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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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記憶/黒い獣

 00:17


 後、17分で次元の波が訪れる。

 城下町では既にその事が知れ渡っているのだろう。

 騎士隊と冒険者が準備を整え、出撃に備えていて、民間人は家に立てこもっている。

 勇者である俺は時間になったら砂時計が波の発生地点に飛ばしてくれる。

 それはパーティーメンバーにも適応しており、ラフタリアも一緒に飛ばされるだろう。


「あと少しで波だ。ラフタリア」

「はい!」


 戦意高揚しているのかラフタリアは若干興奮気味で頷く。

 まあ、やる気があるのなら何も言うまい。


「ナオフミ様……ちょっとお話して良いですか?」

「ん? 別に良いが、どうした?」

「いえ、これから、波と戦うと思って感慨深くなりまして」


 ……死亡フラグっぽい事でも呟くのか?

 死なれたら困るから守るが……っと、俺も大概、アニメや漫画に影響を受けすぎだな。

 この世界はゲームでもなければ、本の世界でもない。現実なんだ。

 何よりもクソ勇者共があんなに良い装備をしていた。俺の防具で耐えられるかすら分からない。

 もしかしたら怪我を負うかもしれない。

 怪我で済むならまだ良い。命を落とすかもしれない。

 そうなった時、この国の奴等は俺の死体を見てこう思うだろう。


 ――犯罪者の末路。


 ……やめよう。俺は誰の為でもない、俺の為に戦うんだ。

 もう一ヶ月生き残る為に。


「実は私……最初の波が来た時の災害で奴隷になったんです」

「……そうか」


 まあ、そうだろうなとなんとなく想像していた。




「私はこの国の辺境、海のある街から少し離れた農村部にある亜人の村で育ちました。……この国ですから裕福とは言えませんでしたけど」


 両親は優しく、村のみんなとも仲良く平和に過ごしていた。

 しかし、骸骨兵が大量に、災厄の波から溢れ出てきたという。

 最初は骸骨兵は数こそ多かったが、近隣に居た冒険者達で対処できていた。

 が、獣、大きな甲虫などが大量に溢れ返り、防衛線は決壊。

 その果てに、黒い三つの頭を持つ犬のような化け物が現れ、人々はまるで無抵抗な草花のように蹂躙されていった。


 ラフタリアの村もその被害を抑えきれず、必死に、化け物たちから逃げ出した。

 しかし、化け物たちは逃亡を許さず、まるで遊びのように見知った人々を殺して回った。

 ラフタリアの両親も同様で、彼女たちは逃げ、海の崖の上まで化け物たちは追い続けた。

 逃げ切れないと悟ったラフタリアの両親は顔を見合わせ、ラフタリアに微笑む。

 そんな逃げられない状況だというのに、優しく、怯えるラフタリアの頭を撫でたらしい。


「ラフタリア……これから、お前はきっと大変な状況になると思う。もしかしたら死んでしまうかもしれない」

「でもね。ラフタリア、それでも私達は、アナタに生きていて貰いたいの……だから、私達のワガママを許して」


 両親が命を掛けて助けようとしているのが幼い彼女でも理解できた。


「いやぁ! お父さん! お母さん!」


 ドン!

 二人は、ラフタリアに生きて欲しいと願いをこめて、崖から海へ突き飛ばした。

 ラフタリアは突き飛ばされ、海へ落ちる最中、化け物たちが両親に向って襲い掛かるのを目撃してしまった。


 水しぶきを立ててラフタリアは海へ落ち、奇跡的に近くの浜に流れ着いた。

 気が付いた時、ラフタリアは体を起こして、両親を探すようにあの崖へ足を運んだ。

 既に化け物は国が出した冒険者と騎士団によって辛うじて討伐されていたらしい。

 死骸の転がる荒野を歩き、やっとの事で両親と別れた崖にたどり着いた。

 そこにはおびただしい血と……肉の切れ端が転々と転がっていた。

 両親の死を理解した時、ぷつりとラフタリアの中で何かが弾けた。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 泣きじゃくり、現実から逃避し、それでも両親の願いを心に、当てもなく彷徨い。

 気が付くと奴隷として、あのサーカステントのような場所に収監されていた。

 その場所は……一言で例えれば地獄だった。

 毎日、誰かが購入され、戻ってくる。


 ラフタリアも一緒だった。

 最初は、召使にでもしようとしたのだろう。恰幅の良い貴族が彼女を買って、色々と教えようとした。

 この時には既に咳が出るようになり、夜中寝ているとあの悪夢を見て絶叫する。

 その所為で翌日にはテントに戻された。

 次の買主も同じようにラフタリアに仕事を教えようとして次の日にはテントに戻された。

 俺の前の買主が一番酷かったという。

 買ったその日の晩に、彼女を鞭で打ちつけ、ボロボロにしてから次の日には売り払ったそうだ。

 この国に加虐趣味を持った悪質な変態がいた所で驚きもしない。

 そうして病に苦しみ、心が悪夢によって壊されかけ、何度目か忘れた頃……俺に買われたと彼女は言った。




「私は、ナオフミ様に出会えてよかったと思っています」

「……そうか」

「だって、私に生きる術を教えてくださいました」

「……そうか」


 俺はラフタリアの話を半ば事務的に聞き流していた。

 それくらい。どうでも良かったから。


「そして私にチャンスをくださいました。あの波に立ち向かうチャンスを」

「……そうか」

「だから、頑張ります」

「ああ……頑張れ」


 自分でも酷い対応をしたと思う。

 けど、この時の俺には、こんな対応しか出来なかった。


 00:01


 残り時間があと1分を切った。

 俺は身構えて、転送に備える。


 00:00


 ビキン!


 世界中に響く大きな音が木霊した。

 次の瞬間、フッと景色が一瞬にして変わる。転送されたのだろう。


「空が……」


 まるで空に大きな亀裂が生まれたかのようにヒビが入り、不気味なワインレッドに染まっている。


「ここは……」


 何処に飛ばされたのか辺りを確認しているとダッと飛び出す影が3つ。そしてそれを追う12人。

 あのクソ勇者共だ。

 俺と同じく転送されたのだから当たり前だけど、何処へ向っているんだ?

 と、走っていく先を見ると亀裂の中から敵がウジャウジャと湧き出ていた。


「リユート村近辺です!」


 ラフタリアが焦るように何処へ飛ばされたか分析する。


「ここは農村部で、人がかなり住んでいますよ」

「もう避難は済んで――」


 ここでハッと我に返る。

 何処で起こるか分からない厄災の波だぞ? 避難なんてできるわけが無い。


「ちょっと待てよ、お前等!」


 俺の制止を聞き入れず、三人の勇者とその一行は波の根源である場所に駆け出していく。

 その間にもワラワラと溢れ出た化け物たちが蜘蛛の子を散らすように村のある方向へ行くのが見えた。

 で、勇者一行が何をしたかというと照明弾のような光る何かを空に打ち上げただけだった。

 騎士団にこの場所を知らせる為とか、そんな所だろう。


「チッ!! ラフタリア! 村へ行くぞ!」


 リユート村の奴等には色々と世話になった。

 波で死なれたらそれこそ寝覚めが悪い。


「はい!」


 俺達はクソ勇者共とは別の方向に駆け出した。

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