バニッシュメント
「この方々は何を張り合っているのでしょうね」
「くだらない事をしてないで元に戻せ!」
錬が空気を読まずに戻せと騒ぎ立てますぞ。
やかましいですな。
「情緒も無い面倒な奴ですぞ。ではしょうがないですな。フォーフェアリーモーフですぞ」
フェアリーモーフを唱えて錬を元に戻してやりましたぞ。
ボン! っと錬は全裸になりましたな。
「よし! ってギャアアアアアアア!?」
全裸の錬が我に返って絶叫をあげました。
何をわかり切った事で声をあげているのですかな。
「いきなり元に戻すな!」
「ぶー……」
おや? ルナちゃんがそこで抗議の声をあげてますぞ。
キールは今回、お姉さん達の方に居て留守だったのですな。
逆にクロちゃんは喜ぶ流れでしょう。
「おー黒の剣士復活<大解放>、魔剣が抜刀される? 黒の剣士の魔剣が覚醒して今宵は血に飢えているー」
「クロちゃん、この状況だとそれは中二じゃなくて隠語かな。魔剣が抜刀とか……血に飢えてるとか」
「キールくんとの愛の抜刀術ー」
「ルナちゃんは錬とキールくんとの関係を推し進めるのをやめようね」
「しょうがないですな。フェアリーモーフですぞ」
再度イヌルトにしてやりますぞ。
「おい! ふざけるな! 人に戻せえええええ!」
「どっちなのですかな! 面倒くさいのですぞ」
「ああもう……混乱していくなぁ……」
ともかく注文がうるさい錬が服を確保してから人姿に戻ったのでした。
「これでやっとみじめな姿からおさらばだ」
「ルナちゃんの要望があったらイヌルトにしますぞ」
フェアリーモーフを覚えたループではよく錬をイヌルトにしました。
「させたら殺す!」
錬がここぞとばかりに殺気を放って飛び掛かってきましたがサッと避けてカウンターでパラライズランスを突き刺してやりました。
「ガハ――」
「ぶー」
クロちゃんが無様な姿に錬に抗議の声をあげてますぞ。
「まったく、錬さんは無様な姿を晒しすぎなんですよ」
「く、くそ……そう言う樹、お前は元康を見逃すとでもいう気か」
「そうとは言ってないでしょう? 元康さんに今は勝てないので牙を研いでから復讐するんですよ。それ以外では戦闘以外で嫌がらせをしていくほかありませんね」
たたた、と樹はお義父さんの腕の中に納まり、すりすりとしてますぞ。
「何をしているのですかな! そこは俺のポジションなのですぞ!」
「尚文さん、元康さんにお仕置きするにはこれが良いのですよ。ほら、僕とヴォルフをこれでもかと撫でまわしましょうね」
「樹……君は勝てないからってそう言う手段を選ぶんだね」
「ヴォフーペーン!」
「ヴォルフも便乗してるし……強かなのかなー」
お義父さんが樹に頼まれて撫でてますぞ。
ぐぬぬなのですぞ!
「ほら、ウサギの君もその大きさでウサウニーに有利を取っているんですから尚文さんに絡めばいいんです」
「それをしてボクにデメリットが大きく発生するんですけど? あの方に恨まれてあまり良い事ないので関わりたくないです」
「ま、槍の勇者にはこの手の絡め手で行くのは良い手なの、直接行くより効果的なのは事実なの」
弓の勇者、ひねくれてるけど手段は間違ってねえなのーとライバルは抜かしてましたぞ。
それからライバルはフォーフェアリーモーフの魔法式をノートに書いて錬と樹に教えてましたぞ。
「これでやっと人に戻れるようになった! ガエリオンのお陰で魔法も覚えられて万々歳だ」
「ふ……フォーフェアリーモーフ」
ボフっとラフミが錬をイヌルトにしましたぞ。
「どわああああ!? ラフミ!!」
「やっぱりあなたも使えるんじゃないですか!」
「一応式は知っているに過ぎないぞ? 勇者としての武器を持ってないと上手く使えんな」
「絶対にいつか痛い目に遭わせるからな!」
錬がプンスカと怒ってましたぞ。
何にしてもこれでライバルが俺に何か有利を取ったと思っている問題を解決出来たのですぞ!
ですがお義父さんが元康くんは反省と、注意して話に混ぜてくれない事が増えたのですぞ。
おかしいですな。
俺は間違った事は何もしてないのですぞ!
そんな騒動の翌日ですぞ。
メルロマルクの城で虎兄妹と婚約者、そしてなんとフィーロたんが突如姿を消したと、城で成り行きを見守っていたキングアゾットと錬の仲間たちが報告に来たのですな。
なんでも俺たちが大乱闘をしている頃、メルロマルクのクズの部屋辺りで大爆発が起こったとか。
ラフミ達が現場に駆け付けた所で……クズが居て玉座の間で話をすることになったそうですな。
「此度、態々剣の勇者であるアマキ殿を呼んだのは他でもない。貴殿が連れ戻したメルティがシルトヴェルトの獣人共と盾の悪魔によってこのような事件が起こったのだ!」
錬に化けたラフミが謁見に呼ばれてクズがそう述べたそうですが……クズが偽者である事をラフミは一発で見抜いていたのですぞ。
「被害状況は王の部屋と第二王女メルティ様の部屋が何らかの爆発し、室内には……」
「幸いにしてワシは事なきを得たが……」
「室内をくまなく調べた所、犯人の死体は見つかる事はありませんでしたが見張りをしていた兵士たちに多大な犠牲者が出ております!」
クズの偽者は大げさに両手をあげて祈るようなポーズを取ったようですぞ。
実に愚かですな。
「おおメルティ……」
「犯人は盾の悪魔が貴殿に預けたハクコ共だったようです!」
「ワシの留守中にこのような真似をするとは……やはり盾は悪魔だったのじゃ! 和解などありえん! 指名手配の取り下げを白紙に戻し、何が何でも抹殺して最愛の娘、メルティの仇を討ってくれ!」
「……」
ラフミはその状況で即座にメルロマルクの連中がどんな考えと行動に出たのかを察したみたいですな。
「どうやって犯人<黒幕>をこの城内から俺の目を搔い潜って姿を消す<バニッシュメント>をしたのか、その経路<痕跡>を辿る事は出来ないのか?」
「皆目見当も付かん! じゃが奴らもアマキ殿が所持する即座に移動する術を所持している可能性は大いにある。が、少なくとも国外には出ていないはずじゃ! 剣の勇者アマキ殿! 我がメルロマルクが信仰する真の勇者である貴殿の活躍を期待している!」
「そうか、とはいえ俺も現場を調べさせて貰おう」
そう提案して城内をくまなく調べようとするとクズの偽者が手を前に出して兵士たちに遮るように命じました。
「いや! アマキ殿には奴らの発見を優先してもらいたい。どうかそのためにワシの信頼がおける者を仲間として連れて行ってもらう。何より奴らはどうもワシやメルティにそっくりの影武者に化ける者が混じっているようじゃ。ワシたちに成り代わり国内を更に混乱させようとしていると見て良いじゃろう」
ははは、混乱に陥れているのはお前等ではないですかな?
混乱に乗じてクズや婚約者を抹殺しようとしているのですからな。
「発見次第、ワシやメルティそっくりの者は殺してくれ!」
「よろしくお願いします、アマキ様」
ここぞとばかりにクズの偽者は、自らの息のかかった者を錬のパーティーに強引にねじ込んできたらしいですぞ。
よくやりますな。
更に本物のクズも逃げ出しているという事で、本物を見つけ次第に偽者として殺せと抹殺命令まで出たのですぞ。
ラフミ曰く、笑いを堪えるのに必死だったとか。
こうしてキングアゾットは姿を消したクズと虎兄妹、更に婚約者とフィーロたんの追跡命令が命じられたのでした。




