尊厳破壊
「樹ストップ! オーバーキルになるよ! そもそもこんな連中にそこまでする必要ないでしょ! 樹の精神にも悪いからその武器の使用はダメ!」
「おや? 尚文さんが僕の事を思って言うのですね。相変わらず慈悲深いですねー良いでしょう。ですがなんかいい感じにあいつを仕留めて下さいよ。じゃないとあそこまで身勝手な事をした奴らを許せないんですよ。あの映像の亜人獣人たちを当然の罰だって思ってるんですよ?」
「樹……君は……まあ、王様さえも引く程の有様を肯定する連中には必要な末路ね」
「ええ、殺すにしても奴らの尊厳を踏みにじるような事をしてください」
「……妻よ。ここでワシが活躍しろと? なんじゃ、あのセリフは、盾が困っておるぞ」
クズが圧倒的な強さを前に奴らを惨たらしく処分する相談をしている俺たちを見て女王に尋ねてましたぞ。
「……」
女王は顔を逸らし何も答えずに口元を扇で隠してましたぞ。
「尊厳を踏みにじるって……まあ、同情出来ないけど、あんまり殺すのも嫌なんだよねぇ……生きてる方が苦しくなるだろうからせめて慈悲をね」
何かいい手は無いかとお義父さんが考えているようですぞ。
「そんな馬鹿な!?」
外野の兵士も驚きの声を上げましたぞ。
必殺の切り札が通じなかったので絶句した形ですな。
「おかしい! あり得ない!? まさか不良品!?」
「ブブブヒ!? ブブブヒャアアアアアアアアアアアア! ブヒャああああ!」
何やら赤黒い豚がこっちに駆けてこようとするのを女王が氷の魔法で足止めしましたな。
「無礼者! いきなり騙されていたと私たちの方に駆け寄ってこないでください。既に十分な猶予や考える時間はありましたよ。手遅れです」
「風向きが悪く成ったらこっちに付こうとするとは何たる恥知らずか!」
クズが赤黒い豚に向かって軽蔑の言葉を投げかけましたが女王はクズに眉を寄せて小首を傾げますぞ。
「オルトクレイ? マルティもこれと同じ事をおそらくしますよ? いえ、既に実質してますね。おそらく……捕縛したあの子がこの有様を見せますので覚悟をしておいてください」
「そんな事はない! 妻よ! こんな奴とあの子を一緒にしないでくれ!」
その有様をワニ男はエクレアと一緒に切なそうに見てましたな。
「盾の勇者様じゃないが、なんだ……こう、どう意見すれば良いのか」
「シオン、思う所はあるのはわかる。が……これが現実という事なんだろう。私たちはこれからを考えてこの先の光景は気にしないで行けば良いのだ」
「ああ……そうであるとは思いたい。きっとこの先のオチも呆れるような酷いオチになる。そんな気がする」
緊張感が無いとお義父さんやワニ男、ウサギ男が思い出の様に後で語った出来事なのですな。
「お義父さんお義父さん」
「何、元康くん? ちょっと元康くんがこういう時に提案するのって激しく不安になるんだけど?」
「樹を満足させるあいつらの尊厳を破壊する名案があるのですぞ」
「酷いセリフだ……」
お義父さんが何やら祈るように遠い目をしてから俺を見ますぞ。
「おや? 元康さんが閃くのですか? それはどんなものか楽しみですね。あいつらをどう仕留めるのですか?」
「俺に任せろですぞ。タクトを惨たらしく処分した俺が考えるこいつらにとって、最も悔しくくたばる処分方法は、これに決まっていますぞ!」
と、俺はここで魔法の詠唱に入りますぞ。
そう、こいつらは亜人獣人の神と崇められる盾の勇者であるお義父さんが全ての元凶にして敵、それに協力する女王に反旗を翻して城を占拠、決戦だとおもちゃのようなコピー武器で挑んできたのですぞ。
そんな奴を拷問や豚王へと出荷以外で慈悲深く、それでありながら尊厳を破壊しながらあの世に送る。
最も屈辱的というのは決まってますぞ。
『力の根源たる愛の狩人が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者等の姿を変えよ』
「アル・フォーフェアリーモーフ!」
範囲は俺、お義父さん、錬とクズも掛かったら良いですな。
クズは……微妙にかかりそうで掛からないような感じですな。反応が微妙ですぞ。掛からない事もありそうなグレーな手ごたえですぞ。
ボフっと、俺たちの姿が妖精姿になりましたぞ。
お!? クズも掛かりましたな!
「ぬわ!? 何じゃ!? ワシはどうなっているのじゃ!?」
「オルトクレイ……おお、その姿はなるほど……これも悪くは無いですね」
「妻よ! ワシをどう思って居るんじゃその目は!?」
クズはどうやら妖精姿に成った事で女王は別の好奇心が発生したようですぞ。
「うわ!? 元康! 言うに事欠いてこれか!?」
「わ!?」
スタっと俺たちは妖精姿となってポーズですぞ。
尚、服に関して準備してなかったので脱げてしまいましたな。
後で妖精姿用の服を持ってこなくてはいけませんぞ。
「な、なに!?」
俺たちの姿が変わった事で新教皇や偽者のクズが更に驚きの表情と共に喜びにも似たような顔を始めましたぞ。
「とうとう正体を現したな! 勇者を騙る偽者の獣人共――英知の賢王もそうだったんだな!」
「誤解じゃ! わ、ワシに何をした盾ぇええええええ!」
「俺じゃなぁあああああい!?」
サッと俺は素早く新教皇に向かって接近し、コピー武器を一刀両断、流れるように槍を突き刺して掲げてやりましたぞ。
「悠長にしゃべっている暇があるのですピョン?」
この姿は正体ではなくお前らにとって最も屈辱的な最後にする為に魔法で姿を変えてやっただけですピョン。正体は人間ですピョン。
フハハハですピョン。
「ガハ……!? お、おのれ……獣人等にやられる訳には……」
先ほどよりも遥かに気迫と屈辱に満ちた表情に新教皇がなりましたぞ。
そうですぞ。
こいつらにとって偽者と断定しても人間である勇者たちは心のどこかで人であるという意識があるのですぞ。
そこに獣人姿に見える妖精姿を見せる事で、敵として憎悪する連中だったと認識するのですな。
その獣人に殺される。これこそが奴らにとって最も屈辱的な末路なのですぞ。
「ではさらばですピョン。バーストランスⅩ!」
「おのれぇえええ――!」
ボン! っと派手に新教皇を吹き飛ばしてやりましたぞ。
「ふはははは……これが神様の別の姿ですピョン。お前らの信仰する神々はこの姿を持っているのですピョーン」
「お前など神でもなんでもない! しねえええええええ!」
クズの偽者が化けの皮を解除して感情のままに襲い掛かって来るのですぞ。
ですが俺ではなくお義父さんの方に突撃ですな。
更に外野に居た三勇教の兵士達も群がってきますぞ。
「神敵、盾の勇者ぁあああああああああ! 正体を現したお前を殺してやるうううううう!」
「おい、テオ! 盾の勇者を寄越せ!」
「そうはいきません! あなたになんか渡せますか! 岩谷様はボクがこうして保護するんです!」
「ちょっとテオ? シオン?」
少しばかり目を離した間に、何やら目が座ったウサギ男とワニ男がお義父さんを奪い合っているようですぞ。
樹はポイすてされたみたいですな。
騒動をニヤニヤと笑って見てますぞ。
「では露払いもしてあげましょうか」
スタンスタンと群がる兵士をヘッドショットして行きますぞ。
「シオン、寄越せとは……おい! 冷静になれ! どうなっているんだ!?」
我を忘れてお義父さんをウサギ男から奪い取ろうとするワニ男にエクレアが異変を感じ取って声を上げますぞ。
「はあああああ!」
「邪魔だ!」
「退きなさい!」
バシン! っとクズに化けていた影武者をワニ男が尻尾で跳ね飛ばし、ウサギ男の華麗な蹴りが炸裂してこっちに吹き飛んできますぞ。
「ウェルカムですピョン」
飛んで来るのでそのまま槍を構えていたらズブ! っと深々と突き刺さりました。




