
女共も便乗して罵ってくる。
悪魔か……久々に呼ばれた気がする。
「じゃあ悪魔でいいぞ。なんせ盾の悪魔だしな。そもそも敵の攻撃を利用するのは悪い事なのか? むしろ一騎打ちにしゃしゃり出てくるのが悪いんだ。まあ、この程度で倒れられちゃ面白くないからな。回復してやるよ」
また俺はタクトに回復魔法を掛ける。
そろそろ魔力とSPが減ってきたな。
俺は懐から回復アイテムであるルコルの実を取り出し――
「させるか!」
タクトの取り巻きの一人が突然現れて俺が持っていたルコルの実を奪おうとする。
何か忍者っぽい姿をしている。
フォーブレイの影か?
あ、思いっきり握りしめたから潰れたじゃないか。
これ、地味に高いんだぞ。もったいないな。
「ぐあ!」
ルコルの実の滴が突撃してきた奴の顔に当たった。
一応は聞いているが酒類の原液みたいな物だぞ?
「メルリス!」
「さ、酒臭い! う……」
おお、早くも千鳥足になっている。
俺以外は毒物らしいからな。
なんせカルミラ島で元康が食って即座に吐かせたにも関わらず一日も寝込んだ程の代物だ。
「魔力回復の邪魔をするなよ」
軽く蹴飛ばして取り巻きの方へ放る。
そして新しく取り出したルコルの実を口にした。
取り巻きも俺が何を口にしたのか察したらしい。
ヘラヘラしているのが半分、青ざめているのが半分といった所だ。
ヴィッチは俺の体質に関してある程度知っているだろうから青ざめている。
タクトは忌々しいと言う目つきをしながら首を傾げる。
「ルコルの実を直接食って自爆? とか思ってるだろうが残念ながら違うぞ」
「さてはお前……能力を授かったのか!?」
「何言ってんだ?」
まあ、誰から授かったのか?
と言うのは想像に容易いけど。
「これは俺の生まれつきの体質だ。お前は何かから授かったみたいだけどな。それがお前と俺の違いだよ」
これで魔力とSPも回復したし続きをするか。
ん? タクトの奴がますます睨みを強くしたな。
あれか? 自分は特別な能力を授かっているのに、コイツは生まれつきで許せないとか?
何処まで優越感でしか行動していないんだよ。
「さて、余計な邪魔が入ったが再開しようじゃないか」
チャージを終えて再度タクトに向けて杖を向ける。
耐えきれない。けれど避けたら女共が死ぬのをわかっているんだろうな。
タクトの奴が必死に力を込めて盾に意識を集中している。
まあ、頑張れよ。
「フェンリルフォースⅥ!」
ついでに変幻無双流の点を練りこみ極太ビームに織り交ぜて放つ。
「ぐう……ぐうううううう……ぐ……馬鹿な……さっきよりも、目に見えて痛い……なんだこの攻撃は」
「お前は経験あるんじゃないか? お前が殺したババアの流派の概念を込めてんだよ。お前が殺した者の力を思い知れ!」
おお、連続ヒットするかのような打撃音がタクトから聞こえてくる。
やっぱり変幻無双流の点は盾には厳しいな。
「うわぁああああああああ!」
やがて耐えきれなくなったタクトが錐揉み回転しながら跳ねた。
ま、これくらいにしておくか。背後の女共を消し飛ばす事も出来るがな。
ドサッとタクトが地面に倒れこんだ。
「タクト様!」
「タクト!」
「タクトォオオオ!」
取り巻きが必死に応援している。
ま、何をしても覆らない事を理解していないみたいだ。
それでも応援を受けてか、タクトは立ちあがった。
取り巻き共が懲りずに回復魔法をタクトに掛ける。
「あのさ、お前等、回復魔法だけじゃなく、疲労回復の魔法も掛けてやれよ」
スタミナって重要だろ?
ここまでボロボロにしたら覚醒したって勝てないだろ。
いや? 勝てるのか?
と言うか、奇跡とかが起こるなら今じゃないのか?
コイツの裏に何か居るのなら今だろ、正体を現すのは。
と、見渡すが何も起こる気配がない。
「まだだ……俺は、お前だけは許さない」
「それは俺のセリフだ。お前だけはむごたらしく、この世に生まれた事を後悔させると決めているんだ。それは俺だけじゃない。メルロマルクの国中が、だ」
むしろ俺の総意ではない。
女王を殺された今、メルロマルクはこの戦争を雪辱戦として挑んでいる。
その怨敵代表であるこいつ等は俺の私刑だけでは許されない。
俺もそう思うからこうして首謀者であるタクトを気のすむまでボコボコにするに留まっている。
アトラ、女王、ババアと村の連中。
少なくとも俺に親しい者の中でこれだけ死んでいるのだ。
戦争で失った命を考えれば、その限りでは無い。
霊亀を復活させてしまい。
多大な犠牲を出した錬達は、故意ではなく、反省もし、犠牲にしてしまった者達の為に罪を償おうとしている。
それは世界を救うと言う形で成就するだろう。
だが、タクトは別だ。
波を軽視し、勇者を殺し、連合軍を全滅させかけた。
更に戦争をして世界を支配しようとしている。
反省する気配があるのなら、まだ猶予を与える事が俺の本意ではないが、出来たかもしれない。
だが、むやみに戦争の炎を立ち上らせた報いを受けさせねばならないのだ。
「俺は……お前を殺す!」
タクトが宣言し、盾に手を添える。
おそらく、カーススキルを放つつもりだろう。
だがな……遅かったな。
俺は杖を片手で高らかに掲げ、周りに散った魔力とSP……気を集める。
そして、タクトにグレイプニルロープを発動して縛りつける。
「フェンリルフォースと変幻無双流の応用スキル」
視界に、次のスキル名が浮かび上がる。
凄いなエネルギーブーストにはこう言う応用が効く物があるんだ。
辺りの、蛍火のように輝く魔力が凝縮して俺の杖に集まって行く、さながら……何かのアニメで見る必殺技みたいな感じだ。
「さあ、受け止めてみろ!」
俺は視界に浮かぶコンボスキル名を叫ぶ。
ま、殺さない程度に加減しなきゃいけないと言う面倒な物だけどな。
だから点は込めない。込めたら消し飛ばせるが、それじゃあ満足できないんでな。
「ブルートオプファー!」
「ラグナロク……ブラスター!」
フェンリルフォースの凝縮発展スキル。
チャージに時間がかなり掛ったな。
タクトが立ちあがるまで、動かずに居たのはそのためだし、魔力の回復をしたのもこれを放つためだ。
その期待通り、フェンリルフォースの比では無いほどの圧縮されたビームが俺に襲いかかろうとしたブルートオプファーを一瞬で消し飛ばし、タクトに向かって飛んで行った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
凄い叫び声だな。
タクトが耐えきれず、ラグナロクブラスターに押し出されて空中へと投げ出される。
一応、軌道をずらして女共には当たらないようにしてやった。
当ててもよかったけど、楽しみは取っておきたいじゃないか。
タクトの全身をラグナロクブラスターは突き抜け、大気さえ震わせながら飛んでいく。
そのついでに、上空で戦うガエリオンと錬の近くにいた竜帝すら巻き込んだ。
「な――ぐああああああああああああああああああああああ!」
いきなりの攻撃に竜帝も驚きの叫びを上げている。
ま、通り過ぎた所で焦げた竜帝が完成したみたいだけど。
「今だ!」
「キュア!」
錬がガエリオンを足場にして跳躍し、竜帝を斬りつける。
「鳳凰烈風剣!」
「キュアアアアアアア!」
錬の剣が赤く輝き、炎の嵐と共にエネルギー化した火の鳥が通り過ぎる。
それに合わせてガエリオンが炎を纏って突撃した。
さながら二匹の火の鳥が、竜帝を貫くかのようだ。
「ぐ……矮小な欠片と剣の勇者如きが……!」
おお、これだけの攻撃を受けてまだ致命傷に至らないか。
中々やるじゃないか。
とは思いつつ、俺の目の前に今まさに落ちてきたタクトに目を向ける。
「おーい、生きてるかー?」
殆どボロクズ同然だ。
別に防御比例攻撃をした訳じゃないから死んではいないと思うし、威力も加減したんだから大丈夫のはずだ。
「く……」
「おー」
辛うじて立ちあがるタクトに俺は余裕を見せながら拍手する。
ここまでボコボコにされたんだから撤退を考えろよ。
させないけどな。
その為にガエリオン、フィーロ、サディナ、ラフちゃんを連れてきているんだし、陸海空、どこに逃げても逃げ切れないぞ。
しかもコイツ自身が逃走不可の結界を唱えさせていたからな。
自分の作った檻に閉じ込められた様な物だ。
まあ、解除した所でこちらも唱えるけどな。
「逃げられるとは思うなよ? まだやり足りないんだからよ」
いい加減、ワンサイドゲームに飽きてきた。
「調子に乗るのも……いい加減にしろー!」
お? ブルートオプファーの呪いはタクトにはかからないみたいだ。
何処までチートなんだよ。
その辺りも計算して威力を殺したんだけど、余計なお世話だったようだ。
「さて、お前は今の攻撃で一度死んだ。俺と同じ位お前を憎んでいるが、立場上ここに来る事が叶わない、杖の勇者の代わりはこれで果たした」
クズ……本当なら自分の手で女王の仇を討ちたかっただろうな。
俺だったら満足できないが、お前の代わりに杖の勇者としてタクトを倒した。
次はアトラとババア、本来なら死ななかったはずの連合軍、そして村の連中の敵討ちだ。
「うぉおおおおおおぉぉぉぉ!」
タクトが残された力を振り絞り、咆哮を上げながら攻撃してきた。
獲物を爪に変えたタクトの攻撃を、俺はワザと鍔迫り合いにする。
ああ、やっぱり火力は馬鹿に出来ないな。
耐えきれる気配がない。
咄嗟に弾いて距離を取るとタクトが笑みをこぼした。
「掛った! これで杖を奪えるぞ!」
俺の言葉にタクトは笑みを浮かべたまま頷く。
状況を察したのか、取り巻きも余裕を見せだした。
「そうだ。舐めていたのが敗因だな。お前は負けるんだ」
まあ、古来から相手を舐めている強者は弱者の予想だにしない一撃を受けて深手を負う。
なんて話は良くあるパターンだよな。
俺もそういうマンガ、好きだぞ。
だが今回に限って言えば、それは絶対にありえない。
「あのさー、余裕ぶっているみたいだから教えてやるけど、杖で戦ったら余裕過ぎてつまらないからワザとしてやったんだからな?」
またの名を上げて下げるである。
調子に乗った所をボコボコにされる事程きついものはないからな。
やがてタクトの能力が発動し、杖がスパークする。
すると杖は光となってタクトの手元に飛んでいった。
手に杖が握られ、タクトは勝利の確信を得たように笑みを浮かべた。
「ニヤニヤと気持ち悪い奴だな。そんなに杖が手に入ったのが嬉しいのか?」
「何を言っても負け惜しみだ。むごたらしく殺してやるから覚悟しろ!」
「何度も言わせるな。それは俺のセリフだ」
俺は、錬の方に目を向ける。
すると事態を悟った錬が手に持っている四聖の剣とは別の、腰に提げていた一振りの剣を空から投げてよこした。
右手を上げて、錬が寄越した剣を受け取る。
「俺は……お前のプライド、尊厳、大事な者……その全てをむごたらしく破壊する為にここにいるんだ。まずは余裕と傲慢の半分を破壊してやった。次は残った半分だ。七星武器の内六つ、そして四聖武器の盾を手に入れた偽勇者。伝説の武器を持たない一般人に負けるという現実を知るがいい!」
※この作品で『うおおおお!』と叫ぶ人物は碌な目に合わない法則があります。
(主人公を含む)




