尽きぬモノ
「シルトヴェルト方面で闇とか見せたら樹も考えが変わってくれるかなぁ?」
「なの! ちょっと心当たりあるからシルドフリーデンに弓の勇者をガエリオン連れてってやるなの。ガエリオン、あそこは別ループで統治した事あるから闇も詳しいなの」
このループでもライバルはシルドフリーデンを支配するつもりのようですぞ!
ぐぬぬ……下手にお義父さんに付き合わせるとあの時と同じ結末になってしまいますぞ。
絶対に阻止しますぞ。
「そう? じゃあガエリオンちゃんに一応お願いしてみようかな?」
「ふふ、どんな闇を見せてくれるのでしょうかね」
「まあ、矯正できなかったとしてもきっと弓の勇者にピッタリなーダークヒーローって活動は出来るかもしれないなの」
「なんだろ……アメリカンなコミック的な町なんだろうか?」
俺もなんとなくお義父さんの話や日本での記憶からそういった海外のヒーロー映画は見たような気がしますぞ。
犯罪都市ですな。シルドフリーデンの述べる自分勝手な自由故にあるのでしょう。
まあ、あっちは結構転生者がいるのでまさに犯罪者の町が無くは無いですぞ。
「あらー……ナオフミちゃん達お疲れね。お姉さん達が良い子良い子と撫でて上げたら良いのかしらー?」
お姉さんが居るのでお姉さんのお姉さんも雑談に混ざるご様子ですぞ。
「サディナさんもちょっと言い方どうにかしてほしいんだけどな」
「あら? でもお姉さん、頑張ったナオフミちゃん達にお礼を言いたいのは本当なのよ?」
「頑張ったと言えば頑張ったんだろうけど……まあ、俺の悪評もこれで少しは……払拭して良いのか非常に怪しいけど、メルロマルクのサーカスももう少しいい方向で再開できるようになるよ」
「うん! やっとメルロマルクでサーカスに参加させて貰えるんだね!」
お姉さん達の目がキラキラとしてますぞ。
「そうなるかな? 亜人獣人を虐待する演目は空気的に廃止される流れで開かれると思うよ? エクレールさん所の町に常設のサーカス施設を建築して貰うのも良いかもね。みんなに楽しく見て貰うためにもね」
「なんか楽しそう!」
「お願いしてみよう!」
「うん!」
「良いと思うぞ? 私も許可しよう」
という感じにお姉さん達が楽し気にしているのをお義父さんやお姉さんのお姉さんは見つめていましたな。
「僕はやりたいことの合間にエミアさん達と一緒にルーモ種の集落の復興の手伝いもしますよ。シルドフリーデンも面白そうですがね」
「まあ、女王様の話だと兵士とかが随分と減ってしまって各地で悪事をする人が増えているらしいから……むしろこんな時勢でも悪人が居なくならないのは凄いな。『浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ』って俺の世界での言葉があるけど文字通りだ」
「石川五右衛門の辞世の句と呼ばれるものですな」
お義父さんの話した句は実は少し削られたものであるという話がありますぞ。
「『石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽きまじ』、役人に盗みを働く事で英雄視されて模倣犯が増えるのを警戒した政府によって捕らえられた石川五右衛門が『俺を見せしめに殺しても、この世に泥棒は居なくならないぜ?』と述べた皮肉の句だとする見解があるのですぞ」
「元康くんってこう……歴史とかは本当、詳しいよね」
「そうですかな?」
お義父さんに褒められてしまいましたぞ。
前にもありましたが学校の成績は良い方なのですぞ。
「フッ……確かにそうですね。どれだけ刈り取っても何処からともなく湧き出して来ますよ。本当、嘆かわしい限りですよね」
なんて樹の嘲笑が印象的な出来事でしたな。
そんな感じでお姉さんの村の方々を復興すべき村へと移動をさせて復興の手伝いをしている内に……捕らえられた赤豚が城へと連行されたので罰を与える為に出迎える事になったのですぞ。
玉座の間でみんなでお出迎えですな。
よくぞ来たですぞ赤豚! これからお前は断罪され処分されるのですぞ。
ちなみに玉座には女王が代理で座っていますがその隣にはラフミが化けた錬と婚約者が立ってますぞ。フィーロたんも隣に立って護衛をしているのですな。
「ブブブヒ!? ブブブヒャアアアアアアアアアアアア! ブヒャああああ!」
と、何やら捕らえられた赤豚が女王や軟禁状態のクズに向かって何やら懇願してますぞ。
「うっわ……あの身勝手な出家した人と同じ事を言ってるね」
「なんのコントでしょうかね。これはこれで笑えますね」
お義父さんが呆れ、樹もクスっと笑ってますぞ。
「お黙りなさい! あなたの所為でどれだけこちらが被害を被ったかわかった物ではありません!」
女王は顔をクズへと向けて睨みますぞ。
するとクズは赤豚の台詞に絶句しておりましたな。
「マルティ……」
女王の言う通り、赤黒い豚とほぼ同じことを言ったので唖然としているらしいですぞ。
「更にあなたは勇者たちの懐柔に失敗したと判断して旧知の世界の敵であるタクトへの接触を図ったそうですね」
「ブヒ!? ブブヒ! ブブブ!」
「誤解? 貴方を捕らえる際にタクトという犯罪者を探していたとの証言はしっかりと取れてますよ? 残念ながら彼は既に処分されています」
「ブ……ブブブ! ブブヒ」
「知らないと? 私を探しにフォーブレイに向かったと? ものは良いようですね。貴方は既に身勝手な行動をし過ぎで私に泣きつくはず無いでしょうに、そもそもメルティがメルロマルクに来てますよ」
「ブブヒ!」
「嵌められたとか寝言は寝てから言いなさい」
などと女王と赤豚のやり取りをお義父さんは見てましたぞ。
さすがにザマア見ろと言う顔ですな。
「さて……オルトクレイ? あなたもマルティの方へ行きなさい」
「……」
クズは半分諦めたかのように赤豚の方へと行きますぞ。
ですが視線は玉座の間にお義父さん達の協力者として参加した虎娘たちの方へと向いてますな。
「ブ、ブヒ!? ブブブブ!」
赤豚が虎娘に気づいてクズに何か言ってますぞ。
「ああ……あの子達はマルティ、お前の親戚たちだ。例えハクコであっても気にしないでくれ」
クズが優し気な顔で赤豚に諭してますが、赤豚にとっては最大限の脅威となる存在を認識したとばかりに虎娘へと視線が釘付けとなってましたぞ。
俺は見逃しませんぞ。
さすがの俺も危ないのではないかと思いますな。
だから虎娘を連れてくるのは赤豚の処理後が良いと思うのですな。
「さて……」
と、女王が扇で口元を隠しながらお義父さんや樹、俺へと視線を向けてますな。
安易に温情を出すわけにはいかないという形ですぞ。
けれどクズの事も配慮して良い落とし所を見つけたいという所ですな。
「全ては無能な我が夫と娘が摘み取ってしまった好機の芽。イワタニ様に一人で付いて行くまではよかったのです。そのまま味方に引き入れ、飼い殺してしまえば、アナタは今頃次期女王の座を揺るぎない物としていたでしょうに……まあ、すべて槍の勇者様には見抜かれていたようですが」
お? ここで最初の世界のような赤豚の断罪の台詞が入るのですな。
確かこんな感じでしたな。
「ブブブヒ!」
「黙りなさい!」
ここで女王が赤豚に氷の魔法を顔面にぶつけましたぞ。
ビンタみたいな感じでしょうな。
「ブサイクじゃないわ。どちらかと言えば……盾の勇者様は優しい顔をした方ですよね」
婚約者が柔らかめに赤豚の言葉を否定したようですぞ。
「ともかく、勇者様方の懐柔に大失敗をしでかし、更に不和を招いた貴方には相応の責任をとって貰うつもりではあります。次はオルトクレイ」
女王は抵抗せずに成すがままで顔を反らすクズへと顔を向けますぞ。




