生物濃縮
「被害もほぼ無く、ジャノン様は慈悲深く相手をしてくださいましたので穏便に済みましたけどね。何でもその際に人間奴隷の待遇を多少はマシにしたとか」
「エルメロさんの育ての親凄いなぁ」
「……はい。ただ、私の育ての親に関してどこまで知っているのかを問い詰めたくなりますが、黙ってることにします」
ゾウが俺を見てますぞ。
イエーイ! ゾウー俺はお前を信じてますぞう。
「あれで待遇が良いのですな」
まあ重労働はしても甚振るような真似まではしていないようでしたな。
「そうですね。性質が悪いのだと料理の食材を生成する装置に組み込んだりとかもありますね」
「ちょっと気になる事言ってない? それ、大丈夫じゃないよね」
「ああ、美味くはないアレの事さね……」
「盾の勇者様達には絶対に出さないとは思います」
「割と本気で気になるんだけど……」
「ヴォフ、悪趣味だからそこまで需要ない」
一体何なのですかな?
「ガエリオンちゃんとか知ってるかな? 元康くん知ってる?」
「何故ライバルの方を先に思い浮かべるのですかな? お義父さん」
「いや、ガエリオンちゃんってシルドフリーデンに詳しいでしょ? そっちにもあるかなと」
「俺にもっと頼って欲しいですぞー!」
「わかったわかった。で、元康くん知ってる?」
「ふむ……」
そんなものありましたかな?
「何でしょうね?」
「わからん」
ウサギ男とワニ男も心当たりは無いようですぞ。
シルトヴェルトの方で出る、人間を……。
「人間を食材にするのでは無いのですな?」
「ええ、違いますよ」
「転生者の中には獣人を殺して肉として振舞う奴が居ますが、そう言うのではないのですな」
「うわ……ありそうだけどさ。あ、でもメルロマルクでもそう言うのは無いね。シルトヴェルトじゃある? 人間をって」
「一部過激派がパフォーマンスでするけど、人間あんまり美味しくないで有名」
パンダがその辺りで不愉快そうに顔を反らしてますな。
何やら心当たりがある様な態度ですぞ。
「まあ人間は可食部少ないからね。考えて見れば雑食で且つ生態系でも上の方の存在って生物濃縮で毒素を多く含むし、一応人型に近いって事だから常食したら危ない病気にもなるか。メルロマルクで獣人を食すって文化が無いのもその辺りが関わってるかも」
お義父さんがサラッと答えますぞ。
「何にしても変な食材は出ないようだから良いか」
「ヴォッフ」
「モノにも寄ると思いますけどね」
「そうだな。時々ギョッとするのがある。そう言う意味で自分はメルロマルクの食事に慣れているんだと思う」
「そこは異世界の料理ってことで俺も感じる事はあるけどね」
などと言いながら俺にお義父さんは顔を向けますぞ。
ふむ……人間を生成装置に組み込んで出る料理ですかな?
シルトヴェルトの料理で詳しくは聞いたりしてないのでわかりませんな。
「もしかしたら食べたことがあるかもしれないけれど、わからないですぞ」
「ま、完成品だけ見たらわからないさね。知らなくても良いもんだよ」
「ヴォフ、ここじゃ作って無いから安心」
何やら妙な料理は無いようですぞ。
そんなこんなで城の中に入って寝室に向かって移動中ですぞ。
で、何やら歴代の当主の絵なのか人物の絵が廊下に並べられてますぞ。
先ほどの家族の絵ではなく一人一人描かれてますな。
「おお」
「ご先祖の当主の絵らしい」
ヴォルフが雑に通り過ぎますな。
「動き出しそうな絵で怖いねー」
「そう言う魔物が確かフォーブレイの魔法学園の地下に居たような気がしますぞ」
「動く絵画って魔物か……」
「これは動かない」
「うん。わかってるけ……ど……」
と、代々の絵の部分でお義父さんの視線が止まりますな。
「キールくんっぽい狼男が混じってるや」
ああ、確かに浮いてますな。
キールみたいな犬っぽい狼男の肖像画がありますぞ。
時々混じってますぞ。
「そうだな。確かにキールさんっぽいのが居ますね」
「ああ……こんなのが当主をしてるのか?」
「らしい。その次の世代がこの方、勇猛果敢だったと残ってる」
で、次が随分と筋肉質で雄々しそうな逆に怖い程の狼男が描かれてますぞ。
迫力満点ですぞ。
「こっちは逆に本能に支配された獣みたいな肖像画じゃない?」
「文武両道で見た目で侮った人間を倒したと記されてる」
「へー……脳筋だと思ったら冷静で頭が良いと」
「ヴォッフ。こっちに小さくその時の家族の絵がある」
そこにはキールみたいな子犬っぽい獣人を大事そうに抱える怖い顔の筋肉質な狼男が描かれてますぞ。
何やらキールっぽい方がため息をしているようですな。キールより遥かに歳を取っているみたいですな。
頭が上がらないという雰囲気の家族の絵という感じですぞ。
「ギャップだね。親子関係の絵って事かな? ここにキールくん連れてきたら面白かったかもね」
「キールさんはヴォルフの事をカッコいいと言ってましたから、喜んだかもしれないですね」
「ふ……ヴォルフ、キールを嫁にしたらどうだ? 先祖に似たのが混じっているなら美的基準も合うだろ」
「フフ……キールはきっとイヌルトとゴールインするさ」
ワニ男の言葉にヴォルフが鼻で笑って答えますぞ。
何やら言葉の攻防をかわしたような動きですな。
キールの増殖はルナちゃんの野望ですぞ。
「ヴォルフ、キールくんの事気になるの?」
「ヴォフ、全然。キールはあくまで後輩」
「そっか、まあ犬系繋がりでお似合いかもとは思うけどヴォルフが興味無いならしょうがないかー」
「ヴォッフ!」
力強くヴォルフはキールに興味が無いと断言してますぞ。
「キールさんみたいな人物を当主って血が弱体化するとか追い出したりしそうじゃないです?」
「お家騒動はあったけど、子供が凄かったから当主にって事だったのが調べてわかってる」
……ん? そう言えばアークが、キールの子供の中に筋骨隆々な子が産まれるとか言ってたような?
このパターンがキールタイプにはあるという事でしょうかな?
これはお義父さんに言っても大丈夫かもしれませんぞ。
「どうやらキールみたいなタイプは子供に凄いのが出来ることがあるらしいですぞ」
「へー……キールくんの特徴って事かー」
「ちなみにお義父さん。盾の勇者の特徴でもあるらしいのですぞ。お義父さんの子供はみんなすごかったですぞ」
お姉さんのお姉さんやパンダの子供が今の俺でも思い出せますぞ。
ピキっとお義父さんの表情が強張りましたぞ。
「おい槍の勇者」
「生生しいですよ」
「ですが俺のループ知識ですぞ? お姉さんのお姉さんやパンダの子供はそれはもう元気でしたし、シルトヴェルトで語られる盾の勇者の話なのですぞ」
ボコボコとお姉さんのお姉さん達のお腹で自己主張する姿がありましたからな。
「ああん? アタイがここで話に巻き込まれるのかい?」
黙って荷物を担いでいたパンダがやや不快そうに眉を寄せますぞ。
ゾウは既に来賓用の建物に行っていますぞ。
ちなみにパンダの配下も一緒に居ましたぞ。一部はヴォルフの家が雲の上の場所らしく驚きの表情でキョロキョロとしております。
確かに一部狼男が居ますな。下位の狼男という感じですがな。
「まあ……シルトヴェルトの連中が妙な暗躍するくらいならラーサズサ、お前が盾の勇者に経験をさせるなら良いか」
「何でアンタ等もそこの槍の勇者みたいな事言ってんだい! ったく、親共も期待して来て面倒だってのにさね!」
「イミアにも誤解が無いようにしているんだがな。上手く話し合って決めてくれ」
「ちょっと? 勝手に決めないで欲しいんだけど?」
「だが、避けて通れない問題だぞ? シルトヴェルトからのアクションがな。いくら自分たちが護衛をしていると言ってもな。ある程度は経験してくれ」
「……シオンまで言うのか、後でキールくんに優しく出来そうだ……」
おや? お義父さんの目が何やら遠いですぞ。




