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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
313/1297

撤退

「はぁ!?」


 伝説の武器を奪う力……だと?

 なんだよ、その異常な能力。

 ちょっと待てよ。

 鞭の勇者で爪を持っているって……その力で奪ったのか?


「ああ、爪の勇者を名乗る奴は性格が最悪だったからな。既に死んで貰った」


 さも当然と言うかのようにタクトは言い放つ。

 死んだ?

 勇者は殺したら、困った事態になると伝承で……波までの時間が短かったのはコレが原因か!?


 いや、爪の勇者だけじゃない。

 連絡が取れない七星勇者全てに同じ事が言える。

 いつ殺されたかはわからないが、少なくとも二ヶ月前には既に連絡が取れていない。

 つまり、もう数ヶ月も前から七星勇者は死んでいたって事に……。


「というか、勇者はどいつも性格がねじ曲がってやがる。俺の話を全然聞かねえ」


 こんなマネをする奴の言う事を聞く?

 ふざけるんじゃねえよ!

 怒りで頭がおかしくなりそうだ。

 どいつもこいつも勇者に選定される奴はどれもこんな奴ばかりなのか!?


「だから、俺が世界を救うからお前等は全員死んで武器を寄越せば良いんだよ」

「さすがですわタクト様。下劣な勇者共から伝説の武器を救いだすのですわ」

「何!?」


 その声に、その場に居た俺の仲間達は声を漏らした後、絶句する。

 あのクズまで絶句しているのだ。


「馬鹿な……お前が何故ここにいる!? 死んだはずだ!」


 そこには死んだはずのヴィッチが、柱の陰から姿を現し、憎むべき敵に寄り掛って悠々とゴミを見るような目で佇んでいたのだった。


「死んでいないからに決まっているじゃないの。盾」


 俺は信じられない物を見る目でいたと思う。

 ヴィッチは確かに死んだはずだ。

 フォーブレイから送られてきた冷凍保存された棺桶には確かに、ヴィッチの死体が入っていた。

 あの顔、死にざまの映像は間違いない。


「私の顔、体にこんな傷を付けさせた事、絶対に許さないわ。もっと苦しめてから殺してやるわ! ねータクト様?」


 ヴィッチの腕には接合したかのような痕があり、片目には眼帯を付けている。

 足にも同様の痕があるようだ。

 俺の記憶が確かなら豚王に切断された場所で間違いない。

 そのヴィッチが何故生きている!


 ……錬金術か?

 確か鞭の勇者は錬金術にも精通すると言っていた。

 なるほど、ラトを追放した勇者というのは、コイツか。


 そういえば以前、ラトがホムンクルスに関して話していた事があった。

 唯本物と偽者の区別が付かない程のホムンクルスを作るのは難しいと言っていたし、いつ入れ替わったんだ。

 いや、今はそんな事よりもヴィッチが生きていた事、それが全てだ。


 鞭の勇者……天才、主席、フォーブレイの学園、ヴィッチの処女喪失……。

 そうか、コイツ等の接点はそこから来ているのか。


 生きている事が許せない存在――ヴィッチ……そしてアトラの仇であるタクトがいる。

 盾が奪われて尚、俺の中に焦す程の怒りが湧き上がってくる。

 憤怒の呪いなど関係無い。

 俺はコイツを殺したい程、憎い。


「ああ、マルティをあの豚に差しだすなんてとんでもない奴だ。こいつ等の所為で沢山の人間が死んだのなら命を持って清算させなきゃな。その前に存分に苦しめてやる!」

「という事よ。ママ、よくも私を豚王に売ったわね。死んで償いなさい! パパも同罪よ!」

「マ、マルティ……」


 クズが女王を抱えて絶句している。その目は信じられない者を見るかのように、何度も口をパクパクをさせている。

 タクトは近くにいたフォウルに向けて爪で突き刺す。


「そんな攻撃、な――!?」


 早い!

 フォウルは勇者になったばかりだ。

 動きが追いつけていない。

 だが、フォウルには傷一つ付いていない。


「ん? この盾を出していると攻撃力が無くなるのか。使い辛いなー」


 と奴は盾を消して、爪と小さな短剣を出した。

 その短剣はリーシアが使っている物に酷似している。

 そういう事か。


 リーシアの謎の武器……いや、七星の勇者の投擲具が半透明な理由は、所持者が殺され、奪われていたからだ。

 そして伝説の武器自体はタクトを所持者と認めていないんだ。

 だから抗うかの様にリーシアを選んだのかもしれない。


「エアストスロー!」


 ザシュッと音を立てて、タクトが投擲した短剣が錬の肩口を通り過ぎる。

 咄嗟に錬は剣を取られない様にしたみたいだ。


「ぐ!」

「動くなよ。やっぱ勇者と言ったら剣だよな。早く俺に寄越せ」


 銃の攻撃で重傷を負った俺達では不利だ。

 錬達の武器まで奪われる訳にはいかない。

 俺は動けない体を奮い立たせ、殺意を込める。

 これ以上奪われてたまるか!


「ふざけるな!」


 無我夢中で魔力と気を体に巡らせ、全ての力を振り絞って地を蹴って飛ぶ。

 ほんの少しだけでも良い。

 皆が、逃げる為の時間を……!


「な――」


 思わぬ反撃にタクトは俺から奪った盾で、防御の構えを取った。

 バシンと俺の拳がタクトを捕える。


「そんな攻撃、グフ!?」


 タクトの体内で気と魔力が爆発し、思いっきりタクトは血を吐きながら玉座の後ろまで吹き飛んだ。


「タクト!?」


 銃を持っていた女共が一斉に奴の身を心配して、大きな隙が出来た。

 その隙を錬、樹、元康は逃さない。


「今だ! 閃光剣!」

「シャイニングランス!」

「フラッシュアロー!」


 目くらましのスキルを使って二射目を待つ女共の目を眩ませる。


「何をしているの! 早く奴等を撃ち殺しなさい!」


 ヴィッチが叫ぶが錬達は急いで撤退をする為、玉座の間の扉を蹴破った。



「転送剣! ……ダメだ」

「アル・ドライファ・ヒール!」


 一斉射撃で重傷を負った者達は回復魔法の重ね掛けでどうにか動けるまで回復し、城内を走り抜ける。

 前方は錬、元康が進み、ババアとラフタリアが後方を確認しながら進む。

 それでも全員重傷を負っている。傷は治っても疲労は取れない。


 女王の傷が一番深い。

 着ていた衣類は血が酸化して、黒ずんでいる。

 早く治療をしないと間に合わない。


 そして、それは俺にも同じ事を言える。

 痛みで頭がくらくらする。

 回復魔法を受け付けないとはどういう状態だ。

 先ほど立っていたのが奇跡だな。


「ミレリア! しっかりしろ!」


 クズが女王に声を掛けつつ、背負って俺の後ろを走る。


「ナオフミ様!」

「兄ちゃん! しっかりするんだ!」


 俺はフィーロの背中にぐったりと圧し掛かっている。

 思う通りに体が動かない。

 盾のアイコンが消失している。


「尚文さん。わかりますか? お怒りはごもっともですが、一時撤退しますよ?」


 樹が俺に指示を仰ぐ。

 確かにそうだ。

 こんな、何時何処で待ち伏せされているか分からない所で戦っていたら他の勇者共の武器が奪われかねない。

 というかどんなチート能力だよ。


「イツキ様?」

「……ええ、今は早くこの場から撤退しましょう。錬さん。どうですか? せめて女王と尚文さんだけでも安全な場所へ転送できませんか?」

「無理だ……転送剣が作動しない。妨害されている」

「キュア!」


 任せろとばかりにガエリオンが魔法を唱える。

 ドラゴンサンクチュアリだ。

 おそらく、ここの転送妨害はあいつ等がそれに似た魔法で結界を張っていると思われる。

 昔、フィーロとガエリオンが縄張り争いをした際に、衝突させ合って無効化させていた。


『キュアア!』


 バシッと何かが通り過ぎる。


「逃がす訳ないでしょ!」


 廊下の奥の方から声がする。


「ドラゴンサンクチュアリ!」


 く……やはりあのトカゲ女、ドラゴンだったのか。

 しかもガエリオンとの問答を見るに、竜帝である可能性が高い。


「フィ……ロ」


 必死に声を出して、フィーロに指示を出す。


「まかせてー」


 走りながらフィーロが魔法を唱え始める。


「さんくちゅありー」

「させない。バードサンクチュアリ!」


 く……、グリフィンみたいなやつが唱えているのだろう。

 無効化すると同時に展開される。

 これでは唱える暇がない。


 ポータルは唱えた直後にメンバーを選ばないといけない。

 瞬間的に飛ぶには僅かにタイムラグがあって、こうも瞬間的に唱えられると難しい。

 ドカドカと前方も後方も騒がしい音が響く。

 前方には兵士が待ち受けている。


「重力剣!」

「ブリューナク!」

「ピアーシングショット!」


 前方にいる連中、兵士はそこまで強くない。

 おそらくLv限界突破をしているのは、一部の者達だけなんだろう。

 きっとあの場にいた女共がその恩威を受けていると考えるのが無難か。

 だが、後方から飛んでくる銃器が厄介だ。


「アチョー!」

「はぁ!」

「てい!」


 ババアとラフタリア、フォウルが気を点の様に凝縮させて叩き落としている。

 だが、消耗が激しい。


「もう一度」


 谷子がガエリオンに乗って、詠唱の補助を始める。

 サディナも手伝っているようだ。


「うう……わん!」


 キールはけるべろすモードになって先頭の兵士に食らいつく。

 ただ、兵士共も馬鹿に出来ないLvなのか、それとも盾を奪われた所為で加護が掛らないのか、一撃で致命傷を与えられない。


 盾を奪われた所為で能力補正の加護が掛らない。

 その所為でフォーブレイの兵士を簡単に倒せない……のか?

 腐っても大国の兵士だ。Lvも相当の、優秀な兵士であるのだろう。

 一概にしては言えないか。


 幸い、タクトや女共と比べると遥かに弱い。

 精々100Lv前後だ。

 もちろん、後方を気にしながらというのもある。


 タクトが壁を打ち抜く勢いでスキルを放てばタダじゃ済まないだろう。

 考えられるのはクールタイム、もしくは自分の物になった城をこれ以上傷付ける事はしないか。


「転移無効を解除させるのはまだか!」

「さっきからやってるよー!」


 フィーロが焦りながら答える。


「レン、私達の事は良い! あのような下劣な者に伝説の武器を奪われるくらいなら一人でも良いから逃げてくれ!」

「そんな事できるか!」


 女騎士の言葉に錬が激昂しながら答える。

 くそ……転送が出来ないとは、こんなにも歯痒い気持ちになるんだな。

 動けない俺はぼんやりとした意識のまま、思う事しか出来ない。


「せめて外に出る事が出来ればガエリオンに乗って逃げられるのですが……」

「迎撃される危険性があるぞ」

「お義父さん!」


 元康が血塗れになっている俺に駆け寄ってくる。

 そんな暇があったら戦え!

 と、逃げながら進んでいたのだけど、兵士達に行く先々を邪魔され、行き止まりに誘導される。


「流星剣!」


 行き止まりの壁を破壊し、出た廊下を進む。

 錬の行動力は称賛に値するな。


「しんがりはワシらが引き受ける。聖人様方は早く逃げるんじゃ!」


 ババアがラフタリアとフォウルと女騎士を連れて、後ろから追ってくる連中の足止めをする為残る。


「だ……」


 大丈夫なのかと不安になって手を伸ばす。

 その役目は、本来、俺がするべき事だったはずだ。


「ナオフミ様、お任せください!」


 だが、それを見越してなのか、なんとなく目立つ、赤い頭巾の女の子とアオタツ種の女が待ち受けている。


「タクト様の言うとおり、来たね」

「く……」


 振り返ると同じように、玉座の間に居た奴等がいる。

 回り込まれたか。


「キュア!」


 ガエリオンが二度目のサンクチュアリを展開させる。


「無駄だ」


 相手のドラゴンに再度展開されてしまう。

 延々といたちごっこを繰り返しかねない状況だ。

 それでも、この場から逃げるには転送に頼るしかない。


 フォーブレイの城内は敵だらけだし、仮に城門の外へ出ても国内の兵士は元より……国民が敵として待ち構えている可能性が高い。

 俺だったらそうする。

 名目が何かは知らないが、鞭の勇者が絶対に追ってくる。

 深手を負って逃げている俺達では非常に不利だ。


「さんくちゅありー!」

「バードサンクチュアリ!」

「ぶー!」


 フィーロが地団駄を踏んで、思い通りにいかない歯痒さを表現する。


「力の……根源足る……ぐふ」


 魔法を唱えようとするが、タクトから受けた傷が深くて意識は集中できない。

 あの攻撃……いや、武器は呪いがあるのだろう。

 魔法で傷が治らない。

 状態異常にでも掛ったかのように、体が、意識が保っていられない。


「ごしゅじんさま!」


 フィーロが魔法を失敗した俺に声を掛ける。

 ババア達が戦っている後方からタクトの声が聞こえてくる。


「いい加減諦めろ。クズ共」

「く……誰が諦める物か! ヴィッチに唆され、鳳凰との戦いに故意に横やりを入れ、皆を……七星勇者を殺したお前なんかに!」


 錬が矢面に立って振り返って宣言する。


「何があろうとも、あんな豚にマルティを明け渡し、霊亀を復活させたお前等に正義なんて無い。大人しく死ね!」


 と、タクトが爪を構えたその時――


「ラフーーーーーーーーーーー!」


 バシィっと辺りに展開していた転送妨害の為の聖域が解除されるのを、感じ取れる。

 ラフちゃんが尻尾を大きく膨らませ、魔法を発動させた瞬間だった。


「な――」


 意外な伏兵の行動に、連中も隙が生まれた。

 最初、ガエリオンとフィーロがサンクチュアリの魔法を使っていたので、二回唱え直せばしばらくは大丈夫だと踏んでいたのだろう。

 だが、ラフちゃんが意表を突いて、唱えた所為で転送スキルを唱えられる余裕が生まれた。


「今だ!」


 錬、元康、樹がそれぞれ武器を強く握りしめ、転送スキルを唱えた。


「転送剣!」

「ポータルスピア!」

「転送弓!」

「逃がすか!」


 タクトが鞭を取り出す。

 そして徐に後方に居た、ババアとラフタリア、そしてフォウルに向けて振るう。


「バインドウィップ!」


 鞭はまるで生きた蛇のように素早く伸び、フォウル、女騎士に絡み付こうと突き進む。


「させません!」


 剣を鞭に突き立て、ラフタリアは鞭の拘束を妨害した。


「フィーロ、フォウルくん、エクレールさん」

「姉貴――」

「ラフタリア――」

「私に何かあったら――ナオフミ様を、お願いします」


 そう、まるで何が起こるか分かっているかのように、ラフタリアはフォウルに告げ、ぐったりと見る事しか出来ない俺に微笑む。


「ラ……フ……タリア……」


 声を漏らすとヒューッと肺からイヤな音が聞こえる。

 動け、じゃなきゃ――俺はまた、大事な者を失う! 早く!


「それには及びませんぞ、聖人様!」

「え?」


 ババアがラフタリアを蹴り飛ばし、こちらに吹き飛ばす。

 ラフタリアが呆気に取られながら転がってくる。


「早く逃げるんじゃ!」

「しかし、転送が上手く行くか――」

「ここで逃げなければ……全滅じゃ! さあ、早く!」


 ババアの怒気に錬はコクリと頷き、スキルを完全に作動させた。


「聖人様……世界を、皆を、弟子達を任せましたぞ!」

「な、なにを……」

「我が流派は己より強き悪を挫く為に存在するなり、例え我が身朽ちようとも後に続く者がいるのならば、無駄死ににあらず!」


 そう叫びながら、ババアは俺達とは逆方向に向かっていった。


「師匠ぉおおおおおおお!」


 ラフタリア、そしてリーシア、女騎士、フォウルの叫びが木霊する。

 その直後、スッと視界が変わって行くのを俺は感じていたと同時に視界も……暗く、遠くなっていった。


 転送は成功しただろう。

 それは元康、樹も変わらない。


 ただ……ババアは転送に巻き込む事が……出来ず、取り残してしまったのは飛んだ後、判明したのだった……。

作中でも後々説明しますが一応補足。

伝説の武器を奪う力→生まれ持った固有能力。

女共→自分の意志で付いてきているチョロインハーレム。

鞭の勇者から見て→ヴィッチ盾から強姦→槍にNTR→豚王にもNTR?→ボロボロリョナヴィッチ保護→現在。

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補足の後半は不快
[良い点] めっっっっっっっちゃ久しぶりにWeb版読みに来た 4.5年振りとか 何となく覚えてるのは書籍版の内容っぽくてWeb版の展開が新鮮で楽しい [一言] 普通に面白いし好きです。 ラフタリアじ…
[一言] ハーレム否定する癖に、ハーレムばかり持ち出すのが 鬱陶しい。 何故、事あるごとに敵キャラをモテ男にするんでしょうか? ろくな女性経験ないヤツの、僻みとか読まされてもねえ みぐさい限り。
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