赤黒い豚
「どちらかと言えば妖精が正しいなの。確かそう言う設定なの」
「ガエリオンさん。ラフミさんではありませんがつまらない事を言わないで良いです」
「ああもう……樹の病気をどうしたら治せるのかまるで分からないよ」
「もはや弓の魔王じゃないのか?」
「なりたがってるから認めちゃダメだよ? 錬」
「わかった……まあ、あいつらが許されないのは当然だしな。王も女王もそう思うのだが、どうだ?」
女王が扇で口元……いえ、顔全体を隠して頭に手を当てていますぞ。
「元より城を勝手に占拠している者たちの大義はありません。今はこの人と呼ぶのもおこがましい方々の排除を、三勇教の神々からの神罰を望みます」
「これは皮肉が効いてますね。彼らが信仰する神から正式に神罰、確かにその通りのものとするのにふさわしいでしょうか」
「ふん! 貴様らのような偽りの神々に我等三勇教が負ける物か!」
本当、よくやりますぞ。
呆れるほどよく見た武器なのですな。
「ふははは! ワシたちが貴様らに真の正義と大義を見せてくれるわあああ! 盾の魔王に肩入れする妻と偽者のワシよ! 存分に思い知るがいい!」
女王とクズが臨戦態勢に入るかのように視線が変わりましたな。
先ほどの映像のショックはこの際忘れる流れのようですぞ。
「ブブブブブヒ!」
更にここで赤黒い豚らしき奴が一歩踏み出して何やら抜かしてますぞ。
女王が扇で口元を隠して冷たく睨みますな。
「あなたに王家の血筋が流れているから何なんです?」
「ブブブヒブブブ!」
「なるほど……三勇教はそう言う理由で大義名分掲げて城を我が物として良いと……継承権を放棄して教会に出家した者が我が物顔で王になろうとは笑わせてくれますね」
「妻を差し置いて三勇教がメルロマルクを手中にする大儀とするつもりじゃったという事か……」
女王とクズのターンとばかりに何やら述べてますな。
俺として赤豚に体を乗っ取られていた豚でしかないですがな?
ライバル? 違うのですかな?
「……あの悪霊に乗っ取られてなくても中身は似たり寄ったりって凄いなの」
「何か知ってるの? ガエリオンちゃん?」
「俺も知ってますぞ。あいつは」
「ループで見たことがあって、その際はとある奴に体を乗っ取られて今回みたいな状況で大暴れしたなの。槍の勇者、詳しく話さなくて良いなの」
「なんでですかな?」
「ややこしくなるからなの! なおふみもそう注意しておくなの」
「あ、うん。わかった。元康くんは詳細に話さなくて良いよ。そもそも何言ってるかわかる?」
ライバルめぇえええ……ですが、俺は赤黒い豚が何を言っているのかわかりませんぞ。
ですが赤豚の亡霊に乗っ取られていたのだけは知ってますぞ。
それが乗っ取られてなくても同じような性格であるという事らしいですな。
「教会に出家ね。よくある王位継承問題とかで死にたくないから継承権を放棄を理由にって奴にある話だけど、教会が大義名分にするのを見ると悪用されてるって感じだね。見過ごしてやった意味ないじゃん」
「もはや三勇教が暴走しているのは間違いありませんね。貴方に継承権はありませんよ?」
「ブブブウ! ブヒブヒブヒブウヒ!」
「いくらでも言いなさい。私が女王でありメルロマルクの代表なのですよ。もはや話は不要なようですね」
「勝手に話を切り上げないで貰おうか!」
「そうじゃ! この子こそワシの可愛い義理の娘じゃ! マルティもメルティもこの国の女王になるのにふさわしくないからこそ、この子にすべてを捧げると決めたんじゃ!」
「ワシの顔でふざけた事を抜かすな! その者を認めなんぞせん!」
本物のクズも大激怒ですぞ。
あの豚を自身の偽者が溺愛ですな。
「何ていうかさ……シチュだけ見ると女性向け漫画みたいな連中だよね。あっち……敵側だとこんな感じなのかねー追放なり権力から逃げるなりで教会に出家だけど色々とあって出戻るって展開」
「尚文さん。本当、範囲広いですよね。そんなのあるのですね。所で手を出して良いですか? いい加減、あのうるさい口を全員ぶち抜きたいのですけど? ウサギの彼が僕を抑えようとして面倒なんですよ」
「岩谷様に頼まれてるんですよ。むーびーをスキップされないようにしてます!」
後光を背負った後の樹はウサギ男に抱えられてしまいましたからな。
「……はあ」
お義父さんが連中の言い分、大義とかその手のなんのそのを聞いて深くため息を吐きましたな。
「ふふふふふ! 貴様らが調子に乗って居られるのも今のうちだ! この伝説の武器を前にして勝てると思わない事だ!」
で、先ほどから出していて女王とクズ辺りが警戒しているコピー武器を奴らは掲げているのですぞ。
あれで勝てると思っているのだから救いようがまるでないのですぞ。
「話し合いをするつもりはなかったけど、あっちの理屈が滅茶苦茶で聞いているだけでも疲れちゃうし、こっちの樹もやる気が凄いし、色々と酷い有様だしなー」
これも俺たちの悪行の所為なのかな……とお義父さんは嘆いてましたぞ。
「今回は状況が状況だからしょうがねえなの。弓の勇者がメルロマルクの闇を見過ぎてワイルドなの」
「ええ、それで良いですよ? 所でそろそろ開始ですよね?」
ニヤァっと獲物を前にする狩人の目を樹はしてますぞ。
「樹……あそこまで酷い連中を倒すのってもはや正義なんだけど?」
「結果的にそうなるだけですよ」
「テオとしてはどう? ここで決戦って感じなんだけど」
「そのはずなんですけどねー……なんか正義感は満たされないです。こっちの弓の勇者の所為ですかね?」
「どうだろうね。まあ……ここで生け捕りにとかするときっと、あの人たち死んだ方がマシな事になりそう。国賊扱いだから処刑は不可避か」
お義父さんが女王に顔を向けると頷かれましたな。
「逃げた扱いでこっちが生け捕りにして闇に葬りそうな事を樹は仕出かしそうだしなぁ」
「お望みとあらば良いですね」
「望んでない」
錬が樹の提案を却下しましたぞ。
「ま、本当はこういう命令はしたくないんだけどさ……せめて手早く処分するしかないね。生かしてても今後、碌な末路にならなそうだし、これ以上の被害者は出せないよね」
お義父さんからの許可が下りましたぞ!
「やれるものならやってみるがいい! 喰らえ!」
バチバチっと露骨にチャージしていたコピー武器で新教皇がこっちにブリューナクを放ってきました。
「ホっ! ですぞ」
バシっと叩きつけて弾いてやりました。
バシュっと玉座の間に壁を突き抜けて風穴が開いてしまいましたな。
「フハハハハ――は!?」
「ブ、ブヒ!?」
「な、なに!? どういう事!?」
クズの偽者もクズの演技をするのを忘れて唖然としてましたぞ。
「そんなバカな! これを喰らえ!」
今度はフェニックスブレイドでしたかな?
剣のスキルを再現したスキルが飛んできますな。
「ふん」
錬が飛んできた火の鳥を切り裂いて散らしましたぞ。
「スキルを使うまでもないな」
「そんなバカな!?」
ダメ押しとばかりに弓に変えて引き絞っていますな。
何か光る矢を飛ばしてますぞ。
なんてスキルだったか忘れましたな。
「ふふふ……この程度なんですか?」
あざ笑う樹がほぼ引いてない見ため、玩具の弓でペチっと矢を放って飛んでくる光る矢をぶち抜きました。
「これは滑稽、何か自信ありそうでしたが出てくるのがこれですか! じゃあ僕が本気で行きますかねぇええええええ!」
樹が撃ち抜きたいとばかりにカース武器の憤怒の弓へと武器を変化させようとしているのが一目でわかりますぞ。
「あつ!? この人、何をしでかす気ですか!?」
抱えるウサギ男が声を上げてますぞ。
ゴゴゴと炎と黒い煙を立ち昇らせ始めましたからな。




