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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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奪われた力

「天才ですじゃ? ワシはあまり好かんですじゃ」


 ババアがこれ見よがしに会話にしゃしゃりでてくる。

 樹といい、ババアといい、盗み聞きするな。

 しかし、なんで変幻無双流ババアが天才を嫌うんだ?


「……なんでだ?」

「変幻無双流はその数世代に一度生まれる天才によって内部分裂を起こし、滅んだんですじゃ」

「そうなのか?」

「ですじゃ。我こそは世界を統治する者なりと流派に禁じられた考えを元に世界支配を目論んだ天才がいたのですじゃ」

「へぇ……」


 なんとも、何処の場所にもいるんだな。

 今更だけど、この世界って碌な奴がいないよな。

 この調子だと鞭の勇者とやらも、微妙そうな気がする。


「天才は繁栄と衰退を司ると言われております。歴史の節目には必ずその影があるので、鞭の勇者様も期待と不安を背負って活動なさっているのですよ」


 節目ね?

 大きな戦争とかに関わるとか、そんなところだろう。

 って、資料の大部分が喪失するような事件に天才が関わる事が多い?


「メルロマルクの女王と四聖勇者様御一行のご入場ぉおお!」


 っと、話をしていたら謁見の間に辿り着いた。

 ここにあの豚王が居るのか?

 出来れば会いたくないなぁ。

 盾の勇者さん、やっと会えたねとか言われて脂ぎった体で近寄られたら鳥肌が立ちそう。

 とー……思って玉座に目を向けると、見知らぬ青年が王冠を被って玉座に座っていた。


 見た目は一言で表現するなら美少年だろうな。顔の作りが良い。整っているとは思う。

 髪は金髪、目の色は青、典型的な外国人って感じ、ただ……目つきがなんかあやしい。

 気持ち悪いと言うか、この世界の連中では出せない独特の何かを感じる。


 昔の元康を彷彿とさせる、爽やかさの中に下心が混じっているような何かがある。

 それでいて、俺達を見下げているような、イラっとする何かが、俺に奴は敵じゃないかと疑念を持たせる。


 服装は、ラフなジャケットにジーパン?

 近代的な街並みだから似合うとは思うけど、何か違わないか?

 王冠の下にバンダナ巻いているし、似合ってない。

 髪の長さはショートだな。


「よく案内してくれた」

「ハッ!」


 案内した兵士が敬礼して玉座の間の扉を締める。

 それだけなのに昔の樹を彷彿とするのは兵士の目つきの所為……だろうか?


「キュア?」


 ガエリオンが抱いている谷子の腕から頭を上げて辺りを見渡す。


「んー?」


 同時にフィーロも首を傾げていた。


「これは鞭の勇者であるタクト様ではありませんか? 国王はどうしました?」


 タクトと言う名前なのか?

 これが大天才……人はみかけによらないな。

 もっとガリ勉野郎かと思ったが、一見すると美少年だ。


「国王? ああ、奴なら俺が殺したよ」


 さも当然と言うかのように鞭の勇者はそう告げる。

 さすがの女王も、いつもの澄ました顔に疑問の色が浮かぶ。


「……聞き間違いでしょうか? もう一度お願いします」

「あんなクズは生きている資格は無い。この世から消えて貰った。悪知恵だけはあったからな。処分するのに苦労したぜ」


 その言葉に俺も含め全員が警戒態勢を取った。


「……内乱でしょうか? そのような話は初耳ですが?」

「そりゃあそうさ、俺が城の連中に命じて口止めしてたしな。そしてメルロマルクの女狐。アンタも世界には不必要な奴なんだよ!」


 タクトの手が怪しく光る。

 何か放つ気だ!

 俺は咄嗟に女王の前に出て盾を構える。


「ヴァーンズィンクロー!」


 クロー!?

 そう、タクトの手には、禍々しい黒い爪が収まっている。

 そして、見覚えのある、あの閃光が射出され、俺の盾とぶつかり……盾を貫いた。


「な――」


 同時に左肩を貫き、延長線上に居た女王さえも貫いていった。

 直後、穿たれた体から激痛が走り、血飛沫が上がる。


「ぐっ……」


 全てがスローモーションに感じつつ、俺は盾と……女王に目を向けた。

 辛うじて、俺と女王にしか奴の攻撃は命中しなかった様だ。


 ――その直後、俺は全てを悟った。


 咄嗟に動けたラフタリア、フォウル、女騎士が敵に向けて気を放出させながら走り出す。

 次にフィーロとガエリオン、ババア。

 遅れてラフちゃん、キール、サディナ、谷子もようやく動き出した。


 即座に戦闘形態に入り、構える。

 ババアも腰を落としてフォウルに続く。

 ラフちゃんは俺に駆け寄った。

 完全に出遅れたのは錬、元康、樹、リーシアだ。

 いや、戦闘態勢に入ったのはババアと同じ、だけど……タクトの手にある武器を見て固まっていた。


「お前か――! お前がアトラを――」


 サッとタクトはフォウルの攻撃を避け……る前に青い影がフォウルの前に立ちはだかる。

 そこには東洋の龍を捩ったような亜人の女が居た。

 髪の色は青、髪型はロング。瞳は黄色、まるで満月の様な女だ。


「おっと、タクト様に何をしようというんだ?」

「そうじゃ、わらわ達のタクトに何ようじゃ?」


 同時にラフタリアの前に……狐のような尻尾を二本生やした、幼い女の子が両手に魔法を集めて立ちはだかる。

 黒くて艶のある長い髪、服装は巫女のような格好。

 顔はラフタリアに勝るとも劣らぬ程整った女だ。


「ハクコのガキ」

「アオタツ種! どけ!」

「ラクーンのブス」

「邪魔です!」

「世界の為に戦ってきた者達になんという仕打ち……卑劣過ぎる……いくぞ、ラフタリア! あの様な邪悪を許す訳にはいかん!」


 ラフタリアと女騎士が連携して稲妻の様に剣を走らせる。


「犬臭いわ。早く処分しましょう」

「ルカ種……こんな陸にいるとは死にたいようね」


 キールとサディナを遮るように、赤い頭巾を被った女とツリ目で歯が尖った魚の尾びれのような水生系の耳を生やした銛を持つ女が遮る。


「兄ちゃんに何すんだ!」

「あらー……」


 クズが倒れる女王を抱きとめて、放心する。


「あ……」


 震える手に血がべっとりと付いている事を確認し。


「誰か! 早く妻に回復魔法を!」


 声に、元康の三匹が応じて、みどりが駆け寄り回復魔法を俺と女王に向かって唱え始める。


「いきなり何をする!」


 錬が剣を抜き、元康がスキルを唱え始め、樹が弓を引く。

 まだ咄嗟の事態に完全に対応しきれないリーシアが直感を働かせたのか、部屋の端に並んでいる仕切りの様なカーテンに投擲武器を投げ付けた。


 俺は、憎き敵を見付け、殺意を迸らせる。

 怪我? 知った事か。

 倒れる訳にはいかない。

 右足に力を入れ、倒れそうになる体を無理矢理にでも立て直し、奴を睨みつける。


 コイツの……コイツの所為でアトラが、皆が……。

 絶対だ。コイツだけは絶対に、殺す!


 ラースシールドⅢグロウアップ!

 ラースシールドⅣになりました!

 ラースシールドⅣグロウアップ!

 ラースシールドⅤになりました!


 慈悲の盾の加護の所為で変化させる事は出来ないが、それでも……変化させてやる!

 例え命に変えても、奴を仕留めてみせる。


 ラース――……

 な、なんだ? システムが沈黙する?

 盾のアイコンが遠くなっているような……?


 バキン!

 甲高い音を立てて、盾に……ヒビが入り、腕に付いていた盾が残骸となって砕け散った。


「な!」


 伝説の盾は破壊不可の能力を持っているんじゃなかったのか!?

 そんな事よりも俺の防御力を突破してその背後に居た女王まで撃ち貫いたという事実だ。

 コイツ、一体何者だ!?

 鳳凰の攻撃さえ無傷で済んだ俺の盾を易々と突破するだと!


「あー……盾か。正直いらねえけど、無いよりはマシか」

「な、にを」


 倒れそうになるのを抑え、俺は回復魔法を自分に唱える。


「ツヴァイト・ヒール!」


 即座に出てくる回復だ。

 失った血までは抑えきれないだろう。


「ナオフミ様! 大丈夫ですか!」

「気にするな! それよりも目の前の敵を……アトラの仇を、殺せ!」


 怒気に満ちた声で俺は命じる。

 そうだ。

 奴は、奴の攻撃は間違いなく、鳳凰を仕留めたあの閃光だった。

 その威力は相当な物で、背後に目を向けると、玉座の間の扉に穴が出来、尚続いている。


「わかったぜ、兄ちゃん!」


 キールが変身して犬形態で駆け出す。

 だが、それを樹が止める。


「待ってください!」


 むんずと樹はキールの首根っこを掴んで引きもどす。


「何すんだ!」

「尚文さんの盾を貫くほどの攻撃だったんですよ。下手に突っ込んだら一撃で三枚におろされます! それよりも鞭の勇者であるにも関わらず、爪を持っている事に疑問を持ってください!」


 そんな事はわかっている。

 俺は一歩、踏み出そうとした。

 だが、体に力が入らない。

 傷に目を向ける。

 回復魔法を唱えたはずなのに、全く治っている様子がない。


 どうしてだ!?

 動け、動いて奴を、アトラの仇を!


「あーあ、クズばかりだから鳳凰の爆発で消えて貰おうと思ったのに、生き残るなんて冗談じゃない。ま、こうしてノコノコとやってきて俺に力を授けてくれるんだから、まだマシか?」

「ふざけるな!」


 ドンとフォウルがアオタツ種の女を気の力を応用した関節技で吹き飛ばして殴りかかる。


「おっと、その程度で俺に勝とうというのか? 舐められたものだな」

「アチョー!」


 同時に地面を殴り飛ばしたババアの気がタクトに向かって飛んでいった。

 余裕で避けたタクトは手を上げると同時に、リーシアが切って落としたカーテンから敵が顔を出す。

 隠れていた女共が、アサルトライフルらしき長筒をこちらに向けている。

 おい……銃器はステータスに依存するんだろ?


「流星盾!」


 咄嗟に俺は便利な流星盾を唱えた。

 しかし、流星盾は展開されない。


「ハンドレッドソード!」

「ブリューナク!」

「ピアーシングショット!」

「エアストスロー!」


 反撃するように勇者共がスキルを放つ。


「何々? シールド……プリズン?」


 バキンと音を立てて巨大な盾の檻がタクトの前に現れ、錬達の攻撃は遮られた。


「な――」

「はいくいっく!」

「ハイクイック!」


 同時に大きな影がカーテンから現れてフィーロに向けて襲い掛かる。

 バキンバキンとフィーロと何かが高速で衝突する。


「ファイアブレス!」

「キュア!」

「フリーズブレス!」


 ガエリオンと谷子がなぎ払う為にブレスを唱えたが、フィーロと同じく、現れた影に中和されてしまう。


「タクトの邪魔はさせない」


 グリフィンが人語を話してフィーロに組み付く。

 ドラゴンの尻尾と羽を生やした女がラトの様な巨乳を揺らし、煙管を持ってガエリオンと谷子に対峙していた。

 先ほどフリーズブレスを吐いたのはこの女らしい。


「そうね。アンタにはムカつくけどそこは同意よ」

「キュア!」


 氷のブレスを吐いたトカゲ女と全身で殺気を放つガエリオンは互いに相手を睨む。


「へぇ。あんたも竜帝なの……じゃあ逃がす訳には行かないわね」


 そして憎むべき怨敵、タクトが女共に告げた。


「みんな、女子供は殺すなよ? 奴等に利用されているだけだからな」

「わらわを侮るでない。わかっておる」

「ええ、彼女達もタクトの事を知れば、わかってくれるわ」

「撃てーーーーーーーーーーーーーー!」


 女共が俺達に向けて銃器の引き金を引く。

 銃声が鳴り響く。

 ぐ……が……う……。


「ぐ……うぐ……」

「が……あぐ!」

「いた……あああああ……」


 全身を貫かれるような痛みが走った。

 なんでだ!?

 どうして防御力が一番高いはずの俺が、こんなにもダメージを受ける。


「どうだ? 最低Lv250の者達が放つ鉛玉の味は」


 な……250だと!?

 限界突破の情報まで持っているのか。

 道理で麒麟に余裕勝ちできる訳だ。


 実質俺達の倍のLv……いや、最低と言った。

 三倍はあると見た方がいい。

 女王とクズは元康の三匹が盾になったお陰で銃のダメージこそ受けていないが、他の連中は満身創痍になってしまう。

 錬も元康も樹も大ダメージを受けてしまった。

 しかし言葉通り、女子供……ラフタリア、リーシア、女騎士、谷子などは攻撃を受けていない。


 この偽善者が!

 どうせ男は皆殺しにし、女は生かして、都合の良い主人公みたいな事をしているんだろう。

 現にフォウルやフィーロ、ガエリオン、サディナ、三色フィロリアル、ババアなどは銃弾を受けている。

 それは今は犬に変身している、変身前、男にしか見えないキールも含まれていた。


 この戦い方に覚えがあった。

 おかしくなる前の……要するに下心丸出しだった頃の元康が思い出される。

 さも自分達は正義だとでも主張しているかの様だ。


 もちろん重点的に狙われたのは勇者である俺達だ。

 だが、それでよかったのかもしれない。

 あんな攻撃を受けたら、勇者じゃなければ死んでいる。


 とはいっても、やばい……このままじゃ死ぬ。

 俺の盾、壊れているのか?

 というか、錬や樹、元康はもう四倍の強化をしているんだ。

 生半可な攻撃は痛くも痒くも無いはずだぞ!

 俺の言葉にタクトがニヤリと笑みを浮かべる。


「お前等のLvが低過ぎるんだよ。大人しく、Lv350の俺に負けを認めろ」

「な、ナオフミ様! あれ!」


 ラフタリアが震える手で、タクトを指差す。

 俺は言葉を失った。

 なんとタクトの腕に……見覚えのある盾が嵌っていたのだ。


「ああ、謎ばかりで死ぬのはイヤだろうから教えてやるよ。俺は伝説の勇者の武器を奪う力を持っているんだ」

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