青臭い歌
「もとやすさん、フレオンはこの前、この町でやってた劇をもう少し見たいです」
フレオンちゃんはゼルトブルでやっている野外の演劇を見に行っていたみたいですぞ。
そこで何やらヒーローショーという過去の勇者などが広めた演目を見たようですな。
「わかりました。後で見に行きますぞ」
「ありがとうございます。ユキさんももとやすさんと一緒に行きましょう」
「え、ええ! ユキも元康様と行きますわ」
「ユキちゃんも演目に興味があるのですかな?」
「どちらかと言えばレースが好みですが、演劇を見たいのですわ」
わかりました!
「行け行けヒーロー、みんなの期待をその手に破滅を導く波を乗り越えろー」
どうもゼルトブルでは現在、波の恐怖から勇者やヒーローへの期待を込めてそういった演目が流行り始めているとからしいのですぞ。
で、フレオンちゃんが機嫌よく歌っている状況ですな。
フィロリアル様も合わせて歌いますぞ。
ゾウの教育のお陰か、フィロリアル様は歌うと合わせて歌ってオペラ風になるようになっているのですぞ。
そこでですぞ。
フレオンちゃんのセンサーに樹は反応すると思うので様子を見ますぞ。
「ほら、気が合いそうなフィロリアルが出て来たみたいですよ? 話をしてみてはどうです? リーシアさん辺りとも話が出来そうですね」
樹がさも平然とウサギ男に向かって世間話をしてますぞ。
「飛ぶフィロリアルらしいですけど……」
「まあ、あなたが乗る場合、ウサギ姿では締まりませんからしっかりと人姿で乗る事を勧めますね。クロさんやラフミさんじゃないですが戦隊ポーズとか取れば良いんじゃないですか?」
「そこまではどうかと思いますが」
「しかしどいつもこいつもウサギはフィロリアルと組みますね」
ゲシっと樹がウサギ男の足を蹴ってますぞ。
「それってボクじゃないですよね。蹴って来ないでください。そもそもフィロリアルはウサピルを生きたまま食べたりしますよ。サイズには気を付けないと危ないですって」
「そうでしたか、ではウサウニーの末路は愛したフィロリアルに食われて死ぬというのはどうでしょうね」
「なんかあの人、病んだフィロリアルが苦手らしいですよ。ルナさんのお願いに逆らえずに剣の勇者をイヌルトにしたとかあると聞きました」
「良い話を聞きましたね。フィロリアルはどうやったら病ませられますかね」
「やめてください。教えたボクが殺されてしまいます」
「樹、フレオンちゃんの歌はどう思いますかな?」
若干トリップしながら正しい正義に目覚めて仲良くなるはずなのですぞ。
前回のループの樹曰く頭に響くとか空耳がこびりつくという事らしいですぞ。
「青臭い歌ですね。彼くらいに丁度いいのではないですか?」
この反応、リアクションが鈍いですぞ。
仲良くなるか経過観察ですな。
という事でフレオンちゃんのお披露目を終えてしばらく様子を見ましたが、樹とフレオンちゃんが特別仲良くする様子はなかったのですぞ。
なのでフレオンちゃんにお尋ねですな。
「フレオンちゃんフレオンちゃん」
「はいなんですか? もとやすさん」
「樹はどう思いますかな?」
「いつきさんですか? どうもフレオンが感じる正義とは別の想いを持って活動している、また一つの正義を持っている方だと思いますよ」
おや? 歪んだ正義とかフレオンの正義に共感してくれる同士とは仰っていませんぞ?
フレオンちゃんの歌に共感を示す様子もないのですぞ。
おかしいですな?
「それよりフレオンが最近気になるのはクロさんが気に入っていらっしゃるれんさんの方ですね。実は正義をしたいのに恥ずかしいと感じているもどかしさをフレオンはビンビンと感じますよー!」
なるほどですぞ。
「えークロ、最近闇夜の暗殺者<ブラッディリス>が気になるよー? あの姿よりね、人の姿になって活動してほしいー衣装も目立たないように黒い恰好して闇の勢力<ダークエンピール>と戦うの」
んん? クロちゃんが樹の方に興味を抱いているのですかな?
どうなっているのでしょうかな?
「クロちゃん。錬はどうなのですかな?」
「なんかねーカッコいいけどあんまり遊んでくれないの。いわに困ると助けてってすぐ飛びつくようになってるよ? 闇の剣士<イミテーション>と遊んでる間に変わっちゃったー」
ああ、確かに錬は何かあるとお義父さんに相談するようになってしまいましたな。
元々クロちゃんに絡まれた時にお義父さんにお願いしてましたが依存してしまっていてクロちゃんセンサーから大分落ちてしまったという事でしょうか。
「フ……」
「あ、闇の剣士ー」
クロちゃんが錬に化けたラフミの方へと走って行ってしまいました。
「おい! いつまで俺の姿で居るんだ! ここにいる時くらい元に戻れ!」
ちなみに何度も確認しますがここはゼルトブルの拠点周辺ですぞ。
「そんなの私の勝手だ」
「並んで立たれるとこっちが偽者? とか指さされるんだぞ! この前、それで偽者扱いされたんだからな!」
錬とラフミの問答が始まりましたぞ。
まあ、ラフミは錬のイケメン度を割り増しした姿で出歩きますからな。
衣装も尖ってますぞ。
「ぶー」
そんなカッコ悪い様の錬をクロちゃんが若干不満そうに抗議してましたな。
この件をお義父さんに相談しますぞ。
その日の夜、お義父さんがサーカス内で資料とかを纏めている所で声を掛けましたぞ。
「まず前提としてフレオンちゃんで樹を洗脳出来る件とか、それを前提に樹を雑に扱っている事をもう少し反省してほしいんだけどなー」
「ですが和解が難しい樹を説得するのに効果的なのですぞ。決裂した頃にループしてしまうと話してもどうにもならない事が多いのですぞ。ではまたリスーカにして拷問経験をさせるのが最適解なのですかな?」
「まあ……言わんとしてる事はわかるんだけどさ……」
「確かに正義を確信した後の弓の勇者は面倒くさいなの。たぶん、ラフミも同意見になるくらいには面倒だったなの」
「ガエリオンちゃんも同意見なのか」
ここぞとばかりにライバルも聞きつけて混ざって来るのですぞ。
お前は帰れですぞ!
「だからと言ってなー……その手だけってのもどうなの?」
「ガエリオンはそんな弓の勇者の暴走の果てにある破滅の尻拭いをさせられた事があるのでいう権利はあるなの。このループみたいに……ガエリオンが初めて出会ったなおふみのループはそうして暴走して決裂した弓の勇者が失敗の果てに病んで病死したなの」
その末路を簡単に避けられるなら必要な一手だとライバルはお義父さんに言い返しましたな。
「うーん……樹は結構扱いが難しいって事みたいだね。このループの樹が平穏を見つけてくれると良いんだけど……なんかこう、今の樹って自分で碌な死に方しないと思い込んで自分で闇に落ちて行こうとしてるからなー目の前に居る人を救うのに我が身を惜しまない所とかさ」
「どうも聞く限りだと守るべき者の為に手を血に染めるのを厭わなくなったなの。その為にどれだけ血と泥に塗れようと果たしたい目的の為にと思ってるっぽくて、フレオンの掲げる正義とはちょっと違うのはわかるなの」
フレオンちゃんはどちらかと言えば戦隊ヒーローでしたな。
勧善懲悪が好みなのですぞ。
「クロちゃんが樹に反応しているって事は、ダークヒーロー系になってしまっているって事だろうね。心の風景、理想が違うからフレオンちゃんと波長が合わなくなったって事かな?」
「元々目立たないように活動するのが好みだけど違いが分かり辛いなの」
「んー……覆面ヒーローとダークヒーローは似てるけどちょっと違うんだよね」
お義父さんがサッとメモで俺とライバルに説明してくださいますぞ。




