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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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蛮族の鎧

「お、盾のアンちゃんじゃないか、1週間ぶりだな」


 城下町で行くところなんて商店街辺りしかない俺達。

 武器屋の親父は何故かラフタリアの方を見てポカンと口を開ける。


「しばらく見ないうちに見違えたなぁ……別嬪さんに育ったじゃないか」

「はぁ?」


 何を言っているのだろう。訳の分からない事を親父はほざいている。


「恰幅も良くなって……前来た時の痩せこけた姿とは大違いだ」

「太ったみたいな言い方しないでくださいよ」


 何やらモジモジとラフタリアは手を捏ねて答えている。

 その態度は不愉快だ!

 あのクソ女を連想させる。


「ガハハ、可愛く育ってるじゃないか」

「育つ? まあLvは上がったな」


 約1週間前、Lv10だったが今は25だ。それだけ身体的特徴に現れていると言えばそうなのだろうさ。


「ふうむ……アンタは朴念仁になってきたな」

「何を訳のわからん事を」


 そもそも見た目10歳の女の子が可愛いと思うのは誰だって同じだろうに、まあここ最近、肉ばかり食わせていたから少し太ってきたのかもしれないが。

 腹が減ったと良く騒ぐので、出会う魔物の肉を料理して食べさせていた。

 栄養バランスが崩れて脚気になるかもしれないと危惧し、断腸の思いで薬草を和えた物にしたりと工夫もした。

 最近は咳もしなくなった。治療薬を飲ませていたのが効いたのだろう。


「ここ1週間、何していた? 戦いだけかい?」

「宿の人にテーブルマナーを教えてもらいました。ナオフミ様のように上品に食事がしたくて」

「順調のようじゃねえか」


 何やら武器屋の親父の機嫌が良い。これならよい装備を値切れるかもしれん。

 もっとおだてろ、ラフタリア。


「で、今日は何のようだ?」

「ああ、装備を買おうとな」


 ラフタリアを指差しながら言う。するとラフタリアが何か不気味な笑顔で俺の肩を強く掴む。


「今回はナオフミ様の防具を買おうと思いまして」

「分かってるよ。何をそんなムキになっているんだ?」

「ご自身の胸に手を当ててお考えください」

「ん~……まあ、波に備えてだけど?」

「アンタの本音が何で、嬢ちゃんが何を伝えたいかは俺にはハッキリ分かったがなぁ……」


 一体何を言っているんだコイツ等?

 前々から俺の装備を買うと決めていたじゃないか。


「さて、じゃあアンタの防具で良いんだな。予算はどれくらいだ?」

「銀貨180枚の範囲でお願いします」


 ラフタリアが勝手に値段をほざいた。

 なんかかなりイラついてきたぞ。

 それでは今の武器より良い物は買えないだろ!


「そうだなぁ……その辺りでバランスの良い防具となるとくさりかたびらだな」

「くさりかたびら……ハッ!」


 ほぼ無意識で腹の底からどす黒い感情が噴出する。

 何が悲しくて、元々俺の物だった装備を買いなおさなければいけないんだ。


「まあ……盾のアンちゃんがそこまで嫌ならしょうがないな」


 事情を薄っすらと理解している親父はポリポリと鼻を掻きながら納得し、視線を別の防具に向ける。


「となると、ちと厳しいかもしれないが、鉄の鎧が妥当な範囲か?」


 そう言って指差した防具に目を向ける。

 鉄で板金されたフルプレート……あれだ。城とかの置物で飾られている鎧がそこにあった。

 知っているぞ、確かフルプレートメイルと呼ばれる種類の防具で着ると碌に動けなくなるとか、一人で起き上がれないとか、沼地で沈んで死者が出たとか俺の世界では言われている。


「体力さえあればどうにかなるだろう。難点はエアウェイク加工されていない所だな」

「エアウェイク加工?」

「着用者の魔力を吸って重量を軽くさせる加工だ。効果は優秀だぞ」

「なるほどな」


 つまりこの世界ではエアウェイク加工していない全身防具など、動けない的のような物か。

 いや、体力さえあればどうにかなるとも言っていた。

 だが、幾ら俺でもそんなに体力は無い。


「重そうな部分を外せば安く、軽くなりそうだなぁ……」

「アンちゃん。やっぱりその辺りを考えていたか」

「当たり前だろ」

「となると鉄の胸当てを買ったほうが安いだろうよ。守れる範囲が狭いがな」

「ふむ……防御力が必要ではあるのだが、敏捷が下がっては話にならないからなぁ……」


 俺が壁になるのは良いが、守れないのでは大きな問題が起こる。

 動きにくい装備は出来る限り断りたい。

 エアウェイク加工だったか、それを行うにはどれだけの金が必要になるのやら。


「後は……素材を持って来ればオーダーメイドをしてやっても良いが……」

「良いな、そういうのは好きだぞ」

「アンちゃんは好きそうな顔しているからなぁ……そうだなぁ」


 武器屋の親父は材料名と完成予想図の書かれた羊皮紙を広げる。


「読めない」


 この世界の文字は俺には読めない。全て盾が翻訳してくれているから意思疎通が出来ている。

 武器屋の親父は困ったなぁ、というような顔をして説明する。


「そこの工房で安物の銅と鉄を購入、後はウサピルとヤマアラの皮、そしてピキュピキュの羽を持って来い」

「皮と羽はありますよ」


 ラフタリアがニコニコしながら荷物袋に入れていた寝巻き用の皮と羽を取り出す。

 それなりに暖かいから使っていた布団&毛布だったのだが、まあ……いいだろう。


「ちょっと質が悪くなっているが、使えるくらいの程度ではあるな」

「これで何が出来るんだ?」

「蛮族の鎧だ。性能はくさりかたびらとトントンだが、防御範囲も広くて寒さに強い」

「ほう……」


 蛮族の鎧……なんか嫌なフレーズだ。


「追加オプションに骨をプラスすれば魔法効果も付くんだが、これは後からでも出来るから材料が集まったらまた来い」

「助かる。じゃあ鉄と銅を買って来るとするか」

「行きましょう! すぐに行きましょう」


 ラフタリアが何やら元気良く俺の手を引っ張って買出しに行こうとしてくる。


「どうしたんだよ」

「これでナオフミ様も一端の冒険者の格好になるのですよ。急がなくてどうするのです」

「ま、まあ……そうなんだが」


 村人とほぼ変わらないといわれてしまったからなぁ。

 ちょっと野蛮な装備になるけど、無いよりマシか。

 そうして俺達は金属工房の方に顔を出し、鉄と銅を購入した。

 武器屋の親父から話が行っていたらしく、思いのほか安く売ってくれた。

 なんでもラフタリアが話通り可愛い子だからオマケしてくれたとか何とか。

 ラフタリアを見ながらニヤニヤする金属工房のおっさん共。ラフタリア本人も愛想良く手を振っている。

 この世界ではドンだけロリータコンプレックスが居るのかと説教したくなるな。


「あっさりと材料が集まったな」

「アンちゃんが頑張ったお陰だろ」

「まあ、それよりも親父の知り合いにロリコンが多いことに付いて二、三個指摘したいのだが」

「ロリコン? アンタ何を言っているんだ?」

「ロリコンの意味が伝わっていないのか? 盾には翻訳機能があるはずだが」

「いや、少女趣味の知り合いは居ないと思ったが……」

「ラフタリアが可愛いからって安く売ってくれたぞ」

「アンちゃん……もしかして本当に分からないのか?」

「何が?」

「親父さん。その話は良いですから」


 何やらラフタリアが首をブンブン振っている。

 親父は何か察したのか、ヤレヤレと言った感じで肩をすかして視線を俺に戻した。


「明日までには完成させておく、それまで待っていてくれ」

「早いな、最低でも二日以上は掛かると思っていた」

「ま、知らない野郎ならそれくらい掛けるが、なんたってアンちゃんだからな」

「一応、礼は言っておく」

「ははは、ケツが痒くなるな」


 感謝した俺が馬鹿を見たような気がしてくるな。


「で、オーダーメイドの金額はどんなもんだ?」

「銅と鉄の購入代込みでー……銀貨130枚で手を打ってやる。更に拡張オプション込みだ」

「骨だったか? それを持って来れば良いんだな」

「ああ、その代金込みで130枚、これ以上は安く出来ねえよ」

「分かった。それで良いだろう」


 俺は銀貨130枚取り出して親父に渡した。


「毎度」

「所で親父、銀貨90枚で買える範囲の武器も欲しいのだが」

「嬢ちゃんの武器だろ」

「ああ」


 一応、1週間前に購入した剣と研磨が終了し普通の剣になった元錆びた剣を持っているが、これは下取りに出すか。


「ラフタリア」

「はい」


 ラフタリアは腰から剣を出してカウンターに置いた。


「下取り込みで頼む、後、貰った剣も一緒だ」

「ふむ……今回はちゃんと手入れをしていたみたいだな」

「俺の盾がな」


 研磨の盾に寝る前に差し込んでおけば翌朝には大体手入れは終わる。

 切れ味もそこまで落ちる事は無かった。


「便利な盾だなぁ……俺も欲しいぜ」

「代わりに武器が装備できねえよ」


 攻撃力が低すぎて俺はタダの壁でしかない。

 それでも良いのなら喜んで譲ってやりたい。譲れるのならだけど。


「そいつは困った部分だな」


 ガハハと笑う親父にイラっとしつつ、下取りを待つ。


「あの錆びた剣が見違えたもんだ。さすが伝説の盾か、驚きの性能だ」


 感心した様子で元、錆びた剣を親父は評価していた。


「これならそうだな……魔法鉄の剣くらいなら売ってやっても良い」


 確か、魔法鉄は鉄の剣の上の武器だったはずだ。


「ブラッドクリーンコーティングは付与されているんだよな」

「ああ、オマケしてやるよ。アンちゃんが頑張っているのは俺には分かってるからな」


 気の良い親父だ。考えてみれば無一文になってからもこの親父は俺に色々と恵んでくれた。


「ありがとう……」


 心から俺は親父に感謝の言葉を述べる。


「アンタ。初めて会った時と同じ目をしたな、それで良い。良いものを見せてもらったよ」


 何やら親父は満足したようにラフタリアに魔法鉄の剣を手渡した。


「良い武器があればそれだけ強くはなれる。けれどそれに見合う能力が無ければ武器が可哀想だ。でも、アンタ達なら満足に使いこなせるだろうよ。嬢ちゃん、頑張りな」

「はい!」


 ラフタリアは瞳を輝かせて貰った剣を腰にある鞘に収めた。


「それじゃあ、明日、今くらいの時間に来てくれ」

「ああ」

「ありがとうございました!」

「いいってことよ」


 こうして俺達は武器屋を出るのだった。

 武器屋から出た後、なんとなく昼を過ぎたので飯でも食うかと考える。

 何を食べても味がしないのだが、腹は減る。

 残りの所持金は銀貨10枚だ。ここ1週間とちょっとが一瞬で消えてしまった。

 まあ良い。それだけの性能を期待できるのなら、未来の投資で十分だろう。

 幸い、金稼ぎの方法は山ほどある。


「そうだ、前に来たときの店に、飯でも食いに行くか」

「良いのですか?」

「またラフタリアが食べたがったのを食べさせてやるぞ」

「やめてください! もう、私はそんな子供じゃありません!」


 先ほどまでご機嫌だったラフタリアがプイっと怒って頬を膨らませている。

 1週間で子供が大人ぶって何を張り合っているのだろうか。

 背伸びしたいお年頃という奴だな。


「はいはい。本当は食べたいんだよな。分かった分かった」

「ナオフミ様全然話を聞いてませんね」

「良いんだよ。大人振るなよ。やっぱり……食べたいんだろ?」

「子供を諭す優しい目で見透かしたつもりになってる!? いりませんからね!」


 まったく、面倒な年頃の子だ。

 俺達はあのお子様ランチ?を出す店に入る。


「いらっしゃいませ!」


 お? 今回は愛想が良い店員に案内されてテーブルに座る。

 髪型を変えた効果か? あの頃は酷かったからな。


「俺は一番安い定食、この子には旗の付いた子供用のランチを」

「ナオフミ様!」


 メニューを確認した店員が俺とラフタリアを交互に見ながら何やら困惑の表情を浮かべている。


「えっと、私も一番安い定食をお願いします」

「は、はい」


 店員はラフタリアの提案に頷いて戻っていった。


「一体どうしたんだ? 本当に嫌なのか?」

「ですから、もう十分なんですって」

「うー……む」


 しょうがない。ここはラフタリアのワガママに付きあってやるとするか。

 食べたいものを食べさせてやるのも主である俺の責務な訳だしな。


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― 新着の感想 ―
ライトノベル版は読んだから、原作とどこが違うのかを探しつつ楽しもうかな
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