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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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天才

 樹がコピーを終えて戻ってきた。

 まあ、実戦で使えるかはまた別だし、強化が必要なんだろうけどさ。

 そのまま馬車を走らせていくと、徐々にメルロマルクよりも大きな城が近づいてきた。


 白いハトみたいな魔物が空を飛んでいて、思いっきりファンタジーって空気を展開させている。

 召喚された当初の俺がここにいたら感動していただろうな。

 メルロマルクよりも豪華だし、住むには悪くなさそうではある。


 考えてみれば中世っぽい世界ってだけなんだよな。

 こういう時代の大都市って本当は衛生観念が悪くて、窓から糞尿が捨てられていたとか聞く。

 ハイヒールはそういうのを避ける為に作られたらしいけど、本当か?


 そういうのとは違って、不衛生な感じはしないな。

 上下水道は完備されている所が多い。

 そりゃあ地方の村とかは普通にド田舎だけどさ。


 この辺りは異世界人から教わった知識なのだろうか?

 ゼルトブルは治安が悪そうな感じがしたけど、こっちは至って普通の首都というか。


「そういや……メルロマルクよりも亜人と人間の扱いの差は無いみたいだな」


 俺達の活躍でメルロマルクは現在、亜人差別をやめようとしている。

 けれど、なんとなくぎこちないし、城下町にいる亜人も冒険者や商人が大半で、永住しようとかの空気は無い。

 もちろん、俺の領地内にある町は亜人は多いけれど、フォーブレイは本当に……差別が無いように見えた。

 人間と亜人の子が仲良く遊んでいる光景は、俺の所でも殆ど見ないから新鮮な感じがする。


「そうですね。見習いたいものです」


 女王がそんな光景を見つつ呟く。

 俺のお陰で亜人冷遇は少しずつ改善されてきているが、一部の心無い亜人が人間差別をしようとする事が俺の領地では問題になる事がある。


 お?

 大きな教会を通り過ぎた。

 四つの武器を模したエンブレムが印象的だ。

 四聖教会だ。


 俺の所の教会もこのエンブレムを掲げている。

 その隣には、時計の様な台座にそれぞれ武器が刻印されているエンブレムを掲げている教会がある。


「あちらは七星教会ですね」


 女王が両方の教会を説明する。


「あそこの祭壇にはそれぞれ勇者が生存しているのを証明する祭具が祭ってありますよ」

「三勇教から没収したって奴?」

「ええ、四聖教会から秘密裏にすり替えていた祭具でございますね」

「へー……」


 謁見でも終えたら見に行くか。

 本当の犯人が見つかったらそれどころじゃないだろうけど。


「ほら、遠くからでも見る事が出来ますよ?」

「え?」


 そう言われて女王が指差したのは、教会のエンブレムが掲げられているエンブレムの上にあるステンドグラスだ。

 よく目を凝らすと、四聖教会のエンブレムの上のステンドグラスには四つ。

 七星教会のエンブレムの上にあるステンドグラスには七つ輝いている。


 ただ、七星教会のステンドグラス……なんか変じゃないか?

 不自然に一か所欠けているのだが……。


 なんて言うか、パッ○マンみたいな感じで一つだけ欠けてるように見える。

 それでも七つ、煌々と輝いていた。


「先日まで、六つしか輝いておらず、小手の勇者様が選定されたと同時に七つ目が輝いたそうです」


 教会の前では祈りを捧げている修道者がチラホラ見える。

 チラリと馬車の中に居る勇者共に目を向けると、恥ずかしそうにしている。

 元康は別の馬車で、そっちを見ると別に何も感じていないみたいだ。

 ここで勇者である事を暴露されようものなら信者共にもみくちゃにされそうだから黙っていよう。


「勇者か……そういえばフォーブレイは五人の勇者を抱えているんだったな? よくシルトヴェルトや他の国が許したな」

「厳密にいえば抱えている訳ではなく、援助をしているのが正しいです。ですからこちらの地方の連合といいますか」

「へー……」

「シルトヴェルトにある七星武器というのもあります。それがツメの七星武器ですね。所持者はこの世界出身の亜人だそうです」


 異世界召喚が三人だから、この世界出身の二人の内一人か。


「杖はメルロマルクだったか?」

「ええ」


 女王がクズを小突く。

 クズはコクリと静かに頷いて、俺とフォウルを見つめるだけだ。

 覇気が無いなぁ。


「過去に……先代のツメの勇者とクズは死闘を演じたのですけどね」

「そこは良い」


 クズが昔はすごかったはもう耳タコだ。

 いい加減聞き飽きた。


「イワタニ様のお陰でシルトヴェルトの連合軍参加の方と伝説に関して実りある話ができました」

「ほう……」

「まず、あちらの国は盾の勇者様を信仰しているのはお分かりでしょう」

「まあな……」


 拝んでくる奴とかいるし。

 勇者の中では扱いが俺だけ高待遇だ。


「そこから様々な伝説を聞いていたのですが、大きな相違点に気付きました」

「何?」


 女王って伝説の探求が趣味らしいのは前から知っている。

 メルティもその辺りは語っていた。

 フィロリアルの伝説とか女王が趣味で出かけた結果らしいし。

 迷いの森だったか?


「あちらでは四聖で活躍したのは盾と弓だそうです。同じ理由で七星の勇者の伝承も偏った傾向あります。具体的には槌、爪、鞭、でしょうか」


 偏り、か。

 盾と弓だと相性が良いのは確かだ。

 他にもツメの勇者は確かシルトヴェルトの亜人だと聞いた。


「その他、伝承を読み進めて行く内に気付いたのは人間の登場人物が殆ど無い事でしょうか」

「そりゃあ亜人の国だからな」

「確かにそうなのですけれど、古くなればなるほど盾と弓の勇者以外の人間の登場が少なくなります」


 古くなればなるほど?


「じゃあ新しくなればなるほど人間の登場が多くなるのか?」

「はい。これが何を意味するのか、考えていくと面白くなっていくと、私は思っておりますよ」


 ふむ……亜人の伝説は古いほど人間の登場人物は少ないか。

 だとすると同じ理由で、人間の方も亜人が少ないとか、ありそうだな。

 人間側は剣と槍の伝承が多かったりな。


「同様の現象がメルロマルクの方にもあるのですよ。厳密にはメルロマルクの前身となった国の非常に古い文献なのですけど、こちらは古いほど亜人の登場人物が少なくなります」

「剣と槍の勇者の伝承も多いのか?」

「はい。シルトヴェルトと真逆ですね。逆にこちらでは盾と弓の勇者の伝承は少なくなります」


 確かに不思議な現象だ。

 メルロマルクもシルトヴェルトも、別に海や大河で大地が離れている訳でも無い。


 単純に考えられるとすれば、交流が無かったとか?

 現に人間の国と亜人の国は言語が違う。

 勇者は伝説の武器の影響で会話が成立するが、以前ラフタリアは亜人の国の言葉がわからなくて困っていた。


 俺の世界でも明治維新の時とか、言語が伝わらなくて困った、みたいな話を聞いた事がある。

 その所為で日本は不利な条約を結ばされたりしたのを歴史の授業で習った。

 中学だったか、高校だったかの授業だったので、良くは覚えていないけどさ。


「文化圏の違いじゃないのか? 発展しなかったから交流も少ないとか」

「それが定説ですね。何分、人間も亜人も発祥した当時は原始人の様な生活で、常に魔物に怯えていたと信じられておりますし、私達の国では亜人は魔物だと言うカテゴリーを組んでおりましたし、それはあちらとて同じでしょう」


 理解が進むまで、魔物として扱われ、物語の登場人物には居なかった。

 あり得る話だな。


「ですがー……この先は憶測になりますので、もう少し確信を得るまでお待ちください」

「気になる言い方だな。話せよ」

「そうは言いましても、もう少しで城ですよ?」


 女王が指差すと、目の前に城が迫っていた。

 確かに、長話は出来るような状況じゃないな。


「よし、じゃあ入城を済ますか」


 女王は頷き、城門の門番に声を掛ける。


「メルロマルクの女王と勇者様方ですね。話は伺っております……どうぞ!」


 前もって来る事は伝えてあるし、門番は快く門を開けてくれた。


「……?」


 フォウルがその様子を見て首を傾げる。


「どうした?」

「いや……」


 俺も門番の方を見る。

 笑顔で見送っているぞ? 何を不思議がっているのだろうか?


「気の所為か? 変な含みがあったような気がした」

「そうか?」


 にこにこと手を振っている。

 確かに怪しいとは思うけれど、疑い過ぎると何もできなくなるのは俺の経験から知っている。

 馬車を城内に入れると、城門は音を立てて閉められた。


「フィーロを納屋の方へ行かせて先に行くべきか?」

「庭に停めて貰って結構だそうですよ」

「そうか」


 庭に馬車を停めて俺達は城の中に入る。

 おお、メルロマルクの城よりも重厚感というか広さが違い過ぎる。

 なんだかんだで世界で一番大きな国という事か……。

 赤いじゅうたんが何処までも続いていて、その先には階段がある。

 脇に進んだら迷いそうだ。


 地下へ行く道もありそうだけど、こっちは牢屋とかありそう。

 メルロマルクにも牢屋はあったし。

 全員でぞろぞろと案内されながら、俺たちは大きな城を上って行く。


「そういや、七星勇者ってどんなのがいるんだ?」


 どんな人間なのか実際に会えば良いのかもしれないけど、前もって風聞くらいは聞いておくべきだ。

 もっと早く聞けば良かったのだろうけど、聞くチャンスが無かったから今、聞いておこう。


「では、麒麟戦で大活躍した鞭の勇者様に関してから話しましょうか」

「鞭の勇者ってこの世界出身なのか?」

「ええ」


 歩きながら、女王は説明を始める。


「まず鞭の勇者様はこの世界で稀に生まれる大天才と言われております」

「稀に生まれる?」

「ええ、数世代に一回、世界を大きく改革する程の画期的な技術や商業、その他、様々な学問に通じる天才がこの世界には生まれる事があるのです」

「へー……変わった現象だな」

「一応、フォーブレイの王族の端に位置する貴族の家柄の出で、僅か三歳で魔法を習得し極めた者です」


 ……何処の世界にも天才ってのは生まれるもんなんだな。

 そう言う奴が勇者として選定される訳か。

 って、一応クズも策略の天才だったんだっけ?

 フォウルもー……亜人の中じゃ戦闘力が五本の指に入る種族出身だしな。

 一定の強さが選定の基準なんだろう。


「そして五歳で製紙技術の改革を行い、世界中の製本の技術を飛躍的に復興させました」


 五歳で?

 そりゃあ凄いな。

 ……樹が女王と歩調を合わせて隣を歩き始めた。

 まあ樹は異能力の世界で中途半端な才能しか無かったから、大天才に思うところがあるんだろう。


「その並々ならぬ才能に周囲は感嘆の声を漏らしたそうです。そして七歳から錬金術、機械魔法学と様々な学問を吸収し、フォーブレイの貴族の学園を主席で卒業、やがて冒険者ギルドに席を置き、Sランクの冒険者として名を馳せ、シルドフリーデン主催の武術大会で優勝を果たし、更には波が来る前に鞭の勇者として選定されました」

「典型的な天才だな」

「現在は移動手段の研究を行っているそうですよ」


 女王が廊下の窓から外を指差す。

 ん? 何か飛んでる。

 ドラゴンとかそういう空を飛ぶ魔物かと思ったが……飛行機?


「あれの事か?」

「はい。過去に勇者様方からもたらされた、ドラゴンやグリフィン、魔法を使わなくても飛行する機械を実用的な段階へと行かせる研究をしているそうです」


 言葉通り大天才って感じだ。


 ……何だろうか。凄く聞き覚えがあるような気がする。

 しかし、どこでそんな話を聞いたんだ?

 随分前だったと思う。

 この世界に来るよりも前だった気がするが……そんな事ありえないよな?

 他にも、以前誰かが似た様な事を俺に言った気がする。


 う~ん……。

 俺は歯に何か詰まったかの様な感覚を抱いていた。

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