グラマーVSロリ
日も暮れているが時間が惜しいのでクズに状況……具体的には俺の村の戦力になりそうな連中を見せる事にした。
一応、女王と一緒に鳳凰に挑んだのだから知らないはずはないが、詳しい戦力は把握していないはずだ。
「あ、兄ちゃん」
錬によってポータルで帰還した所をキールが見つけて駆けつけてくる。
「もう大丈夫なのか?」
「まあな。それよりお前等の方は問題ないか?」
「うん。所でそっちに居る人って確か、女王様の隣に居た人だよな」
「ああ」
「こうして話すのは初めてじゃな。ワシの名前は国中の者が知っているから君も知っていると思う」
「えーっと確か……」
キールが返答に迷っている。
そりゃあ、俺が名付けたのは有名だもんな。
時々昔話として自慢気に語った事もあるし。
「さあ、ワシの名前を呼んでみるのじゃ」
「兄ちゃん。本当に良いのか?」
「本人が望んでいるから良いんじゃないか?」
どんな拷問だよ。自分から呼ばせるって。
なんか呼ばせるのが失礼に感じる。
これを狙って従順な振りをしているんじゃないか?
とは思うが、クズ自体は真顔だ。
「えっと……王様」
「クズと呼ぶんじゃ」
「えっと……」
「困らせるな!」
まったく、自虐か。
勇者って必ずこれだよな。
「俺も失礼に感じるぞ、尚文」
錬が増えた気分だ。
その錬に注意されるのもなんだかな。
「まったくです……どうしてこうなったのでしょう?」
ラフタリアも頭を抱えている。
俺もそう思うんだけど、クズ自身がその名前を受け入れてしまったのだからしょうがない。
嫌がるから楽しいのに、こんな真顔で答えられるとこっちが矮小に感じてしまう。
「どうしたのじゃイワタニ殿? 早く戦力を教えて貰いたいのじゃが」
改心した振りをしているのならまだ良いが、今のクズはなんかウソを言うつもりがないのがわかる。
なんでわかるかと言うと、こんな世界で色々としていると勘が鋭くなるんだ。
特に商人相手には嘘を見抜く事が得意になっている。
その勘がクズは嘘を言っていないと告げているのだから性質が悪い。
一応、昔は毛嫌いしていた亜人相手にクズと呼ばせるのを強要する所に、大きな問題があるんだよなぁ。
元康みたいに忠誠を誓うのならやめさせられるけど、少し違うからきっとやめないんだろうな。
「キール、意味を考えず……異国の名前だと思って言え」
「わかったぜ兄ちゃん。クズさんも頑張って」
「うむ!」
はぁ。
なんか今までで一番疲れる。
元康は人の話を聞かないから何でも言えるが、今のクズは人の話を聞いて真面目に自論を展開しそうで怖い。
下手に弄れない。
「じゃあ……とりあえず来てくれ。錬は村の連中に説明しておいてくれ」
「わかった」
俺はクズに紹介しようとしている相手の場所へ連れて行った。
「あら? 侯爵、傷はもう良いの?」
「まあな」
俺はラトの研究所にクズと一緒にやってきた。
大きな培養槽には何か……浮かんでいる。
みた感じ、馬車か?
「ミー君は何処だ?」
「暴走した侯爵が作ったボディを再生させる為に狩りに行っているわよ」
「狩り?」
「鳳凰の自爆攻撃からみんなを守るために体を張った所為で相当吹き飛んじゃってね。再生するために補充しているのよ」
「……補充」
「ふむ……おそらくスライムの原理を応用した物ではないかとワシは推測するが、どうじゃ?」
「正解よ。魔物を狩って、融合捕食を繰り返して再生するの」
耳を塞いでおきたかった。
なんだその危険生命体は!
B級映画にでも出て来そうな生物だ。
「ま、完全再生するには時間が掛るでしょうけどね。狩った獲物の構造を塗り替えるのが大変だし」
「はいはい。それはわかったが……ラト、今回の事件と戦争に関しては理解しているか?」
「そうね……侯爵に重傷を負わせたのがあの七星勇者なのでしょう?」
「お前を追放した奴か?」
「ええ、私のライバルだった錬金術師の肩を持ってね。研究内容もぶつかっていたし、散々だったわよ」
以前も似た様な話をしていた。
あの時も結構聞いたが、まさか敵対するとは思わなかったな。
だが、相手の情報を詳しく知っている人材が味方にいるのは有利だ。
それにラトみたいな使える人材を手放していたのは悪手だな。
「あっちにも錬金術師が居るのか?」
「ええ、見た目は子供そのままの幼児体型の錬金術師よ」
「機械専攻?」
「それは七星勇者の方、別にもう一人いるのよ。なんか死んだと思ったこの国の元姫が生きてたんでしょ? 間違いなくアイツの作ったホムンクルスじゃないかしら? 贋作を作るの得意だし、見分けるのが難しいのよ」
「そうか」
「私から言わせてもらえば平凡な錬金術よ。まあ他の奴より人工生命に関しては詳しいでしょうけど私ほどじゃないわね。その私も魔物専門だけど」
見た目幼女の錬金術師と見た目イケイケお姉さんの錬金術師。
貴方はどっちを選びますか? ってか?
で、結局ロリを選んだ訳だ。
そういえば幼女みたいな奴が何人か居た気がするな。
アイツ、ロリコンだったのか……完全に犯罪者だな。
いや……俺が言えた義理では無いのか。
ラフタリアはこう見えても年齢は幼いからな。
ラフタリアやアトラとの関係もあるし、文句は言えない。
「そいつと仲が悪くて追放か?」
「どっちかと言うと、七星勇者自身が推し進めていた分野と私の研究と内容が被るから追い出したんじゃない? 飛行機だっけ? ドラゴンやグリフィンを使えば良いんじゃないかと議論した覚えがあるわ」
「そう言えば、フォーブレイの侵攻には戦車を大改造した物があったはずじゃわい」
「ほう……」
ラトの研究には馬車型の魔物がある。
この魔物の攻撃方法に遠距離狙撃機能と言う物があったはず。
確かに研究内容が被る。
こっちは生物であっちは機械。
この差がどう開くかは不明瞭だけど、Lv概念を視野に入れるとどうなるか。
機械の長所は搭乗者のLvか? 難点は破損したら乗り換えないといけない。
生物の長所は死なない限り回復魔法で戦闘の継続は可能となる。
そう言う意味で技術的ライバルの側面が強いラトをフォーブレイから追い出したのだろう。
「あの女の肩を妙に持っていたのよね。今でも腹立たしい。恋愛に現をぬかして私の錬金術に負けた癖に!」
タクトはラトが自分には惚れないとわかったから追放したのかもしれない。
ラトはミー君が一番大事だからな。
「これは?」
俺は培養槽に浮かんでいる馬車型の何かを指差す。
「鳳凰に挑むより前にセットしていた。侯爵が設計していた物を作ろうとしているの」
「近々戦争になる。間に合いそうか?」
「ギリギリね。ミー君がコアとして乗り込む予定だけど、ぶっつけ本番になるかもしれないから出したくは無いわね」
後、数日なのによくもまあ出来た物だ。
「侯爵の作ったボディの汎用性に感謝しなくちゃね」
「アレもか……」
培養して作ったバリエーションの一つか。
「なるほど。これを実戦に使えるとしたら作戦の幅を利かせる事が出来る」
クズは頷きながらラトに色々と尋ねていた。
「外部から魔力を供給し、儀式魔法の原理で発射出来ぬか?」
「面白い考えね。やってはみるけど期待はしないで頂戴」
クズの提案にラトが図面を引いている。
これで少しは戦力が増えてくれる事を祈るしかないか……。
「ラフー?」
お? ラフちゃんが俺を見つけて飛び乗る。
なんでわかるか? 声が一番、ラフタリアに近いからだ。
少し子供っぽいがな。
昔のラフタリアの声と言うべきだろうか。
「ターリー?」
俺の怪我の状態を心配しているようだ。
「大丈夫だ。気にするな。お前が結界魔法を使ってくれたらしいな。ありがとう」
「リーアー!」
「あの、ナオフミ様……あんまりじゃれないでほしいのですが」
撫でまわしているとラフタリアが恥ずかしそうに注意してくる。
こいつは反応が面白いから続けたいが、ラフタリアがこう言うのだからしょうがない。
「そうだ。クズ、これがお前に見せたい奴の一匹だ。お前の考えた作戦に使えるんじゃないか?」
「ええ、イワタニ殿が作った魔物だと妻は言っていましたな」
「ああ、ラフ種と呼んでいる。呪われた盾に浸食された俺が作り出してしまった新種の魔物だ」
「戦場で戦う姿を見た覚えがあります。様々なバリエーションがあるようでしたな」
「ああ、俺の所の魔物が自ら改造を望み、ラフ種に組み込まれた」
「なるほど……」
「ラフー?」
「こいつ等も戦闘に使いたい。人手が足りないのならな」
正直、メルロマルクの兵士は言ってはなんだがLvがフォーブレイの連中に比べて低い。
白兵戦では不利なのではないかと思う。
もちろん、俺の所の奴隷共で志願者を募るつもりだが、それでも絶対数が足りない。
そこでラフ種等の魔物共を起用しようと思っている。




