ナイトメアホープ
「とはいえ……あの毒は一体」
「姉上……なんて愚かな。ですが、この様な毒があるのですね」
「ええ……そうですね。メルティ、これは貴方には教えていなかった事なのですが、この毒に関して私達には因縁があるのです」
「え?」
ここから先は女王がウロボロス劇毒に関しての説明を行いましたぞ。
であると同時に、婚約者と赤豚の間にもう一人いて同様に毒で死んだ件も俺たちに説明を行いました。
「元康くん」
「その件はループで知ってましたぞ」
フレオンちゃんと再会したループで作った毒で赤豚の暗殺に成功したのですからな。
「ビッチの証言だと? そりゃあ怪し過ぎるでしょ。真相はどうなんだろうか……」
お義父さんも怪しむには十分すぎる話ですな。
「聞いたことがある。ヴォフ、怪しさ抜群。シルトヴェルトの所為にされるのは不服……シルトヴェルトでも騒ぎになって犯人の一族は粛清された悲しい事件だった。だけどこっちもあのような毒をどこで確保したのか結局わかってない」
ヴォルフも聞き覚えのある出来事らしいですな。
「一応、様々な証言などを総合すると実行犯にあの子が混じっているのは難しいと思われていました。ただ……私には真実は別にあったのではないか、とも感じる、忌まわしい出来事だったのは事実です」
「犯人とされたこっちの人物も……おかしすぎる。そんな事件だった」
女王は虎娘と虎男と婚約者を大事にするかのように手を握って震えていましたな。
「クズ、どうやらシゼルを殺したのは、あの子だった様ですね。そして今度はその子に毒牙を掛けようとした……」
「っ……くううううううう!」
悲しみを堪えるようにクズは震えて泣いていましたぞ。
真実が明らかになったとばかりですな。
ですが大きな謎があまりにもありますぞ。
ここで真実を糾弾すべきですかな?
と、口を開こうとした所で。
『槍の勇者、こじれるから黙ってろなの。なおふみも槍の勇者にお願いしてほしいなの』
ライバルが念話で俺とお義父さんに注意してきましたぞ!
「も、元康くん」
「く……」
「ブブ!」
やがて影豚が何やら女王の下に駆けこんできました。
そこには赤豚の部屋で見つかったらしき瓶が握られてましたな。
……中身がありますぞ。
「それですわ。変わった代物なのはわかりますが……判断が難しいですわ」
虎娘が瓶を指さしてますぞ。
「ヴォフ……実物は匂いだけだと甘い様な匂い? ツメが警告しないと判断できない!?」
虎娘とヴォルフが各々瓶を警戒して証言しましたぞ。
「それほどまでに巧妙な毒物なのです」
「あの子の部屋の隠し戸棚にあったと……」
女王はその瓶をそのまま影豚に渡しますぞ。
「この瓶の中身の分析を行ないなさい。ですが、忌まわしい物なので厳重に調査するのですよ」
「ブブ!」
っと、そのまま影豚は姿を消しましたぞ。
後日、調査結果で判明したのは間違いなくウロボロス劇毒であったとの話でしたな。
赤豚が何処からこんな劇物を調達したのかのルートの調査を行われましたが結局は昔過ぎて判明できなかったとなり、秘蔵の毒だったのだろうという事で落ち着いたのですな。
「勇者様方、被害を最小限に抑えて下さりありがとうございます。はあ……あの子の処分でやっと事が収まりを見せたかと思ったのにこれとは……」
女王も疲労の色が濃い様子ですぞ。
俺としては一体どうしてこんな変化が起こっているのかわからなくて困惑としか言えませんな。
少なくとも赤豚が何もせずに死ぬなんて思いもしませんでしたぞ!
もっと苦しめて拷問をする予定だったのに台無しも良い所なのですぞ!
おのれ赤豚ぁあああああ! 死に逃げとは卑怯ですぞ!
苦しんで亡くなったフレオンちゃんの分を未来永劫、苦しんで報いを受けさせる手はずだったのになのですぞ。
「まあ、俺たちもその……」
「無様な最後ですねとしか言いようがないですね。むしろ消化不良ですよ。もう少し踊ってくださると期待していたのに」
樹も憤りを感じていますな。
「……ここまで愚かだとは思っても居ませんでしたが。ある意味……良かったのかもしれません。あの子がこれ以上問題を起こさず、自身が犯人だと名乗ったのだと思えば……」
女王としてもどう対応したら良いかと困っている様子ですぞ。
「フ……闇が闇に還ったのだ」
「んー?」
ラフミ、あの時の錬と全く同じセリフはどうかと思いますぞ?
クロちゃんが首を傾げてますな。
「漆黒の爪牙よ。こういう時は合わせるのだ」
「わかったー因果応報<オウンゴール>が死<インスタントデス>でハザード<感染拡大>となるのを我らが闇が阻止<ナイトメアホープ>したのだー」
「クロちゃんってやっぱりなんか言葉選びが間違ってるような……」
「んー?」
ブラックサンダーとクロちゃんは同じでもちょっと違う時があるのですぞ。
女王は婚約者と虎娘たちのそばで震えているクズへと声を掛けますぞ。
「クズ、しっかりしてください。貴方が悪いわけではありません。気にしてはいけません!」
「うぐぐ……」
ですがクズはまだ現実が受け入られないとばかりに震えていましたな。
「……クズを部屋へと連れて行きなさい。アトラさん、フォウルさん、メルティ。しばらく一緒に居て上げてください」
「わかりましたわ」
「お、おう」
「はい。母上、えーっとフィーロちゃんも一緒で良いですか?」
「良いですよ。あの子の事を忘れるほどに楽しそうにしてあげなさい。今のクズには必要な事ですので……」
「はい。勇者様方……良いですか?」
「うん。フィーロ、行ってきて」
「わかったー」
と、フィーロたんが婚約者たちと一緒にクズを連れて行きましたぞ。
「……」
で、ライバルがラフミをジーっと見つめていたのが印象的だったのですぞ。
とりあえず調査という事で城の王族の居住区はしばらく閉鎖となり、安全かの調査をしばらくすることになったようですぞ。
この晩、宴が開かれましたがメルロマルク側の連中のテンションは低く……閑散とした催しとなって華やかさが無いものでしたな。
「物悲しいと言いますか、形だけの宴でしらけますねー」
と、樹がそんな宴の会場の感想でしたぞ。
もちろんお義父さん達が盛り上げる為にサーカスの催しも行いましたが根本的に俺達側の参加者が多いので雰囲気を払拭しきるのには足らない流れだったのですぞ。
ですがフィロリアル仙人はフレオンちゃんと女王と一緒に楽し気な歓談をしている姿を見れましたぞ。
お義父さん達のサーカスも楽し気で、フィロリアル達の歌に関しても満足しておられました。
戦いや競争ではなく歌を歌って楽しませるという興行に関心してサーカスも良い物なのだと理解してくださいました。
「あー何か面白いネタがありませんかね。なんか賑やかさが足りないんですよ」
樹がここぞとばかりに煽ってきますな。
みんなで盛り上げようとしているのにクレームをつける所は変わりませんな。
「尚文さん。何か面白い事をしてください」
「樹……」
お義父さんが半眼で樹を睨みますぞ。
「元康さんも何かありませんか? 尚文さんの渾身の面白いネタとかで僕を楽しませたら少しは許してあげますよ」
「樹の許しなんてどうでもいいですぞ」
なんで樹を楽しませないといけないのですかな?
「ですがそうですな……結果的にお義父さんの得になる豆知識を言いましょうかな?」
「何を言う気だろう……ちょっと不安なんだけど」
ふと、思い浮かぶお義父さんの微笑ましい事に関してですな。
「お義父さんが俺や樹を糾弾する際に仰る枕荒らしという言葉は間違った認識で枕荒らしは遊女が財布を盗むことで枕探しが正しいとかでしょうかな? その辺りを訂正すると良いかもしれないですぞ」




