避難斡旋
「そのことを前提にどうしていくかを決めたい。まずは王様とメルティちゃん、フィーロと奴隷の子達を回収。それから城を占拠している連中の排除をしようと考えているのですが、女王様も同意見でしょうか?」
「はい」
「まあ、僕としては尚文さん達が王様を回収、その間に僕と元康さんが城下町に堂々と突撃して城に突入、高等存在人間様方を片っ端から身の程を叩き込んで掃除するでも良いのですけどね。この世のゴミが消えますよ?」
何故か俺が樹の作戦側に盛り込まれてますぞ。
お義父さんの命令ならしてやっても良いですが、なんで樹と暴れないといけないのですかな!?
「そんな大々的に虐殺するって女王様に言うのはどうなの? すみません。樹はこの姿になる魔法を受けてから勇者なのに凄まじい奴隷経験をしてしまって復讐心に駆られるようになってしまいまして」
「……私共は謝罪する事しかできません。すべてが我が国の宗教とオルトクレイが起こした事、どうか……寛大な慈悲を祈るほかないです」
女王が樹の事情を察して何度も謝ってましたぞ。
ワニ男が樹の様子にため息を漏らしてますぞ。
「城には最終的に乗り込むとは思うよ? ただ、出来る限り犠牲者は少ない路線でさ、国民も扇動されてるだけだから女王様と王様が宣言すれば収まるよ」
「どうでしょうかね。他に解決の手段があったら聞いてみたいもんですよ」
……無くはないのですがな。
最初の世界のお義父さんは上手い事、国民の支持を得ることで三勇教を壊滅に追い詰めましたぞ。
このループと似たようにメルロマルクで活動したお義父さんの場合も同様ですぞ。過激な戦いが起こりましたがな。その際に旗頭のお前は追い詰めれたのですぞ。そしてエクレアが獄中死したのですな。
あまり善行らしい事をしなかったらこうなるのですぞ。
三勇教に良いように扇動されてしまった形ではありますな。
と言う所で女王は錬を見てますぞ。
錬は更にお義父さんの後ろに隠れますな。
「アマキ様を国民たちは支持しております。問題が解決した際にはアマキ様、協力をお願いできないでしょうか?」
「う……あ、いや……それは俺じゃなく……いや……ふん。考えておこう」
「錬……何、コミュ症気味に怖気づいてるの?」
「だが尚文! それは……く……」
言うに言えないという事のようですぞ。
すべてはラフミの活躍のお陰ですな。
メルロマルクに留まったお義父さんの評価に近い形で錬が現在、メルロマルクの希望なのですな。
ラフミも上手い事立ち回って居て三勇教に狙われないギリギリのポジションを維持させているのですぞ。
この流れだと錬が婚約者と婚約する事でメルロマルクの存命を図る流れになりそうですぞ。
ハ! これはチャンスですな! このループで婚約者は錬と婚約する事で、フィーロたんが開くのですぞ。
「元康……まさかこの為に暴露して俺を元に戻したんだな!」
「何の事ですかな? 俺はライバルに調子に乗られるのが不服だっただけですぞ?」
「まあ、元康くんはそうだろうね。錬、元康くんにそんな知恵はないよ」
「でしょうね。恨むならガエリオンさん辺りですかね」
「くそ! 俺を裏切るとはあのドラゴン! 絶対に許さないぞ!」
ドラゴンとはそう言う生物なのですぞ。
お義父さんを奪った事は何が何でも許せない蛮行なのですぞ。
「とりあえず話はその方向で行くとして……あの王と上手く合流できるか。それで王は今どこにメルティちゃん達と居るのか」
そう、お義父さんがフィーロたんの魔物紋の反応を調べてますぞ。
「ま、どっちにしても女王様。王様の説得をお願いします。後はあなたの問題のある方の王女に関して……」
赤豚に関する問題も釘を刺すのですな。
「……そちらに関しては既にフォーブレイの方で捕縛してこちらに護送している最中です。此度の問題が解決した頃に到着するでしょう。まったく……ノコノコとなぜフォーブレイに来たのか」
女王がため息をしてますぞ。
ああ、赤豚はどうやら捕まったようですぞ。
予想通りにタクトにでも会いに行って色々と悪だくみをする手筈だったのでしょうな。
「当然の事ながらこの度の問題の引き金となり、好き勝手に勇者様方の不和を招こうとしたことに関する責任を取らせますのでいましばらくの辛抱をお願いします」
「色々と問題があるのは否定しようがないですが、どちらかと言えば教育が原因じゃないのですか?」
樹の詰問が女王に向かいますな。
おそらく樹の分析では赤豚はクズと女王の教育で人間至上主義として育ったと思っているのでしょう。
赤豚は生来の豚ですぞ。
婚約者と女王と血縁である事すら不思議な存在なのですからな。
「再三に渡ってきつく教育はしたのですが、問題行動が改善される事は無かった不祥の娘です」
「樹、メルティちゃんを見ればあの王女自身の問題だってわかるでしょ」
「そういう事にしておきますよ。まあ……不正で魔法をぶっぱなす瞬間を頭掴んで見せられましたからね。あの時の顔、覚えてますよ?」
樹が思いっきり根に持っているようですぞ。
お義父さんにも当てこすりしてますな! お義父さんは悪くないのですぞ。
「じゃあ作戦開始としましょうか。女王様、同行をよろしくお願いします。俺たちが何が何でも護衛しますので安心を……エクレールさんも頼むね」
「当然だ。何があっても女王様を守って見せる」
「フィーロたん、今行きますぞー!」
という訳で俺たちは女王を連れてメルロマルクに潜入し、クズと合流することにしたのですな。
建物を出ると外にはラフミとライバルが出発とばかりに待ち構えていましたぞ。
お前らは来るな! と言いたいのですが同行することになったのですぞ。口惜しいのですぞ。
ライバルさえ帰ってこなければ俺がウサウニーであると明かさなくても良くて俺のお願いが通ったはずなのですぞ。
そうしてフィーロたんの魔物紋を目印にしつつラフミの監視も合わせて、クズの潜伏先へと俺たちは行ったのですな。
……モグラの巣ですぞ。
「よりによってここに来てるって」
樹と仲が良いモグラが確かメルロマルクからの脱出通路があると話していたモグラの巣なのですぞ。
「はは、因縁の場所って事ですかね。ですがよりによって亜人反対派の王がここに逃げ込むとは皮肉も効いてますね」
樹が渇いた笑いを浮かべてますぞ。
「まあ、フィーロやメルティちゃんが多少はこっちの事情を耳にしてるからここに潜伏する流れになるかもしれない」
「うむ……」
エクレアも複雑な心境のようでお義父さんの言葉に頷きましたぞ。
「ここは?」
「女王、私の父がメルロマルクで何かあった際にいざという時の亜人獣人たちが奴隷狩りの魔の手から他国へと逃げる隠し通路を用意していたとの話なのです」
「そうですか……本来、私の家系の方針であったなら厳罰に処する判断をするでしょうが、私はこの件で処分をするつもりはありません。それほどに、私はセーアエットに期待をしていたのですからね」
女王はモグラの巣にある通路に関して黙認する方針のようですぞ。
「何より、オルトクレイ達の助けにもなっているのならばよい事と思うべきでしょう」
「女王様の寛大な判断に感謝致します」
エクレアは女王の言葉に礼をしてましたぞ。
「まあ、今でも時々僕は来てメルロマルクから逃げたい亜人獣人の避難斡旋をしてましたけどね」
樹も時々ここに様子見に来ていたとの証言ですぞ。
まあ、モグラの巣ですからな。樹もここで生活していたので慣れた住居なのでしょう。
「問題は樹の時と同じくオルトクレイが罠とか仕掛けている可能性があるけれど……」
「どうやら問題は無さそうですよ」
「ごしゅじんさまー」
おお! フィーロたんが婚約者を背に乗せてタタタとこちらに近寄ってきますぞ。
「フィーロたーん!」
俺も駆け寄って来るフィーロたんに飛びつこうとしたらお義父さんが俺の襟首をつかんでいました。




