邪悪な宴
「撮影したら殺す! クロがやっと最近絡んでこなくなってきたんだぞ」
「僕に絡んで「闇聖勇者<ダークスリー>にならない?」って絡んで来ますからね。早く貴方の方へ誘導したいんですよ」
「樹! 貴様! ラフミの方で遊ばせているのに俺の方に誘導させようとするな! ラフミと同類だぞ!」
「僕があの方と同類? 腹立つ事を言いますね。僕はクロさんがやりたいことをする所に関わって来ようとするので注意を反らしたいだけですよ」
「錬と樹、その……言い争いをしてる暇は無いよ。あっちもなんか滅茶苦茶腹立てるしさ、緊張感がそがれるよ」
「そうしたのはお前だ尚文!」
錬がいつにも増して噛みついてきますな。
「やはり身勝手な奴にして魔王の手先共め!」
「貴様等! どれだけ狡猾に動いたかをこっちが理解していないと思ったか! お前らがどれかけワシたちの信徒たちを生贄に捧げたか! 断じて許せん! お前らに消された者たちの分! ワシたちは引くことが出来ないんじゃああ!」
と、何やら新教皇とクズの偽者が正義は我にありとばかりに三勇教の隠し武器である聖武器のコピー品を出してますな。
「偽者も何も、お前等にとって都合が悪いから俺たちを偽者扱いでしかないんだろ?」
「ですね。野望を打ち砕かれて、都合が悪いからと僕達を処分しようとした、実に愚かな連中ですよ。高等存在人間様の宗教はね」
「ところでさ」
お義父さんが相手を見た後、新教皇を指さしますぞ。
「あれ、誰? なんか当たり前のように王の隣に居るけど……国を操る黒幕なのは薄々わかるけど」
と、お義父さんは知ってそうなクズと女王、そして俺とライバルへと顔を向けますぞ。
クズに関しても印象が薄かったのか検索中というような顔で女王も首を傾げておりますな。
ここは素直に言うべきですかな?
言っても問題はないはずですな。
「ループ知識では教皇の後釜ですぞ。教皇は何処ですかな?」
「なの」
「後釜じゃと?」
「はて……崩御したという話は耳にしてませんが……」
クズも女王も首を傾げるのでお義父さんが困ったように眉を寄せてますぞ。
「ちょっと、王族も分からないってどういう事!? 答えてくれるの?」
若干不安そうに新教皇に向かってお義父さんが尋ねますぞ。
「ふん! 盾の魔王に語る口など持たぬ!」
「じゃあそれでも良いけど? あんまり調子に乗ってるとムービースキップされちゃうよ?」
「良いですよそう言うの。手っ取り早いですよね」
「……まあ、良いだろう。お陰でこうして正しく教皇の座に就くことが出来たのだからな」
新教皇が何やら咳払いして……言いたくてうずうずしていたとばかりに胸を張って抜かしてますぞ。
「どうして私が新しく三勇教を導く教皇の座に座れたかというと、前教皇がとある貴族が開いた夜会に出席してその夜会の出席者が全て行方知れずの現象……盾の魔王が起こした波の被害によって姿を消したのだ!」
ばーん! とばかりに新教皇の大声が玉座の間に響き渡り……近くに立っていた赤黒い豚や三勇教の兵士、偽者のクズが拍手をしましたぞ。
かなりまばらな拍手でしたな。
人員が心もとないのではないですかな?
すーっと錬とお義父さんの視線が俺、ではなく樹の方へと向かって行きました。
「おや、随分な大物があの中に紛れていたって事みたいですね。これは滑稽」
「近くで見てるラフミのニヤニヤした顔が思い浮かぶなの」
「どういう事じゃ盾!」
「事情を教えて下さって貰ってよろしいでしょうか?」
「俺は何も知らない」
「俺も何も知らない」
お義父さんと錬がクズと女王から顔を反らしましたぞ。
樹がクスクスとどこまでも笑ってますぞ。
そんな樹を乗せているウサギ男が顔を手で覆っていましたな。
ワニ男も今まで黙っていたエクレアも大体察したという顔ですぞ。
「はは、あんな事を勇者に見られたらその場で処分されても誰も文句を言えない邪悪な宴が催されていましてね。ええ、僕が自身が間違っているかもしれないと思う際に見て決意を固める映像の大本ですよ」
樹が頬袋から映像水晶を出してピカっと照射するとそこには……控えめに言って地獄のような宴の一幕が10秒くらい流れましたぞ。
「うぬ……!?」
「なんと……これは……」
何に似てるかと言えば……豚王の処理場、それと豚の屠畜場が近いと言えば近い様な血まみれの会場のようでしたぞ。
犠牲者は亜人獣人で生死は不明ですが……確かあの時、お義父さんも気持ち悪そうにしており、シルトヴェルトの使者辺りが絶句を越えた冷酷な目線で捕らえた連中を無慈悲に出荷してましたな。
「う……直に見てしまった」
「うう」
錬やエクレアが青い顔をして口に手を当ててますぞ。
「一瞬だったがなんてグロ映像を見せるんだ!」
「だって証拠映像でしょう? 何ならフルで見ますか? もしかしたら件の行方知れずとなった教皇がいらっしゃるかもしれませんよ?」
「そんなどこぞの先代探偵が人間に絶望した際の代物みたいなものを持ってないで欲しいんだけど?」
「いえいえ、これがあるから僕はこの弓を躊躇いなく引けるんです」
「はあ……闇が深いよ。で? 樹……その映像の人たちは?」
「人ですらありませんよ? 高等存在人間様より劣る何かでは無いですか?」
クススと樹は笑っていましたな。
「それの何処が悪というのじゃ! 我等人間の正しさの証明だろう!」
「ワシの顔して何を抜かしておる!」
クズの偽者が樹の一瞬見せた映像を擁護してクズがブちぎれましたぞ。
「オルトクレイ、さすがのあなたでも先ほどの光景はクるものがあるのですね。平然としていたらどうしようかと思いましたよ」
「あの子達をあんな目に遭わせてなるものか!」
「ああ……ここで引いたらアトラちゃん達も被害に遭いかねないからなぁ」
お義父さんを忌々しいと睨みつつ、自らの陣営の闇を垣間見た所為なのかクズの顔が若干どうしたら良いのか迷ったような顔をしてますぞ。
「ラフミからまた聞きとなった槍の勇者の所業よりも酷いものなの……」
ライバルが深いため息をしましたぞ。
「タクトの肉林パーティーと同レベルでは無いですかな?」
「否定はしねーなの」
「……この世界はどこまで闇が広がっているの?」
「可愛い闇もあるからその辺りで癒されておけば良いなの。具体的にはクロとか料理界とかなの」
「それもどうなんだ?」
錬が一瞬のグロ映像で恐慌状況に落ちかけている仲間たちに視線で落ち着くように合図を取っていましたな。
仲間内の豚が堪えられずに咽ていて、仲間に介抱されていたようですぞ。
「我らが正しき信徒たちをどこへやった! 盾の魔王!」
「俺の所為にしないで!」
お義父さんの強い叫びが玉座の間に響き渡りましたぞ。
「そりゃあ色々と悪い事をこの世界に来てから色々とやってきたよ? けどさー……これすらも俺の所為なの?」
「そういう訳ではないでしょう? ま、奴らからするとこの世の悪はすべて盾の勇者の所為なんでしょうよ。何て身勝手なんでしょうね。仕出かした僕が答えましょうかね」
樹がウサギ男の頭の上に立って胸を張りながら偽クズと新教皇、それと後ろに居る赤黒い豚を見下げますぞ。
「どこへやったかって? あなた、これまで食べたパンの数なんて数えてますか? そう言う事です」
「貴様ぁああああああああ! 獣人風情が何を調子に乗ってるんだぁああああああ!」
「それ、最高の誉め言葉ですよ? ふふふふ、そうですよね。尚文さん! 僕は――高等存在人間ではなく――獣人ですよ!」
両手を広げ、喜びの目をしている樹をお義父さんと錬は言葉を失う様に見上げていました。なんとなく後光でも背負っているかのようですな。
お義父さんと錬に樹から放たれる光で影が出来てますぞ。
ウサギ男のウサギ姿の身長が高い所為ですが、変わった空気が続きますな。




