デッドオアアライブ
「あなたへの責任追及はこれ程までの出来事でしたので語る事はしませんが、いい加減。感情的に盾の勇者……いえ、亜人獣人を憎悪し、此度の騒動を大きくした。その責任は大きいのは理解していますね」
「……弁解はせん。が、盾が原因の一端であるのも事実じゃ。あの子を城に連れて来させたから三勇教が本格的に動いたのは間違いない!」
クズは虎娘の方をチラッと見て断言しましたぞ。
「……イワタニ様、オルトクレイの言い分も一理ある事もどうか理解して頂けますか?」
「まあ、理不尽な冤罪を被せられた仕返しであると同時に和解の為に送ったというのは否定しないから良いよ。守ってくれたしね」
「ええ、ですからこの件に関してオルトクレイ、あなたの所業に関してある程度は寛大な処置をする許可は頂きました。とはいえ罪があるのも事実、ではここで女王として二人に罰を命じます」
女王は立ち上がって大きく手を上げて宣言しましたぞ。
「あなた達二人から王族の権限を永続的に剥奪します」
「……」
「ブヒ!?」
クズは特に抗議もせず、赤豚は信じられないとばかりの声を上げてますな。
「ブブブヒ!」
「あなた達の行いが寛容に許せる範囲から大きく逸脱しているからです。本気で反省しているのなら寛大な処置を勇者様方に望むことができましたが……反省は無いようですからね」
「ブブヒヒ! ブブブ!」
「メルティがいます。アナタよりも遥かに優秀ですから、この国は繁栄するでしょう。既に民への信頼の厚い剣の勇者様と婚約関係にあります」
「ブブウ!」
「メルティでは荷が重すぎる? 何を言っているのですか? あなたの浅い人間性を見抜かれて軽蔑されていたとの情報は掴めてますよ? むしろあなたこそ荷が重い事です。身の程を知りなさい!」
しかし思うのですが……この辺りの問答はお義父さんや、今回の場合は錬の影武者をしているラフミが立ち合いで赤豚の処分をするのではないですかな?
まあ、色々と騒動に関わってしまった勇者が多いからという事でしょうかな?
で、女王は赤豚やクズに勇者召喚に関する責任追及などのやり取りをしてましたぞ。
既に数日前にこの件でクズに弁解を問い詰めたりしていたし、あまり長々とはせず赤豚に問い詰めるだけだったようですな。
「不満ですか?」
女王が赤豚に尋ねますぞ。
年貢の納め時ですな赤豚ぁあああ!
「ブブブブヒィイイ!」
「……親子の縁は先ほど切りましたよ? 勇者様方の懐柔も出来ていない……あなたの行く先は既に決まったようなものですが?」
パチンと女王が扇を閉じますぞ。
「な……まさかミレリア! 妻よ!? まさかマルティをアイツの所に送るというのか!?」
さすがのクズも赤豚の処分に関して心当たりがあるといった様子ですぞ。
「オルトクレイ? さすがにそこに関してだけは此度のあなたの活躍で多めに見て上げましょう。監視付きで国に奉仕する労働に従事させます。更に剣の勇者様を信仰する宗教に出家が最終的な落とし所ですかね。ただし、次に事を起こしたらわかってますね?」
豚王への出荷を人質にクズに慈悲を与えてやったと女王は告げたのですな。
ですが赤豚が次にすることはわかり切ってますぞ。
ここは成り行きを見守っているだけで赤豚出荷はすぐですな。
楽しみですな。
「ブ、ブヒャアアアアアアア!? ブヒャ! ブヒャアアア!」
赤豚が手始めとばかりに錬に化けたラフミに深々と頭を下げて何やら命乞いをし始めたみたいですぞ。
「ふん。崖っぷち<デットオアアライブ>になってやっと命乞い<ヘルプ>を求めるとは醜い有様だな。貴様のような奴は闇に消すのすら生温い。地獄<ヘル>を味わうんだな」
と、ラフミは冷たく言い放ちますぞ。
「ブ、ブヒャアアア!」
で、赤豚は今度は俺の元へ近寄ろうとしたので槍で構えるとサッとお義父さんの方に行き頭を地面に擦り付けて命乞いを始めたみたいですな。
俺からすると床にある何かを鼻で穿ろうとしているようにしか見えませんな。
「お前……錬の後に樹を探していないから元康に行って最後は俺? 失せろ、手遅れだ。俺はお前の苦しむ様が見たい」
お義父さんもここは演技で力強く拒絶の意志を見せましたな。
「ブヒャアア! ブヒャ!」
ここで赤豚は樹が居ない! と抗議の声を上げたらしいのですぞ。
「あなたが探した弓の勇者は僕ですよ。良いザマですね。実の所……この姿になった際にあなたと接触しようとした事があったのですが忘れてますよね?」
クススと……樹は定位置とばかりにお義父さんの肩に乗って赤豚を嘲笑しましたな。
「ブブヒ!?」
何やら樹は赤豚に接触した事があったみたいですぞ。
逃避行中の出来事だったみたいですな。
「隠れて声を掛けた所で本性を見せてくれて頼るに値しないと判断したのですが正解でしたね。いやあ無様な姿ですね。好き勝手した報いをしっかりと受けて下さいね」
どうも近寄った所で何か仕出かしたみたいですな。
樹も大目に見てその場を去ったようですぞ。
「次のミスが楽しみだな。はははははは!」
お義父さんの笑いが木霊しましたぞ。
「さて……勇者様方。私共の不肖の娘とオルトクレイへの処分でまだ足りないでしょうか?」
「甘い判断だと思いますよ? きっとこの方は間違いなく仕出かしますし、そちらの元王も深く反省はしてないように見えますね」
樹が嘲笑しながら指摘しましたな。
「何より罰は罰でしょうが、まだ尚文さんが受けた屈辱に足りない気もします。尚文さん、何か無いですか?」
「ブブブ……ブブヒブブブブヒ」
赤豚が何やら涙を浮かべてお義父さんに向けて鳴いてますぞ。
その鳴き声にその場に居るほとんどの者達が眉を寄せてましたぞ。
「ここでその台詞が出て来るってすげーなの」
外野に紛れていたライバルが赤豚の台詞に呆れていたのですな。
最初の世界でお義父さんの怒りの火に油を注ぎ、改名の罰が決定的になった台詞が飛び出したらしいのですぞ。
ここで俺が挙手しますぞ。
「元康さん。何か名案がありますか?」
「では……俺の知識で改名の罰を与えるのはどうでしょうかな?」
「ほう。なんとなくどういうのはわかりますが続けて下さい」
「では元王はその人間性と多大な迷惑をかけた点からクズ、そこの豚のような奴には相応しくビッチという名前に永遠に改名で良いのではないですか?」
「あー……」
お義父さんが何やら心当たりがあるかのように呟きましたぞ。
ちなみに俺がよく話したので分かったのですな。
「ブヒャアアアアアアアア! ブヒ!」
赤豚がカンカンに激怒して醜い鳴き声を張り上げましたぞ。
「良いですね」
「何!? 槍ィ……前々からワシの事をそれらしく呟いておったがそんな名前にさせる気か! マルティにそんな真似をしたら許さんぞ!」
「黙りなさい! 復讐は復讐を生むだけ……我慢すれば良い。とても素晴らしい言葉ですね。アナタが実践しなさいマル……いえ、ビッチ」
女王の言葉が決定的となり、赤豚とクズの改名が決定したのですぞ。
「ああ、ビッチには冒険者としての偽名がありましたね。そちらはどうしましょうか?」
「アバズレがピッタリですぞ。それとも――」
と、俺は更なる言葉を紡ぐとお義父さんが眉を寄せてしまいました。
「元康くんがとんでもなく酷いセリフを! 聞くに堪えないよ!」
おや? お義父さんが赤豚の新しい冒険者名を俺が言ったら大きく注意されてしまいましたぞ。
具体的には便器と付く奴にふさわしい汚名ですぞ。
「あ、アバズレで良いでしょう。ではこれからその名前を冒険者名として登録しておきます。前の名前では施設も何も使えませんのであしからず。最終的に教会で与えられる名も同様の物になります。一生その名で生きるのです」
「ブヒャアアアアアア!」
赤豚の鳴き声が玉座の間にうるさく響くのですぞ。
「やかましいですよ」
スコーンと樹の矢が赤豚の額に命中し、赤豚は白目を向いて倒れましたぞ。
「殺したのですかな!?」
俺が殺すのですぞ! もっと苦しめて! 奴が苦しめた者たちの分、報いを受けさせるのですぞ。
「さすがに今回は殺してませんよ。さっきの話からしてどうも生かしておいて苦しめないといけない方でしょ?」
樹がクスっと笑って失神する赤豚を見てましたな。
「はあ……ま、とりあえずこいつの罰はこれくらいにして泳がせておけばいいか。自爆するのは目に見えてるし」
「勇者様方……これで我が国が起こした問題に関して、ある程度責任を取らせたと見て頂いてよろしいでしょうか?」
「まあ、良いんじゃないかな? 錬、樹、元康くんもそう思うでしょ?」
「ぐぬぬ」
クズが悔し気にしていましたが婚約者と虎娘を見て恥辱に耐え、意識のない赤豚を抱える事で抑えたようですな。
「それでは剣の勇者様とこれからお話をしなくてはいけないので、他の勇者様方は別室で自由にしていただいてよろしいでしょうか? 盾の勇者であるイワタニ様とも後ほど」
「わかりました。これで失礼させていただきます」
こうして赤豚とクズの一応の処罰を終えたのですな。




