表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
251/1282

勇者の血族

「さて、少し話でもしましょうか。布を取りなさい」

「……ぷはぁ」


 捕えられたというのにヴィッチの奴は余裕を見せて辺りを見渡している。

 絶対に処刑される事は無いだろうと言う自信が見て取れる。


「さて、ヴィッチ。何か言う事はありませんか?」

「ママ、私は洗脳されていたんですよ? 革命を企てる訳無いじゃないですか」


 くっ……ここに来て便利な逃げゼリフを!

 そりゃあ失敗しても私は洗脳されていたんだと言えば言い逃れの名目が一応は立つ。

 ま、リーシアやアトラが見抜けると言っても、個人だから証拠にならないとか言い張るつもりなんだろうけどさ。

 どこまで外道なんだ。


「ヴィッチ、そんな言い訳が通ると本気で思っているのですか?」

「ふんっ! ママ、私をどう処刑するお積りですか? 私はママの娘ですよ? 処刑などしようものなら国の民がママをどうお思いになるでしょうね?」

「……貴女の考えは良く分かりました」

「で? なにで処刑するのかしら? それとも他国に婚約でもさせるお積りですか? もしくは手や足をもぐお積りで?」


 このヴィッチ!

 自分が何をされるのかをわかっていて、それでも挑発するとかどんだけ腐ってやがる。

 女王もちゃんと見抜いている分、俺はまだ手を出さないけど。


「例え何をされようとも……私は屈するつもりはありませんわ」

「処刑だ! 処刑しかない!」


 俺は怒鳴りつける。

 さすがに咎める者はいない。

 あの情に厚くなった錬ですら眉一つ上げない。


「だから言っているではありませんか? 実の娘に手を掛ける冷酷な女王を民はどう思うかと」


 話術で自身の命だけは助かろうとしているのがわかる。

 俺も頭に血が上ってくるのを感じていた。


「……いいえ」

「は?」


 女王がやれやれと言うかのように首を振る。


「貴方はとある国の王の妃になって貰います」


 一瞬、ヴィッチの顔が明るくなる。


「生ぬるい! この世の苦しみを与え抜いてから殺すべきだ!」


 自分でも過激だと思う程に俺は声を張り上げて言い放つ。

 俺にはそれを言うだけの権利がある。

 冤罪を掛けられ、何度も何度も恥辱を味わわせられ、時には殺され掛けた。

 そんな地獄の様な日々を耐え忍んで、やっとの思いでここにいる。

 この女が、未だ陽の光を浴びている事自体が気に食わないというのに、政略結婚だと? ふざけるのも大概にしろ。


「そうですか。ママ、シルトヴェルト辺りへと行かされるのですね」


 確かにその可能性は非常に高い。

 あそこならば盾の勇者を信仰しているし、俺への数々の嫌がらせに立腹している国民が多いはず。

 ならばヴィッチの末路としては良い場所かもしれない。

 嫁というか生贄として行かせるのは良いだろう。

 遺恨は残るがな!


「いいえ」

「え?」


 ヴィッチが意外そうに声を上げた。

 女王は持っている扇を広げ、口元を隠しながら……ポツリと、さも当然のように呟いた。


「行くのは……フォーブレイです」

「「は?」」


 俺と錬が同時に声を漏らした。

 元康? フィーロを見ていて話なんて聞いちゃいねーよ。


「何を言ってんだ。フォーブレイって確か一番大きい国だったか? そんな国に嫁に行かせるって温情も大概に――」

「イヤアあああああぁぁぁあぁぁあああああああ!」


 女王に文句を言っていると、ヴィッチが小刻みに震え始め顔色が真っ青になって叫んだ。


「は……?」


 俺は言葉を中断し、ヴィッチの方へ振り返る。

 絶句……という言葉が一番適切だろうか。

 処刑やシルトヴェルトへの婚姻で冷静だったヴィッチが、何故フォーブレイでは叫び声を上げる?

 意味がわからない。どういう事だ?


「ママ! 幾らなんでもそれは無いわ!」

「貴女が悪いのですよ。カルミラ島に行く前に言ったではありませんか。これ以上、目に余る事を仕出かしたら平和の為に嫁がせると。イヤなら勇者と共に世界を救いなさいと言ったではありませんか。そうすれば私もどうにかこの縁談を無かった事に出来たのですけどね」

「だからって! なんでフォーブレイなのよ!」

「それが四聖勇者を召喚した罪を許される条件だったのですからしょうがありませんよ」

「どういう事だ?」

「ああ、イワタニ様や他の方々には説明していませんでしたね」


 ん? リーシアの奴が泡吹いて失神してる!?

 なんだ? そんなにもイヤな事なのか?


「フォーブレイの国王と言うのはそれはもう肉欲に溺れた者でしてね。女と見れば……言っては何ですが快楽の玩具としか見ておりません」

「はぁ……」

「見た目だけでなく、全てにおいて非常に醜悪でありましてね。私も若かりし頃は親にフォーブレイへ嫁げと言われないか怯えたものです」


 クズも泡を吹いている。

 何? そんなに酷い刑なのか?


「というか幾つなんだよ、その国王」

「クズのー……十三程年上の兄だったかと」


 えっと、確かクズってフォーブレイの末席の王子だったんだっけ?

 それって親戚に縁談に出されるようなモノなんじゃないか?


「愚鈍で醜悪なのですが、自身の権力を守る知恵だけは回りましてね。腐っても権力闘争が過激な国の王を長年しているだけの事はありますよ」

「でもなぁ……それでこんなに嫌がる理由がわからないんだが……」


 シルトヴェルトに嫁がされるよりも嫌だって理由がわからない。

 そりゃあ面食いのヴィッチからしたら見た目の悪い奴は地獄かもしれないが。


「ここで少々説明を致しましょう。フォーブレイの王族は遥か昔から四聖、七星共にその配偶者の子供を婿や嫁に入れる慣らわしがあるのですよ。その結果、勇者の血筋として世界中に知られています」

「へー……」


 まあ神に等しい存在が実在する訳だから、そういう国があるのは自然か。

 勇者として召喚された連中も特別扱いされて気分も良いだろうし、思惑があるとしても無難といえば無難だな。

 その子供にしても、大国に仕官して優遇されるなら進んで婿や嫁になるだろう。


「そして、その子供の大半がある程度、種類分けされる事をご理解ください」

「種類分け?」

「ええ、まずは男の子の場合。何故か非常に面食いで、遊び好きであり、ハーレムを作りたがり、他者を出し抜いたり喧嘩腰で、勝つことに執着する者が多く生まれます。逆に引き篭もりになる者も多いです。こういった人物はフォーブレイにとって格好の標的でしょう。王族の美人を娶れる訳ですから、喜んで婿に入るそうです。ああ、当然勇者様直々に王族の者を娶る事もありますね」


 えっとー……勇者って、俺達みたいな異世界人だろ?

 召喚される条件ってのが良くわからないが、四聖の勇者である俺達を見るに……ゲーム好きが多いよな。

 召喚された当初の俺もハーレムの夢くらいは持っていた。


 という事は、そんなダメ人間が大量に子供を作って、血を維持したら残念な子供が生まれる事も十分ありうる。

 自分で言うのもアレだが、悪知恵を働かせた勇者だっていただろう。

 そんな血筋だったら、権力闘争とか凄そうだ。


 って良く考えたらクズがその末裔でもあるのか。

 だから頭が良かった? 実際はわからん。知りたくもないし。


「女の子の場合は、不自然に容姿が良くなる事が多いですね。逆ハーレムなどを作る者もいます。これは勇者様方のお眼鏡に適った方の血ですかね。勇者の子孫は内面より美男美女を好む傾向がある様です」

「勇者って男の確率が高いのか?」

「女性も居るのですが、男性ほど血縁は広がりません」


 ハーレムの宿命か。

 種馬と母体じゃ生産量に違いがあるからしょうがない。

 ……生々しいな。


 というか勇者って活躍するけどよく見たらダメ人間の集まりか?

 まあ、異世界召喚された四聖に限るのかもしれないが。

 あれ? 七星も召喚だったか? 基準が曖昧でこの世界の連中も選ばれるとか言っていた気がする。

 要するに俺達みたいな、異世界でハーレム作ってやるぜ! って連中の血が色濃く混ざっている訳だ。


「そんな血を凝縮したような者が権力争いに勝ち、王となり、子を増やし……栄えた血族です。現在の王は、権力争いに掛けてはヴィッチ以上です。それ故に、長きに渡って王で居られるのですから」

「ああ、そう……」


 ヴィッチよりも凄いのか……会いたくないな。


「そうですねぇ。外見は……人と呼ぶのすら憚られます」


 それ、どんな人間だよ?

 アニメとかで出てくるカエルみたいなキモオタとか?


「一番近いのは肥え太った豚ですかね」


 ああ、そっち?

 それが王なの? 大国の?

 というか、滅茶苦茶言うな。


「喜びなさい、ヴィッチ。貴女が来る事に先方は何ヶ月も我慢しているそうですよ。貴女さえ来れば、何もかも目を瞑るそうです」

「ヒィ!?」


 ヴィッチが青い顔をして仰け反っている。

 まあ、わからなくもないけど。

 でも殺されるよりもイヤって何なんだ?

 久しぶりに影が現れて女王に囁く。


「どうやらヴィッチ、貴女を一万人目の玩具として歓迎する準備が整っているそうです」

「「一万!?」」


 ちょっと待て……それって9999人の女を玩具にしたって事だよな?

 いくらなんでも盛り過ぎだろう。

 陵辱モノのエロゲーだってそんなに極端じゃない。


 いや、クズより年上なんだよな?

 この世界の一年の日数は知らないが、一日一人だったとしても年に365人。

 それに年齢を掛けたとして、少ない位か?


 ……どちらにしてもドン引きなのは変わらないが。


「ああ、イワタニ様にわかりやすい物を持ってきてくださいましたか」


 俺の後ろの扉が開いて兵士が二つの布で覆いかぶされた物を持ってきた。


「カルミラ島へ勇者様方が赴いた際に、催促するフォーブレイの王へ時間稼ぎとして進呈した、等身大のヴィッチ人形と同じ物です」


 一つ目の布が取られた。

 そこにはヴィッチ本人と思われるくらいそっくりな人形が立っている。

 今すぐぶん殴りたいな。

 そのくらい瓜二つだ。鏡みたいにそっくり。

 というかこれ、俺の世界で言う所のラブドールじゃねえのか?


「次がフォーブレイ到着二日後のゴミ捨て場で回収された人形です」


 と、取られた布を見て俺は目を疑った。

 えっと、一応はヴィッチ……なのか?

 髪は剥げ、目はくり貫かれ、両腕は切り落とされ、両足も落とされている。

 燃え跡? ふやけて歪んでる所もあるぞ。


 で、口の部分、他の部分、その全てに奇妙な穴が作られていた。

 落とされた腕も足も全てだ。

 えっと……この穴、なんかイヤな感じがするんだが……。


「イワタニ様の想像通りの行いをする為に掘られた穴ですよ?」

「げ!?」

「フォーブレイの王の迷言に『玩具は死ぬほど苦しめた方が締りが良くて気持ちがよい』という物があります。よく体現された物ですね」


 すげー……加虐趣味も極まるとこうなるのか。

 ダルマ所じゃねえ。

 文字通り女の敵だな。


「問題を起こした生まれの良い女性が嫁がされる筆頭にフォーブレイがあるのですよ。その事実を知った者の大半が即座に自害を選びます。それくらい、この世界では有名な処刑方法ですね。なんでもお気に入りは三ヶ月も魔法やイグドラシル薬剤などの薬物で延命させられ続け、死を許されなかったとか……」


 もはや嫁がせるとか言わずに処刑と言いやがった。

 というか有名とか以前に、フォーブレイという国が謎過ぎるんだが。


 確か四聖や七星勇者の伝説の発祥地で、この世界最大国家だったな。

 四聖の勇者を召喚する権利が一番最初にあったとかなんとか。

 そしてラトなどの話によると七星勇者を複数抱え込んでいるとも聞いた。


 先程の話から……度重なる交配によって、悪い意味でのハイブリットと考えるのが無難か。

 膨大な土地と権力、そして強大な武力を持つ国。

 勇者発祥の地と言われる位だし、長い歴史も持つはず。

 となると、フォーブレイも相当厄介な国だろう。


 大体、そんな悪名が轟いている王が統治しているって……暴動が起こらないのか?

 9999人も女が死んでいるんだろう? 相当怨まれているんじゃないか?

 ああ……持ち前の金と武力で弾圧するのか。

 まあ、元々犯罪者みたいなモノだし、文句も付け辛いんだろうな。

 家族の為にと生贄的な身売りもありそうだ。

 リーシアみたいに!


 そもそもメルロマルクに始まり、シルトヴェルト、ゼルトブル、そしてフォーブレイ。

 この世界にはまともな国が無いのか。

 こりゃあ……どこに行っても苦労しそうだな……。


 俺は次に控えている波よりも、この世界その物を心配していた。

 いや、別にこの世界がどうなろうと知った事ではないんだけどさ。

 思わず俺が呆れる位クソな世界だよな。


「先方はヴィッチを大層気に入っておられてましてね。毎晩の玩具として扱うお積りなのしょう。わたくしも心が痛みます。さて、ヴィッチは何日持ちますかね?」

「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 キーンっとヴィッチの声が玉座の間に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「で? なにで処刑するのかしら? それとも他国に婚約でもさせるお積りですか? もしくは手や足をもぐお積りで?」この余裕そうな発言から↓ 「イヤアあああああぁぁぁあぁぁあああああああ!」 …
[気になる点] 毎晩の玩具として扱うお積りなのしょう。 ↑ ここ、何か言葉がおかしいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ