伝説の魔物
「キールが良いのですかな?」
「ここでイエスとは言わないでおくよ。別のループで斡旋しそうだし」
何やらお義父さんが了承とは言えない微妙な返事をしましたぞ。
「話を変えよう。しかしまあ……なんだろ。狼男たちの領地となるとドラキュラとかそう言った西洋の魔物枠の仲間って感じだね」
「確か……吸血鬼はこの世界だとそれっぽいだけで、逸話的な能力は無いらしいですぞ」
「何かその辺り、シルトヴェルトの城に行った時に聞いたなー」
どうやらお義父さんはこの世界の吸血鬼関連の話をして聞いたみたいですぞ。
「改めて考えるとヴォルフって狼男な訳で……確か古代種の末裔なんだっけ」
「ヴォフー」
キリっとした顔で狼男姿を見せつけますぞ。
この前、ペックル姿で媚びていたのは誰ですかな?
俺の方が魅力的なのですぞ。
「実際、どう古代種なのかよくわかりませんけどね。体格が良いって事ではないようですが」
「シオンも古代種って言うか古のリザードマンの末裔で、シルトヴェルトのリザードマンとは体格とか一目で色々と違うからわかるけど……」
「確かに……自分が一般的なリザードマンとは違うんだろうなとシルトヴェルトに来ると思う」
ワニ男の獣人姿はシルトヴェルトのリザードマン共と比べると筋肉質というか横幅が大きいですな。
シルトヴェルトのリザードマンは見比べるとスラッとしているのが多いですぞ。
「まあ、シオンってワニ型のリザードマンでシルトヴェルトのリザードマンって文字通りトカゲ型かな……」
「ワニ型……と言うのか」
「どちらかと言えばね。ただ……恐竜っぽさもあるような気もするね。まあこの辺りは爬虫類だと似てしまうのかも」
お義父さんが完全に話題を反らせたのか微笑んでますぞ。
「シオンの筋肉質な所って王様な衣装とか王冠を被せたりするとそれはそれで絵になりそうだとは思うんだよね。カッコ良さそうというかさ」
「恐れ多い話だな。そんな恰好をするなんて」
「そうかな? 俺がするよりマシだと思うけど……」
「いや、盾の勇者はシルトヴェルトの実質王のような存在なんだが……」
「ですよね」
お義父さんのシルトヴェルトの衣装ですな。
確かにお義父さんの体格だと若干埋もれてしまいますが、蛮族の鎧は似合いますぞ。
「俺の話、逸れてる」
ヴォルフがワニ男の方に話題が変わったので訂正をしてきますぞ。
「普通の種族との違い。戦闘力が違うのはあるけど、それと一緒に変身時に力を込める量で体躯が結構変わる」
「ああ、そう言えばヴォルフは出会った頃と結構違うものね。毛皮の色とかも変わったし」
「そう。で、家は代々血筋を重んじているのはある。古い資料とか前に調べた。結構遡れたけど……古すぎて残した者の主観が入ってる事もあって判断に悩む」
「そうなんだ?」
「ヴォフ、どうも異世界から来た勇者たちの話が混ざってるようにも見える。フェンリルって言うのが始祖だろうとか妙なのが書かれてたりすることもある」
「あー……まあ、あるかもね。狼系なら定番だろうし」
ヴォルフの言葉にお義父さんが納得したように頷きましたな。
フェンリル、北欧神話における有名な狼ですな。
俺もこれくらいは知ってますぞ。
「確かにこう……亜人や獣人の中には更に獣化って技能が使えるらしいって話もあるそうだし、ヴォルフが完全な狼姿になったら神々しそうだね」
「ヴォフー」
お義父さんに褒められてヴォルフは照れるように声を上げますぞ。
「で、判断に悩むのはそれ?」
「違う。なんか複数あって俺の家系は狼と言われる種族だけどどうも妖魔とかキメラが源流って話もかすかにある」
妖魔ですかな? その単語はアークが仰っていたような覚えがありますぞ。
「妖魔?」
「そう。勇者たちの話す吸血鬼って生き物とかの類」
「ああ……まあ、狼男って吸血鬼の一種だって話もあるからね。狼に変身するなんて逸話もあるんだ。だけどヴォルフは狼男にしか変身出来ないでしょ。だから違うんじゃない?」
「古代種は別の生き物に変身出来たなんて事が書いてある古いかすれた本にあった。古文書で解読するの大変だった。ただ、きっと骨折り損」
ふむ……。
「最初の世界で神狩りの方がこの世界に随分と昔に来たことがあって、どうも知り合いがこの世界に定住したとか仰っていたのでもしかしたら何かあるかもしれないですな」
魔王獣という話を仰っておりました。
まあお姉さん関連だったような気もしますがな。
他のもアークのお知り合いがこの世界に居たのかもしれないですぞ。
「元康くんは色々と知っているけど妙なタイミングで思い出すからなー……もっと詳しくわからない?」
あまりアーク関連の話をお義父さんにしてはいけないでしょうな。
似ている事とか色々と……ダメらしいので注意ですぞ。
「さすがにわかりませんな」
まあこの件はわかりませんな。
アークがこの場に居れば教えて下さるかもしれませんが、知っても今は変わらないとか仰る方ですからな……。
好奇心を満たして下さいますが、意味は無いとも付け加えると思いますぞ。
「キメラと言うと波で現れたキメラが印象的ではあったね。あれとはヴォルフは合わないでしょ」
「うん。けどなんか首が複数あるような首輪をカッコよく見える者が親戚に多い」
「それはどっちかというとキメラというよりケルベロスとかでしょ」
「最初の世界のキールが呪われた盾でおかしくなったお義父さんが改造してさせてましたぞー」
「元康くん。さっきから俺をとことん困らせるムーブしてるんだけど自覚ある?」
お義父さんが非常に困った様子で眉を寄せながら言いますぞ。
「ですがあのお義父さんはキールの提案を聞いて願いを叶える形で施したんですぞ? 更にはお姉さんの毛髪を元に新しい魔物を作り出し、村の懐いている魔物を同様の姿に変化もさせましたぞ」
「何度も言うけど最初の世界の俺ってあんまり参考にすべきじゃないと思うよ……しかもラフタリアちゃんの毛髪を使って魔物を作るとかさ、ラフミちゃんの姿がその一つらしいけどさ」
「気に入ってましたぞ」
少なくともお義父さんはお姉さんの毛髪で作り出したラフ種達を可愛がっていたのですぞ。
「そこはともかくとしてケルベロスって俺の世界の神話だとキメラ……キマイラとは兄妹だったはず、その辺りの記述とかが混ざったんじゃない?」
「かもしれない。ヴォフー」
「まあ実際にケルベロスとかこの世界に居るんだよね。キメラも居たし」
確かにおりますな。
探せば居なくはない魔物であるのは事実ですぞ。
何より、ドラゴン共もある意味幻獣に該当する連中なのですぞ。
「その理屈だとフェンリルって魔物も居るのか?」
知ってる? と、お義父さんがみんなに尋ねますぞ。
「生憎とあった事ありませんな」
色々と世界中の魔物と戦った事がある俺ですが、フェンリルはいませんでしたぞ。
「勇者が語る伝説の魔物って扱いだったような」
ウサギ男が答えますぞ。
ヴォルフも頷きましたな。
「いないか……フェンリルってまあ名前だし、違うか。ケルベロスとかも名前でもあるけど……特徴的だからなー」
「フェンリルは違うのですか? とても大きいようですが」
「うん。とても大きい狼の魔物ってなるね。物語上は神を殺した狼ってのが特徴かな? そう考えると居たらとても強い事になるだろうね」
「神殺しの狼とは大罪を犯す存在ですよね。勇者たちを殺す存在とも言えますし」
「あー……この世界だと勇者が神様って事なんだっけ、現人神って事で」
確かにそう言う意味で信仰はされますぞ。
都合が悪いと偽勇者ですがな。
という所で、ある事を思い出しましたな。
「フェンリルには遭遇した事はありませんが、フェンリルと名の付く武器を見たことがありますぞ」
「ああ、そう言う武器があるんだ?」
「ですな。お義父さんが使っていましたぞ」
「え? 俺?」
ですな。確かタクトと決戦に挑む際にお義父さんが預かった杖がそんな名前だと聞きました。
「最初の世界でお義父さんがタクトに盾を奪われて改心したクズの手に戻った杖が仮の持ち主として預けられた際にそんな武器名で固定されていたとの話だったかと思いますぞ」




