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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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銃器

 俺達が村にポータルで飛んで急行する少し前の事。

 おかしくなった俺が拠点にしていた島で、ソレは目を覚ました。

 地中深くに封印されていたソレと付随する物は、少しずつ様々な研究を継続し、殻を破るかのように目覚めて、地中を掘り進み、地上に出て産声を上げる。


 そしてぶるぶると体に付いた土を払って、海へ泳ぎ出した。

 行くべき場所を理解しているかのように……やがて俺のよく知る村に辿り着いた……。


「急いでフォーブレイへ行くぞ! 馬車を出せ!」

「えー……この馬車を引いて行くのー?」

「我慢しろ! ほら、みんな急いで乗れ! 元康、お前の所の三匹にも馬車を引かせろ! ガエリオン! お前もだ!」

「はい! お義父さん」

「キュア!」


 ソレは、俺の声を聞いて馬車へ駆け出した……。



 翌日


「今日にはフォーブレイで会議が出来るか?」

「おそらくは」


 宿で朝食を終えた俺たちは、フォーブレイの隣国の城で休んでいた女王と合流して出発した。


「先方も準備が出来たと伝達してまいりましたので問題ないかと」

「そうか、勇者が集まったか」


 どういう指揮系統で動いているんだ?

 麒麟戦にも不参加とか、訳がわからん。

 世界の為に戦っているんじゃないのか?

 ゴトゴトと馬車は揺れながら進む。その途中で石畳の道へと変わって行ったのはまあ、どうでも良いか。


「錬、俺達と同じ異世界人の勇者は何を考えていると思う? 麒麟にも不参加だそうだ」


 樹は淡々と馬車の中で沈黙しているし、元康はフィーロと配下の三匹しか見てないから話を振れない。

 なので錬に聞いてみた。


「考えられるのは複数あるよな」

「まあ、な」

「一つは波なんてどうでも良いって使命を放棄しているパターン」

「すごーく納得できる」


 自分の事だけを考えたら、それも悪い手じゃないんだよな。

 こんなクソみたいな世界、ささっとドロップアウトして隠居生活したい奴がいても不思議じゃない。

 ぶっちゃけ、滅べば良いとか俺は思っていた。

 けど、ラフタリアやアトラの事を考えると昔よりは前向きに守りたいと思える。


「後は、麒麟を倒したって言う七星勇者が任せろと言って、参加を見送ったとか……」

「他人任せって所がなんか不吉だな」


 異世界召喚ヒャッホーって奴が、こんなイベントを見逃すとは考えづらいんだけどなぁ。

 あれか? 洗脳に近い感じで、一人の奴を信仰しているとかそういう奴?


「あとは……Lv上げに夢中で仙人状態とか」

「あー……」


 イベントには不参加でLv上げるの大好きってプレイヤーは居るよな。

 人里離れた場所にずっと籠っているとか。

 それをされると非常に困るんだけどな。世界的に見て。

 でも錬達を見ているとわからなくもない。


「ラフー……」


 ん?

 聞き覚えのある鳴き声が遠くから聞こえた。


「今、何か聞こえなかったか?」

「そうか? 俺の方は全然」

「フィーロ」

「なーに?」

「馬車を止めろ」

「うん、わかったー」


 馬車を止めて俺は耳を澄ます。


「ターリー」


 やっぱり聞こえる。

 あ!

 馬車の下を調べると車軸の下にラフ種が一匹掴まっていた。

 目が合うと、ラフ種は諦めたように地面に降りて馬車の下から這い出てくる。

 理由はわからないが、隠れていたのか?


「何かあったのですか?」


 ラフタリアが馬車から下りてきて聞いてきた。


「ラフ種の声が聞こえたんだ」

「よく聞こえましたね。と言うか……」


 ラフ種を抱きかかえてラフタリアに見せる。


「付いて来ていたんですか」

「みたいだな……ん?」


 抱きかかえたラフ種を撫でてふと気付く。


「誰だコイツ? 村にいるラフ種じゃないぞ」

「見分けが付くんですか!?」

「ああ、全員の肌触りと、声で大体」

「いつのまにそんな能力を……」


 ラフタリアが微妙な顔をして俺を見つめる。

 良いじゃないか。可愛げがあるんだからさ。

 同じ親から生まれた柄の似ている子猫みたいなもんだ。

 生活が長くなれば区別位付くぞ。

 とは思いつつ、今抱きかかえているラフ種を見る。

 そのラフ種はラフタリアに目を向け。


「ニセ……」


 言い終わる前に黙りこむ。

 別にラフタリア自体がプレッシャーを放っている訳じゃない。

 勝手に黙った。


「しかし、どうするか」

「ポータルで帰らせますか?」

「うーむ……」


 ここまで付いて来てしまったのだから、帰すのも面倒だなぁ。

 七星勇者に会って、犯人を見つけられなかったら二度手間であるし。


「ラフー?」

「俺の魔物紋に登録されていない奴だしな」

「ラフ」


 コクリと頷くとポッと俺に向かって何か魔法を放つ。

 すると魔物紋が浮かび上がって勝手に登録された。

 色々と突っ込みたい衝動に駆られるがステータスを確認する。


 ……地味に高い。

 俺の所に居るラフ種の中じゃ一番高いぞ、この数字は。

 具体的にはLv80だ。


 何者だコイツ?

 野生のラフ種が自らを磨いて俺に付いてきたとかそんな所だろうか?

 元々おかしくなった俺が作った奴だからなぁ。魔物紋の登録はやりやすいのかも。


「んー?」


 フィーロが見覚えの無いラフ種に顔を近づける。


「食うなよ」

「ごしゅじんさまはいつもフィーロがこうすると注意するねー」

「今回が初めてだが?」

「前も言ったよー」


 ふむ、おそらくおかしくなっている時にもフィーロに注意したんだろうな。


「で? どうしたんだ?」

「えっとねーこの子はラフタリアお姉ちゃんに一番――」

「ラフー」


 パシッと抱いていたラフ種が尻尾でフィーロの口を塞ぐ。


「ダメなの?」

「ラフー」

「そう」


 何やら獣同士で通じ合う物があるらしい。

 しかし……肌触りが凄く良いな。

 今まで触ったラフ種の中で一番良いかもしれない。

 元々ラフタリアをモデルに作られた魔物らしいから、ラフタリアの尻尾に触り心地が似ているんだ。

 だけどコイツは、そのラフタリアと同じとも違うとも言えるなんとも微妙に良い手触り。

 ……何だろう。例えるなら理想の――


「ナオフミ様?」

「どうした?」

「撫でながら変な事を考えている顔をしてました」


 ふむ。脱線してしまったな。

 コイツを連れて行くか否か、だったか。


「とりあえず連れて行っても問題は無いだろ。地味に能力は高そうだ」

「ラフー」

「はぁ……わかりました」

「よろしくね。ちっちゃいお姉ちゃん。それとも……ラフお姫様?」

「その呼び方はやめなさい。お姫ってなんですか!」

「プリンセスはダメなのか。じゃあラフタリア二号、ラフクイーンと言うのはどうだ?」

「なんですか! それ!」

「あらー? じゃあラフちゃんね」


 サディナが馬車から顔を出して名付ける。

 ラフちゃんって……。


「ラフー!」

「まあ、それで良いか」

「はぁ……わかりました。フィーロとナオフミ様のネーミングセンスがわかりました」


 なんか心外だな。


「ラフー」


 なでなで。


「撫で過ぎないでくださいよ」

「はいはい」

「タリー」


 コイツはなんなんだ。

 鳴き声が統一してないぞ。


「リア?」





 馬車に乗り、ラフちゃんを撫でていると、どんどん近代的な街並みになって来て少しずつ目を奪われ始める。

 ちなみに『ちゃん』も名前の一部らしい。

 正式に名前を呼ぶ時はラフちゃんちゃん、になるのか?

 いやいや……。


「なんだ?」


 街並みも豊かに見えるような気がするし……スチームパンクっぽいと言うか、蒸気機関で動く車の様な物も見える。

 武器屋に並んでいるのは、銃か?

 フォーブレイって凄く近代化した街並みみたいだ。

 元康が車を見たと言っていたが、俺の想像よりも発展しているような気がするぞ。

 あ、車を発見、確かに古臭い。

 有名な探偵が出る推理小説くらいの文明と言うか、その辺りの車みたいだ。


「銃か。アレで撃たれたらたまったもんじゃなさそうだな」

「イワタニ様は銃に関心があるのですか?」

「無い訳じゃないけど……なんかメルロマルクとは随分違うと思ってな。武力で負けそうだと思った」

「銃がですか?」


 女王が武器屋に目を向けた後に俺に視線を戻す。

 何を不思議がっているのだろうか。

 銃って俺の世界じゃ殺傷兵器だぞ。


「そうだが? 弓を使ってたら負けるだろ?」

「銃はそこまで強力な武器ではありませんよ?」

「……そうなのか?」

「ええ、召喚された勇者様方の大半が提案する武器ではありますけれど、どれも失敗しますね」


 異世界召喚された俺は、現代知識を使ってチートするぜ!

 ってか?


「なんでだ?」

「そこは弓の勇者様ならご理解なさるかと」


 俺は馬車の中でぼんやりしている樹を呼んで尋ねる。


「樹、銃に関してどう思う?」

「どうとは?」

「女王は銃がそこまで驚異的な武器じゃないって言うんだ」

「そうですねー……高Lvの者が銃を使えば厄介ですがー……確かにそこまでは」


 ???

 樹の理屈が理解できない。


「尚文さん。ここは確かに現実ではあるのでしょうけど、ステータスもあるのですよ?」


 ……ん?


「結論ですと、銃火器は勇者様方の世界よりも能力が高くないと言われております」

「弾速もステータスの影響を受けますし、火薬の調整とか色々と問題があるんじゃないですか?」


 樹の返答に女王は頷く。


「はい。魔力による暴発の危険性もありますし、上手く発射出来てもこちらのLvが高くなければ威力も期待できません」


 ああ、なるほど。

 ステータス魔法による反映を度外視して強力だと思いこんでしまったのか。

 樹の理屈だと弾の速度もステータスに依存すると。


 銃って誰が使っても同じ威力だから優秀な面があるからな。

 それが使い手に依存したら俺の世界みたいな運用は難しいか。


 あ、的当てをしている。

 子供が銃を持って、的を狙っているぞ。

 俺が意識を集中しているのに気が付いたフィーロが足を止めてくれた。


 子供は引き金を引いた。

 パァンと火薬が破裂するあの独特の音が聞こえたかと思うと、子供は銃を上に上げて反動を逃がしている。


 ……弾の速度おっそ!

 弾が見えるぞ。矢と同じくらい?

 俺の知る、撃った直後には命中しているのとは大きく違うみたいだ。


「このように火薬による加速こそあれど、命中時のダメージも低く、弓と比べてコストの高さもあってフォーブレイ等の一部の都市以外では扱っておりません」

「そうだったのか」

「しかも火の魔法を受けたら暴発してしまう危険性も高いので、遠距離からの攻撃をしたいのでしたら魔法か弓、投擲武器になります」

「ゲームの話ですが、極めれば強くはなるのですけどね。最強とは呼べるものでは無いですよ」


 淡々と答える樹。

 まあ、俺もネットゲームの中で銃器の扱いが微妙なゲームはプレイした事がある。

 確かにそう言うゲームでの銃器って剣とかに劣る火力しか出ないのが多い。

 現実であると同時に、ファンタジーの世界なんだなと実感させられるな。

 矢の方が調達しやすいと言う長所があるのか。

 だから発展しないと。


「持ち手のステータスに依存するのか」

「はい。射程も……あまり遠過ぎると威力が格段に落ちます」

「同じ理屈で大砲とかもか?」

「ええ、後に研究を重ねて魔法を打ち出す大砲が開発されておりますが、それなら普通に魔法を撃った方が早くて威力もありますので廃れていますよ」

「そうか」

「大砲や投石機は、使い手のLvが高いとある程度威力が期待できるので、戦争時は使うこともあります」


 持ち手の能力に依存する。

 つまりクラスアップしてLvの高い将軍が大砲に火を付けて放てば火力が期待できると。

 要するに樹とかが使えば強いのか?

 一応は弓のカテゴリーに入るのかも。


 何処までがステータスの影響を受けて、何処までが受けないのか基準がわからない。

 中々難しいな。

 当たり前のように波での戦闘に参加しているけど、不思議に思わなかった。

 じゃあ、弓も似たように持ち手のステータスの影響を受けると言う事か。


 ……当たり前だろ。

 だけど弓も銃も似たような威力しか出ない、と。

 樹の武器って弓だから……銃は使えないのか?

 クロスボウとかも使えるだろうし……持たせて見るか。


 樹は俺の意図を察したのかコクリと頷いて、武器屋に入って行った。

 これで少しは強くなると良いんだけどな。

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