王抹殺命令
「という事らしいぞ」
翌日の昼間に隙を見て俺たちに報告に来たラフミの話を聞いて、お義父さんは眉間に手を当てて呆れ果てるかのように唸っていました。
「高等存在人間様方は相変わらずですね。自身に都合が悪くなった王族に何かして……城を乗っ取って錬さんに偽りの命令ですか。偽者というのは逃げ出したのが本物という事でしょうね」
「早く影武者をやめさせたかったのにこれか!」
「残念ですね。本物の帰還をさせようとしたら尚文さんとオルトクレイ王の抹殺命令が下ってしまって」
人の姿に戻った錬が悔し気に唸ってますぞ。
「そんな命令付き合いきれるか! 俺は他国に……」
「既に居て潜伏してるようなもんだよね」
「……メルティ王女を無視は出来ない!」
錬の行動は空回りしてますな。
「あ、言い直した……まあ、少しの間だけど一緒に生活したもんね」
ちなみに俺はなぜかウサウニー姿でお仕置きに簀巻きで宙づりにされていますぞ。
勝負とかではなくお義父さんが樹たちの鬱憤をどうにか晴らすためのパフォーマンスとして俺をこうして居て欲しいという事なのですな。
時々樹が矢を放ってきますがすべて受け止めてやりますぞ。
プランプランとその都度揺れますがな。
「なの! こういうキーホルダーを作ると良いなの」
おい! ライバル、俺を突くなですぴょん!
「フィーロたんは無事なのですかな!?」
陰謀に巻き込まれてしまってまさかフィーロたんが殺されてしまったとは信じられない事なのですぞ。
そのような事をしでかすというのならばメルロマルクの城ごと消し飛ばしてやりますぞ。
いえ、犯人を惨たらしくタクトと同じ目に遭わせてやりますぞ。
「そこは大丈夫、フィーロの反応はあるから逃げ延びたんだと思う」
一安心ですぞ。
フィーロたんは無事なのですな。
何よりそんな真似をしてもフィーロたんはしっかりとお義父さんが育てたので強いはずなのですぞ。
少なくともメルロマルクの兵士程度に遅れなど取りませんな。
「城に居たラフミちゃん達は事件当時、気づきそうだけどどうなの?」
「ああ、丁度兵士共が勇者様の武勇伝が聞きたいと訓練場にまで呼び出してレクチャーをさせられていた。更に念入りに魔法で遮音までして犯行を気づかせないようにしていたのだろう」
「よくやるなー……あの王も合流するにしても兵士が多くて全面衝突は避けられないからやむなくラフミちゃん……錬達との合流は諦めたって所か」
「メルティ王女達もあの王が脱出を優先するような事を言われたら従う可能性は十分にあるだろう」
「何にしても……思い切った事をするなぁ。いや、逃げられたから罪をでっち上げて城で爆発騒ぎを起こしたって事かな?」
ありそうですな。
実にありきたりな陰謀ですぞ。
「あの王様がみんなを連れてどうやって逃げたんだろ? 確か杖の勇者なんでしょ? 杖の転移スキルでどこかへ逃げたとか?」
「いや、今の王に武器は応えて居ないだろうから大方、城内にある緊急脱出用の通路を使って地下水路経由で逃げたという所だろうな」
メルロマルクの脱出路ですな。
お約束とはいえ、正しい手段として使われているのを初めて聞いた気がしますな。
「で……追跡を錬の影武者をしているラフミちゃんが命じられた訳だけど……王様たちの居場所はわかったのかな?」
お義父さんが余裕のある態度でラフミに聞きますぞ。
「どうせ教えてあげないよ! ですよこの方は」
「ふ……私はそこまで無粋ではない。とは言いつつ、あの王には良い経験になるのではないか? と、さりげなく私の分身を護衛として潜伏させて近くで監視して見守っているぞ」
「完全に把握済みじゃないですか!」
「あまり関わらなくても良さそうだな……」
樹も錬も我関せずと言った態度になりましたな。
「城から脱出した後の王様たちは大丈夫なの?」
「まだ脱出して一日だぞ? フィーロが上手い事、走って追手は十分に撒いた。後で恩着せがましく合流してやれば良いのだ」
「まあ……そうだけどさ。あの王様、城から逃げたって事は俺と和解しようとかそう言う考えになってくれてるのかなぁ」
どうでしょうかな?
虎娘を早期に預けたループの時はお義父さんへの和解は出来ていませんでした。
「まだ難しいでしょうな。あくまで虎娘への情で動いているという所だと思いますぞ」
「それはそれで厄介な気もするんだけどなぁ」
「和解するには相応に犠牲が出ないと理解した試しは無いのですぞ」
最初の世界のように女王が亡くなったり、恨みの原因が赤豚だと確信する出来事が無いといけないみたいですぞ。
このループの赤豚はあっさりと殺すなどせずにじわりじわりと、タクトに匹敵する苦しみを味合わせてやろうと思ってますぞ。
にも拘わらずどこに出歩いているのか……まあ、捕まるのは時間の問題なのは間違いないでしょう。
奴の行く先は既に封殺済みですからな。
それこそ豚王の拷問を長期間、生かさず殺さずにしてやるのも手なのですぞ。
赤豚の処分の予定は決めてますが、クズに関してはどうするのが良い落とし所なのか悩ましいですな。
虎娘に関しては俺も無体な事は避けたいですからなぁ……。
「何にしても致命的な被害が出る前に助太刀くらいはしておかないといけないよね……このまま三勇教にメルロマルクを良いように利用されるってのも問題ある訳だし」
「確かにそうですね。ゲーム知識じゃありませんけど、問題ある連中の処理をするメリットは大きいです……城に乗り込んで皆殺しにしてやるのが良いですかね」
「樹……元康くんと同じだよそれ」
「腹立たしいセリフですね。良いでしょう、それなら権力者の後ろ盾を得て堂々と行けば良いんですよ。確か女王が本来の王なのでしょう? その人と一緒に凱旋しつつ城を占拠している連中を裁けば名目も立つのではないですか?」
「その辺りが無難な落とし所かな……王様を説得というか俺と衝突なく話を進めるのに必要不可欠でしょ、何よりエクレールさんが会いたがっている人のはずだしー……そろそろ近くに戻って来てるんじゃない?」
「確かに頃合いですな」
こうして俺たちの方針が決まり、女王が凱旋に戻る為に準備をしているとフォーブレイとシルトヴェルトで内密に話を通して合流する事になったのですぞ。
ただ、クズと婚約者、そしてフィーロたんの所に俺は行く事をお義父さん達が許してくれなかったのですぞ。
そうして待っている間に……フレオンちゃんがしっかりと育って下さいましたぞ!
「フレオンちゃんが育ったのでご紹介ですぞ!」
最近、俺たちの拠点となっているゼルトブルで俺はしっかりと天使の姿に成ってくださったフレオンちゃんをみんなの前にお披露目したのですぞ!
「フレオンです!」
もちろん雛の時からみんなの目には入ってました。
出来る限り時期とご飯の再現を意識していたのであまりお変わりない成長をしてくださったと思いますな。
パタタとフレオンちゃんは背中の羽で飛んでくださいますぞ。
「おー」
「飛んでるー」
「いいなー」
「サーカスで歌って踊る時に目立つところに出るのー?」
フィロリアル様方が飛んでるフレオンちゃんを見ながら各々意見しますぞ。
「フレオンちゃんは俺に譲ってくれた方の意向でサーカスには出ませんぞ。ですがフレオンちゃんのお力があればみんな、飛ぶことの出来るクラスアップが可能なのですぞ」
「そっかー」
「じゃあ飛んでみたいー」
フィーロたんも空を飛びたいと仰る可能性が高いのでフレオンちゃんに協力して貰うのは良いと思うのですぞ。
「確かにその子がサーカスに出ないって約束は守ってますね」
「他の子が飛べるのだから問題ないと」
「まあ……鳥系の獣人とか滞空能力や飛べる人もいるから空中ブランコはそこまで注目はされないけどね」
「猛獣枠でドラゴンとかグリフィンも飛べるので……どちらかと言えばフィロリアル姿で飛んでいるのを見て貰う流れでしょう」
などとみんなが分析してますぞ。
スタっと着地したフレオンちゃんが一礼しました。
「これからよろしくお願いします!」
で、フレオンちゃんは鼻歌で俺が教えたヒーローソングを歌ってますぞ。
テンポが良く熱く燃える歌ですぞ!




