恐怖死
「ぐは――あ、あぁあああ……お、おのれ……く――くそ」
自らの胸に深々と槍が突き刺さり、お義父さんを取り合うワニ男とウサギ男の姿をクズの影武者が忌々しそうに手を伸ばしてましたな。
「おやおや、確かにこれは尊厳を破壊してますねぇええ……痴話喧嘩で突き飛ばされて槍に突き刺さってしまうなんてなんてみじめな死に様でしょうかね」
クススと樹がそんなクズの影武者を満足そうにあざ笑ってますぞ。
「ではバーストランスはクールタイム中なので今度は光にしてやりますぞ。お前にはピッタリですな! ブリューナクX!」
「こ、こんな! 獣人共にぃいいい――!?」
クズの影武者を、あのループのクズのように消し去ってやりました。
「さて……残りはあの方ですか。ニヤニヤと僕の出した映像を見て笑っていたのを見逃してませんよ? 女王からも許可を得てますから屈辱に塗れてくたばって下さいね」
「ブブブ! ブヒヒ!」
「騙されていたの? その台詞、あなたみたいな人が揃って言いますね。逃亡生活中にも何人か見ましたよ。碌な事をしないのが分かっているからサクッと仕留めて上げますよ」
「ブヒャアアアアアアアアアアァァァァッーー!?」
ビっと樹が赤黒い豚の眉間を射抜いて仕留めましたな。
『おのれええええええ』
『ゆるさんぞおおおお』
『ブブブ……ブヒィイイイイ』
と、無念な末路を歩んだ所為で怨霊の種になって怒りで支配された魂が叫びをあげてますな。
放置すると悪霊として魔物化するのは目に見えてますぞ。
「悪霊化されると面倒なので二度目の魂の死を与えてやるのですピョン」
俺はソウルイータースピアに変えて奴らにトドメを刺してやりましたぞ。
『ギャ!?』
『せ、世界は、悪の獣人共が蔓延る事を認めるのか――』
『ブヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
赤黒い豚の魂を仕留めた時は周囲がビリビリと振動しましたな。
女王とクズがそんな叫びにびっくりしてました。
「今、何やら凄まじい叫びが聞こえましたが……」
「なんじゃったのか……」
「ところでオルトクレイ……面白い姿になりましたね。もう少し調べさせてくれたら、あの子に少しだけ温情を与えて上げますよ。ふふ」
「つ、つまよ! ワシを愛玩するのを辞めるのじゃ」
女王が屈辱に塗れるクズに対して嘲る様な笑みを浮かべていましたぞ。
「……勇者様方は勝利所ではなさそうですね」
なんて話の隣で傍観していた錬に空気の様に成り行きを見ていた仲間たちが声を掛けますぞ。
「レ、レン様……あの、襲い来る兵士を処理していたら戦いが終わってしまいましたよ?」
「そうだな。元康たちが終わらせてしまったな」
「いつの間にかあっちの連中が居なくなっていました。爆音で消し飛ばしたのはわかったのですが……」
「みたいだな。まあこっちは尚文たちが大混乱だったからしょうがない」
「レン様、ここで勝利のポーズを取りましょう。ラフミ様はこういう時は決めポーズを取ってました」
「そうか、しなくて良い」
「ですが……我等、黒の闇聖騎士団<ブラックブレイブナイツ>の勝利だ! と、した方が良いかと」
「なんでしなくちゃいけない! ラフミに毒されるな!」
「せめて勝利モーションをしましょう。レン様! そのお姿ならばこれを投げるので受け取って剣を掲げて下さい」
「骨を投げて俺に取らせようとするな!」
どうやら勝利ポーズをラフミから伝授されているようで錬にも参加させようとしているようですぞ。
「ええ……せっかく、キールさんと研究と練習をしたのに」
「なんでキールが俺の代わりにイヌルト枠で練習に参加してる事を知らなくちゃいけない!」
錬と仲間たちが言い争っていますな。
「槍の勇者はこういう手は頭が回るなの。昔取った杵柄なの?」
「ふん。過去の恥ずかしい思い出で、豚共の問題解決で知恵を巡らせる訓練をしてましたからな。どうですぴょん?」
敵が何を考えてどう動くかを考える応用で、敵にとって屈辱的で無念な事を考えたのですぞ。
もちろん、じわりじわりと苦しめる手立てというのはあるのでしょうが面倒なのでそこまで考えないんのですぞ。
「ちなみにライバル。お前が奴らを魔物化の応用で獣人っぽくしてやった末に牢屋にぶち込むというのも尊厳破壊ですピョン」
「おや? そう言う魔法もあるのですか? 確かにそれは面白そうでしたね。ちょっと残念ですね。次のおかしな奴に施して貰えますか?」
樹も所望する刑罰ですな。
「はあ……槍の勇者、とんでもない事を提案するなの」
「ヒ!?」
声の方を見ると腰を抜かした生き残りの外野の兵士がいますぞ。
「ああ、良い実験台が居ますね」
そう呟いたのですが、突如白目を剥いて死にましたぞ。
「恐怖で死んだみたいなの」
ちなみにライバルが即座に魔法を使って仕留めたのですぞ。
俺には分かりますな。
ライバルの魔法はこのループの樹では察知出来ないものもありますからな。
「おや……それは残念」
樹も怪しんでは居ても追求まではしないつもりのようですな。
「そんな事よりお義父さん争奪戦をやめるのですぞー!」
「引き起こしたのは元康くんでしょうがぁあああああああ!」
お義父さんの言葉が玉座の間に響いたのですぞ。
「尚文……お前、妖精姿になるとそんな事になるのか……お前の配下がルナみたいに、いやルナよりすごい変化だな」
「ちょっと錬! 何感心してるの!」
「岩谷様! ここから逃げますよ!」
「テオ、なんで逃げるの!?」
「そりゃあシオンが奪おうとするからです!」
と、ウサギ男がお義父さんをラグビーボールの様に抱えて走り出そうとしてますぞ。
「待て! 逃がさん! それは俺の物だ!」
「シオンも落ち着け! おい! 混乱してるぞ! 早く元に戻すんだ! アマキ殿!」
「まったく……何はともあれ、これで城を占拠していた三勇教は終わりだな」
直後、錬が唱えたフェアリーモーフでお義父さんは元の姿に戻り、ワニ男とウサギ男は我に返ったのですな。
クズも割とすぐに戻されました。
一時的にとはいえ獣人のような妖精姿になった事はクズにとって相当な屈辱だったようでしたな。
ですが女王に見られるのは満更でも無い顔だったと思いますな。
そして城を占拠していた残り少ない三勇教徒は捕縛、折角の猶予に逃げ遅れたならしょうがないなの……と、ライバルが魔物化の魔法の応用で獣人っぽい姿にする罰を樹が満足するまで行って無力化されたのですぞ。
そんな感じで……三勇教の暴走の痕が残るメルロマルクですぞ。
メルロマルクの城下町の者たちがお義父さんと女王の帰還に関して、色々と戸惑っているように感じますな。
ここに今、一つの国が生まれ変わろうとしているのですな。
城を不正に占拠した挙句、勝手に王を挿げ替えようとした三勇教の暴走は明るみになり、樹が所持していた証拠映像を一部編集したものを国中に広めることで誰が悪だったのか、俺、錬、樹の三勇者が三勇教を悪と判断して女王と協力して打破したという筋書きを広めたのですぞ。
国内で起こっていた出来事は波、盾の勇者であるお義父さんの所為ではなく三勇教が非合法な悪事をしていたという事に理由付けされて噂が広まるのにそんな時間は掛からなかったとの話ですぞ。
行方不明だった人物も三勇教が邪教認定された際に少し戻って来たらしいのですぞ。
なんでも騒動が収まるまで雲隠れしていたとかだそうですな。主に砦からの逃亡者とからしいですな。
人間は自身が悪だったと思いたくないという精神があるのですぞ。
なので悪事に加担していた、だから反省しようではなく無関係だった。悪いのは奴らだと明確な悪に責任のすげ替えをするのですぞ。
そんなこんなで安全になった城に婚約者等の関係者や女王の引き連れた軍をそのまま連れて行き、凱旋となりましたぞ。




